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プロローグ

なれやしるの歌

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汝や知る 都は野辺の 夕ひばり あがるをみても 落つる涙は

この和歌と言う名の日本の歌は、僕が生まれる四百年以上も昔に日本の中心であった都で起きた応仁の乱と言う名の戦争の際に飯尾彦六左衛門尉という侍が作った歌だという。
英雄らしき英雄もなく、責任の所在がどこにあるのか分からないまま十一年も戦われた戦争は、勝者も敗者も生まずただ京都という文化と経済の中核を荒廃させただけだったが、後の日本史を振り返れば、日本のそれまでの文明的価値観を破壊し新たな文明の価値観を形成する、西洋でいう革命のような時代の幕開けを飾ったエポックメーキングではあった。
僕にこの歌を諳んじるほど教えてくれた母方の祖父は、そのまた母方の祖父が日本からの漂流者であり、父方はかの歴史に名高いフランス革命からの亡命貴族の家系でもあったのだが、ロシアの帝都サンクトペテルブルクにある日本語学校の校長を務める知る人ぞ知る日本通であった。その祖父は帝国同士が覇を唱え合う世界情勢と斜陽に向かいつつあるロシア帝国の将来を不安に思ったのだろうか、「世界規模の応仁の乱など起こらないといいがな」とよく呟いていた。幼い僕にはそれが何の意味かは分からなかった。でもこの歌の沈痛な調べは幼い僕にも忘れ難いものであった。

「アレクサンドル、人の世は儚いんだよ。愛も金も権力もそして命も…皆儚いからこそ大切なんだ。覚えておきなさい、余裕がある時代はいいが、皆が自分のことしか考えられないほど余裕を無くす時代は今ある文明を滅ぼす。歴史の新陳代謝と考えれば致し方ないことかもしれんが、それには壮絶な痛みも伴うものだ。それでも私たちはこの儚いものを抱きしめて生きるしかない。強い信念を持って生き抜くのだよ、もうすぐ世界は壊れるかもしれない、これは前代未聞の大きさで世界を傷つけるかもしれないのだ。それでもそれを世界革命と讃えるものもいるだろう。神が創った一つの大きな世界文明が終わり、神なき世界の文明、人間が人間であるための文明の始まりの夜明けがくるのかもしれない」

祖父は預言者だったのかもしれない。
僕にはそう思われてならない。
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