3 / 56
第一章 出会い編
第三話 買い物
しおりを挟む
優衣さんと出会った後、無事に家電などの搬入を済ませ、一通りの家具を定位置に置いて、レイアウトを整えた。
一段落着いたので、俺は部屋の中央に置いてある机の前に座り、テレビのリモコンの電源ボタンをポチっと押す。カチっという音が鳴った後、液晶画面に番組が映った。
映ったテレビでは、丁度ドラマの再放送をやっており、そこには女優の井上綾香が映し出されていた。彼女は、子役時代からテレビ業界で活躍し、今でもドラマやバラエティーに引っ張りだこ。その、透き通った透明感あふれる立ち姿と顔立ち。そして、人の心を掴んだら離さない真っ直ぐな黒い瞳と、しなやかさ溢れる演技力に人々は魅了され、今では日本で知らない人はいないであろう清純派女優である。北の大地出身かつ同い年であったため、勝手に親近感を持っていたが、都内でこのようにテレビに映っている姿を見ると、改めて自分とは住む世界が違う雲の上の存在であることを実感させられる。俺は、彼女の魅力に憑りつかれ、気が付けばドラマの再放送を最後まで見入ってしまった。
我に返り、ふと壁に掛けた時計を見ると、そろそろ夕食の準備をしなくてはいけない時間になっていた。
初めての一人暮らしで、自炊したい気分だったので、近くのスーパーで、食材を調達しに行くことにした。
玄関で靴を履き、ドアを開けて廊下に出ると、丁度優衣さんも隣の部屋から出てきた。部屋着なのだろうか。紺色の上下のスウェットを着て、だらっとした格好をしている。
俺の気配に気が付いた優衣さんと目が合った。
「お? どこかお出かけ?」
「あ、はい。食材全然買ってなかったんで、近くのスーパーに行こうかと」
俺が答えると、優衣さんは目を輝かせながら期待を込めた表情で見つめてくる。
「え、本当に? じゃあ、スーパーの場所とかわかる?」
「はい、わかりますよ」
「よかったぁ……」
優衣さんは安堵した表情で、軽いため息をついて、俺に再び向きなおる。
「私もちょうど食材買いに行こうとしてたんだけど、方向音痴で迷子になっちゃいそうで。その、嫌じゃなかったら一緒にスーパーまで案内してくれると嬉しいかなぁ、なんて……」
優衣さんは「えへへ」と照れ笑いを見せながら俺に頼んできた。
「別に構わないですよ」
「ホント!? ありがとー!」
俺は特に断る理由もなかったので、あっさりと承諾した。優衣さんは俺にペコペコお礼を言いながら頭を下げてきた。
「本当にありがとね。あっ、何かお礼におごってあげるよ!」
「いや、いいですよそんな」
「いいの、私がそうでもしないと気が済まないの! それじゃ、レッツゴー」
優衣さんは俺の元へ駆け寄って来て、手を掴んできた。一瞬何が起きたのか分からなかったが、そのまま優衣さんに手を引かれながら歩みを進める。
全くこの人は……と、心の中で思いつつ、俺は恥ずかしさから顔を赤らめて俯きながら、優衣と一緒にアパートの階段を下りていった。
◇
スーパーに到着し、お互いに買い物かごを手に取り、各々買い物を始めた。キッチン用品は一通り揃えてあるので、あとは米や調味料など料理に必要な基本的なものをかごへ入れていく。
今日は何を作ろうかと悩んでいると、隣から声を掛けられた。
「今日は何作る予定なの??」
急に声を掛けられビクっと身体が反応した。声の元へ顔を向けると、優衣さんが俺のカゴの中身を覗き込むように見ていた。優衣さんの顔がすごく近くにあり、ふわっと優衣さんからいい香りが漂ってきた。俺は瞬時に、身体を半歩のけ反らせる。
「あ、いや特には何も決めてなくて……」
「そうなんだ」
優衣さんは不思議そうな表情で、俺の買い物かごの中身を見ていた。
「料理とかしたことあるの?」
「まあ、両親が共働きで忙しかったので、よく夕飯は作ってましたよ」
「へぇ-」
俺も優衣さんの買い物かごの中身を確認すると、かごの中にはまだ何も入っていなかった。
「あの……買い物しないんですか??」
「えっ!?」
優衣さんは少し身体をびくっとさせて半歩後ずさりし、何かを思い出したかのように手をフリフリしながら答える。
「あっ、いやぁ、夕食何にしようか迷っててさ、大地君と同じものにしよっかなぁと思って」
「なるほど、でも特にこれが食べたいとかなくて……」
どうしようかと考えてると、優衣さんは「はっ!」っと、何かを思い出したように俺に尋ねてきた。
「そうだ! 大地君は、引っ越しそばってもう食べた?」
「え? 引っ越しそばですか?」
そういえばどこかで聞いたことがある。引っ越した日に、そばを食べるといいみたいなことを。でも確か……
「あれって、ご近所とかに配るのが正しいんじゃなかったでしたっけ?」
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない! お互い引っ越してきたばかりだし、渡し合いっこみたいな感じでどう? よかったら一緒に食べない? 引っ越しそば」
予想外な優衣さんからの提案と、彼女の無邪気な笑顔に、俺は気が付いた時には、首を縦に振っていた。そりゃ、こんな綺麗な人に、そんな素敵な笑顔で言われたら頷いちゃいますよ。
「じゃあ、早速そばを買おう!」
優衣さんはそう言って、また俺の手を掴んで無邪気に引いていき、買い物を続けた。
一段落着いたので、俺は部屋の中央に置いてある机の前に座り、テレビのリモコンの電源ボタンをポチっと押す。カチっという音が鳴った後、液晶画面に番組が映った。
映ったテレビでは、丁度ドラマの再放送をやっており、そこには女優の井上綾香が映し出されていた。彼女は、子役時代からテレビ業界で活躍し、今でもドラマやバラエティーに引っ張りだこ。その、透き通った透明感あふれる立ち姿と顔立ち。そして、人の心を掴んだら離さない真っ直ぐな黒い瞳と、しなやかさ溢れる演技力に人々は魅了され、今では日本で知らない人はいないであろう清純派女優である。北の大地出身かつ同い年であったため、勝手に親近感を持っていたが、都内でこのようにテレビに映っている姿を見ると、改めて自分とは住む世界が違う雲の上の存在であることを実感させられる。俺は、彼女の魅力に憑りつかれ、気が付けばドラマの再放送を最後まで見入ってしまった。
