上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

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第一章 出会い編

第十二話 天使のような女性と入学式

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 俺の機嫌も直り、正門から講堂の一本道を歩いていくと、スーツ姿の集団の列が目の前に形成されていた。どうやら、新入生たちの入場の順番待ちの列らしい。俺たちも、その列の最後尾に並ぶ。

「うわーなにこの列、キモ」
「アトラクションなみに並んでんな」

 厚木あつぎ高本たかもとの二人は、うんざりとしたような表情を浮かべていた。
 やはり、楽しい行事でなければ、列に並ぶことは苦痛でしかなく。しばらくすると、三人とも暇なので、スマホをそれぞれ操作し始めてしまう。
 俺はスマホで通知などをすべて確認し終えて、ふと顔を上げた。
 
 一本道の真ん中に伸びる長い列の左側のテントをふと目をやると、とあるテントに三人ほどのメンバーがビラ配りの準備を終えたのか、テントの下でおしゃべりにきょうじていた。
 俺は、その中の一人の女性に視線が釘づけになる。
 
 少し茶色がかった黒髪、セミロングの髪がウェーブになびいており、くりっとした可愛らしい瞳、ちょこんとした可愛らしいあどけなさが残る顔つきにもかかわらず、にこっと笑っている姿は、可愛らしくもあり、どこか大人の余裕さえも感じられるような笑顔。出ているところは出ており、その美しさと共に見とれてしまうほどの身体のライン。白いワンピースから伸びた、少し肉付きもよくすらっとした足。そして、何といっても隠しきれないあの大きく育った胸! なんと表現すればいいのかわからないが、とにかくものずごい。全体を言いくるめて、一言で言うならば俺のドストライクのタイプ。そう、使が舞い降りたのだ。
 
 俺は、ずっと彼女を見つめたまま、目を離すことが出来なくなってしまった。
 
 やがで、彼女はおしゃべりしていた二人と別れ、テントの前で一人になる。
 すると、その天使は俺が釘づけになっていたことを知っていたかのように、俺の方を向いた。目が合った瞬間、彼女は少し不思議そうにこちらの様子を伺いながら首をかしげていた。

 俺は彼女のひとつひとつの動きを鮮明に目に焼き付ける。そして、目の前にいる天使が、にっこり俺に微笑み掛けてきた瞬間、俺は完全にその使に心を奪われてしまった。
 
 俺がその女性をぼぉっとした目で、ただただ見つめることしかできないでいると、彼女は少し上目遣で、ひょこっと身体を少し斜めに傾けて、キラっという効果音が聞こえるのではないかというほどに、可愛らしいウインクを俺に向けてきた。
 ウインクを終えると、軽く手を俺に向けて振った彼女は、回れ右をして講堂の方へ歩いて行ってしまう。俺はその使が去っていくのを、姿が見えなくなるまで見届ける。

「お、やっと列が動いたな。おい、南? 南!」

 ふと我に返った時には、既に列が動き始めており、厚木に思いっきり肩をたたかれて促されていた。

「どうした、そんなに呆けたように同じ方向を見て?」
「あっ、悪い悪い、なんでもない!」

 俺は名残惜しみつつも、彼女がいた方から顔を逸らして、入学式の会場へと向かって歩き出した。


 ◇


 入学式の会場である講堂に入ると、前列には既に学部ごとの新入生代表者たちが座っていた。その前を、他の入学者たちが歩いていく。

 すると、前列に座っている井上いのうえさんを発見した。井上さんは、座っている姿勢も背筋がピンとまっすぐに伸びており、スーツ姿も様になっていた。

「あ、綾香っちいた。ヤッホー綾香っち」

 高本が小声で声を掛けると、井上さんはこちらに気が付いて、膝の上に置いていた右手を軽く腰の辺りに置いて、口角を上げてニコッと笑顔で手を振ってきた。

 俺たち三人は、手を軽く振り返して、井上さんの前を通り過ぎていく。

 後ろの連中が

「あれ、今の井上綾香いのうえあやかじゃね?」
「ホントだ、マジもんじゃん!」
「俺たちに手振ってたぞ今」
「え? マジで!? ヤバイどうしよう、もしかして俺、井上綾香に目付けられちゃった感じ!?」
 
