上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

文字の大きさ
上 下
4 / 56
第一章 出会い編

第四話 引っ越しそば

しおりを挟む
 二つの大きな買い物袋を両手に抱えて、俺と優衣さんはアパートへと戻っていた。

「ごめんね、重くなっちゃって」

 優衣さんが申し訳なさそうに平謝りする。

「いやいや、二人分の調味料とかお米も入ってますし、仕方ないですよ。こっちこそごめんなさい、全部持てなくて」
「いいよ、いいよ、お互いさまってことで!」

 何回もスーパーへ買い物に行くのが面倒だという結論に至り、二人とも一週間分ほどの食料を買い込んだため、かなりの大荷物になってしまった。俺は両手に二つずつ袋を提げていて、優衣さんも片腕ずつに大きな袋を二つ持っている。

 なんとかアパートに到着して階段を上り、一番奥まった場所の角にある俺の部屋の前で、いったん荷物を地べたに下す。
 ふぅっと一息ついて、ポケットから鍵を取りだし、玄関のドアを開けた。

「どうぞ」

 俺は優衣さんを部屋へと上げる。まさか引っ越し2日目にして、しかも、今日会った女性を部屋に招き入れるなんて思っても見なかった。

「お邪魔しまーす」

 大きな二つの袋を抱えながら玄関へと入った優衣さんは、ドサっと食材が入った袋を玄関の床へ置いた。靴をパパっと脱いで、部屋の中へぐいぐい侵入していく。

「わぁ、引っ越してきたばかりなのに大地君の部屋もう片付いてて、すごい! あっ、やっぱり置いてある物が違うと、同じ間取りでもなんか雰囲気違うなー」

 優衣さんの部屋はまだ片付いておらず、見せるのが恥ずかしいということで、俺の部屋で一緒に引っ越しそばを食べることになった。引っ越してまだ二日しか経っていないとはいえ、女の人に自分の部屋を見られるのはやはりどこか気恥ずかしさがある。