我に返り、ふと壁に掛けた時計を見ると、そろそろ夕食の準備をしなくてはいけない時間になっていた。
初めての一人暮らしで、自炊したい気分だったので、近くのスーパーで、食材を調達しに行くことにした。
玄関で靴を履き、ドアを開けて廊下に出ると、丁度優衣さんも隣の部屋から出てきた。部屋着なのだろうか。紺色の上下のスウェットを着て、だらっとした格好をしている。
俺の気配に気が付いた優衣さんと目が合った。
「お? どこかお出かけ?」
「あ、はい。食材全然買ってなかったんで、近くのスーパーに行こうかと」
俺が答えると、優衣さんは目を輝かせながら期待を込めた表情で見つめてくる。
「え、本当に? じゃあ、スーパーの場所とかわかる?」
「はい、わかりますよ」
「よかったぁ……」
優衣さんは安堵した表情で、軽いため息をついて、俺に再び向きなおる。
「私もちょうど食材買いに行こうとしてたんだけど、方向音痴で迷子になっちゃいそうで。その、嫌じゃなかったら一緒にスーパーまで案内してくれると嬉しいかなぁ、なんて……」
優衣さんは「えへへ」と照れ笑いを見せながら俺に頼んできた。
「別に構わないですよ」
「ホント!? ありがとー!」
俺は特に断る理由もなかったので、あっさりと承諾した。優衣さんは俺にペコペコお礼を言いながら頭を下げてきた。
「本当にありがとね。あっ、何かお礼におごってあげるよ!」
「いや、いいですよそんな」
「いいの、私がそうでもしないと気が済まないの! それじゃ、レッツゴー」
優衣さんは俺の元へ駆け寄って来て、手を掴んできた。一瞬何が起きたのか分からなかったが、そのまま優衣さんに手を引かれながら歩みを進める。
全くこの人は……と、心の中で思いつつ、俺は恥ずかしさから顔を赤らめて俯きながら、優衣と一緒にアパートの階段を下りていった。
◇
スーパーに到着し、お互いに買い物かごを手に取り、各々買い物を始めた。キッチン用品は一通り揃えてあるので、あとは米や調味料など料理に必要な基本的なものをかごへ入れていく。
今日は何を作ろうかと悩んでいると、隣から声を掛けられた。
「今日は何作る予定なの??」
急に声を掛けられビクっと身体が反応した。声の元へ顔を向けると、優衣さんが俺のカゴの中身を覗き込むように見ていた。優衣さんの顔がすごく近くにあり、ふわっと優衣さんからいい香りが漂ってきた。俺は瞬時に、身体を半歩のけ反らせる。
「あ、いや特には何も決めてなくて……」
「そうなんだ」
優衣さんは不思議そうな表情で、俺の買い物かごの中身を見ていた。
「料理とかしたことあるの?」
「まあ、両親が共働きで忙しかったので、よく夕飯は作ってましたよ」
「へぇ-」
俺も優衣さんの買い物かごの中身を確認すると、かごの中にはまだ何も入っていなかった。
「あの……買い物しないんですか??」
「えっ!?」
優衣さんは少し身体をびくっとさせて半歩後ずさりし、何かを思い出したかのように手をフリフリしながら答える。
「あっ、いやぁ、夕食何にしようか迷っててさ、大地君と同じものにしよっかなぁと思って」
「なるほど、でも特にこれが食べたいとかなくて……」
どうしようかと考えてると、優衣さんは「はっ!」っと、何かを思い出したように俺に尋ねてきた。
「そうだ! 大地君は、引っ越しそばってもう食べた?」
「え? 引っ越しそばですか?」
そういえばどこかで聞いたことがある。引っ越した日に、そばを食べるといいみたいなことを。でも確か……
「あれって、ご近所とかに配るのが正しいんじゃなかったでしたっけ?」
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない! お互い引っ越してきたばかりだし、渡し合いっこみたいな感じでどう? よかったら一緒に食べない? 引っ越しそば」
予想外な優衣さんからの提案と、彼女の無邪気な笑顔に、俺は気が付いた時には、首を縦に振っていた。そりゃ、こんな綺麗な人に、そんな素敵な笑顔で言われたら頷いちゃいますよ。
「じゃあ、早速そばを買おう!」
優衣さんはそう言って、また俺の手を掴んで無邪気に引いていき、買い物を続けた。
10
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした
恋狸
青春
特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。
しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?
さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?
主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!
小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
カクヨムにて、月間3位

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜
青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。
彼には美少女の幼馴染がいる。
それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。
学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。
これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。
毎日更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる