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15. 腐女子、医療師と対峙する
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「……っ、リアム……リアム……っ!!!」
胸の奥から嗚咽が込み上げ、溢れる涙で溺れそうになりながら、俺はよろよろと歩み寄り、まだ温かいリアムの体に縋った。
と。
「──シル、ヴァ……」
死んだはずのリアムが、俺の名前を呼んだ。
俺の口が、ポカンと開いた。
それから、改めて目の前のリアムを見やった。
ラチカの膝枕で横になっていたリアムが、僅かに顔を上げ、俺に向かって苦しげに小さく微笑んだ。
「……よお。時授かり」
「……時、授かり……」
茫漠と、挨拶を繰り返し、俺はまだぽたぽたと滴る涙を垂れ流しにしながら、リアムの体に意識を向けた。すぐに、血液が勢いよく巡っていることを感知し、俺は息を呑んだ。
……生きてる! え? いや、ちょっと待って。さっきは、確かに……緩やかだけど、止まって……俺の勘違い? 早とちり? だけど、俺は、ちゃんと……。
俺は慌ててリアムの首元に手を触れた。動揺しすぎていて、なかなかわからなかったが、試行錯誤の末、俺はリアムが現在進行形で脈打っていることを確かめた。よく見ると、胸が、呼吸でゆったりと上下している。俺が手を握ると、リアムはきゅっと軽く握り返してくれた。
「っ────────!!!」
嬉しい!!! 生きてる!!! 生きてる!!! 俺の勘違いでも早とちりでも、何でもいい!!! リアムが生きている!!! 本当に、ただただとにかく嬉しくて、嬉しくて、本当に嬉しい!!!
「……リアム……っ。生きてる……生きてる……っ」
勘違いして恥ずかしいとかは、微塵も思い浮かばなかった。勘違いでよかったと、俺は今度は嬉し涙を滂沱しながら、心の底から感謝した。けれど。
小さく苦笑し、リアムは言った。
「……まあ、正確には生き返った……だけどな」
「──生き、返った……?」
「ああ」
再び、茫漠と繰り返した俺に、リアムは深々と嘆息した。
「俺はさっき死んだ。けど、生き返った。多分……いや、まず間違いなく、俺を呼び戻したのはあいつだ」
「……………………ラチカ?」
「ちっげえよ! あいつ……水のカノンだ。俺もまだ、ちょっと信じられねえけどな」
俺は瞬きを一つし、それから腹の底から叫んだ。
「──はあ? そんなわけねえだろ! 一度死んだってんなら、それはあいつが殺したからだ! 何でわざわざ、またすぐ生き返らせるんだよ? 意味わかんねえだろ!」
「あいつの本意じゃなかったからだよ。俺が死んだのは」
滂沱したり激昂したりといつになく不安定な俺とは相反し、当事者のリアムは至って淡々と告げた。
「俺は多分、あいつの姿が目に入った瞬間、無意識に、反射的に、認識操作から逃れようとした。けど、あいつの力は圧倒的だ。俺は恐らくショック死だろう。推測でしかないが、あいつに抵抗しようとしなければ、そもそも俺が死ぬことはなかった」
俺は、息を呑んだ。
「……俺が、リアムに余計なことを話したから……」
「バッカ! お前のせいなわけあるか!」
ぎゅっと、痛いほど俺の手を握り締め、リアムは喚いた。
「いいか! 俺が死んだのは、俺がちょっとばかし優秀過ぎたせいだ! 例えお前らから話を聞いていたとしても、俺が凡人だったら、抵抗も何もなく、ただただ今朝みたいにへらへら認識操作されて終わりだったんだよ! だから! 断じてお前らのせいじゃねえ! 俺が! 滅茶苦茶優秀だったからだ! わかったか!」
俺は、闇堕ちしかけていた自分の魂が、リアムの言葉によって、温かい光に包まれた気がした。潤んだ瞳で瞬きを一つし、鼻を啜りながら、涙が落ちないように何とか苦笑した。
「……さすが、リアムだな。優秀過ぎてショック死するとか、初めて聞いた。けど……」
堪え切れずに嗚咽を漏らすと、俺は懸命に笑顔を作りながら言った。
「リアムが生き返ってくれて、よかった……本当に、本当に、よかった……っ」
結局、またぽろぽろと涙をこぼしてしまった俺の頭をそっと撫でながら、リアムがくすくす笑った。
「まったく、お前、実は結構泣き虫だったんだな。そんなに泣いてたら、いい加減、目玉が落ちちまうぞ」
「リアムが! 俺を心配させるからだろ!」
「うん……ごめんな。それと、ありがとう。俺のために泣いてくれて」
「もう……二度とごめんだからな」
「……ああ」
ぐしぐしと乱暴に涙を拭い、俺は改めて口を開いた。
「……けど、本当にリアムを生き返らせたのはあいつなのか? そもそも、いつだよ? そんな暇あったか?」
「俺が息を吹き返したとき、お前は水のカノンの前で座り込んでいた。多分、あいつにとっちゃ造作もないことなんだろうよ。俺も肉体的な要因で死んだわけじゃなかったし。取り敢えず、ラチカがすぐに気づいてくれて助かった。俺もさすがに混乱してたし……ありがとな」
ラチカは少し驚いたように目を見開いたあと、ちょっと照れ臭そうに微笑んだ。
「……おう」
「っていうか……ちょっと待て。さっきから普通に聞き流してたけど、リアム、水のカノンこと、ちゃんと認識して……?」
ハッとして俺が口を挟むと、リアムが嘆息するように頷いた。
「ああ、一度死んだせいなのか、俺を生き返らせたのがあいつだったからか、もしくは俺をまたすぐ死なせないようにするためか。理由はわかんねえけど、少なくともさっきのことはちゃんと覚えてる。水の民の姿をした、カノンにそっくりな奴が、俺たちを羽虫呼ばわりしてた。お前らが言ってた通りだ。それと、多分……他にも何かいろいろ、思い出せそうな気がする。ただ、今は、ちょっと、すごく、眠くて……無理……」
喋りながらうつらうつらし始めたリアムを見ると、俺とラチカはちらりと視線を交わした。ラチカがそっと口を開く。
「リアム、今は少し眠れ。ちゃんと医務室に運んでやるから安心しろ」
「……ははっ。まるで、さっきの、シルヴァみたい、だな……」
「ああ、まったくだ」
「……んじゃ、悪いけど、頼む……」
ことん、とそのまま眠りに落ちたリアムの髪を優しく撫で、俺は安らかなその寝息にしばらく耳を立てた。
……大丈夫。今度こそ、本当に眠っているだけだ。ちゃんと、リアムはまた目を覚ます。
穏やかなリアムの寝顔から目を離せないまま、俺が不安と戦っていると、ラチカが静かに尋ねた。
「──シルヴァ。お前はどうする? 医務室で、リアムのそばについてるか? さすがにサ-シャ……あの養護師の奴も今のお前に絡んだりはしないはずだ。性格はいろいろアレだが、一応、医者としての腕はいい。状況的に、やっていいことと悪いことの判断もできる奴だ。俺が保証する。俺は、パユを迎えに行かないといけない。恐らくだが、リアムを生き返らせたのが水のカノンなら、今すぐまたお前らに危害を加えるようなこともしないはずだ。どうする?」
俺は、反射的に触れていたリアムの手をぎゅっと握りしめた。唇をきつく引き結ぶ。
ラチカはその俺の様子を見て取ると、どこか淋しげに、けれど優しく微笑んだ。
「……わかった。じゃあ、医務室までは俺が運んでいくから安心しろ。サ-シャにも俺が話をする。お前はリアムのそばにいてやってくれ」
「……いや、違う」
「え?」
リアムの手をきつく握り締め、少し、泣き出しそうになりながら、それでも俺はきっぱりと言った。
「──俺は、ラチカと一緒に行く。そこは変わらない」
「だけど……」
「俺は、リアムのそばを離れたくない。本当は、まだ怖い。リアムが心配で、心配で、堪らない。ちゃんと、リアムが生きていると、片時も離れず確かめていたい。本当は、ラチカにどうするか聞かれたとき、すごく……すごく迷った。リアムのそばにいたい。強く、そう思った。けど……俺は、ラチカと行く。無理はしているけど、意地を張っているわけじゃない。この決断を後悔する可能性もある。でも、俺は自分が安心するためだけにリアムのそばにいるより、一度冷静になって、ラチカとこれからの相談をしたい。そのほうが、リアムのためにもなると、俺は信じたい」
「……シルヴァ……」
目を見開いたあと、ラチカは嘆息するように苦笑した。
「わかったよ。お前はそういう奴だったよな。……尊敬する」
「……へ?」
唐突に耳に入った言葉に、俺は驚きの余り硬直し、息が止まった。聞き間違い、ではない。けど……今の話の流れ的に、あまりにも似つかわしくない評価だ。胸元にひんやりとした刃を抱いているような感覚とともに、俺は瞬きもせず、目の前の友人に淡々と畳み掛けた。
「……いや、待て。違うだろ。冷たい奴だとか……思わないのか? 俺はさっき、お前ら二人にそばにいてもらった。本当に、すごく嬉しかった。それなのに、俺は生き返ったばかりのリアムのそばを離れると言った。たった一人、医務室に置いていくと。俺は自分勝手で、本当にひどい奴だ」
「そうかもな。けど、俺はそんなお前を尊敬する。多分、リアムも俺に同意するはずだ。お前はすごい奴だってな」
「っ、そんなわけ……」
「感情で動くのは簡単だ。誰だって、楽なほうを選びたくなる。けど、お前は自分を律する強さがある。リスクを背負う覚悟もな。それは誇っていいことだ」
顔が、みるみるうちに紅潮するのが、自分でも目に見えるかのようだった。
「なっ……何を言って……」
俺が口をパクパクさせて喘いでいると、ラチカがおかしそうに笑いだした。
「お前、いつも平気で自画自賛する割に、他人から褒められるの、意外と慣れてないよな」
「ちょっ……からかっ……?」
「からかってなんかねえよ。俺は本気でお前を尊敬してる。情にもろいのに、情に流されない。お前の判断が正しいかなんて、誰にもわからない。けど、俺はお前の意志を尊重する。とにかく今は、リアムを医務室に連れて行かないとな」
「……あ、ああ」
何やら重大な告白をされた気もするが、当のラチカはさらりと立ち上がると、リアムを背負い、医務室に向かって歩き出した。俺は現実感を取り戻せないまま、ラチカの後をふわふわと追ったのだった。
*
「……リアムのこと、本当に、本当に、よろしくお願いします」
胸に手を当て、俺が深々と頭を下げると、医務室の養護師、サーシャはいい加減面倒臭そうにしっしっと邪険に手を振った。
「わぁかったから! さっさと行け! 食堂で待ち合わせしてるんだろうが!」
「はい! ありがとうございます!」
俺が笑顔を向けると、サーシャはこれ見よがしに顔をしかめてみせたが、先程とは違い、全く不愉快に感じなかった。確かに性格はいろいろアレだが、医者としての能力の高さは相当なものだ。
もっとも、俺たちが医務室に戻った瞬間は、サーシャも仏頂面で今にも嫌味をぶちまけそうな雰囲気だったが、リアムを背負ったラチカと、新しい涙の痕がまだ色濃く残る俺の顔を見ると、黙ってベッドに案内してくれた。そしてさっきまで俺が寝ていたベッドに、今度はリアムを横たわらせると、言った。
「────こいつ、一度死んだ? 今は寝てるだけみたいだけど」
俺たちはまだ、何一つ説明らしきことは口にしていないのに、だ。水のカノンのように、俺たちの心を読んだのかと、一瞬勘繰った。けれどすぐ、そうではないことがわかった。
サーシャはリアムに触れもせず、服をくつろげることもなく、ただ眇めた目でしばらく全身を眺めると、淡々と呟いた。
「ほんの僅かな時間だが、血流が止まっていただろう。血液中の酸素濃度に、極端なばらつきがある。息を吹き返して、そんなに時間が経ってないからか。心臓にも、急激な負荷がかかった形跡があるな。この一面の打撲は……勢いよく床に倒れたかなんかで、内出血したのか。転倒時に、回避行動をとってない。致命傷ではないし、それ以外に大した損傷はないな。毒物も感じられない。とすると……恐らく精神的ショック死か。こいつが息を吹き返した経緯は?」
「え、あ……いや、何か、こう……」
僅かな視診のみで正確に言い当てるサーシャに圧倒され、ラチカがギクリと言いよどむ。俺も同様にひどく慌ててしまったが、ラチカが稼いでくれた一瞬の間で何とか立て直し、口を開いた。
「し……心臓マッサージを! す、少しだけ……」
実際、水のカノンがどうやったのかなんて知りようもないし、わかったとしても恐らく他の誰にも真似できないから、説明しても仕方ない。あまり詳細に嘘をつくとサーシャに見抜かれる危険性があるけど、息を吹き返すきっかけが全くないのも、やはり変に思われるだろう。
ドギマギしている俺に、サーシャのねめつけるような視線が突き刺さった。地を這うような声が、耳に響く。
「──お前、自分の名前は忘れてるくせに、何でそんなこと知ってんの?」
「あ、いや、えと……さっきは、本当にすみませんでした。俺の名前はシルヴァです。母が、村で、医者をしていて、それで、ちょっと、聞いたことが……」
本当は、ない。そもそも母は医療技術に関することは一切教えてくれなかったし、仕事の話すらしない。俺が医者の身内だからって、重篤な患者の緊急処置をしている現場に居合わせる機会も普通にない。年齢的に看護師の真似事を任されることもなく、大体、診療所に入ったことすらあまりない。