「あの……そんなに見ないでください」
「えーいいじゃん別に。あ、何? それとも、見られたら困るものでもあったり?」

からかうように尋ねてくる優衣さんに対して、俺はやんわり否定する。

「いや、それは大丈夫ですけど」

 問題ない、ちゃんと分からない場所に隠してあるし。大丈夫だよね……??
 少し心配になりながらも、俺は買ってきたものを取りだして、仕分ける作業に入った。

「とりあえず、これ麺とつゆです。あとは、俺のやつと、優衣さんのやつ、袋ごとに分けておきますね」
「はーい、ありがとう!」

 部屋の散策を終えた優衣さんが、玄関そばにあるキッチンへ戻ってくる。

「キッチンにあるものは適当に使っていいので」
「おっけー、あとは任といてー」

 そう言って、優衣さんは気合を入れるようにして、スウェットの腕をまくる。
俺は袋の中身を仕分けする作業に専念して、調理は優衣さんに任せることにした。

「ん? あれ、おかしいな…… おーい、大地君ちょっと」

 何か困ったことがあったのだろうか、優衣さんは俺を手招きして呼んできた。
 俺は仕分け作業を中断して、キッチンコンロの前まで向かう。

「どうしました?」
「何回ひねっても火がつかないんだよ。どうしてかな??」
「え? 本当ですか?」

 優衣さんがもう一度ひねってみると、確かにコンロからカチっという音は聞こえるものの、着火はしなかった。

「あれ? ……あっ!」

 しかし、その疑問はすぐに解決した。
 まだ引っ越してきてからコンロを使用していなかったため、ガス栓を閉めたままにしてあったのだ。

「あぁ、ガス栓が閉まったままでした」
「え? ガス栓何それ??」

 優衣さんが、不思議そうにガス栓について尋ねてきた。

「え? あぁ、あのガスが通ってるパイプがあって、そこに元栓ってのがあるんですけど、それを開けないとガスが通ってこないんですよ」
 
俺が丁寧にガス栓について説明しつつ、元栓を開けた。すると、優衣さんは口をぽけーっと開けたまま「へぇー」と目を丸くして頷いた。

「こんなの初めてみたよ」

 えっ、初めて?? 俺は少し驚いた顔で優衣さんを見つめる。
 優衣さんは、焦ったような表情を見せて、手を身体の前でおどおどさせている。

「あ、いやぁ……私の家IHだったから、そういうの見たことがなくて、あはは……」

 両手を胸の辺りで挙げたまま、優衣さんは苦笑いを浮かべていた。
 なんか嫌な予感がするな……俺はそう思い、少し勘繰りを入れてみる。

「でも、家庭科の調理実習とかで習いませんでした?」
「え? そうだっけ……昔のことで忘れちゃったな」

 優衣さんは、表情をほどんど変えずに、頬を無理やり釣り上げているように見える。

「……」

 俺は訝しむ視線で、無言の圧力をかけてみたものの、今日初めて会った人をこんなに疑うのも失礼だと思い、ふっと力を抜いた。それと同時に、優衣さんもほっと息を撫でおろした気がするが、見なかったことにしておこう。

「まあ、これで火使えるので、あとは大丈夫ですよね?」
「え!? あ、うん。大丈夫!」
「じゃあ、あとはよろしくお願いします」
「はーい」

 そして、俺は再び仕分け作業に戻ったが、やはり優衣さんの行動が不自然なため、チラッと様子を確認しながら聞き耳を立てることにした。

「えっと、いつ入れればいいのかなこれは? ん? 火なんか弱いな……こっちに回せば……わぁっ!」

 やっぱりそうだ、俺の嫌な予感は確信に変わっていた。

「なんかすごいブクブクしてるけど……いいや入れちゃえ、えいっ! で、そばってどのくらいゆでるんだろう?? 10分くらい??」

 何やらぶつぶつを言いながら、調理というより理科の実験をしている優衣さんの背後へ、俺はそっと近づいて声を掛けた。

「優衣さん……」
「ひゃい!!」

 優衣さんは気配なく近づいた俺に驚いて、瞬時にくるっと身体ごと後ろを振り返る。
 俺は、じとっとした視線で優衣さんを睨みつける。

「もしかして料理……したことないんですか?」
「えっ? いや、そんなわけないじゃん……あはは」

 俺が問い詰めると、優衣さんは口角を無理やり上げ、半笑いを作りながら、両手を前に出してフリフリしながら否定する。

「したこと……ないんですよね?」

 今度はもっと強く、否定を許さないほどの圧力で押してみる。
 優衣さんは目線を泳がせ、冷や汗をかき右往左往していたが、観念したのか、前に出していた両手を下ろして、ぐったりと力を抜いて俯いた。そして……

「はい」

 と小さな声で、捨てられた子犬のように答えて白状した。





 その後、料理と仕分け係を交代し、なんとかそば作りの手直しをして完成させた。
 多少茹ですぎてしまって、麺が伸びてしまったが、仕方がない。

 優衣さんは、部屋の真ん中に置かれた机の前に座り、ぐったりとうなだれていた。

「ごめんなさい」

 申し訳なさそうに項垂れながら謝ってくる。大分落ち込んでいるようだった。

「いいですよ、別に。まあ、料理できないなら先に言って欲しかったですけど」
「いやぁ、年下の男の子にいいところ見せなきゃと思ってつい……」
「はぁ……」

 俺は大きくため息をついてから完成したそばを机へ運ぶ。

「俺は優衣さんが料理できなくても、別に幻滅しませんし、そんなに見栄を張らなくてもいいですよ」

 優衣さんの前に、完成したそばの片方を置いた。

「まあ麺伸びちゃってますけど、味はおいしいと思うので、一緒に食べましょ」

 俺は、優衣さんとは反対側の方へ座り、箸を手渡した。優衣さんはコクリと頷いて、その箸を受け取った。

「いただきます」
「いただきます」

 ズルズルっとそばをすすって口に入れる。よく噛んで飲みこんだ優衣さんは、しばしの間黙っていたが、やがて俺の方を向き、にっこり笑顔を取り戻し。

「おいしい」

 とつぶやいて、ほっこりとした笑顔を浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

処理中です...