上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

第二章 寝泊り開始編

第三十九話 女の子慣れ！？

　愛花あいかとのドタバタ家庭教師が幕を閉じ、一人部屋に取り残された俺は、いつもと変わらぬ準備を整えて大学へと足を運んだ。
　
　先週と同じく、金曜日の授業で提出の、レポート課題が課されていた。
　俺は健太達と一緒に、夜遅くまで大学でレポート課題に取り組んだ。にしてもあのクソ教授きょうじゅ、毎週レポート提出させるとか鬼畜きちくすぎだろ。加えて期末テストもあるとか、必修のくせに単位認定までの道のりが厳しすぎる。
　頭の中で、教授への不満をタラタラと漏らしながら、俺が最寄りの駅に到着したのは、夜の9時30分を回った頃。

　早く家に帰って寝ようと、歩き始めた。だがその時、ふとトイレットペーパーを切らしていたのを思い出した。
　
　足は自然と踵を返して、萌絵の働くドラックストアへと向かっていた。

　ドラックストアに入店し、店内をキョロキョロと見渡すものの、残念ながら萌絵の姿はない。俺はトイレットペーパー売り場で1ケース手に持ち、レジへと向かう途中、突然従業員用の扉がガチャリと開き、中から萌絵が出てきた。

「あれ？　大地くん？」

　ふと目が合い、俺の姿に気が付いた萌絵が、驚いたように声を掛けてきた。どうやら、普段より早くバイトが終わったらしい。黄色いリュックサックを背負って、私服姿で控室から出てきた。

「よっ、萌絵」
「どしたの？　買い物？」
「まあ、そんな感じ」

　俺は、手に持っていたトイレットペーパーを掲げて見せる。

「なるほどねー」

　納得した様子の萌絵だったが、すぐに俺が手に持っているトイレットペーパーに視線を向けて、マジマジと覗き込む。

「どうしたの？」

　俺が尋ねると、萌絵は顎に手を当てながら物珍しそうに口を開く。

「結構、高級なトイレットペーパー買うんだね」
「え？」

　俺が持っているのは、某メーカーのトイレットペーパー。確かに、他のメーカーよりもちょっとお高めの物ではある。
　実家で愛用していたというだけで、特に意味もなく買っていたのだが、萌絵からは「トイレットペーパーにこだわる人」と思われたらしい。

「実家でも使ってたやつだから、なんか癖でというか、使い勝手がいいから」
「あぁ、なるほどね」

　萌絵は唇に指を当てて、納得したような表情を浮かべた。

「あ、そうだ！」

　萌絵は何かを思い出したように、俺を手招きしてきた。俺が萌絵の口元へ耳を近づけると、萌絵は少し恥じらいながらぽしょりと話してきた。

「そのぉ、実は今日も親に帰ってくるなって言われちゃって……もし大地君が迷惑じゃなかったら、また泊めてくれると嬉しいんだけど……」
「あぁ、いいよ」
「本当に？」
「うん、別に今日もこの後家に帰って寝るだけだったし」
「ごめんね。ありがとう」

　萌絵は顔の前で手を合わせて、申し訳なさそうに感謝の意を述べた。

「いいって、別に困った時はお互い様ってことで。あ、そうだ！　これからはさ、急にこういう事態になる場合もあるかもしれないし、よかったら連絡先交換しておかない？ また、言ってくれれば泊めてあげられるし」

　俺が萌絵に尋ねると、萌絵はポカンと口を開けて、唖然あぜんとした表情をしていた。

「ん？　どうかした？」
「えっ！？」

　はっ！と我に返ったように、萌絵はおどおどとしながらも、

「なんでもない！　うん、そうだね！　連絡先交換しようか！」

　と慌てた様子で、ポケットからスマホを取りだした。
　
　お互いのＱＲコードを読み取り、トークアプリのアカウントを交換する。
　萌絵は交換したトークアプリのアカウントをじっと見つめながら、ボゾっと聞いてきた。

「大地くんってさ、もしかしてだけど……女の子慣れしてる？」
「え！？　どうして？」
「いやだって、知り合ったばかりの女の子を、そんな簡単に家に泊まらせてあげたりとかしないでしょ普通」
「あっ……」

　しまった……。ここ最近、毎日のように違う女性が寝泊りしていたせいで、俺の感覚が狂くるってしまったらしい。疑いの目を向けてくる萌絵に、なんとかいい言い訳を探そうと視線を泳がせる。

「えっと……そう！　俺と同い年の幼馴染がいるんだけど、そいつが昔から普通に泊まりに来るやつでさ、それで女の子を家に招き入れるのに抵抗がないというかなんというか……」
「へぇ～」

　萌絵は未だにじとっとした視線を俺に向けて来ている。ヤバイと思い、さらに何かいい訳がないか思考を巡めぐらす。

「それにさ、萌絵はスゲー話弾むし、一緒にいると楽しいから、なんか全然泊めてもいいかな～なんて思ってたり……」
「へ！？」

　すると、萌絵の顔がみるみると朱に染まる。

「その……それって……」

　萌絵が、モジモジと指を胸の前で突き合わせながら、上目づかいで俺を見つめてくる。

「あっ、いやぁ、別に変な意味とかなくて、その友達として気が合うとかそんな感じで……」

　俺が手をアワアワとさせて、さらにいい訳すると、萌絵は一瞬眉根を寄せたが、何かを悟ったのか、ふぅっと一息ついてすぐに微苦笑した。

「まあつまりは、私のこと多少なりとも信用してくれてるってことだよね？」
「あぁ、そういうこと」
「わかった」

　ようやく、萌絵が納得したような笑みを浮かべて了承してくれた。

「じゃあ、レジで会計して、早く大地君の家に向かおう！」
「そうだね」

　俺達は話を切り上げて、トイレットペーパーを購入しにレジへと向かった。