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第二章 寝泊り開始編
第二十六話 帰り際での再会
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翌日、午後の授業を受けている途中、大宮さんからメールが来て、俺は無事に塾講師のアルバイトとして採用されることが決まった。
大宮さんと連絡を交わして日程を調整し、来週の水曜日にアルバイトとして初出勤を迎えることとなった。
昨日雑居ビルの外階段ですれ違った女子高生の女の子、また来週アルバイトで会えることを願い、期待に胸を膨らませた。
◇
今日は授業後、翌日提出のレポート課題があり、その課題を健太たちと一緒に済ませてから家路についたため、かなり帰りが遅くなってしまった。
最寄りの駅に到着した頃には、時刻は既に夜の十時を回っていた。
課題自体は二十時前には終わったのだが、その後健太と一緒に夕食を食べにいったお店で、頼んだメニューが中々来なくて、三十分も待たされてしまった。
結果として、こんな遅い時間になってしまったというわけだ。
明日も朝早いのになぁ……思わずため息が零れる。
軽く項垂れつつ家へと続く道を歩いていると、後ろから一台の自転車が近づいてくる音が聞こえた。
そして、その自転車の音が、突進してくるように大きくなっていき、キィっとブレーキ恩を立てながら後ろから声を掛けられる。
「やっほ、南くん!」
夜道で思いっきり背中を叩かれ、俺は飛び跳ねて驚きながら身体ごと振り向いた。
心臓の鼓動が一気に早くなり、身体全身に血流がドバァっと流れている感覚が伝わる。
「あっごめん、驚かせちゃった?」
そこにいたのは、自転車にまたがって、黄色いリュックサックを背負ったショートボブカットの女性。
俺が驚いたのを見て、申し訳なさそうに手を上げていた。
「えっ、誰?」
「あれっ? もしかして覚えてない?」
その女性は、戸惑うような表情を浮かべて苦笑いする。
だが、どこかで見たことがあるような気がして、俺は記憶の中で思い出す。
すると、とある人物を思い出し、記憶が合致した。
「あっ、吉川さん!」
「やっと思い出してくれた! 忘れられちゃったのかと思ったよー。元気にしてた?」
そうだ、彼女の名前は吉川萌絵さん、あの不思議な女子高生の後を追ってついて行った、ドラッグストアーで出会ったアルバイト店員さんだ。
「はい、元気でしたよ。吉川さんは?」
「私も元気だよ!」
ドラックストアでは、緑のエプロンを身に着けていた印象だったので、私服姿の彼女を見て、ぱっと思い出せなかったらしい。
すると、吉川さんがキョトンと首を傾げて尋ねてくる。
「今帰宅?」
「はい、大学で明日提出の課題やってたら遅くなって」
「そうなんだ。遅い時間までお疲れ様」
「ありがとうございます。吉川さんはバイト終わりですか?」
「そうそう、さっき上がって今帰ってたところ。そしたら、見たことある後姿を見つけたから」
吉川さんがそうにこにこしながら答えてきた。
「そうだったんですね。家こっちの方なんですか?」
「うん、ここの道もう少し進んで左に曲がったところ」
「そうなんですね。じゃあ、結構近いですね」
「本当に? じゃあ、途中まで一緒に帰ろうよ」
吉川さんはそう言いながら、ささっと自転車のサドルから降りて、俺の横へ並び一緒に歩く体制に入った。
「はい、いいですけど、時間大丈夫ですか?」
「え? あぁうん、全然平気だよ。むしろ、この時間帯は男の子が一緒にいてくれた方が心強いし!」
可愛らしい小さな顔を傾けて、ニコっと上目づかいで吉川さんが見つめてくる。
その視線に、一瞬ドキっとしてしまう。さらには、胸元の緩いトレーナーを身につけていたため、チラっと胸元が見えそうになっていた。
俺はとっさに目線を逸らして、一度咳こんでから歩き出す。
吉川さんもニコニコとしながら、一緒に隣に並んで自転車を手で押して歩き出した。
しばし無言で、二人とも会話をすることなく歩いていると、吉川さんがおもむろにズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。
「ちょっとごめんね」
吉川さんは俺のそう断りを入れて足を止め、スマートフォンに目をやった。そして、しばらく指で操作した後、吉川さんの表情が一気に険しいものに変わる。
