上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

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第二章 寝泊り開始編

第三十六話 火曜日の日常(春香2泊目)

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 翌日、授業を終えた後、俺は春香に連絡を入れた。

『今日は来るの?』
『うん。16時ごろに行こうと思う』
『了解。迎えに行く?』
『いや、道覚えてるから大丈夫』
『わかった』

 火曜日に春香が家に来るのが、恒例行事こうれいぎょうじになりつつある中、やり取りを終えてスマートフォンをポケットにしまおうとした時だった。
 
 ふいにスマートフォンが振動したので、もう一度画面を見ると、意外な人物からメッセージが届いた。

『お兄ちゃん! GWゴールデンウィーク帰ってこないの? 大空は、ずっとお兄ちゃんのこと待ってるよ!』

 唐突な、妹からの愛のメッセージだった。
 来週から世の中はGW突入するのだが、残念ながら俺が通う大学は『GW? そんなの知らん』と言わんばかりにがっつり授業が入っている。

 けれど、妹の頼みとなれば、話は別だ。
 これは……よく考える必要が出てきたな。
 そんなことを思いながら向かったのは、萌絵もえが働いているドラッグストア。

 ドラッグストアで日用品をかごに入れてレジへと向かうと、レジで萌絵が待っていた。

「よっ」

 俺が声を掛けると、萌絵が俺に気が付き、嬉しそうな顔を浮かべた。

「あれ、大地? やっほー。どうしたの?」
「日用品の買いだしって感じ」
「なるほどねー」

 そんな他愛もない会話を交わしながら、萌絵は受け取った商品をレジ打ちしていく。

「そういえば、大地はアルバイトとかしないの?」

 唐突に萌絵がそんなことを尋ねてきた。

「明日から塾でバイトする」
「お、塾講師かぁー。あ、1985円です」
「はい」

 俺は財布からお金を取りだして渡した。

「2000円お預かります。15円のお返しです。少々お待ちください」

 萌絵は商品を袋詰めしながら言葉を続ける。

「塾講師だけでまかなえそうなの?」
「まあ、塾講師はそんなに日数入れないとは思うけど、慣れてきたら掛け持ちしようかなとは思ってる」
「そっか。じゃあ、どうだい? ここのドラッグストア! ここだけの話、時給は結構いいんだぜ?」
 
 萌絵が顔を近づけて小声でバイトの勧誘をしてきた。

「あはは……まあ候補として考えておくよ」
「ありゃ、軽く受け流されちゃった。はい、お待たせしました」

 袋詰めが終わり、商品を手渡してくる。

「どうも、じゃあまた」
 
 俺は萌絵に手を振ってドラッグストアを後にする。

 アルバイトの誘いはありがたかったものの、俺は既にもう一件のアルバイト先の目星はもう付けていたので、残念ながら誘いにはのれそうにないなと思いながら、アパートへ歩みを進めた。


 ◇


 アパートへ帰り、日が傾き始めたころ、春香が家にやってきた。
 先週と同じピンクのボストンバックに、黒のジーンズと赤と白のTシャツにパーカーを羽織っただけのラフな格好でやってきた。
 
 特に何もすることがなかったので、お互いにスマホをいじりながらボケっと時間を持て余している時に、ふと疑問に思ったことを問いかけた。


「そういえばさ、春香はGWはどうするんだ?」
「ん? 一応帰省きせいする予定だけど? 最初の三日間は授業ないし」
「そっか……俺も授業が無ければ帰省するのになぁー」

