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第五話:発見
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現在午後二時三十五分。俺は退屈を持て余し、部屋の実況中継を行っていた。
「現在午後二時三十五分になりました。監禁されてから約二時間半、体感的にはもう丸一日経ったような気分です。では部屋の様子を説明していきましょう。広さとしては大体畳八畳分くらいです。部屋の隅には勉強机があり、机上には白紙のスケッチ用紙と十二色の色鉛筆が置いてあります。また部屋の横側には本棚があり、漫画から聖書までいろいろ並んでおります。集めた人はジャンルにこだわらないスペシャリストと言えるでしょう。部屋の奥には一枚扉がついており、その扉の先には洋風のトイレがあります。最後に、勉強机の上部に現時刻を知らせてくれる貴重な丸時計があります。以上、こちら山奥の山荘の監禁部屋からお送りしました」
……むなしい。とにかく暇だ。空き時間が長すぎる。今は金光が絶対に来ない時間帯だと分かってはいるが、何かのトラブルとかで、突然やってきたりしないだろうか……。などとボーっとドアを見つめていたら、そのドアが突然ゆっくりと開きだした。
開いたドアの先に立っていたのは涼森だった。俺が不思議そうに涼森を見ると、涼森は困惑したような表情を浮かべながら、俺の名を呼んだ。
「日暮さん、部屋から出てきてもらってもいいですか」
俺はいまいち事情が呑み込めず、どう反応したものか悩んだが、結局涼森の言葉に従い部屋の外に出た。
廊下には涼森しかおらず、俺は訳が分からぬまま尋ねた。
「えーと、どうして涼森さんが部屋から出てるの? まだ部屋から出る時間じゃないし、金光はどうしたの?」
「私にも分からないんです……。金光が二時半になっても一度もやってこないから、何か起こったのかもしれないと思って、扉が開くかどうか試してみたんです。そうしたら、鍵がかかってなくてすんなりと開いたから……。金光がどうしているのかは私もまだわかっていません」
涼森も今の状況を正しく理解しているわけではないのだろう、困惑顔のまま自信なさげに答えた。
「まずなんで俺を呼んだの?」
「それは……、金光に見つかった時私一人だと何されるかわからないし。利用しや……、じゃなくて頼れる人に一緒にいてもらいたかったから」
「利用しやすい……。それなら水谷でもいいんじゃないの」
「ごめんなさい、気に障ったのなら謝ります。ただ、一番冷静に対処できて、それでいて私にも制御できそうな人があなただったから」
「それって謝ってるつもり? まあいいけど。とりあえず俺も変な責任を負わされるのはやだし、他の人の部屋も鍵がかかってないか見るついでに皆呼び出そうか」
「そうですね」
涼森の了承を経て、二人で端の部屋から順に呼びに行った。
ちなみに、だれがどの部屋に入っていたかというと、リビングから見て右奥から水谷、金光、涼森。左奥から俺、飯島、藤宮といった感じだ。
数分後、金光を除く五人が廊下に集まっていた。
「それで、結局何が起こってるんだよ」
飯島が言う。
「俺も何が起こってるかはよく分かってないんだよね。だから、何かが起こってた時のために、俺一人で対処したくないから皆を呼んだわけで」
俺がそう答えると、藤宮が苛立ったように言った。
「何かって何かしら。さっさと金光に聞きに行けばいいでしょ。どうせ空き時間が長すぎて居眠りでもしてるだけでしょうから」
「いやいや、居眠りするのは構わないけど、居眠りするのにどうして俺たちの部屋の鍵を開けておく必要があるんだよ」
「そんなの元から鍵をかけてなかったんじゃないの。いちいち鍵を開けたり閉めたりするのが面倒だったから」
「わざわざ俺たちの荷物をすべて没収までするような人がそんなこと」
俺がそう反論した時点で、水谷が割って入ってきた。
「あの……、とりあえず金光さんの部屋に行って聞いてみましょうよ。こんなに近くに部屋があるんですし」
