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橘礼人からの出題『トマトジュース館の殺人』
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ところ代わって保健室。
白を基調とした部屋のなかには、3つのベッドと数脚の丸椅子。教諭用の机に、薬などが入った棚がちらほら。
3つあるベッドは全て生徒が使用していたため――多多岐のやつ生徒を放置して俺らのところに遊びに来てやがった!――俺達はそれぞれ適当な椅子に腰を下ろし、礼人の作った物語を聞くことになった。
「ズバリ、今回僕が作った物語のタイトルは『トマトジュース館の殺人』です!」
「トマトジュース缶の殺人? なんだ、トマトジュースの缶を投げて人でも殺すのか?」
「さすが千里! ナイスジョーク! トマトジュース館のカンは、空き缶の缶じゃなくて館の方の館だよ。トマトジュース館という建物で、一人のトマトジュース発明家が殺害されるんだ! それもかなり奇妙な状態でね」
単純に疑問を言っただけなのにジョーク扱いされ、俺は脳内怒りゲージが一気に跳ね上がったのを感じた。
イライラしている俺をよそに、ニコニコと笑顔を浮かべた多多岐が楽しげに質問する。
「トマトジュース館というのはどんな建物なんだい? 壁が全てトマトジュースの缶で作られたりしてるのかな?」
「いえいえ、建物自体は2階建ての普通の建物ですよ。ただ、中に多種多様なトマトジュースが集められた保管庫があったり、新型のトマトジュースを開発するための研究室があるんです。まあここら辺は事件に関係ないので気にする必要は無いですね。あ、でも、各部屋に複数のトマトジュースが隙間なく入れられた冷蔵庫が常備されているのですが、それは事件に関係しているかもしれませんので記憶に残しておくといいかもしれません」
わざわざそんなことを言う時点で、関係があることは誰でも想像がつく。というか、関係していなかったらそっちの方が問題だ。
質問するのも面倒だが、早めに家に帰るためと割り切り、俺は気になったことを聞いてみる。
「それで、容疑者は何人で、奇妙な状態っていうのはどんな状態のことなんだ?」
礼人は俺の方を向き、瞳を輝かせて答えた。
「やっと千里も僕の物語に興味を持ってくれたんだね! そこら辺の詳細は、順々に説明していくから、そんなに慌てないでゆっくり聞いててね」
別に興味を持ったわけではない。ただ早く帰りたいからさっさと話をしろと急かしているだけだ。というか、トマトジュース発明家とは一体なんだ。トマトではなくトマトジュースの発明だけをしているのか? 事件の謎よりもそいつらの生態の方が気になる。
俺の脳内文句に一切気づかない礼人は、意気揚々と『トマトジュース館の殺人』について話始めた。
「トマトジュース館の殺人に出てくるのは、四人のトマトジュース発明家だ。まず一人は、この事件の被害者役である赤貫斗馬斗さん。六十歳くらいの温和な白髪おじさんで、僕のイメージとしてはケンタッキーおじさんが最も近いですね」
「成る程、カーネル・サンダースさんが被害者か。ということはやはり眼鏡もかけてるのかな?」
「ええと、眼鏡は……かけてない方向でお願いします」
「ほう、カーネル・サンダースの眼鏡抜きね。それはなかなか想像するのが難しそうだが、うん、なんとかいけるかな」
「それじゃあ二人目ですけど、名前は三美津代子さんです。今回出てくる中では唯一の女性で、若干ヒステリーの入ってるきつめの二十代です。容貌のイメージとしてはクレオパトラを日本人っぽくした感じですかね」
「クレオパトラ似の女か。それはかなりイメージしやすいな」
「え! ちょっと待ってセンちゃん。クレオパトラってイメージしやすいかな? 僕はあんまりイメージできないんだけど……」
「それで、三人目は誰なんだ」
