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三美津代子の証言
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「……まず最初に言っておきますけど、これから話すのは自白でも何でもありませんわ。ただ私の身に降りかかった事実だけですわ。
私は昨日の、要するに事件当日の22時ごろに赤貫さんの部屋に行きましたわ。どうしてって、それは赤貫さんに事前に22時に来るように言われていたからですけど……何か文句でもあるのかしら。ええ、当然文句なんてありませんわよね。そこで、私は赤貫さんにそれは奇妙なものを見せられたのですわ。おそらくですけれど、それが赤貫さんが話していたすっごいトマトジュースだったのでしょうね。刑事さん、赤貫さんが自信満々に見せてきたものが何だったか分かりますか? ……ふふふ、そうでしょうね、想像もつかないでしょう。いいですか、私が見せられたのはトマト百パーセントでできたナイフだったのですわ。トマトの堅い所を集めに集めて結集させた、トマト百パーセントのナイフ。それはトマトでありながらナイフの形をした何とも歪な、それでいてトマト好きであるならほぼ間違いなく興奮してしまうようなかぐわしい匂いを放ったトマトだったのですわ。
私もそれを見せられた当初は、鳥肌を立たせながらそのトマトナイフを観察していたのですけれど、突然赤貫さんは私にこんなことをおっしゃってきたのです。曰く『そのトマトナイフの切れ味を知りたいから、私に対して軽く突き刺してみてくれないか』と。私もその時はすごくテンションが上がっていたからでしょう、彼の言葉に快く頷き、実際にナイフを刺すふりをしたのですわ。ええ、少なくとも私自身は本気で刺したつもりはなく、あくまで刺す振りだったのですけど……。そしたら! ナイフが彼の腹に刺さった瞬間、赤貫さんは腹を抑えながら前のめりに倒れ込んだのです! それも、腹から大量の血を流しながら! 彼は腹に刺さったままだったトマトナイフを引き抜くと、それを血だまりの上に落とし、その場でピクリともしなくなったのです! 私はしばらく呆然とその様を見ていましたが、彼の血が私の足元まで届きそうになった瞬間、急に恐ろしくなり、一目散に自室まで駆け戻ったのですわ!! 自室に戻ってからは、あなた達警察の方が来るまで、ベッドの上で震えておりましたのよ。
え? 私が見たのが本当に血だったかですって? それはトマトジュースじゃなかったかですって? このトマト発明家たる私が、トマトジュースと、血の、区別もできないような、素人だとでも、思っているのですか! そんなことあるわけないでしょう! あれは匂いも見た目も、トマトジュースなんかではなくて正真正銘本物の血でしたわよ!
ふぅふぅ……。すみません、少し興奮してしまいましたわ。はぁ、まだ何か質問が? どうして警察に通報したり、本当に死んでいるのか確かめなかったのかですって? そんなの、怖かったからに決まっているじゃありませんか! もしあなたが誰かをナイフで刺して、その途端にその人が血を流しながら倒れ込んだとしたら、正気でいられるのかしら! 驚いて何も考えられなくなるに決まっているでしょう! そんなことも分からずによく警察なんて……」
+ + +
「と、ここまでが三美津代子さんの証言です。何か質問とかありますか? ここからは答えられない質問とかも出てきちゃいますけど」
身振り手振りを込めた、迫真の演説で三美津代子の証言を語り終えた礼人。ごくごくと麦茶を飲みながら、俺たちの質問をどこか期待した瞳で待っている。
「いやー、さすが礼人君。三美津代子さんの気持ちがよく分かる、鬼気迫る語りだったね。でも僕の好みの女性は穏やかなタイプの人だからねぇ、三美さんはちょっとパスかな」
「一体あなたは何の話をしてるんですか。それにしても、まあ確かにすごい語りだったな。お前演劇部とかでも活躍できるんじゃないか?」
「ちょっと、千里も滝先生もそんなに褒めないでくださいよ。照れるじゃにゃいですか。そ、そんなことより彼女の証言を聞いてどう思いましたか」
優雅にカップを持ち上げながら、多多岐が歌うように言う。