まあ金光の部屋の隣でこんな議論をしているのもあほらしいことだ。俺と藤宮は言い合いをやめて、素直に水谷の言葉に従った。
「ええと、金光さん起きてますか。何か予定に変更があったのなら聞いておきたいのですけど」
水谷が金光の部屋の前に立って金光を呼ぶが、返答はない。
「ここの部屋って防音が施されているから、外から呼んでも聞こえないんじゃないでしょうか」
涼森がそう言うと、飯島が面倒になったのか、扉をたたき始めた。
「じゃあどうすんだよ! 扉だって鍵がかかってんだし、金光を呼ぶ方法がねぇじゃねぇか」
飯島が怒鳴りながらドアノブをガチャガチャと回し始めると、あっさりドアが開いた。
ドアが開いた反動で、飯島がつまずきながらも部屋の中に入っていく。必然的に、扉の前に立っていた残りのメンバーは、飯島の動きを追いかけつつ、金光の部屋の中に視線を送った。
部屋の中は書類やら筆記用具やら時計やらが床に散乱しており、かなり荒れた状態になっていた。だが、そんなことよりも、その中でうずくまって倒れている一人の人間のほうがはるかに存在感を放っていた。近くには血に濡れたトロフィーが転がっており、この場で何が起こったのかは一目瞭然であった。
しばらくの間誰も口を開かず、呆然とこの惨状を見つめるだけだったが、まず、飯島が口を開いた。
「倒れてるのは金光だよな……。おい、なんだこれ、死んでんのか」
冗談やってんなら起きろよ。そう言いながら飯島が床に倒れている男に近づくが、男は全く反応をよこさない。
俺はこのときようやく事態を認識し、かつて読んだ推理小説を思い出しながら、床に倒れた男の脈があるか、瞳孔が開いているかを知ろうと近づいた。確認してみた結果、床に倒れている男はやはり金光であり、すでに脈はなく、瞳孔も開いているようだった。
「死んでる」
俺がそう呟くと、藤宮が悲鳴を上げ、水谷は足をもつれさせて転んだ。涼森と飯島は言葉もなく金光の死体を見続けている。
俺は皆の様子を確認した後、改めて部屋の中を見回した。部屋に唯一あるデスクの上には、金光のものと思われるパソコンが一台と、床に散乱している書類と同種のものが不規則に載っている。また、デスク横にあるチェストの引き出しは全て開いており、中はほとんど空になっていた。おそらく床に散乱している書類や筆記具は、もとはこのデスクの上とチェストの中に入っていたものだったのだろう。
部屋の両端には木製の箪笥がそれぞれ置いてあり、デスク周辺と違い特に物は散らばっておらず、箪笥自体も開いていなかった。
この部屋も俺たちが閉じ込められていた部屋と同じように窓の類は一切なく、トイレも設置されていなかった。まあ監視者本人は部屋の出入りは自由であるから必要なかったのだろう。
最後に、俺は書類と一緒に床に落ちている時計に目を留めた。リビングや監禁部屋にあったのと同様のアナログの丸時計のようだが、長針も短針も時計から外されており、時刻が全く分からなくなっていた。金光の部屋には他に時計が見当たらないので、この部屋に元からあったものだろう。
俺が一通り観察を終えた時点で、涼森が口を開いた。
「警察を、呼んだほうがいいのでしょうね」
〝警察〟という言葉を聞き、全員が先程とは別の意味で固まった。
涼森の言う通り、この状況は自殺や事故ではなく殺人であることは明白であり、警察を呼ぶのが良識ある一般市民の義務だろう(あと無駄かもしれないけど救急車も)。だが、現在この場にいるメンバーは全員が良識ある一般市民ではなく、何らかの悪事を働いた犯罪者である。もし警察を呼び、事情聴取をされた結果、自身の犯した罪について警察の知るところになったら……。そのことを考えて、誰も涼森の言葉に答えることができなかった。
沈黙に耐えられなくなったのか、それとも言い出す機会をうかがっていたのか、どちらかは分からないが、水谷が沈黙を破る声を上げた。
「あの、もう金光さんは死んでるんですよね。だったら今から救急車を呼んでも間に合わないでしょうし、その、言い難いんですけど、いったん警察を呼ぶかどうかも含めてリビングで話し合いませんか?」
