上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

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第一章 出会い編

第十六話 呼び方

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 授業は今後の内容や、テストの方法などをさくっと話し終え、二十分程度であっという間に終了してしまった。

 次の時間まで大量の時間が余ってしまったので、俺達は大学の食堂へ向かって早めの昼食を取ることにした。
 四人分の席を確保して、食券コーナーに向かう。メニュー表を見てどれにしようか迷いつつ、日替わりのAランチを発券した。今日のAランチは生姜焼き定食で、ご飯とみそ汁付で、四百円という安さだった。さすが、大学の食堂、学生に優しい値段設定にしてあるなと感心しつつ、俺はおばちゃんに食券を渡す。しばらくしておばちゃんからAランチを受け取って席に戻る。
 
 既に高本たかもと厚木あつぎは席についており、俺と井上いのうえさんの帰りを待ってくれていた。

「ごめん、おまたせ」
「何にしたの?」
「Aランチ」
「あー、俺も迷ったんだよね!」

 厚木のプレートを見ると、Bランチのカルビ丼がトレイの上には載っていた。

「厚木はBランチか。高本は?」
「ん? 私はお弁当。母親が作ってくれた」
「うわー、ずりぃ」
「いやいや、学食おいしそうだし。冷めたお弁当より絶対美味しいじゃん!」
「でも、昼飯代って毎日だと結構金かかるし」

 俺がそんなことをグチグチ言いながら着席すると、井上さんも帰ってきた。

「ごめんね、遅くなっちゃって」
「大丈夫だよ! 井上さんは……ラーメン?」
「うん、普段あんまり麺類って食べないから美味しそうだなと思って……」

 顔を少し赤らめながら、お盆に乗っているラーメンを机に置いた。
 中を覗くと、そこには真っ赤な色をした担々麺が入っていた。スープの中央に盛られたもやしの上には、大量の粉唐辛子がかけられている。

「井上さん大丈夫これ? 相当辛くない?」
「へ、そうかな? 平気だと思うよ?」

 井上さんは全く気にする様子も見せずに、自分の席に座った。
 みんなで「いただきます」の挨拶をして食べ始める。

 井上さんは、丁寧に麺を啜って食べ始めた。表情一つ変えずに黙々とその激辛担々麺を美味しそうに食べていた。

「うん、美味しい……!」

 幸せそうな表情を井上さんは浮かべて微笑んでいる。
 なんか、女の子が麺を啜りながら幸せそうにしている表情を見てると……なんかエロいな。
 そんなしょうもないことを考えていると、ふと向かい側の井上さんと目が合った。

 井上さんはキョトンと不思議そうに俺のことを見つめてきたが、俺はばつが悪くなって、すぐにAランチの生姜焼きにかぶりついた。

 その後も、おしゃべりをしながら食事を楽しんでいると、話題は井上さんの女優活動の話になった。

「へぇ、じゃあロケの時って前泊するんだ」
「うん。だから、地方での撮影とかだと一気に撮影しちゃうこととかが多いから、二週間連続でホテルに泊まって仕事したりとかはあるかな」
「撮影って大変なんだね。ロケだと昼間が多いの?」
「ドラマのシーンによって変わるけど、街中とかテーマパークでのロケとかは日中は厳しいから。どうしても、早朝とか深夜とかの撮影が多くなっちゃうこともあるかな」
「はぇー、それで、撮影終わったら日中は大学でしょ? 寝る時間ないじゃん!」

 三人は興味津々と言ったように、井上さんへ多くの質問を投げかけ、一つ一つ丁寧に井上さんが答えてくれていた。

「そうだね、高校の時とかは、帰って来た次の日は、午前中お休みして、午後から登校して出席日数をなんとか稼いでたって感じ」
「まあ、大学なら自主休校しようと思えばできちゃうし」
「これ、綾香あやかっちを悪の道へ進めるのはやめい」

 厚木の発言に、高本がツッコミを入れる。

「あはは……頑張って出来るだけ授業には出ようとは思ってるんだけど、どうしても仕事の関係上、中々融通効かないものもあって、みんなに頼っちゃうことになるけど、ごめんね」

 井上さんは、申し訳なさそうに手を合わせて平謝りしてくる。

「いやいや、井上さん大変なんだし仕方ないよ。それに、俺たちなんて大体は暇してるから、いつでも頼ってくれて構わないよ」
「ありがとう、そう言ってもらえるとすごく助かるよ」

 俺がそう言うと、井上さんはほっと胸をなでおろして肩の力を抜いた。

「あ、そう。あとね!」

 井上さんは何か思い出したかのように顔を上げて俺と厚木の方を向いたが、すぐに下を向いてしまい、口ごもりながら小声で呟いた。

「そのぉ、呼び方なんだけど……井上さんってなんか他人行儀っぽいから、もう少し詩織しおりちゃんみたいにフランクに呼んでほしいかなって」

 俺と厚木は目をパチクリとさせながら、顔を合わせた。

「確かに……」
「これからも仲良くするわけだし『さん』付けっていうのもな……」

 俺と厚木は顎に手を当てながら呼び方を考える。

「どうしようか? なんか井上って呼び捨てにするのも気が引けるしな」
「そうだな」
「どっかの誰かさんは、私に対しては普通に名字呼び捨てなんですけど」

 高本が不満そうに俺に向かって脹れっ面をしていたが、無視する。

「私は全然それでも構わないよ」

 それを見た井上さんが、手をパタパタと振りながら申し訳なさそうにしていた。

「いや、でもせっかくなら名前で呼んだ方がいいよな?」
「確かにな。じゃあ、綾香で行こう!」
 
 厚木がそう切り出した。

「え? 結局呼び捨て!? しかも名前!?」

 また、高本が突っ込んできたが、華麗にスルーして井上さんに顔を向ける。

「おっけ、じゃあ井上さんのことは、これからは綾香って呼ぶわ!」

 厚木が井上さんにそう宣言する。
 俺も井上さんの方を向くと、急に名前呼びをされて少し驚いている様子だったが、ふと俺と目が合うと、顔を少し赤くして身をよじった。

「そのぉ……よろしく……綾香」

 俺は恥ずかしくて、躊躇《ちゅうちょ》ながらも名前で呼んでみた。
 すると、綾香は少し頬を赤らめながら

「うん、よろしく……」

 と俯きながら、これまたさらに頬を赤らめながらぼそっと呟いた。
 目の前にいるは、下の名前を呼ばれただけで、恥ずかしそうに頬を赤く染めている、ただの可愛らしい年相応の女の子であることを、少し感じされるような一面を垣間見た俺たちなのであった。
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