多多岐の呟きを無視して、俺は続きを話すように促す。
「うん、三人目は戸田賀華太さん。戸田賀さんはいわゆるオネェ系の四十代男性で、頭こそ剥げてるけど、心は乙女のとても愉快な人だよ。容貌としては歴史の教科書によく載ってる北条政子みたいなかんじかな」
「あー、それは分かりやすいねぇ。簡単にイメージできるよ」
「確かに、イメージはしやすいな。実際にいたとしたらお近づきになりたくないが」
「それじゃあ最後の一人、名前を羽切紀霊という二十代の男性です。羽切さんは新進気鋭のトマトジュース発明家で、とても熱い情熱を燃やしている熱血青年なんですよ。見た目は松岡○造さんの若い頃が近いと思います」
「それは随分と熱い男だねぇ。彼がもし犯人だとしたら、それはそれは熱い動機があるんだろうね」
「……なんにしても礼人、お前のネーミングセンスはかなりひどいな。トマトにかけているんだろうことはなんとなく分かるが、もう少しましな名前は思いつかなかったのか?」
「こういうのはインパクトが大事だと思って。さて、登場人物の紹介はしたから、次は赤貫さんが殺された当日の状況を説明していくね。あ、何か質問があったら聞くけど、何かあるかい?」
「まだ人物紹介が終わっただけなんだ、質問も何もないだろ。さっさと説明を続けろ」
すると、多多岐が突如手をたたき、椅子からおもむろに立ち上がった。
「そうだ、この前保健室に来た女の子からお菓子をもらったんだよ。せっかくだから二人も食べるだろ。それにまだまだ話も長引きそうだし、飲み物もあったほうがいいかな。用意するからちょっと待っててね」
「な、俺はそんなに長居するつもりは……」
「さすが滝先生! ちょうどのどが渇いてきたところだったんですよ。あ、お菓子ってもしかしてそこの箱の中ですか? 手伝いますよ」
俺の意志は完全に無視され、二人は着々とおやつ(?)の準備を進めていく。これは長期戦を覚悟するしかないかと、内心で溜息を吐きつつ、俺は心の中に芽生えかけている楽しいという気持ちに軽く蓋を乗せておいた。
白を基調とした部屋のなかには、3つのベッドと数脚の丸椅子。教諭用の机に、薬などが入った棚がちらほら。
3つあるベッドは全て生徒が使用していたため――多多岐のやつ生徒を放置して俺らのところに遊びに来てやがった!――俺達はそれぞれ適当な椅子に腰を下ろし、礼人の作った物語を聞くことになった。
「ズバリ、今回僕が作った物語のタイトルは『トマトジュース館の殺人』です!」
「トマトジュース缶の殺人? なんだ、トマトジュースの缶を投げて人でも殺すのか?」
「さすが千里! ナイスジョーク! トマトジュース館のカンは、空き缶の缶じゃなくて館の方の館だよ。トマトジュース館という建物で、一人のトマトジュース発明家が殺害されるんだ! それもかなり奇妙な状態でね」
単純に疑問を言っただけなのにジョーク扱いされ、俺は脳内怒りゲージが一気に跳ね上がったのを感じた。
イライラしている俺をよそに、ニコニコと笑顔を浮かべた多多岐が楽しげに質問する。
「トマトジュース館というのはどんな建物なんだい? 壁が全てトマトジュースの缶で作られたりしてるのかな?」
「いえいえ、建物自体は2階建ての普通の建物ですよ。ただ、中に多種多様なトマトジュースが集められた保管庫があったり、新型のトマトジュースを開発するための研究室があるんです。まあここら辺は事件に関係ないので気にする必要は無いですね。あ、でも、各部屋に複数のトマトジュースが隙間なく入れられた冷蔵庫が常備されているのですが、それは事件に関係しているかもしれませんので記憶に残しておくといいかもしれません」
わざわざそんなことを言う時点で、関係があることは誰でも想像がつく。というか、関係していなかったらそっちの方が問題だ。
質問するのも面倒だが、早めに家に帰るためと割り切り、俺は気になったことを聞いてみる。