何より、テレビやネットでいつでも気軽に医療ドラマが見られる環境でもなく、簡単な救急処置の知識すら全く普及していないこの世界において、本来ならそこらの子供が心肺蘇生法を知るはずがなければ、当然そんな発想すらない。
が。母のおかげで話の筋が通り、サ-シャから俺に向けられていた異物を探るような眼差しが、真っ当な好奇心へと少しだけ変化した。
「……医者? 村って、どこの?」
「あ……えと、サンバル地方の、小さな村で……ただ、母は昔、水の宮殿の館にいたとかで……」
ハッと顔色を変えたサーシャの腕にある、青いガラスの嵌まった白い革バンドを指し、俺は続けた。
「同じバンドを、母もいつも身に着けていました」
瞬間、サーシャの瞳に宿った危険な光に、俺は肝を冷やした。
「……これと、全く同じバンドか? ただの、白いバンドじゃなくて?」
「……は、はい……。それと同じように、大きな青いガラスの嵌まった白いバンドです……」
母について話したことを、早速も強く後悔する。けど、もはや流れ的に話さないわけにはいかなかったし、サーシャがこんな反応をするとも予想できなかった。ハラハラしている俺とは裏腹に、サーシャの中では割とすぐ折り合いがついたのか、意外とあっさりその鋭い眼差しは引っ込められた。チャラっとした口調で手をひらりと振る。
「……へえぇ、あっそ。けど、素人が生半可に命を弄ぶのはやめときな。ま、今回は緊急事態だったし、たまたま上手くいったのは幸運だった。褒めてやるよ。お前の友人はそのおかげで助かった。とはいえ、くれぐれも調子に乗るなよ。しばくぞ」
最後、地を這うような声で眼光鋭く睨まれ、俺は直立不動になった。
「は……はい!」
相変わらず情緒不安定でヒヤヒヤするが、取り敢えずサーシャも納得したようだし、一応の危機は脱したみたいだ。俺はほっと息をついた。
と、思いきや。
「それでぇ? こいつを殺したのって、誰? こいつ闇の民なのに、濃厚な水の気配が残ってる。犯人はお前か?」
ふわふわした口調のくせに、サーシャの人差し指が、じっちゃんの名にかけて謎をすべて解く某名探偵のように、ビシリと俺に向けられた。
「へあっ? いやっ、違っ……!」
ぎょっとして身を竦めた俺に、サーシャがへらっと笑って言う。
「まあ、そうだよな。確かにお前の軽薄な水の匂いからして、どんなに頑張ってもこんな深い痕跡を残せないことはわかる」
この……っ、クソ医者、いろいろな意味で腹が立つ!!! 確かに俺の能力はマジで大したことないけど!!! わざわざ似て非なる言い回しで煽ってくるとか、もうほんっとやり口がクソだな!!!
ぎりっと唇を噛みしめた俺は、けれどすぐその怒りを無理やり手放した。そう……俺はこんなクズの詭弁になど振り回されてやらない。今こそ俺は涅槃に入る……いや、駄目だ、それじゃ死ぬ。そうじゃなくて、悟り、悟りを開くんだ、俺……!!!
何とか菩薩のような微笑みを貼りつけた瞬間、サーシャが俺の顔を間近から覗き込んだ。地を這うような声で、低く唸る。
「──けど、ものすっごく薄いのに、お前の気配と何か似てる。一体何があった? 知っていることを全部吐き出せ」
「……あ、いや、えっと……」
もうヤダ。ホントこの人怖い。
半ば本気で涙目になった俺の視界を遮るように、ラチカが素早く立ち塞がった。
「サーシャ、いい加減にしろ。怒るぞ」
静かな、淡々とした声音。ちらりと見上げた横顔も穏やかで、怒気の欠片も感じられない。けれどその揺るぎないラチカの眼差しを受け取ると、サーシャはすぐに脅すような表情を引っ込め、軽く肩を竦めてみせた。
「ハイハイ、本気になるなって。ちょっとした冗談だろ?」
「嘘つけ。お前が冗談を言うところなんて、俺は一度も見たことがない」
一瞬、恐ろしいほど空白の眼差しをぐるりとラチカに投げ、けれど瞬き一つで、サーシャは何事もなかったかのようにチャラっと笑ってみせた。
「いや~あ。隠しても隠し切れない、僕の真面目な心根がラチカには駄々漏れになっちゃうんだねぇ。そんなことまでわかっちゃうなんて、これはやっぱ僕への深い愛、かなっ」
「どうでもいい。何があったかは、俺が説明する」
そしてラチカは、事前に俺と相談して決めておいた一連の流れを口にした。
「医務室を出たあと、俺たちは中庭でお前の悪口を言い合い、しばらくしてから水場に向かった。汗もかいたし、食堂で庭師の二人と落ち合う前に、身支度を整えようと思ってな。けど、水場を出て食堂に向かおうとしたとき、廊下で急にリアムが倒れた。少しして、リアムが息をしてないことに気づいて俺たちは慌てたけど、シルヴァが突然、両手でリアムの胸を押し始めた。多分、そんなに長い時間じゃなかったはずだ。それから不意に、リアムが息を吹き返したのがわかって、少し落ち着いてから、俺が背負ってここまで運んできた。何か質問はあるか?」
サーシャはじっとラチカの話に耳を傾けているようだったけれど、その感情の見えない眼差しは正直、変に威嚇されているときよりずっと怖かった。
「……へえぇ……あっそ。なるほどねぇ。大体の事情はわかった。取り敢えず彼の身柄は責任を持ってこちらで預かる。それからそっちのおチビちゃん……えーっと、何だっけ。名前を思い出せないキミ、おとなしくしてるんなら、彼に付き添っていても構わないが、どうする?」
「……俺は、ラチカと一緒にパユの迎えに行きます。だから……」
「それは! 随分と冷たいんだねえ! この彼はさっき、眠っている君のそばでずぅっと心配そうについていていたというのに!」
悔しいけれど、それについては何も言い返せない。ぐっと唇を噛みしめた俺を庇うように、ラチカが再び身を乗り出した。
「サーシャ、いい加減にしろとさっきも……」
ラチカの硬い声を制するように、俺はその腕に軽く触れた。
「待て。ラチカ」
「シルヴァ……」
物言いたげな眼差しに小さく頷き返し、俺は改めて目の前のサーシャを見上げた。こいつはすごく頭が良くて、それ以上に性格が悪い。けど、医者であることに誇りを持ち、その腕に計り知れないほどの自負を持っている。だから──。
あたかも魔王のように立ちはだかる医務室の養護師の前で、俺は恭しく右手を胸に当て、深々と頭を垂れた。
「──サーシャ。先程は本当に申し訳ありませんでした。取り消すことのできない非礼の数々、心よりお詫びいたします。どうか、年端もいかぬ者の浅はかな言動をお許しください」
「……………………」