そして、吉川さんはスマートフォンをの画面を閉じてポケットにしまうと、ふぅっと大きなため息をついた。そして、俺の方に改めて向き直る。
「ごめん、私今から出かけなきゃいけない用事が出来ちゃったから、ここまででいいや。折角誘ったのにごめんね」
吉川さんは申し訳なさそうに俺に謝ってくる。
「えっ、今から出かけるんですか!?」
もう深夜帯の時間だ、のっぴきならない事情があるのだろうか。
俺が心配して吉川さんの表情を窺うと、どこか儚げに憂いを帯びた表情を浮かべていた。
「何かありましたか?」
「ううん、何でもないよ!」
吉川さんはそう言って平静を装うが、俺がじぃっと訝しんで見つめる。吉川さんは少し困ったような表情を浮かべたが、諦めたのか観念したように息を吐いた。
「あははっ……実はね、今お母さんからメッセージが来て、家に帰ってくるなって言われちゃって……」
吉川さんは頭を掻きながらそう言った。
「えっ? 帰ってくるなって、自分の家なのにどういうことですか?」
俺はそう質問を返すと、吉川さんは苦い顔のまま言葉を続ける。
「いつもこんな感じなの。父親がいない木曜日に、いつも母が他の男の人家に連れ込んで、私は外で待機。まあ、もう慣れたんだけどね」
吉川さんは自転車に再び跨りながらそう話してくれた。その表情はどこか遠くを見て悲しい目をしていた。
「吉川さんは、これからどうするんですか?」
「うーん、まあ友達に連絡して泊めてもらうか。最悪漫画喫茶で一泊かなぁ……」
吉川さんの口元は笑っていない。そんな困り果てている吉川さんを見て、居た堪れない気持ちになってしまった俺は、気が付いた時には思わず口走っていた。
「あの……よかったらうちに泊まっていきませんか?」
「えっ……?」
吉川さんは驚いたようにポカンと口を開けている
俺は自分が口走ったことを思い出し、はっ!っと我に返り、とっさに言い訳をした。
「あ、いや。吉川さんが嫌なら別に断っていいですし。その俺たちほとんどプライベートなこと知らないのにこんなこと言っちゃってごめんなさいというか」
「いいの?」
「そうですよね、いいのってことは、うちに泊まって……え?」
俺は我に返って吉川さんを見る。
吉川さんは頬を少し赤らめながら、期待のこもった表情をしていた。
「泊めてくれるの……?」
目をうるうるとさせながら、羨望の眼差しで見つめてきた吉川さんを見て、俺は。
「は、はい……」
と答えることしか出来なかった。
大宮さんと連絡を交わして日程を調整し、来週の水曜日にアルバイトとして初出勤を迎えることとなった。
昨日雑居ビルの外階段ですれ違った女子高生の女の子、また来週アルバイトで会えることを願い、期待に胸を膨らませた。
◇
今日は授業後、翌日提出のレポート課題があり、その課題を健太たちと一緒に済ませてから家路についたため、かなり帰りが遅くなってしまった。
最寄りの駅に到着した頃には、時刻は既に夜の十時を回っていた。
課題自体は二十時前には終わったのだが、その後健太と一緒に夕食を食べにいったお店で、頼んだメニューが中々来なくて、三十分も待たされてしまった。
結果として、こんな遅い時間になってしまったというわけだ。
明日も朝早いのになぁ……思わずため息が零れる。
軽く項垂れつつ家へと続く道を歩いていると、後ろから一台の自転車が近づいてくる音が聞こえた。
そして、その自転車の音が、突進してくるように大きくなっていき、キィっとブレーキ恩を立てながら後ろから声を掛けられる。
「やっほ、南くん!」
夜道で思いっきり背中を叩かれ、俺は飛び跳ねて驚きながら身体ごと振り向いた。
心臓の鼓動が一気に早くなり、身体全身に血流がドバァっと流れている感覚が伝わる。
「あっごめん、驚かせちゃった?」
そこにいたのは、自転車にまたがって、黄色いリュックサックを背負ったショートボブカットの女性。
俺が驚いたのを見て、申し訳なさそうに手を上げていた。
「えっ、誰?」
「あれっ? もしかして覚えてない?」
その女性は、戸惑うような表情を浮かべて苦笑いする。
だが、どこかで見たことがあるような気がして、俺は記憶の中で思い出す。
すると、とある人物を思い出し、記憶が合致した。
「あっ、吉川さん!」
「やっと思い出してくれた! 忘れられちゃったのかと思ったよー。元気にしてた?」
そうだ、彼女の名前は吉川萌絵さん、あの不思議な女子高生の後を追ってついて行った、ドラッグストアーで出会ったアルバイト店員さんだ。
「はい、元気でしたよ。吉川さんは?」
「私も元気だよ!」
