厄病神の成り損ない

むらびっと

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2話

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ややや厄病神ぃぃぃぃ!?何故!?毎日を粛々と過ごしているだけの平均的一般オタク女性の私の目の前に何故……!?

 「頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!木村さん!」

 「いや、いやいやいや!そんなんがんばられても……!」

 「いえ!頑張らせてください!あなたを不幸のどん底に叩き貶めて差し上げます!」

 少女は目をキラキラさせながら意気込んでいる。

 やめてくれそんな期待に胸を弾ませるような目……!ただでさえ心晴ない生活を送っているというのに……私は人生で悪いことなんてタダのひとつも……してないとは言えないけどここまで言われるようなことはしていない……はず……え、そもそもこれ現実……?これってもしかして私が酔って変な妄想や夢に取り憑かれて………

 「そうだ……夢だ……」

 「え?」

 私はうわ言のようにそう呟くとフラフラと台所へ向かう。それを不思議そうに見ながら少女は後をついてくる。私は冷蔵庫を開け、500ミリリットルの缶ビールを取り出す。

 「木村さん?」

 プシュッという音を立ててビールのプルタブを開け、一気にそれを胃に流し込んだ。

 「わわわ!!木村さん!?それお酒ですよね!?ジュースじゃないですよね!?そんなに一気に飲んで良いんですか!?」

 「っくー!!悪い夢の中でも酒に限る!」

 私は早々に飲み終え、いつもの癖で缶を潰し、ゴミ袋へ放り投げた。そしてスタスタとベッドへ向かい、布団をかぶり床に就く。

 「悪いねお嬢ちゃん!多忙で厳しい現代社会を生き抜く喪女はこんな夢に付き合ってられないから!おやすみ!」

 「えー!?寝ちゃうんですか!?ワタクシまだちゃんとした自己紹介も済んでないのに~!!」

 少女の泣き言が聞こえてきたが無視することにした。

 これは夢、これは夢!夢の中で寝るってのも意味不明すぎるけどとりあえず寝て起きれば元通り!

 頭の中でそう唱え続けると少しずつ酔いが周り、思ったよりも早く意識は遠のいて言った。

 ******

 朝起きてみて少女は………まあ、普通に居た。
 
 それはそうだ。この展開はどこの漫画でもおなじみだから知ってはいた。悪い夢の中でもっかい眠って全ては元通りになるだなんてそんなあるわけないというあるあるネタを実行するなど自分はかなり浅はかなオタクであると痛感する。

 シャコシャコと音を刻みながら歯を磨いている私の横でうるうると目を潤ませながら自称厄病神の少女は私を見ている。きっと先程から私が無視していることに嘆いているのだろう。私だって別にこんな小さな子を泣かせたいわけではないのだが……。

 仕方ないなぁ……

 うがいを済ませると私は八畳一間の部屋に戻り、自分専用の座椅子に腰掛ける。一応少女用に来客用座布団を敷いてあげた。だが、少女はなんの事やら分かっていない様子である。

 「ほら、座りなよ」

 「え!いいのですか!?ということは……」

 「いいよ、話聞いたげる」

 少女の顔がみるみる明るくなる。

 「し、失礼致します……!」

 少女はほとんど使用されたことの無い新品同様の座布団に行儀よく座る。

 「それで、あなたはうちになんの御用で来たわけ?」

 「はい!ワタクシ天界所属下級神育成学校在学中の厄病神と申します!ここにはその学校から派遣されて参りました!」

 ビシッと敬礼のポーズをとり、少女は元気いっぱいに答えた。
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