ただただ静かに俺を注視しているサーシャが、逆に恐ろしい。が、俺は構わず本心からの言葉を続けた。
「そして、あなたの言う通り、俺は冷たい人間だ。例え何もできなくても、大切な友人が本当に心配なら、ずっとそばについているべきだ。けど、俺はそうしない。その代わり、俺はあなたを信じます」
手は胸に当てたまま、顔を上げ、俺はサーシャの青い瞳をまっすぐ見つめた。
「俺は、あなたの医者としての能力、そして矜持を信じます。サーシャ、あなたは決して患者を見捨てない。何があっても、必ずその命を守る選択肢を取る。あなたの腕にあるその白いバンド、そこで輝く深い青は、世界でも数えるほどしかいない最高峰の医療師の証。仮にその患者があなたに盾突いた不愉快なガキで、俺のように得体の知れない反抗的な友人に託されたのだとしても、医者としてあなた以上の適任はここに存在しない。俺は自分の命にも等しい友人を、あなたに預けます。だから、サーシャ……どうぞ、リアムのことを、よろしくお願いします」
改めて、深々と頭を下げた俺を見ると、数少ない世界最高峰の医療師はチッと舌打ちし、イライラと面倒くさそうに手を振った。
「あ~、もう、わかった。ホンット、マジで気持ちの悪いガキだな、お前。いつか必ず解剖して、隅々までてめえの秘密を暴いてやる」
「おや。俺の献体をご希望ですか? 申し訳ありませんが、そういう話は母を通してください。そんなことより、リアムについて質問が。今現在、リアムは命に別状はないんですね? 急変する危険性はどれくらいあるんですか?」
矢継ぎ早に繰り出された俺の問いに、サーシャはやれやれと大仰に嘆息してみせた。
「今現在、こいつは命に別状はない。ちょっとした打ち身があるだけで、ただ眠っているだけだ。原因は疲労、恐らく能力を過剰に酷使した結果だ。急変する危険性については不明。そもそも一時的とはいえ、急死した理由がわからないんだからな。またいきなり死ぬ可能性はある。そうだろ?」
じっと探るような視線をまっすぐ受け止めつつも、俺は揺るぎない眼差しで頷いた。
本来なら、リアムの命を預ける以上、水のカノンについて話をするべきなのだろう。けれど、それではサ-シャの身を危険に晒してしまうかもしれない。ラチカによると、サーシャは光のカノンのことをよく知っているらしいし、何より能力がずば抜けて高い。リアムと同じように、水のカノンを前にしたとき、無意識に認識操作から逃れようとしてしまう可能性がある。その場合、サーシャのショック死は免れないが、水のカノンがまた生き返らせてくれるかどうかは全くわからない。
結局、俺とラチカは当初の予定通り、サーシャには何も告げることなく、リアムを医務室に託して廊下に出た。食堂に向かって黙々と歩きながら、これまでのこと、これからのことについて思案に耽っていると、不意にラチカが口を開いた。
「……シルヴァ」
「ん? 何だ?」
俺がちらりと視線を向けると、ラチカはどこか消沈したように眼差しを落とした。
「……さっきは、その……悪かった。お前を、ちゃんと守れなくて」
「へ?」
……え、何? 何のこと?
パチパチと瞬きを繰り返す俺に、ラチカは少し言いにくそうに続けた。
「だから、その……サーシャのことだよ。まさか、いくらあいつでも、お前にあそこまで言うなんて、思ってなくて。本気じゃなかったとしても、まるで、犯人みたいな言い方……すごく、嫌な思いをさせたよな。……本当にごめん」
「ああ! まあ、あれはさすがにちょっと驚いたけど。もともとサーシャの感じが悪いのは承知のうえだし、何よりラチカのせいじゃないしな! 気にするな」
「けど……」
「それに、俺はちゃんとラチカに守ってもらったし。さっきのラチカ、すごく格好良かった。泣きそうな俺の前に、颯爽と現れて! 危うく惚れてしまうところだったぞ。何かこう、伝説に出てくる、貴族の令嬢を守る騎士みたいというか!」
実の兄よりお兄ちゃんぽかった! という言葉を何とか呑み込み、俺は微笑んだ。以前、うっかり口を滑らせたら、案の定、不機嫌になってしまったNGワードだからな。今回の例えは大丈夫だろうかと俺が内心ハラハラしていると、ラチカは呆けた顔でポカンとしたあと、みるみるうちに首まで真っ赤に染まった。
「え……」
と、びっくりしている俺の前で、ラチカは頭を抱え込むように勢いよくその場にしゃがみ込んだ。
「ちょっ……ラチカ? どう……えっと、大丈夫か?」
恐る恐る近づこうとした俺を、顔も上げずにラチカが手で制する。
「待て! ちょっと、まだ、来るな……」
「お、おう……わかった」
取り敢えずラチカが落ち着くまで、俺はその場で待機した。
しばらくすると、ラチカは関節を軋ませ、ぎこちない動きで立ち上がった。まだ、顔は伏せたままだが、首筋がほんのりと赤い。ラチカは片手で顔を覆うようにしながら、反対の手で俺を指して言った。
「お前、ホント、マジで、そういうことをさらっと言うのやめろ! 考えなしにも程がある! 特に、誰彼構わずってのが、本当に始末が悪い!」
「え……あ、いや……あの……サッセン」
別に、俺としては考えなしでも、誰彼構わずでもないのだが、ここでそれを口にしても事態が泥沼化するのは目に見えている。今はこの場を収めるため、俺が大人の対応をしようではなぁいか。
の、はずだったが。
「……おい、お前、シルヴァ。不服そうな面してんじゃねえ! 文句があるなら言ってみろ!」
……うん。だって不服だからね。けど、文句は言わない。今はそんな暇ないしね。
俺は大きく息を吸い、すっぱり気持ちを切り替えると、きっぱり言い放った。
「確かに、お前に反論したいことはある。だが、それは後にしよう。すでに俺のせいでエクトルとトピアス、何よりパユを待たせている。俺は二人と合流する前にもう一度水場で手を洗って、食堂で糖分を補給したい。だから行くぞ」
「……くそ。わかったよ」
ご不満そうな面持ちながらも、ラチカはしぶしぶ口を噤み、俺の隣を歩き出した。俺はそんな友人の仏頂面にちらりと目をやり、だがまあ満更でもない気持ちが溢れてしまうのを隠すように、唇をきゅっと引き結んだ。ともすると、ゆるゆるに解けてしまうのを、何とかとどめるように。
──ありがとうな、ラチカ。俺を大切に想ってくれて。こんな素晴らしい友がいるなんて、俺は本当に果報者だ。ここが俺の居場所なのだと、心から実感する。
そして、そんな友人たちを二度と、一人として失わないためにも、何とかしなくては。俺は必ず、光の民である本物のカノンを取り戻し、世界の崩壊を防ぐ! 俺たちの戦いはこれからだ!