 ため息交じりの吐息をつくと、春香が顔を上げて、意味ありげな視線を向けてくる。

「なになに? 大空ちゃんから愛のメッセージでも来た?」
「まあ、そんなところだ」
「本当に来たんだ……」

 春香が呆れたような表情で苦笑している。おい、俺と大空の兄妹愛をなめるなよ?
 そんなことを思っていると、ふと春香が咳ばらいを一つした。

「話変わるけどさ、大地アルバイトってどうするの?」

 やはりこの時期になると、皆思うことはお金の心配なのだろう。今週だけでも、アルバイトの話題三度目だ。

「バイト? あぁ、明日から塾講師のバイト始める」
「え? 塾講師!? いいなぁ~塾講師、私には無理だ……」

 うん、またデジャビューな反応。
 だけど、俺的に春香は詩織しおりと違って、塾講師向いていると思う。だから、俺はやんわりと春香に言ってやる。

「でも、ああいうバイトって、成績よりコミュニケーション能力の方が大事だから、春香の方が俺より適正あるんじゃね?」
「いやいや、もう入試の問題すら見たくない。もうあの頃はり」

 春香は受験期のことを思い出してぞっとしているのか、恐怖のような表情を浮かべていた。
 そういえば、こいつ都内の大学進学するために猛勉強してたもんな……春香は俺と同じ大学志望だったのだが、学力はそんなに良くなかったため、一年間死ぬ気で勉強したのだ。残念ながら俺と同じ大学には合格できなかったが、第二志望であるもう一つの都内の大学に合格して現在に至っている。

「まあ、春香ならどんなアルバイトしてもそつなくこなすだろ」
「そうかな……例えば?」
「うーん、そうだな、本屋の店員とか?」
「えーなんか地味じゃない?」

 謝れ、全国の書店で働いている人に謝れ!

「じゃあ、居酒屋とか?」
「居酒屋は絶対にいや」
「……」

 俺は遠い目で春香を睨みつけた。

「な、何よ?」
「ま……バイト探しガンバ!」
「え? ちょっと!」
 
 俺はその場から立ち上がり、キッチンへと向かい夕食の用意を始めた。全く、本当にコイツはわがままなお嬢様だぜ。


 ◇


 夕食を食べ終わり、俺が食器洗いをしている間に春香がお風呂に入っていた。
 お風呂からあがってきた春香はピンクと白の横縞の寝間着を着ており、バスタオルで濡れいている髪を拭いていた。

「ねぇ、お風呂って毎日湯船浸かってるの?」

 春香が急に尋ねてきた。

「いや、いつもはシャワー。お前が来た時だけ」
「え? なんで?」
「だって、湯船浸かるの好きだろ?」
 
 春香は驚きなだらキョトンとした表情を浮かべていたが、少し頬を染めて俯いた。

「覚えててくれたんだ……」
「そりゃな、幼馴染だし」
「ありがと……」

 俺は食器を洗い終わり、濡れた手をタオルで拭いた。

「じゃ、俺も入ってくるわ」
「あ、うん。ドライヤー借りるね」
「はいよ」

 こうして、俺もお風呂へと向かった。


 ◇


  そんな出来事がありつつ、あっという間に就寝する時間になった。
 布団を敷いて、お互いに布団へ潜る。

「電気消すぞ」
「うん」

 俺は電気のリモコンのスイッチを押した、ピっという音と共に一瞬で部屋が真っ暗になった。
 寝る体勢を整えて、ベストポジションについて落ち着いた時、ふと春香が声を上げた。

「そういえばさ、前に言ってた人とはどうなったの?」
「ん、前に言ってた人?」
「天使のような女性のこと」

 俺は上を向いて当時のことを思い出す。

「あぁ、愛梨あいりさんのことか」
「え? 何、もう下の名前で呼び合う関係なの!?」
「いやいや、普通にサークルの先輩だよ。別に下の名前で呼んでるのに理由はない」
「そっか……でも仲良くなれたんだ」
「まあな。」
「そっか。」

 春香は何か納得したような口調だった。

「どうしたんだよ急に?」
「別に、なんとなく思い出しただけ。お休み」
 
 それ以上何も言うことなく、春香は寝返りを打って、向こう側を向いてしまった。

「おう、そうか……お休み」

 そして俺も、それ以上詮索することなく、春香とは反対の方を向いて眠りについた。
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