上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

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第三章 GW帰省編

第五十二話 心地のいい朝(春香3泊目)

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 夜の嵐はいつの間にか過ぎ去り、カーテンの隙間すきまから、明るい太陽の陽ざしが薄暗い部屋に差し込み、小鳥がちゅんちゅんと外で元気な鳴き声を上げている。

 俺は目を覚ましてから、大学生になった春香と抱き合っていて、気が付いたことが二つある。
 
 一つは、今までも何度か思っていたことだが、春香はとても甘い女性的な香りがただよってくることだ。香水やシャンプーの香りではなく、間違えなく春香から放たれている女性の匂い。その匂いが、正直嫌いではなかった。いやむしろ、春香の匂いをくんくんと全身くまなく嗅いで堪能したいくらい、大好きな香りかもしれない。
 
 二つ目は、抱き心地が最高すぎること。女の子特有の柔らかとした身体もあるが、俺の腕を背中に回した時のフィット感が抜群ばつぐんだった。
 背中に腕を回していても腕が疲れることはなく、ずっと抱きしめていることが出来る。俺の腕の寸法すんぽうを測って、オーダーメードで作った抱き枕みたいな感覚。

 この甘い香りと抱き心地の良さに包まれた俺は、何度も起きようとしても起き上がれない魔力にかかってしまい、目が覚めてからも、春香から離れようにも離れられず、ずっと抱きしめて匂いを堪能して引っ付いていた。

 しばらく、惰眠だみんのような心地よい時間を謳歌おうかしていると、ようやくモゾモゾと春香が動き、目を覚ました。

「んっ……んんっ……ん?」

 甘い吐息を吐きつつ、埋めていた顔を離して、ゆっくりと重いまぶたを開けた。

「おはよ、春香」

 俺が声を掛けると、春香は眠たそうな目を擦った後、しばらくぼーっと俺の顔をじっと見て、お互いに見つめ合う。
 
「おはよー大地ぃー」

 寝ぼけた春香が、うっとりとした表情で、また俺の胸元辺りに顔を埋める。

「はぁ……大地の安心する匂い……」

 そして、甘えた声を出して俺の幼馴染は心地よさそうにしている。
 男がいい匂いって言うと、変態じみているのに、女の子からいい匂いって言われると、ドキっとしてしまうからずるいよなぁ……。
 
 そんなことを思っていると、春香は身体を上にずらし、自分の顔を俺の顔の正面に合わせる。

「大地……このままもう一回ギューってして」

 可愛い甘えた声で、すがるような目で言ってくる春香に、俺はNOと言えるはずもなく、春香の身体を抱き寄せる。

「はぁーっ……」

 俺に抱きしめられると、満足そうに甘い吐息を吐く春香。俺も気付かれないように、息を大きく吸って、春香の甘い匂いを堪能する。

「朝からラブラブですねぇー二人とも」

 二人でイチャついている間を割って、後ろからからかい調子の声が聞こえてきた。
 俺と春香はとっさに抱き付いていた手を離して起き上がり、声の方へと振り返る。

 振り返った先には、案の定ニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべて、俺たちの光景を布団の横で観察している大空がいた。

「大空!?」
「いつからそこにいたの!?」
「うーんとね、10分前くらい?」
「いるなら声かけろ!」
「いやぁ……だって、あんな幸せそうにお互いに愛し合うように抱き合っちゃってー。どう声かければいいかわからなくて……」

 まさか、妹に一部始終を見られていたかと思うと、ブワァっと一気に体が熱くなり、嫌な汗がこみあげてくる。

「それにしても、どんなにお兄ちゃん大好きな私でも、春香お姉ちゃんのお兄ちゃん好きには勝てないなぁー。本当は大空もお兄ちゃんに抱き付きたいけど、その気持ちを抑えてでも春香お姉ちゃんに譲ってあげたくなっちゃうよねー」
「大空ちゃん!!」