…………未完。
胸の奥から嗚咽が込み上げ、溢れる涙で溺れそうになりながら、俺はよろよろと歩み寄り、まだ温かいリアムの体に縋った。
と。
「──シル、ヴァ……」
死んだはずのリアムが、俺の名前を呼んだ。
俺の口が、ポカンと開いた。
それから、改めて目の前のリアムを見やった。
ラチカの膝枕で横になっていたリアムが、僅かに顔を上げ、俺に向かって苦しげに小さく微笑んだ。
「……よお。時授かり」
「……時、授かり……」
茫漠と、挨拶を繰り返し、俺はまだぽたぽたと滴る涙を垂れ流しにしながら、リアムの体に意識を向けた。すぐに、血液が勢いよく巡っていることを感知し、俺は息を呑んだ。
……生きてる! え? いや、ちょっと待って。さっきは、確かに……緩やかだけど、止まって……俺の勘違い? 早とちり? だけど、俺は、ちゃんと……。
俺は慌ててリアムの首元に手を触れた。動揺しすぎていて、なかなかわからなかったが、試行錯誤の末、俺はリアムが現在進行形で脈打っていることを確かめた。よく見ると、胸が、呼吸でゆったりと上下している。俺が手を握ると、リアムはきゅっと軽く握り返してくれた。
「っ────────!!!」
嬉しい!!! 生きてる!!! 生きてる!!! 俺の勘違いでも早とちりでも、何でもいい!!! リアムが生きている!!! 本当に、ただただとにかく嬉しくて、嬉しくて、本当に嬉しい!!!
「……リアム……っ。生きてる……生きてる……っ」
勘違いして恥ずかしいとかは、微塵も思い浮かばなかった。勘違いでよかったと、俺は今度は嬉し涙を滂沱しながら、心の底から感謝した。けれど。
小さく苦笑し、リアムは言った。
「……まあ、正確には生き返った……だけどな」
「──生き、返った……?」
「ああ」
再び、茫漠と繰り返した俺に、リアムは深々と嘆息した。
「俺はさっき死んだ。けど、生き返った。多分……いや、まず間違いなく、俺を呼び戻したのはあいつだ」
「……………………ラチカ?」
「ちっげえよ! あいつ……水のカノンだ。俺もまだ、ちょっと信じられねえけどな」
俺は瞬きを一つし、それから腹の底から叫んだ。
「──はあ? そんなわけねえだろ! 一度死んだってんなら、それはあいつが殺したからだ! 何でわざわざ、またすぐ生き返らせるんだよ? 意味わかんねえだろ!」
「あいつの本意じゃなかったからだよ。俺が死んだのは」
滂沱したり激昂したりといつになく不安定な俺とは相反し、当事者のリアムは至って淡々と告げた。
「俺は多分、あいつの姿が目に入った瞬間、無意識に、反射的に、認識操作から逃れようとした。けど、あいつの力は圧倒的だ。俺は恐らくショック死だろう。推測でしかないが、あいつに抵抗しようとしなければ、そもそも俺が死ぬことはなかった」
俺は、息を呑んだ。
「……俺が、リアムに余計なことを話したから……」
「バッカ! お前のせいなわけあるか!」
ぎゅっと、痛いほど俺の手を握り締め、リアムは喚いた。
「いいか! 俺が死んだのは、俺がちょっとばかし優秀過ぎたせいだ! 例えお前らから話を聞いていたとしても、俺が凡人だったら、抵抗も何もなく、ただただ今朝みたいにへらへら認識操作されて終わりだったんだよ! だから! 断じてお前らのせいじゃねえ! 俺が! 滅茶苦茶優秀だったからだ! わかったか!」
俺は、闇堕ちしかけていた自分の魂が、リアムの言葉によって、温かい光に包まれた気がした。潤んだ瞳で瞬きを一つし、鼻を啜りながら、涙が落ちないように何とか苦笑した。
「……さすが、リアムだな。優秀過ぎてショック死するとか、初めて聞いた。けど……」
堪え切れずに嗚咽を漏らすと、俺は懸命に笑顔を作りながら言った。
「リアムが生き返ってくれて、よかった……本当に、本当に、よかった……っ」
結局、またぽろぽろと涙をこぼしてしまった俺の頭をそっと撫でながら、リアムがくすくす笑った。
「まったく、お前、実は結構泣き虫だったんだな。そんなに泣いてたら、いい加減、目玉が落ちちまうぞ」
「リアムが! 俺を心配させるからだろ!」
「うん……ごめんな。それと、ありがとう。俺のために泣いてくれて」
「もう……二度とごめんだからな」
「……ああ」
ぐしぐしと乱暴に涙を拭い、俺は改めて口を開いた。
「……けど、本当にリアムを生き返らせたのはあいつなのか? そもそも、いつだよ? そんな暇あったか?」
「俺が息を吹き返したとき、お前は水のカノンの前で座り込んでいた。多分、あいつにとっちゃ造作もないことなんだろうよ。俺も肉体的な要因で死んだわけじゃなかったし。取り敢えず、ラチカがすぐに気づいてくれて助かった。俺もさすがに混乱してたし……ありがとな」
ラチカは少し驚いたように目を見開いたあと、ちょっと照れ臭そうに微笑んだ。
「……おう」
「っていうか……ちょっと待て。さっきから普通に聞き流してたけど、リアム、水のカノンこと、ちゃんと認識して……?」
ハッとして俺が口を挟むと、リアムが嘆息するように頷いた。
「ああ、一度死んだせいなのか、俺を生き返らせたのがあいつだったからか、もしくは俺をまたすぐ死なせないようにするためか。理由はわかんねえけど、少なくともさっきのことはちゃんと覚えてる。水の民の姿をした、カノンにそっくりな奴が、俺たちを羽虫呼ばわりしてた。お前らが言ってた通りだ。それと、多分……他にも何かいろいろ、思い出せそうな気がする。ただ、今は、ちょっと、すごく、眠くて……無理……」
喋りながらうつらうつらし始めたリアムを見ると、俺とラチカはちらりと視線を交わした。ラチカがそっと口を開く。
「リアム、今は少し眠れ。ちゃんと医務室に運んでやるから安心しろ」
「……ははっ。まるで、さっきの、シルヴァみたい、だな……」
「ああ、まったくだ」
「……んじゃ、悪いけど、頼む……」
ことん、とそのまま眠りに落ちたリアムの髪を優しく撫で、俺は安らかなその寝息にしばらく耳を立てた。
……大丈夫。今度こそ、本当に眠っているだけだ。ちゃんと、リアムはまた目を覚ます。
穏やかなリアムの寝顔から目を離せないまま、俺が不安と戦っていると、ラチカが静かに尋ねた。
「──シルヴァ。お前はどうする? 医務室で、リアムのそばについてるか? さすがにサ-シャ……あの養護師の奴も今のお前に絡んだりはしないはずだ。性格はいろいろアレだが、一応、医者としての腕はいい。状況的に、やっていいことと悪いことの判断もできる奴だ。俺が保証する。俺は、パユを迎えに行かないといけない。恐らくだが、リアムを生き返らせたのが水のカノンなら、今すぐまたお前らに危害を加えるようなこともしないはずだ。どうする?」
