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第三章 GW帰省編
第四十七話 ホテル(綾香3泊目)
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俺と綾香は、誰にも気づかることなく、機敏に行動して、無事に地下街を抜けた。
そしてやってきたのは、北の大地一番の飲み屋街すすきのだ。
歩道を歩いている通行人に気づかれないようにしながら、俺は綾香の手を引き、キョロキョロと辺りを見渡しながらすたすたと歩き、人通りの少ない裏路地へと入っていき、少し進んだところで目的地へと到着した。
目の前に立っている建物は、目立たないながらもキラキラとした電飾がなされ、いかにもアダルトな雰囲気を醸し出している場所だった。
そう、今俺たちは、ラブホテルに入ろうとしているのだ。
入口には、『休憩2時間3000円~、宿泊5800円~』と書かれた料金表の看板が置かれており、入口から先は、曲がり角で見えないようになっていた。
◇
綾香に言われた言葉に面喰ってしまい、俺はあんぐりと口を開くことしか出来なかった。
「ダメ……かな?」
胸元の袖を軽く握り、上目遣いで甘えるような声でちょこんと首を傾げて聞いてくる綾香。
俺は、何か言わなければと必死に口を動かした。
「い、いやっ……ダメっていうかなんて言うか……急にどうして?」
俺が問うと、綾香は顔をさらにぽっと赤らめて口元をもにょもにょと動かす。
「そ、それは……大地君とこの間は二人っきりで寝れなかったし……」
綾香が言っているのは、愛梨さんとブッキングしてしまった日の出来事を言っているのだろう。愛梨さんと言い争っている時に、綾香にも特別な存在と言われてしまった。
あの時は、愛梨さんの売り言葉に買い言葉で滑って出てしまったでまかせかと思っていたが、今の表情を見る限り、綾香の必死そうな表情に嘘は見えない。
「ダメ……かな?」
もう一度、今度は澄んだ瞳で、恥じらうような綾香の縋るような仕草に押し負けて、俺は首を縦に振ってしまった。
◇
了承したのはいいものの、綾香に一緒に寝たいという無茶なお願いをされ、流れ的に昼間の外で寝る場所といったら、こういう場所になるわけで……。
俺は思わずごくりと生唾を飲みこんだ。
綾香の方をチラっと見ると、頬を染めて俯きながら、恥ずかしそうにちょこんと俺の隣に立っていた。
「い……行こうか」
「う……うん……」
お互い緊張しつつ、ホテルのロビーへ足を踏み入れる。
生まれて初めてのラブホテルで緊張な足どりでフロントへ向かい、何とか受付を済ませる。フロントの人からは、相手の顔が見えないよう手元だけが見える設計になっており、誰が来たかわからないような配慮がされていた。
一番価格が安い部屋の4時間のコースを選択し、俺たちは料金を払った。フロントの人から鍵を受け取った俺たちは、お互い何とも言えない気まずい雰囲気のまま、エレベーターに乗りこみ、目的の部屋がある階へと向かう。
エレベーターが目的の階へと到着してドアが開く、廊下へ出て、フロントで渡された鍵と同じ部屋番号のドアの前に到着した。
鍵穴に鍵入れ施錠を解除し、ドアのレバーを回して部屋へと入る。
中はビジネスホテルのような割と普通の部屋で、ガラス製の机の上には、灰皿とリモコンが置いてあり、近くに大きな黒光りのソファーがある。また、入口の右側にはシャワー室が完備されており、換気扇の音がゴオゴオと鳴り響いている。
そして部屋の一番奥には、ピンク色の蛍光色のテカテカとした壁に、デカデカと置かれた真っ白なダブルベットに二つの枕が丁寧に置かれており、奥の角のところには、ゴムなどの避妊具が設置されていた。明らかに普通のホテルとは違う、これぞラブホテルという特有の異空間が広がっていた。
俺と綾香はひとまず部屋へと入り、扉を閉めた。