「それで、容疑者は何人で、奇妙な状態っていうのはどんな状態のことなんだ?」
礼人は俺の方を向き、瞳を輝かせて答えた。
「やっと千里も僕の物語に興味を持ってくれたんだね! そこら辺の詳細は、順々に説明していくから、そんなに慌てないでゆっくり聞いててね」
別に興味を持ったわけではない。ただ早く帰りたいからさっさと話をしろと急かしているだけだ。というか、トマトジュース発明家とは一体なんだ。トマトではなくトマトジュースの発明だけをしているのか? 事件の謎よりもそいつらの生態の方が気になる。
俺の脳内文句に一切気づかない礼人は、意気揚々と『トマトジュース館の殺人』について話始めた。
「トマトジュース館の殺人に出てくるのは、四人のトマトジュース発明家だ。まず一人は、この事件の被害者役である赤貫斗馬斗さん。六十歳くらいの温和な白髪おじさんで、僕のイメージとしてはケンタッキーおじさんが最も近いですね」
「成る程、カーネル・サンダースさんが被害者か。ということはやはり眼鏡もかけてるのかな?」
「ええと、眼鏡は……かけてない方向でお願いします」
「ほう、カーネル・サンダースの眼鏡抜きね。それはなかなか想像するのが難しそうだが、うん、なんとかいけるかな」
「それじゃあ二人目ですけど、名前は三美津代子さんです。今回出てくる中では唯一の女性で、若干ヒステリーの入ってるきつめの二十代です。容貌のイメージとしてはクレオパトラを日本人っぽくした感じですかね」
「クレオパトラ似の女か。それはかなりイメージしやすいな」
「え! ちょっと待ってセンちゃん。クレオパトラってイメージしやすいかな? 僕はあんまりイメージできないんだけど……」
「それで、三人目は誰なんだ」
多多岐の呟きを無視して、俺は続きを話すように促す。
「うん、三人目は戸田賀華太さん。戸田賀さんはいわゆるオネェ系の四十代男性で、頭こそ剥げてるけど、心は乙女のとても愉快な人だよ。容貌としては歴史の教科書によく載ってる北条政子みたいなかんじかな」
「あー、それは分かりやすいねぇ。簡単にイメージできるよ」
「確かに、イメージはしやすいな。実際にいたとしたらお近づきになりたくないが」
「それじゃあ最後の一人、名前を羽切紀霊という二十代の男性です。羽切さんは新進気鋭のトマトジュース発明家で、とても熱い情熱を燃やしている熱血青年なんですよ。見た目は松岡○造さんの若い頃が近いと思います」
「それは随分と熱い男だねぇ。彼がもし犯人だとしたら、それはそれは熱い動機があるんだろうね」
「……なんにしても礼人、お前のネーミングセンスはかなりひどいな。トマトにかけているんだろうことはなんとなく分かるが、もう少しましな名前は思いつかなかったのか?」
「こういうのはインパクトが大事だと思って。さて、登場人物の紹介はしたから、次は赤貫さんが殺された当日の状況を説明していくね。あ、何か質問があったら聞くけど、何かあるかい?」
「まだ人物紹介が終わっただけなんだ、質問も何もないだろ。さっさと説明を続けろ」
すると、多多岐が突如手をたたき、椅子からおもむろに立ち上がった。
「そうだ、この前保健室に来た女の子からお菓子をもらったんだよ。せっかくだから二人も食べるだろ。それにまだまだ話も長引きそうだし、飲み物もあったほうがいいかな。用意するからちょっと待っててね」
「な、俺はそんなに長居するつもりは……」
「さすが滝先生! ちょうどのどが渇いてきたところだったんですよ。あ、お菓子ってもしかしてそこの箱の中ですか? 手伝いますよ」
俺の意志は完全に無視され、二人は着々とおやつ(?)の準備を進めていく。これは長期戦を覚悟するしかないかと、内心で溜息を吐きつつ、俺は心の中に芽生えかけている楽しいという気持ちに軽く蓋を乗せておいた。
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