「そうだね、かなり怪しい。というか、彼女が犯人ってことでいいんじゃないかい? 自分でも赤貫さんのことを刺したって言ってるし、何より警察に知らせもせず、そして死んでいるかどうかの確認もしないなんて、いくらなんでも不自然だよ。おそらくヒステリーっぽく反応しているところは全部演技だね」
「成る程成る程。千里はどうだい? 彼女が犯人だと思うかい?」
クッキーに手を伸ばしつつ、俺は退屈そうに言い返す。
「他の二人の証言を聞かないことには何とも言えないだろ。ただ、こいつの証言がかなり不自然であることは間違いないと思うがな」
「ふんふん、やっぱり三美さん怪しいよねー。そうだ、彼女の発言の補足になるんだけど、警察が赤貫さんの死体を調べた結果から次のことが分かってるんだ。
まず一つは、赤貫さんは実際にナイフで刺されて殺されてるんだけど、その刺し傷のある場所は三美さんが刺したと証言した場所とほぼ一致していたらしいこと。それと倒れていた姿勢も、三美さんが目撃した姿と同じだったそうだよ。
次に二つ目。これはちょっと前に僕が言っていた、赤貫さんの死体が奇妙な状態だったっていうのの理由に当たるんだけど、彼の死体周辺には血だけじゃなくトマトジュースもたくさんこぼれていたんだ。要するに、トマトジュースと血がミックスされた状態で死体の周りの床に広がっていたんだよ。ちなみに、死体の刺し傷周辺部位にもトマトジュースがついていたらしいね。だから警察の人は、三美さんにトマトジュースと血を見間違えたんじゃないか、なんて頓珍漢な質問をしたわけだよ」
「トマトジュースをわざわざ床に……? いや、重要なのはそこよりも、腹部にトマトジュースがついていたということか……」
「うーん、僕はまだその情報からじゃ新しい考えは思い浮かばないな。レイちゃん次の人の証言をお願いしてもいいかな」
「もちろんです。次の証言者は、姿はオッサン・心は乙女の戸田賀華太さんです」
私は昨日の、要するに事件当日の22時ごろに赤貫さんの部屋に行きましたわ。どうしてって、それは赤貫さんに事前に22時に来るように言われていたからですけど……何か文句でもあるのかしら。ええ、当然文句なんてありませんわよね。そこで、私は赤貫さんにそれは奇妙なものを見せられたのですわ。おそらくですけれど、それが赤貫さんが話していたすっごいトマトジュースだったのでしょうね。刑事さん、赤貫さんが自信満々に見せてきたものが何だったか分かりますか? ……ふふふ、そうでしょうね、想像もつかないでしょう。いいですか、私が見せられたのはトマト百パーセントでできたナイフだったのですわ。トマトの堅い所を集めに集めて結集させた、トマト百パーセントのナイフ。それはトマトでありながらナイフの形をした何とも歪な、それでいてトマト好きであるならほぼ間違いなく興奮してしまうようなかぐわしい匂いを放ったトマトだったのですわ。
私もそれを見せられた当初は、鳥肌を立たせながらそのトマトナイフを観察していたのですけれど、突然赤貫さんは私にこんなことをおっしゃってきたのです。曰く『そのトマトナイフの切れ味を知りたいから、私に対して軽く突き刺してみてくれないか』と。私もその時はすごくテンションが上がっていたからでしょう、彼の言葉に快く頷き、実際にナイフを刺すふりをしたのですわ。ええ、少なくとも私自身は本気で刺したつもりはなく、あくまで刺す振りだったのですけど……。そしたら! ナイフが彼の腹に刺さった瞬間、赤貫さんは腹を抑えながら前のめりに倒れ込んだのです! それも、腹から大量の血を流しながら! 彼は腹に刺さったままだったトマトナイフを引き抜くと、それを血だまりの上に落とし、その場でピクリともしなくなったのです! 私はしばらく呆然とその様を見ていましたが、彼の血が私の足元まで届きそうになった瞬間、急に恐ろしくなり、一目散に自室まで駆け戻ったのですわ!! 自室に戻ってからは、あなた達警察の方が来るまで、ベッドの上で震えておりましたのよ。
え? 私が見たのが本当に血だったかですって? それはトマトジュースじゃなかったかですって? このトマト発明家たる私が、トマトジュースと、血の、区別もできないような、素人だとでも、思っているのですか! そんなことあるわけないでしょう! あれは匂いも見た目も、トマトジュースなんかではなくて正真正銘本物の血でしたわよ!