水谷の提案に、積極的ではないが、俺を含めた残りの四人も従うことにした。
「現在午後二時三十五分になりました。監禁されてから約二時間半、体感的にはもう丸一日経ったような気分です。では部屋の様子を説明していきましょう。広さとしては大体畳八畳分くらいです。部屋の隅には勉強机があり、机上には白紙のスケッチ用紙と十二色の色鉛筆が置いてあります。また部屋の横側には本棚があり、漫画から聖書までいろいろ並んでおります。集めた人はジャンルにこだわらないスペシャリストと言えるでしょう。部屋の奥には一枚扉がついており、その扉の先には洋風のトイレがあります。最後に、勉強机の上部に現時刻を知らせてくれる貴重な丸時計があります。以上、こちら山奥の山荘の監禁部屋からお送りしました」
……むなしい。とにかく暇だ。空き時間が長すぎる。今は金光が絶対に来ない時間帯だと分かってはいるが、何かのトラブルとかで、突然やってきたりしないだろうか……。などとボーっとドアを見つめていたら、そのドアが突然ゆっくりと開きだした。
開いたドアの先に立っていたのは涼森だった。俺が不思議そうに涼森を見ると、涼森は困惑したような表情を浮かべながら、俺の名を呼んだ。
「日暮さん、部屋から出てきてもらってもいいですか」
俺はいまいち事情が呑み込めず、どう反応したものか悩んだが、結局涼森の言葉に従い部屋の外に出た。
廊下には涼森しかおらず、俺は訳が分からぬまま尋ねた。
「えーと、どうして涼森さんが部屋から出てるの? まだ部屋から出る時間じゃないし、金光はどうしたの?」
「私にも分からないんです……。金光が二時半になっても一度もやってこないから、何か起こったのかもしれないと思って、扉が開くかどうか試してみたんです。そうしたら、鍵がかかってなくてすんなりと開いたから……。金光がどうしているのかは私もまだわかっていません」
涼森も今の状況を正しく理解しているわけではないのだろう、困惑顔のまま自信なさげに答えた。
「まずなんで俺を呼んだの?」
「それは……、金光に見つかった時私一人だと何されるかわからないし。利用しや……、じゃなくて頼れる人に一緒にいてもらいたかったから」
「利用しやすい……。それなら水谷でもいいんじゃないの」
「ごめんなさい、気に障ったのなら謝ります。ただ、一番冷静に対処できて、それでいて私にも制御できそうな人があなただったから」
「それって謝ってるつもり? まあいいけど。とりあえず俺も変な責任を負わされるのはやだし、他の人の部屋も鍵がかかってないか見るついでに皆呼び出そうか」
「そうですね」
涼森の了承を経て、二人で端の部屋から順に呼びに行った。
ちなみに、だれがどの部屋に入っていたかというと、リビングから見て右奥から水谷、金光、涼森。左奥から俺、飯島、藤宮といった感じだ。
数分後、金光を除く五人が廊下に集まっていた。
「それで、結局何が起こってるんだよ」
飯島が言う。
「俺も何が起こってるかはよく分かってないんだよね。だから、何かが起こってた時のために、俺一人で対処したくないから皆を呼んだわけで」
俺がそう答えると、藤宮が苛立ったように言った。
「何かって何かしら。さっさと金光に聞きに行けばいいでしょ。どうせ空き時間が長すぎて居眠りでもしてるだけでしょうから」
「いやいや、居眠りするのは構わないけど、居眠りするのにどうして俺たちの部屋の鍵を開けておく必要があるんだよ」
「そんなの元から鍵をかけてなかったんじゃないの。いちいち鍵を開けたり閉めたりするのが面倒だったから」
「わざわざ俺たちの荷物をすべて没収までするような人がそんなこと」
俺がそう反論した時点で、水谷が割って入ってきた。
「あの……、とりあえず金光さんの部屋に行って聞いてみましょうよ。こんなに近くに部屋があるんですし」
まあ金光の部屋の隣でこんな議論をしているのもあほらしいことだ。俺と藤宮は言い合いをやめて、素直に水谷の言葉に従った。
「ええと、金光さん起きてますか。何か予定に変更があったのなら聞いておきたいのですけど」