綾香の方を見ると、不安そうにキョロキョロと辺りを見渡している。
一先ずソファーまでたどり着き、俺と綾香は隣り合わせになる形でソファーに腰かけた。
「ラブホテルってこんな感じなんだね……」
「そうだね……」
ラブホテルに入ってからようやく初めての会話を交わす、もう少しいい話題はなかったのかと自負に苛まれるが、自分にも全く余裕がなかった。
また、お互いに黙り込んでしまい、隣り合って座ったまま時間が進む。
俺はキョロキョロと目を泳がせ、どうしようかと悩んでいたが、覚悟を決めて口を切った。
「その……ど、どうしよっか?」
「えっ!?」
俺が声を掛けると、綾香はビクっと身体を震わせて、驚愕した表情でこちらを見てきた。俺も綾香のあまりのオーバーリアクションに、思わずつられて身体を後ろに引いてしまう。
「あ、いやぁ、そのぉ……これから添い寝……するのかなって……」
「あ、あぁ! うん、そうだね……」
綾香はスっと視線を白いダブルベットの方に向ける。それにつられるように俺もベットの方へ視線をやった。
いつも寝ている部屋の布団とは違い、どこか夜のアダルティな雰囲気がにじみ出ていた。それに看過されてしまったのか、俺と綾香にも少し戸惑いと異質な空気感が広がっている。
「わ、私、ちょっと着替えてくるね!」
「あ、うん。わかった……」
綾香は逃げるように立ち上がり、シャワー室の脱衣所へ向かっていってしまう。
俺は綾香を見送った後、ボケェっとソファに座りながら、耳をすましていた。
静寂とした室内に、お風呂の換気扇の音と、綾香が着替える衣擦れの音だけが耳に届く。
俺は音すらも、どこか艶めかしく聞こえてしまい、俺は自分の頭を掻いて気を紛すように音を掻き消す。
「お、お待たせ……」
「お、おう……えっ!?」
ようやく着替えを終えて戻ってきた綾香を見ると、変装の帽子とメガネを外して、下に来ていたキャミソールだけ身に着けた状態になっており、履いていたスカートと黒タイツを脱ぎ、スラーっとした白い綺麗な足の根元に、ピンクのエロティックな下着を身につけているだけ姿になっていた。
俺は思わず、顔を手で隠して目を逸らした。
「なんで、下着!?」
俺が顔を逸らしながら聞くと、綾香は身を捩らせながら答える。
「だって、替えの着替えないし……スカートしわついちゃうし、タイツ履いたままだと寝づらいから……」
身体をモジモジとくねらせ、頬を真っ赤に染めて綾香が理由を述べてくる。
落ち着け、俺たちは何もやましいことはしないのだから。綾香と一緒に添い寝するだけだ。何もない、何もないんだ!
自分に言い聞かせながら、深く深呼吸をする。
そして、覚悟を決めてソファから立ち上がり、綾香に声を掛けた。
「よしっ、じゃあ、行くか」
俺も羽織っていたジャケットを脱いで、上半身はシャツ一枚の状態になった。室内は温度調節されているためか、そんなに肌寒くはなかった。
ジャケットを脱ぎ終えた俺の様子を一瞥して、ふと綾香が首を傾げる。
「大地くんはズボン脱がないの……?」
「えっ……?」
唐突に言われた綾香の言葉に、俺は口をポカンと開けて言葉を失う。
確かに俺が今履いているのはジーパンなので、寝心地はあまりよくない。
でも、俺は別にしわも気にならないし、脱ぐ必要はないとは思うのだが……。
綾香へ視線を向けると、俺の下半身をじぃっと見つめていた。
どうしてだろう、やましいことはないはずなのに、綾香が違うものを見ているのではないかと勘違いしてしまいそうになる。
何故だか分からないが、脱がなきゃいけないという使命感のようなものまで出てきてしまった。
「わっ、わかったよ……脱ぐよ……」
俺は見えない重圧に気圧されて、ゆっくりとベルトに手を当てて、ズボンを脱いで下着姿になった。
お互いにラブホテルという雰囲気にのまれて、正常な判断が出来なくなっているのか、ただ一緒に寝るだけなのに、これからとてもやましいことをするような感じになってしまっている。