俺は、反射的に触れていたリアムの手をぎゅっと握りしめた。唇をきつく引き結ぶ。
ラチカはその俺の様子を見て取ると、どこか淋しげに、けれど優しく微笑んだ。
「……わかった。じゃあ、医務室までは俺が運んでいくから安心しろ。サ-シャにも俺が話をする。お前はリアムのそばにいてやってくれ」
「……いや、違う」
「え?」
リアムの手をきつく握り締め、少し、泣き出しそうになりながら、それでも俺はきっぱりと言った。
「──俺は、ラチカと一緒に行く。そこは変わらない」
「だけど……」
「俺は、リアムのそばを離れたくない。本当は、まだ怖い。リアムが心配で、心配で、堪らない。ちゃんと、リアムが生きていると、片時も離れず確かめていたい。本当は、ラチカにどうするか聞かれたとき、すごく……すごく迷った。リアムのそばにいたい。強く、そう思った。けど……俺は、ラチカと行く。無理はしているけど、意地を張っているわけじゃない。この決断を後悔する可能性もある。でも、俺は自分が安心するためだけにリアムのそばにいるより、一度冷静になって、ラチカとこれからの相談をしたい。そのほうが、リアムのためにもなると、俺は信じたい」
「……シルヴァ……」
目を見開いたあと、ラチカは嘆息するように苦笑した。
「わかったよ。お前はそういう奴だったよな。……尊敬する」
「……へ?」
唐突に耳に入った言葉に、俺は驚きの余り硬直し、息が止まった。聞き間違い、ではない。けど……今の話の流れ的に、あまりにも似つかわしくない評価だ。胸元にひんやりとした刃を抱いているような感覚とともに、俺は瞬きもせず、目の前の友人に淡々と畳み掛けた。
「……いや、待て。違うだろ。冷たい奴だとか……思わないのか? 俺はさっき、お前ら二人にそばにいてもらった。本当に、すごく嬉しかった。それなのに、俺は生き返ったばかりのリアムのそばを離れると言った。たった一人、医務室に置いていくと。俺は自分勝手で、本当にひどい奴だ」
「そうかもな。けど、俺はそんなお前を尊敬する。多分、リアムも俺に同意するはずだ。お前はすごい奴だってな」
「っ、そんなわけ……」
「感情で動くのは簡単だ。誰だって、楽なほうを選びたくなる。けど、お前は自分を律する強さがある。リスクを背負う覚悟もな。それは誇っていいことだ」
顔が、みるみるうちに紅潮するのが、自分でも目に見えるかのようだった。
「なっ……何を言って……」
俺が口をパクパクさせて喘いでいると、ラチカがおかしそうに笑いだした。
「お前、いつも平気で自画自賛する割に、他人から褒められるの、意外と慣れてないよな」
「ちょっ……からかっ……?」
「からかってなんかねえよ。俺は本気でお前を尊敬してる。情にもろいのに、情に流されない。お前の判断が正しいかなんて、誰にもわからない。けど、俺はお前の意志を尊重する。とにかく今は、リアムを医務室に連れて行かないとな」
「……あ、ああ」
何やら重大な告白をされた気もするが、当のラチカはさらりと立ち上がると、リアムを背負い、医務室に向かって歩き出した。俺は現実感を取り戻せないまま、ラチカの後をふわふわと追ったのだった。
*
「……リアムのこと、本当に、本当に、よろしくお願いします」
胸に手を当て、俺が深々と頭を下げると、医務室の養護師、サーシャはいい加減面倒臭そうにしっしっと邪険に手を振った。
「わぁかったから! さっさと行け! 食堂で待ち合わせしてるんだろうが!」
「はい! ありがとうございます!」
俺が笑顔を向けると、サーシャはこれ見よがしに顔をしかめてみせたが、先程とは違い、全く不愉快に感じなかった。確かに性格はいろいろアレだが、医者としての能力の高さは相当なものだ。
もっとも、俺たちが医務室に戻った瞬間は、サーシャも仏頂面で今にも嫌味をぶちまけそうな雰囲気だったが、リアムを背負ったラチカと、新しい涙の痕がまだ色濃く残る俺の顔を見ると、黙ってベッドに案内してくれた。そしてさっきまで俺が寝ていたベッドに、今度はリアムを横たわらせると、言った。
「────こいつ、一度死んだ? 今は寝てるだけみたいだけど」
俺たちはまだ、何一つ説明らしきことは口にしていないのに、だ。水のカノンのように、俺たちの心を読んだのかと、一瞬勘繰った。けれどすぐ、そうではないことがわかった。
サーシャはリアムに触れもせず、服をくつろげることもなく、ただ眇めた目でしばらく全身を眺めると、淡々と呟いた。
「ほんの僅かな時間だが、血流が止まっていただろう。血液中の酸素濃度に、極端なばらつきがある。息を吹き返して、そんなに時間が経ってないからか。心臓にも、急激な負荷がかかった形跡があるな。この一面の打撲は……勢いよく床に倒れたかなんかで、内出血したのか。転倒時に、回避行動をとってない。致命傷ではないし、それ以外に大した損傷はないな。毒物も感じられない。とすると……恐らく精神的ショック死か。こいつが息を吹き返した経緯は?」
「え、あ……いや、何か、こう……」
僅かな視診のみで正確に言い当てるサーシャに圧倒され、ラチカがギクリと言いよどむ。俺も同様にひどく慌ててしまったが、ラチカが稼いでくれた一瞬の間で何とか立て直し、口を開いた。
「し……心臓マッサージを! す、少しだけ……」
実際、水のカノンがどうやったのかなんて知りようもないし、わかったとしても恐らく他の誰にも真似できないから、説明しても仕方ない。あまり詳細に嘘をつくとサーシャに見抜かれる危険性があるけど、息を吹き返すきっかけが全くないのも、やはり変に思われるだろう。
ドギマギしている俺に、サーシャのねめつけるような視線が突き刺さった。地を這うような声が、耳に響く。
「──お前、自分の名前は忘れてるくせに、何でそんなこと知ってんの?」
「あ、いや、えと……さっきは、本当にすみませんでした。俺の名前はシルヴァです。母が、村で、医者をしていて、それで、ちょっと、聞いたことが……」
本当は、ない。そもそも母は医療技術に関することは一切教えてくれなかったし、仕事の話すらしない。俺が医者の身内だからって、重篤な患者の緊急処置をしている現場に居合わせる機会も普通にない。年齢的に看護師の真似事を任されることもなく、大体、診療所に入ったことすらあまりない。
何より、テレビやネットでいつでも気軽に医療ドラマが見られる環境でもなく、簡単な救急処置の知識すら全く普及していないこの世界において、本来ならそこらの子供が心肺蘇生法を知るはずがなければ、当然そんな発想すらない。