ふぅふぅ……。すみません、少し興奮してしまいましたわ。はぁ、まだ何か質問が? どうして警察に通報したり、本当に死んでいるのか確かめなかったのかですって? そんなの、怖かったからに決まっているじゃありませんか! もしあなたが誰かをナイフで刺して、その途端にその人が血を流しながら倒れ込んだとしたら、正気でいられるのかしら! 驚いて何も考えられなくなるに決まっているでしょう! そんなことも分からずによく警察なんて……」
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「と、ここまでが三美津代子さんの証言です。何か質問とかありますか? ここからは答えられない質問とかも出てきちゃいますけど」
身振り手振りを込めた、迫真の演説で三美津代子の証言を語り終えた礼人。ごくごくと麦茶を飲みながら、俺たちの質問をどこか期待した瞳で待っている。
「いやー、さすが礼人君。三美津代子さんの気持ちがよく分かる、鬼気迫る語りだったね。でも僕の好みの女性は穏やかなタイプの人だからねぇ、三美さんはちょっとパスかな」
「一体あなたは何の話をしてるんですか。それにしても、まあ確かにすごい語りだったな。お前演劇部とかでも活躍できるんじゃないか?」
「ちょっと、千里も滝先生もそんなに褒めないでくださいよ。照れるじゃにゃいですか。そ、そんなことより彼女の証言を聞いてどう思いましたか」
優雅にカップを持ち上げながら、多多岐が歌うように言う。
「そうだね、かなり怪しい。というか、彼女が犯人ってことでいいんじゃないかい? 自分でも赤貫さんのことを刺したって言ってるし、何より警察に知らせもせず、そして死んでいるかどうかの確認もしないなんて、いくらなんでも不自然だよ。おそらくヒステリーっぽく反応しているところは全部演技だね」
「成る程成る程。千里はどうだい? 彼女が犯人だと思うかい?」
クッキーに手を伸ばしつつ、俺は退屈そうに言い返す。
「他の二人の証言を聞かないことには何とも言えないだろ。ただ、こいつの証言がかなり不自然であることは間違いないと思うがな」
「ふんふん、やっぱり三美さん怪しいよねー。そうだ、彼女の発言の補足になるんだけど、警察が赤貫さんの死体を調べた結果から次のことが分かってるんだ。
まず一つは、赤貫さんは実際にナイフで刺されて殺されてるんだけど、その刺し傷のある場所は三美さんが刺したと証言した場所とほぼ一致していたらしいこと。それと倒れていた姿勢も、三美さんが目撃した姿と同じだったそうだよ。
次に二つ目。これはちょっと前に僕が言っていた、赤貫さんの死体が奇妙な状態だったっていうのの理由に当たるんだけど、彼の死体周辺には血だけじゃなくトマトジュースもたくさんこぼれていたんだ。要するに、トマトジュースと血がミックスされた状態で死体の周りの床に広がっていたんだよ。ちなみに、死体の刺し傷周辺部位にもトマトジュースがついていたらしいね。だから警察の人は、三美さんにトマトジュースと血を見間違えたんじゃないか、なんて頓珍漢な質問をしたわけだよ」
「トマトジュースをわざわざ床に……? いや、重要なのはそこよりも、腹部にトマトジュースがついていたということか……」
「うーん、僕はまだその情報からじゃ新しい考えは思い浮かばないな。レイちゃん次の人の証言をお願いしてもいいかな」
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