この異様なまでの雰囲気を俺に打破する力はなく、俺はおもむろにベッドの方へと向かって行くことしか出来なかった。
そしてやってきたのは、北の大地一番の飲み屋街すすきのだ。
歩道を歩いている通行人に気づかれないようにしながら、俺は綾香の手を引き、キョロキョロと辺りを見渡しながらすたすたと歩き、人通りの少ない裏路地へと入っていき、少し進んだところで目的地へと到着した。
目の前に立っている建物は、目立たないながらもキラキラとした電飾がなされ、いかにもアダルトな雰囲気を醸し出している場所だった。
そう、今俺たちは、ラブホテルに入ろうとしているのだ。
入口には、『休憩2時間3000円~、宿泊5800円~』と書かれた料金表の看板が置かれており、入口から先は、曲がり角で見えないようになっていた。
◇
綾香に言われた言葉に面喰ってしまい、俺はあんぐりと口を開くことしか出来なかった。
「ダメ……かな?」
胸元の袖を軽く握り、上目遣いで甘えるような声でちょこんと首を傾げて聞いてくる綾香。
俺は、何か言わなければと必死に口を動かした。
「い、いやっ……ダメっていうかなんて言うか……急にどうして?」
俺が問うと、綾香は顔をさらにぽっと赤らめて口元をもにょもにょと動かす。
「そ、それは……大地君とこの間は二人っきりで寝れなかったし……」
綾香が言っているのは、愛梨さんとブッキングしてしまった日の出来事を言っているのだろう。愛梨さんと言い争っている時に、綾香にも特別な存在と言われてしまった。
あの時は、愛梨さんの売り言葉に買い言葉で滑って出てしまったでまかせかと思っていたが、今の表情を見る限り、綾香の必死そうな表情に嘘は見えない。
「ダメ……かな?」
もう一度、今度は澄んだ瞳で、恥じらうような綾香の縋るような仕草に押し負けて、俺は首を縦に振ってしまった。
◇
了承したのはいいものの、綾香に一緒に寝たいという無茶なお願いをされ、流れ的に昼間の外で寝る場所といったら、こういう場所になるわけで……。
俺は思わずごくりと生唾を飲みこんだ。
綾香の方をチラっと見ると、頬を染めて俯きながら、恥ずかしそうにちょこんと俺の隣に立っていた。
「い……行こうか」
「う……うん……」
お互い緊張しつつ、ホテルのロビーへ足を踏み入れる。
生まれて初めてのラブホテルで緊張な足どりでフロントへ向かい、何とか受付を済ませる。フロントの人からは、相手の顔が見えないよう手元だけが見える設計になっており、誰が来たかわからないような配慮がされていた。
一番価格が安い部屋の4時間のコースを選択し、俺たちは料金を払った。フロントの人から鍵を受け取った俺たちは、お互い何とも言えない気まずい雰囲気のまま、エレベーターに乗りこみ、目的の部屋がある階へと向かう。
エレベーターが目的の階へと到着してドアが開く、廊下へ出て、フロントで渡された鍵と同じ部屋番号のドアの前に到着した。
鍵穴に鍵入れ施錠を解除し、ドアのレバーを回して部屋へと入る。
中はビジネスホテルのような割と普通の部屋で、ガラス製の机の上には、灰皿とリモコンが置いてあり、近くに大きな黒光りのソファーがある。また、入口の右側にはシャワー室が完備されており、換気扇の音がゴオゴオと鳴り響いている。
そして部屋の一番奥には、ピンク色の蛍光色のテカテカとした壁に、デカデカと置かれた真っ白なダブルベットに二つの枕が丁寧に置かれており、奥の角のところには、ゴムなどの避妊具が設置されていた。明らかに普通のホテルとは違う、これぞラブホテルという特有の異空間が広がっていた。
俺と綾香はひとまず部屋へと入り、扉を閉めた。
綾香の方を見ると、不安そうにキョロキョロと辺りを見渡している。
一先ずソファーまでたどり着き、俺と綾香は隣り合わせになる形でソファーに腰かけた。
「ラブホテルってこんな感じなんだね……」
「そうだね……」