が。母のおかげで話の筋が通り、サ-シャから俺に向けられていた異物を探るような眼差しが、真っ当な好奇心へと少しだけ変化した。
「……医者? 村って、どこの?」
「あ……えと、サンバル地方の、小さな村で……ただ、母は昔、水の宮殿の館にいたとかで……」
ハッと顔色を変えたサーシャの腕にある、青いガラスの嵌まった白い革バンドを指し、俺は続けた。
「同じバンドを、母もいつも身に着けていました」
瞬間、サーシャの瞳に宿った危険な光に、俺は肝を冷やした。
「……これと、全く同じバンドか? ただの、白いバンドじゃなくて?」
「……は、はい……。それと同じように、大きな青いガラスの嵌まった白いバンドです……」
母について話したことを、早速も強く後悔する。けど、もはや流れ的に話さないわけにはいかなかったし、サーシャがこんな反応をするとも予想できなかった。ハラハラしている俺とは裏腹に、サーシャの中では割とすぐ折り合いがついたのか、意外とあっさりその鋭い眼差しは引っ込められた。チャラっとした口調で手をひらりと振る。
「……へえぇ、あっそ。けど、素人が生半可に命を弄ぶのはやめときな。ま、今回は緊急事態だったし、たまたま上手くいったのは幸運だった。褒めてやるよ。お前の友人はそのおかげで助かった。とはいえ、くれぐれも調子に乗るなよ。しばくぞ」
最後、地を這うような声で眼光鋭く睨まれ、俺は直立不動になった。
「は……はい!」
相変わらず情緒不安定でヒヤヒヤするが、取り敢えずサーシャも納得したようだし、一応の危機は脱したみたいだ。俺はほっと息をついた。
と、思いきや。
「それでぇ? こいつを殺したのって、誰? こいつ闇の民なのに、濃厚な水の気配が残ってる。犯人はお前か?」
ふわふわした口調のくせに、サーシャの人差し指が、じっちゃんの名にかけて謎をすべて解く某名探偵のように、ビシリと俺に向けられた。
「へあっ? いやっ、違っ……!」
ぎょっとして身を竦めた俺に、サーシャがへらっと笑って言う。
「まあ、そうだよな。確かにお前の軽薄な水の匂いからして、どんなに頑張ってもこんな深い痕跡を残せないことはわかる」
この……っ、クソ医者、いろいろな意味で腹が立つ!!! 確かに俺の能力はマジで大したことないけど!!! わざわざ似て非なる言い回しで煽ってくるとか、もうほんっとやり口がクソだな!!!
ぎりっと唇を噛みしめた俺は、けれどすぐその怒りを無理やり手放した。そう……俺はこんなクズの詭弁になど振り回されてやらない。今こそ俺は涅槃に入る……いや、駄目だ、それじゃ死ぬ。そうじゃなくて、悟り、悟りを開くんだ、俺……!!!
何とか菩薩のような微笑みを貼りつけた瞬間、サーシャが俺の顔を間近から覗き込んだ。地を這うような声で、低く唸る。
「──けど、ものすっごく薄いのに、お前の気配と何か似てる。一体何があった? 知っていることを全部吐き出せ」
「……あ、いや、えっと……」
もうヤダ。ホントこの人怖い。
半ば本気で涙目になった俺の視界を遮るように、ラチカが素早く立ち塞がった。
「サーシャ、いい加減にしろ。怒るぞ」
静かな、淡々とした声音。ちらりと見上げた横顔も穏やかで、怒気の欠片も感じられない。けれどその揺るぎないラチカの眼差しを受け取ると、サーシャはすぐに脅すような表情を引っ込め、軽く肩を竦めてみせた。
「ハイハイ、本気になるなって。ちょっとした冗談だろ?」
「嘘つけ。お前が冗談を言うところなんて、俺は一度も見たことがない」
一瞬、恐ろしいほど空白の眼差しをぐるりとラチカに投げ、けれど瞬き一つで、サーシャは何事もなかったかのようにチャラっと笑ってみせた。
「いや~あ。隠しても隠し切れない、僕の真面目な心根がラチカには駄々漏れになっちゃうんだねぇ。そんなことまでわかっちゃうなんて、これはやっぱ僕への深い愛、かなっ」
「どうでもいい。何があったかは、俺が説明する」
そしてラチカは、事前に俺と相談して決めておいた一連の流れを口にした。
「医務室を出たあと、俺たちは中庭でお前の悪口を言い合い、しばらくしてから水場に向かった。汗もかいたし、食堂で庭師の二人と落ち合う前に、身支度を整えようと思ってな。けど、水場を出て食堂に向かおうとしたとき、廊下で急にリアムが倒れた。少しして、リアムが息をしてないことに気づいて俺たちは慌てたけど、シルヴァが突然、両手でリアムの胸を押し始めた。多分、そんなに長い時間じゃなかったはずだ。それから不意に、リアムが息を吹き返したのがわかって、少し落ち着いてから、俺が背負ってここまで運んできた。何か質問はあるか?」
サーシャはじっとラチカの話に耳を傾けているようだったけれど、その感情の見えない眼差しは正直、変に威嚇されているときよりずっと怖かった。
「……へえぇ……あっそ。なるほどねぇ。大体の事情はわかった。取り敢えず彼の身柄は責任を持ってこちらで預かる。それからそっちのおチビちゃん……えーっと、何だっけ。名前を思い出せないキミ、おとなしくしてるんなら、彼に付き添っていても構わないが、どうする?」
「……俺は、ラチカと一緒にパユの迎えに行きます。だから……」
「それは! 随分と冷たいんだねえ! この彼はさっき、眠っている君のそばでずぅっと心配そうについていていたというのに!」
悔しいけれど、それについては何も言い返せない。ぐっと唇を噛みしめた俺を庇うように、ラチカが再び身を乗り出した。
「サーシャ、いい加減にしろとさっきも……」
ラチカの硬い声を制するように、俺はその腕に軽く触れた。
「待て。ラチカ」
「シルヴァ……」
物言いたげな眼差しに小さく頷き返し、俺は改めて目の前のサーシャを見上げた。こいつはすごく頭が良くて、それ以上に性格が悪い。けど、医者であることに誇りを持ち、その腕に計り知れないほどの自負を持っている。だから──。
あたかも魔王のように立ちはだかる医務室の養護師の前で、俺は恭しく右手を胸に当て、深々と頭を垂れた。
「──サーシャ。先程は本当に申し訳ありませんでした。取り消すことのできない非礼の数々、心よりお詫びいたします。どうか、年端もいかぬ者の浅はかな言動をお許しください」
「……………………」
ただただ静かに俺を注視しているサーシャが、逆に恐ろしい。が、俺は構わず本心からの言葉を続けた。