水谷が金光の部屋の前に立って金光を呼ぶが、返答はない。
「ここの部屋って防音が施されているから、外から呼んでも聞こえないんじゃないでしょうか」
涼森がそう言うと、飯島が面倒になったのか、扉をたたき始めた。
「じゃあどうすんだよ! 扉だって鍵がかかってんだし、金光を呼ぶ方法がねぇじゃねぇか」
飯島が怒鳴りながらドアノブをガチャガチャと回し始めると、あっさりドアが開いた。
ドアが開いた反動で、飯島がつまずきながらも部屋の中に入っていく。必然的に、扉の前に立っていた残りのメンバーは、飯島の動きを追いかけつつ、金光の部屋の中に視線を送った。
部屋の中は書類やら筆記用具やら時計やらが床に散乱しており、かなり荒れた状態になっていた。だが、そんなことよりも、その中でうずくまって倒れている一人の人間のほうがはるかに存在感を放っていた。近くには血に濡れたトロフィーが転がっており、この場で何が起こったのかは一目瞭然であった。
しばらくの間誰も口を開かず、呆然とこの惨状を見つめるだけだったが、まず、飯島が口を開いた。
「倒れてるのは金光だよな……。おい、なんだこれ、死んでんのか」
冗談やってんなら起きろよ。そう言いながら飯島が床に倒れている男に近づくが、男は全く反応をよこさない。
俺はこのときようやく事態を認識し、かつて読んだ推理小説を思い出しながら、床に倒れた男の脈があるか、瞳孔が開いているかを知ろうと近づいた。確認してみた結果、床に倒れている男はやはり金光であり、すでに脈はなく、瞳孔も開いているようだった。
「死んでる」
俺がそう呟くと、藤宮が悲鳴を上げ、水谷は足をもつれさせて転んだ。涼森と飯島は言葉もなく金光の死体を見続けている。
俺は皆の様子を確認した後、改めて部屋の中を見回した。部屋に唯一あるデスクの上には、金光のものと思われるパソコンが一台と、床に散乱している書類と同種のものが不規則に載っている。また、デスク横にあるチェストの引き出しは全て開いており、中はほとんど空になっていた。おそらく床に散乱している書類や筆記具は、もとはこのデスクの上とチェストの中に入っていたものだったのだろう。
部屋の両端には木製の箪笥がそれぞれ置いてあり、デスク周辺と違い特に物は散らばっておらず、箪笥自体も開いていなかった。
この部屋も俺たちが閉じ込められていた部屋と同じように窓の類は一切なく、トイレも設置されていなかった。まあ監視者本人は部屋の出入りは自由であるから必要なかったのだろう。
最後に、俺は書類と一緒に床に落ちている時計に目を留めた。リビングや監禁部屋にあったのと同様のアナログの丸時計のようだが、長針も短針も時計から外されており、時刻が全く分からなくなっていた。金光の部屋には他に時計が見当たらないので、この部屋に元からあったものだろう。
俺が一通り観察を終えた時点で、涼森が口を開いた。
「警察を、呼んだほうがいいのでしょうね」
〝警察〟という言葉を聞き、全員が先程とは別の意味で固まった。
涼森の言う通り、この状況は自殺や事故ではなく殺人であることは明白であり、警察を呼ぶのが良識ある一般市民の義務だろう(あと無駄かもしれないけど救急車も)。だが、現在この場にいるメンバーは全員が良識ある一般市民ではなく、何らかの悪事を働いた犯罪者である。もし警察を呼び、事情聴取をされた結果、自身の犯した罪について警察の知るところになったら……。そのことを考えて、誰も涼森の言葉に答えることができなかった。
沈黙に耐えられなくなったのか、それとも言い出す機会をうかがっていたのか、どちらかは分からないが、水谷が沈黙を破る声を上げた。
「あの、もう金光さんは死んでるんですよね。だったら今から救急車を呼んでも間に合わないでしょうし、その、言い難いんですけど、いったん警察を呼ぶかどうかも含めてリビングで話し合いませんか?」
水谷の提案に、積極的ではないが、俺を含めた残りの四人も従うことにした。
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