ラブホテルに入ってからようやく初めての会話を交わす、もう少しいい話題はなかったのかと自負に苛まれるが、自分にも全く余裕がなかった。
また、お互いに黙り込んでしまい、隣り合って座ったまま時間が進む。
俺はキョロキョロと目を泳がせ、どうしようかと悩んでいたが、覚悟を決めて口を切った。
「その……ど、どうしよっか?」
「えっ!?」
俺が声を掛けると、綾香はビクっと身体を震わせて、驚愕した表情でこちらを見てきた。俺も綾香のあまりのオーバーリアクションに、思わずつられて身体を後ろに引いてしまう。
「あ、いやぁ、そのぉ……これから添い寝……するのかなって……」
「あ、あぁ! うん、そうだね……」
綾香はスっと視線を白いダブルベットの方に向ける。それにつられるように俺もベットの方へ視線をやった。
いつも寝ている部屋の布団とは違い、どこか夜のアダルティな雰囲気がにじみ出ていた。それに看過されてしまったのか、俺と綾香にも少し戸惑いと異質な空気感が広がっている。
「わ、私、ちょっと着替えてくるね!」
「あ、うん。わかった……」
綾香は逃げるように立ち上がり、シャワー室の脱衣所へ向かっていってしまう。
俺は綾香を見送った後、ボケェっとソファに座りながら、耳をすましていた。
静寂とした室内に、お風呂の換気扇の音と、綾香が着替える衣擦れの音だけが耳に届く。
俺は音すらも、どこか艶めかしく聞こえてしまい、俺は自分の頭を掻いて気を紛すように音を掻き消す。
「お、お待たせ……」
「お、おう……えっ!?」
ようやく着替えを終えて戻ってきた綾香を見ると、変装の帽子とメガネを外して、下に来ていたキャミソールだけ身に着けた状態になっており、履いていたスカートと黒タイツを脱ぎ、スラーっとした白い綺麗な足の根元に、ピンクのエロティックな下着を身につけているだけ姿になっていた。
俺は思わず、顔を手で隠して目を逸らした。
「なんで、下着!?」
俺が顔を逸らしながら聞くと、綾香は身を捩らせながら答える。
「だって、替えの着替えないし……スカートしわついちゃうし、タイツ履いたままだと寝づらいから……」
身体をモジモジとくねらせ、頬を真っ赤に染めて綾香が理由を述べてくる。
落ち着け、俺たちは何もやましいことはしないのだから。綾香と一緒に添い寝するだけだ。何もない、何もないんだ!
自分に言い聞かせながら、深く深呼吸をする。
そして、覚悟を決めてソファから立ち上がり、綾香に声を掛けた。
「よしっ、じゃあ、行くか」
俺も羽織っていたジャケットを脱いで、上半身はシャツ一枚の状態になった。室内は温度調節されているためか、そんなに肌寒くはなかった。
ジャケットを脱ぎ終えた俺の様子を一瞥して、ふと綾香が首を傾げる。
「大地くんはズボン脱がないの……?」
「えっ……?」
唐突に言われた綾香の言葉に、俺は口をポカンと開けて言葉を失う。
確かに俺が今履いているのはジーパンなので、寝心地はあまりよくない。
でも、俺は別にしわも気にならないし、脱ぐ必要はないとは思うのだが……。
綾香へ視線を向けると、俺の下半身をじぃっと見つめていた。
どうしてだろう、やましいことはないはずなのに、綾香が違うものを見ているのではないかと勘違いしてしまいそうになる。
何故だか分からないが、脱がなきゃいけないという使命感のようなものまで出てきてしまった。
「わっ、わかったよ……脱ぐよ……」
俺は見えない重圧に気圧されて、ゆっくりとベルトに手を当てて、ズボンを脱いで下着姿になった。
お互いにラブホテルという雰囲気にのまれて、正常な判断が出来なくなっているのか、ただ一緒に寝るだけなのに、これからとてもやましいことをするような感じになってしまっている。
この異様なまでの雰囲気を俺に打破する力はなく、俺はおもむろにベッドの方へと向かって行くことしか出来なかった。
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