「そして、あなたの言う通り、俺は冷たい人間だ。例え何もできなくても、大切な友人が本当に心配なら、ずっとそばについているべきだ。けど、俺はそうしない。その代わり、俺はあなたを信じます」
手は胸に当てたまま、顔を上げ、俺はサーシャの青い瞳をまっすぐ見つめた。
「俺は、あなたの医者としての能力、そして矜持を信じます。サーシャ、あなたは決して患者を見捨てない。何があっても、必ずその命を守る選択肢を取る。あなたの腕にあるその白いバンド、そこで輝く深い青は、世界でも数えるほどしかいない最高峰の医療師の証。仮にその患者があなたに盾突いた不愉快なガキで、俺のように得体の知れない反抗的な友人に託されたのだとしても、医者としてあなた以上の適任はここに存在しない。俺は自分の命にも等しい友人を、あなたに預けます。だから、サーシャ……どうぞ、リアムのことを、よろしくお願いします」
改めて、深々と頭を下げた俺を見ると、数少ない世界最高峰の医療師はチッと舌打ちし、イライラと面倒くさそうに手を振った。
「あ~、もう、わかった。ホンット、マジで気持ちの悪いガキだな、お前。いつか必ず解剖して、隅々までてめえの秘密を暴いてやる」
「おや。俺の献体をご希望ですか? 申し訳ありませんが、そういう話は母を通してください。そんなことより、リアムについて質問が。今現在、リアムは命に別状はないんですね? 急変する危険性はどれくらいあるんですか?」
矢継ぎ早に繰り出された俺の問いに、サーシャはやれやれと大仰に嘆息してみせた。
「今現在、こいつは命に別状はない。ちょっとした打ち身があるだけで、ただ眠っているだけだ。原因は疲労、恐らく能力を過剰に酷使した結果だ。急変する危険性については不明。そもそも一時的とはいえ、急死した理由がわからないんだからな。またいきなり死ぬ可能性はある。そうだろ?」
じっと探るような視線をまっすぐ受け止めつつも、俺は揺るぎない眼差しで頷いた。
本来なら、リアムの命を預ける以上、水のカノンについて話をするべきなのだろう。けれど、それではサ-シャの身を危険に晒してしまうかもしれない。ラチカによると、サーシャは光のカノンのことをよく知っているらしいし、何より能力がずば抜けて高い。リアムと同じように、水のカノンを前にしたとき、無意識に認識操作から逃れようとしてしまう可能性がある。その場合、サーシャのショック死は免れないが、水のカノンがまた生き返らせてくれるかどうかは全くわからない。
結局、俺とラチカは当初の予定通り、サーシャには何も告げることなく、リアムを医務室に託して廊下に出た。食堂に向かって黙々と歩きながら、これまでのこと、これからのことについて思案に耽っていると、不意にラチカが口を開いた。
「……シルヴァ」
「ん? 何だ?」
俺がちらりと視線を向けると、ラチカはどこか消沈したように眼差しを落とした。
「……さっきは、その……悪かった。お前を、ちゃんと守れなくて」
「へ?」
……え、何? 何のこと?
パチパチと瞬きを繰り返す俺に、ラチカは少し言いにくそうに続けた。
「だから、その……サーシャのことだよ。まさか、いくらあいつでも、お前にあそこまで言うなんて、思ってなくて。本気じゃなかったとしても、まるで、犯人みたいな言い方……すごく、嫌な思いをさせたよな。……本当にごめん」
「ああ! まあ、あれはさすがにちょっと驚いたけど。もともとサーシャの感じが悪いのは承知のうえだし、何よりラチカのせいじゃないしな! 気にするな」
「けど……」
「それに、俺はちゃんとラチカに守ってもらったし。さっきのラチカ、すごく格好良かった。泣きそうな俺の前に、颯爽と現れて! 危うく惚れてしまうところだったぞ。何かこう、伝説に出てくる、貴族の令嬢を守る騎士みたいというか!」
実の兄よりお兄ちゃんぽかった! という言葉を何とか呑み込み、俺は微笑んだ。以前、うっかり口を滑らせたら、案の定、不機嫌になってしまったNGワードだからな。今回の例えは大丈夫だろうかと俺が内心ハラハラしていると、ラチカは呆けた顔でポカンとしたあと、みるみるうちに首まで真っ赤に染まった。
「え……」
と、びっくりしている俺の前で、ラチカは頭を抱え込むように勢いよくその場にしゃがみ込んだ。
「ちょっ……ラチカ? どう……えっと、大丈夫か?」
恐る恐る近づこうとした俺を、顔も上げずにラチカが手で制する。
「待て! ちょっと、まだ、来るな……」
「お、おう……わかった」
取り敢えずラチカが落ち着くまで、俺はその場で待機した。
しばらくすると、ラチカは関節を軋ませ、ぎこちない動きで立ち上がった。まだ、顔は伏せたままだが、首筋がほんのりと赤い。ラチカは片手で顔を覆うようにしながら、反対の手で俺を指して言った。
「お前、ホント、マジで、そういうことをさらっと言うのやめろ! 考えなしにも程がある! 特に、誰彼構わずってのが、本当に始末が悪い!」
「え……あ、いや……あの……サッセン」
別に、俺としては考えなしでも、誰彼構わずでもないのだが、ここでそれを口にしても事態が泥沼化するのは目に見えている。今はこの場を収めるため、俺が大人の対応をしようではなぁいか。
の、はずだったが。
「……おい、お前、シルヴァ。不服そうな面してんじゃねえ! 文句があるなら言ってみろ!」
……うん。だって不服だからね。けど、文句は言わない。今はそんな暇ないしね。
俺は大きく息を吸い、すっぱり気持ちを切り替えると、きっぱり言い放った。
「確かに、お前に反論したいことはある。だが、それは後にしよう。すでに俺のせいでエクトルとトピアス、何よりパユを待たせている。俺は二人と合流する前にもう一度水場で手を洗って、食堂で糖分を補給したい。だから行くぞ」
「……くそ。わかったよ」
ご不満そうな面持ちながらも、ラチカはしぶしぶ口を噤み、俺の隣を歩き出した。俺はそんな友人の仏頂面にちらりと目をやり、だがまあ満更でもない気持ちが溢れてしまうのを隠すように、唇をきゅっと引き結んだ。ともすると、ゆるゆるに解けてしまうのを、何とかとどめるように。
──ありがとうな、ラチカ。俺を大切に想ってくれて。こんな素晴らしい友がいるなんて、俺は本当に果報者だ。ここが俺の居場所なのだと、心から実感する。
そして、そんな友人たちを二度と、一人として失わないためにも、何とかしなくては。俺は必ず、光の民である本物のカノンを取り戻し、世界の崩壊を防ぐ! 俺たちの戦いはこれからだ!
…………未完。
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