などと、盛大に勘違いしているのを憐れみつつ、俺たちは井上さんのちょうど真後ろあたり、数えて十列目くらいの場所に着席した。
 
 新入生が全員講堂に入ってくる間。ステージの横では、吹奏楽部の人たちと思われる大学生たちが音楽をかなでており、心地よい演奏が講堂内に響きわたっている。

 しばらくすると、新入生の最後尾が会場内に入ってきたようで列が途切れた。最後尾の人たちが後ろの席に着席すると、吹奏楽部と思われる人たちも演奏をめ、ステージ以外の照明が暗くなる。
 直後に、司会進行の人がステージ端に出てきて、入学式が始まった。
 
 入学式が始まり、開会の言葉から、国歌斉唱、来賓らいひんの方の紹介などを終えて、今は学長のお話になっていた。

「ねぇ……話長くね?」

 左隣に座っていた厚木が、つまらなさそうな声で話しかけてきた。

「確かに、もう十分以上喋ってるよな?」

 俺が小声でそう返すと、今度は右隣にいた高本が声を上げる。

「足しびれてきたんだけど、早く終わってほしい本当に」

 高本は足を延ばしたり足首を回したり、座る体制を変えてみたりと、どうにも落ち着かない様子。俺はそんな高本の姿を見て苦笑しつつ、ステージの方に再び視線を向ける。

 ステージ前の最前列には、ピンっと背筋を伸ばした井上さんが、真面目な様子で学長のお話を聞いるのが後姿でも分かった。右隣の誰かと違って集中力が全然違うなと苦笑いを浮かべていると、ようやく学長の話が終わった。

「はぁ、やっと終わったわ……」

 そうつぶやいたのと同時に、高本がため息をつきながら、女の子とは思えないほどだらしなく足を広げてダラーんと脱力して、一息ついていた。
 高本が井上さんのようなカリスマ女優になるためには、後五十年は必要だなと思いました。


 ◇


 小一時間ほど続いた入学式が無事に終わり、新入生が講堂から退場していく。
 講堂の出入り口を出たところがエントランスになっており、俺たちはそのエントランス内にあった椅子に座ることにした。

「講堂の出口にとどまらずに、新入生の皆さんは正門の方へお進みください」

 新入生に向けて、スタッフが声を張り上げて案内をしていたが、俺達はその案内に従わず、エントランス内にとどまった。この後、井上さんと合流して、一緒に部活動・サークス勧誘を見に行こうという話になっていたのだ。

 俺たちは疲れた様子で椅子へぐったりと座り込み、井上さんが出てくるまで休憩していた。


 しばらく待っていると、トークアプリの通知が届いた。
 みると、井上さんからのメッセージだった。

『ごめん、この後取材対応とかあって時間かかりそうだから、もしよかったら三人で行っちゃって!』

 井上さんから書かれたメッセージを見た俺たちは、「どうする?」と顔を合わせる。

「一応挨拶だけでもしていかない? 多分ここから出てくると思うし」
「そうだな」
「おっけ!」

 俺の提案に二人も賛同し、井上さんに一言挨拶をするため、もうしばし待つことにした。

 退場する新入生の波が収まり、エントランスにいる人も少しずつ減ってきたところで、井上さんを含む学部の代表者と思われる人たちがようやく出口から出てきた。

「お、やっと出てきた」

 高本がいち早く気づいて井上さんに声を掛けようとするが、井上さんはスーツ姿のボディーガードみたいな人たちに囲まれたまま、エントランスから外へと続く出口へと連れて行かれてしまう。

「あれ? どっか行っちゃうよ綾香っち」
「本当だ、追うぞ」
「おう」

 三人は井上さんの後を追いかけて、エントランスを出て部活勧誘が行われている方とは反対方面へと向かった。
すると、そこに待っていたのは、多くのテレビカメラと報道陣の大群。

 井上さんは報道陣の前に立つと、一斉にカメラのフラッシュを浴びて、そのまますぐに報道陣に囲まれて、囲み取材に応じ始めてしまう。

「うわぁ、囲み取材だ。すげぇー」
「囲み取材なんて、俺初めてみた」
「やっぱり、綾香っちってすごいんだね……」

 改めて俺たちは、井上さんは住む世界が違うなんだなということを実感させられる。

「これじゃあ、挨拶も無理そうだね」
「そうだね、仕方ないか」
「メッセ入れておけばいいっしょ」

 俺たちはトークアプリに『入学おめでとう、これからよろしくね!』
 というメッセージを入れて、その場を立ち去ることにした。
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