ドラックストアでは、緑のエプロンを身に着けていた印象だったので、私服姿の彼女を見て、ぱっと思い出せなかったらしい。
すると、吉川さんがキョトンと首を傾げて尋ねてくる。
「今帰宅?」
「はい、大学で明日提出の課題やってたら遅くなって」
「そうなんだ。遅い時間までお疲れ様」
「ありがとうございます。吉川さんはバイト終わりですか?」
「そうそう、さっき上がって今帰ってたところ。そしたら、見たことある後姿を見つけたから」
吉川さんがそうにこにこしながら答えてきた。
「そうだったんですね。家こっちの方なんですか?」
「うん、ここの道もう少し進んで左に曲がったところ」
「そうなんですね。じゃあ、結構近いですね」
「本当に? じゃあ、途中まで一緒に帰ろうよ」
吉川さんはそう言いながら、ささっと自転車のサドルから降りて、俺の横へ並び一緒に歩く体制に入った。
「はい、いいですけど、時間大丈夫ですか?」
「え? あぁうん、全然平気だよ。むしろ、この時間帯は男の子が一緒にいてくれた方が心強いし!」
可愛らしい小さな顔を傾けて、ニコっと上目づかいで吉川さんが見つめてくる。
その視線に、一瞬ドキっとしてしまう。さらには、胸元の緩いトレーナーを身につけていたため、チラっと胸元が見えそうになっていた。
俺はとっさに目線を逸らして、一度咳こんでから歩き出す。
吉川さんもニコニコとしながら、一緒に隣に並んで自転車を手で押して歩き出した。
しばし無言で、二人とも会話をすることなく歩いていると、吉川さんがおもむろにズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。
「ちょっとごめんね」
吉川さんは俺のそう断りを入れて足を止め、スマートフォンに目をやった。そして、しばらく指で操作した後、吉川さんの表情が一気に険しいものに変わる。
そして、吉川さんはスマートフォンをの画面を閉じてポケットにしまうと、ふぅっと大きなため息をついた。そして、俺の方に改めて向き直る。
「ごめん、私今から出かけなきゃいけない用事が出来ちゃったから、ここまででいいや。折角誘ったのにごめんね」
吉川さんは申し訳なさそうに俺に謝ってくる。
「えっ、今から出かけるんですか!?」
もう深夜帯の時間だ、のっぴきならない事情があるのだろうか。
俺が心配して吉川さんの表情を窺うと、どこか儚げに憂いを帯びた表情を浮かべていた。
「何かありましたか?」
「ううん、何でもないよ!」
吉川さんはそう言って平静を装うが、俺がじぃっと訝しんで見つめる。吉川さんは少し困ったような表情を浮かべたが、諦めたのか観念したように息を吐いた。
「あははっ……実はね、今お母さんからメッセージが来て、家に帰ってくるなって言われちゃって……」
吉川さんは頭を掻きながらそう言った。
「えっ? 帰ってくるなって、自分の家なのにどういうことですか?」
俺はそう質問を返すと、吉川さんは苦い顔のまま言葉を続ける。
「いつもこんな感じなの。父親がいない木曜日に、いつも母が他の男の人家に連れ込んで、私は外で待機。まあ、もう慣れたんだけどね」
吉川さんは自転車に再び跨りながらそう話してくれた。その表情はどこか遠くを見て悲しい目をしていた。
「吉川さんは、これからどうするんですか?」
「うーん、まあ友達に連絡して泊めてもらうか。最悪漫画喫茶で一泊かなぁ……」
吉川さんの口元は笑っていない。そんな困り果てている吉川さんを見て、居た堪れない気持ちになってしまった俺は、気が付いた時には思わず口走っていた。
「あの……よかったらうちに泊まっていきませんか?」
「えっ……?」
吉川さんは驚いたようにポカンと口を開けている
俺は自分が口走ったことを思い出し、はっ!っと我に返り、とっさに言い訳をした。
「あ、いや。吉川さんが嫌なら別に断っていいですし。その俺たちほとんどプライベートなこと知らないのにこんなこと言っちゃってごめんなさいというか」
「いいの?」
「そうですよね、いいのってことは、うちに泊まって……え?」
俺は我に返って吉川さんを見る。
吉川さんは頬を少し赤らめながら、期待のこもった表情をしていた。
「泊めてくれるの……?」
目をうるうるとさせながら、羨望の眼差しで見つめてきた吉川さんを見て、俺は。
「は、はい……」
と答えることしか出来なかった。
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