 春香は顔を赤面させて、必死に何か訴えようとするが、大空はポンっと手を叩いて話を終わらせようとする。

「まあまあ、いいじゃない! いやぁ、いいものが見れました! お兄ちゃんも起きたことだし、私部屋に戻るね!」
「あ、ちょっと! 待ってよ大空ちゃん、誤解だってばぁ!!!!」

 春香が布団をがして布団から起き上がり、誤解を解こうと大空を追いかける。
 部屋のドアを閉めようとしたところで、春香がふと立ち止り、俺の方へ顔を向けた。

「勘違いしないでよね! 私たち、ラブラブなんかじゃないんだからね!」
「お、おう……」

 見事にツンデレのような捨てセリフを吐き捨て、春香は大空の部屋へ全速力で向かっていき、俺の部屋のドアをバタンと無造作に閉めて出て行った。


 ◇


 はぁ……疲れた……大空ちゃんに誤解を解くの大変だった。

「本当に? 雷にじょうじて一緒に寝る口実を作るために、昨日お兄ちゃんの部屋に大空を連れていかせたんじゃないの?」

 と、大空ちゃんに真意を探られるように問われたが、本当にあの時は怖くて、大地に助けてもらっただけだと無理矢理押し気味に言い切ると! 大空ちゃんは不満顔ながらも、一応納得してくれたらしい。

「まあ、大空的にはどっちでもいいんだけどね。春香お姉ちゃんがそう言うなら、そういうことにしておいてあげる!」


 こうして、私は大空ちゃんの説得を終えて自宅に戻り、都内へ帰るための荷造にづくりを行っていた。
 トランクのチャックを閉めて、無事に荷造りを完了して思わずため息をついた。

 でも、相変わらず大地は優しいなぁー。私が雷怖いの知ってて、優しく抱きしめて安心させてくれて……一緒に寝てもらっちゃった。
 大地に抱きしめられると、いい匂いがしてすごく幸せな気分になって、頭がぽわーっとする。何しろ雷のことなど忘れられるほど安心できる。そんな安らぎを、私は大地に覚えていた。

「朝だって、大空ちゃんに邪魔されなければもうちょっと一緒に大地と抱き合っていられたのに……」

 気が付けば、私はそんな独り言を口にしていた。

「はぁ……」

 思わずため息が漏れる。私何やってるんだろう……小さいころから私の好きな人はずっと変わっていないのに、いつも彼は一歩先を歩いてて、いつも私はそれについていくだけで精一杯。そんな立ち止そうな私を、彼はいつも気に懸けてくれて、振り返っていつも手を差し伸べてくれる。
 
 あぁ……どうしていつも誤魔化してしまうのだろう。好きって言った後、すぐに恥ずかしくなって否定しちゃう悪い癖。大地は鈍感だから、まだ気づいていないみたいだけど、好きって正直に言っても大地は信じてくれないだろうな……というかもう既に信じてくれていないのかも!?

 それに……都内に引っ越してから大地の様子が変わった。私に会う時はいつものように接してくれているけど、私にはわかってしまう。
 なんというか女の子慣れしたというか、高校の時にはなかった何か心の余裕のようなものが感じられる。

 やっぱり、前に言ってた女の人と何かあったのかな?
 もしかしたら、あの部屋にその女性も遊びに来ていたりするのだろうか?
 それどころか、それ以上のことをしているのではないか?
 例えば……私と同じように寝泊りしたりとか……

「あはは……まさかね……」

 考えれば考えるほど、私の頭の中はナイーブなことしか思い浮かばなくなってしまう。
 もし大地が、あの女性ともう一線を超えるようなことをしてたら……今の私は、大地にとって恋愛対象にすらないっていない、ただの邪魔者幼馴染になってる!?
 
 これは、何とかして大地から情報を聞きださないと……今の現状に満足しているようじゃダメだね。
 私は新たに気合いを入れ直し、トランクを持って部屋を出て、玄関へと続く階段を下りていき、一足先に都内へと戻った。
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