俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第154話 進撃

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 フィラディフィア全体を覆う障壁。
 その北側が大きく崩壊した。

 砕けた障壁の破片がキラキラと光を乱反射させながら落ちていく。
 その途中で、欠片はただの魔力へと再変換されて空気中へ霧散する。

 森の奥でローレンスが、無線を発した。

 『全員! フィラデルフィアへ進撃せよ!』

 この時をどれほど待ち焦がれていたか。
 無線を受けた者たちが、味方にも伝えていく。

 「「 おおおおお!!! 」」

 先程まで追い込まれてのが嘘であるかのように、反逆者たちの表情に希望の色が浮かび上がった。

 そして、生き残った約3000の戦力が一斉に『瞬間移動テレポート』した。行き先は当然、ひとつ。

 フィラディルフィア北区の街中に、ついに革命が入り込んだ。

 「……え……追え!! 全員、今すぐ彼奴らを亡き者にせよおおお!!」

 司令官の男はもはや冷静ではなかった。
 彼が総司令官セルギウスから受けた命は、革命軍をフィラディフィアの街に侵攻させないことだった。それが今、失敗した。
 受けた任務の失敗という事実が司令官から思考を奪い、それが具体的な作戦も何もない、ただ“敵を追え”という漠然とした指示を生み出す。

 その指示を受けて、騎士たちが一気に北区の出入り口へと押し寄せた。中には『瞬間移動』で直接街へ突入する部隊もいたが、ほとんどは北の門へと集まっていく。
 前衛で戦っていた歩兵や騎兵が、後方支援である味方たちの間をすり抜け、門の下を次々に潜っていった。

 これこそが、千頭が最後に残した勝利するための策だった。

 『瞬間移動』の光の軌跡が何本も街へ向かって行く中、一つだけ北門の上にある城壁の道へ降り立つものがあったのだが、焦燥感に駆られた騎士団はその存在に気がつけなかった。
 だから、何の抵抗もできずに、それを受けてしまう。

 『 騎士団の者たちよ! 全員、降伏なさい!! 』

 頭上から聞こえたその声に司令官が『しまった』と思った時には、もう手遅れだった。

 その声が有効な距離にいた約3万人の騎士たちが、一度に手から武器を落とし、跪いた。

 『絶対服従』。
 女王の声に逆らえる者はいなかった。
 門の上に現れたのはフィオレンツァ・フィネガンだった。

 「コイツ!!」

 声の射程外でフィオレンツァを発見した騎士が、抱えていたスナイパーライフルで彼女を撃とうとするのだが、フィオレンツァは再び『瞬間移動』を使い、その場を去ってしまった。

 ジェヌインはこの瞬間をずっと狙っていた。
 敵が動揺し、注意が一箇所に集中しているタイミング。
 フィオレンツァが敵に襲われることなく、安全に『絶対服従』を行使できる時を。

 革命軍の狙い通り元女王による奇襲が成功したことで、騎士団は大きく戦力を低下させた。


 *


 「女王様も上手くやってくれたみてーだ」

 ディックが『精神感応テレパシー』でアイリスから報告を受けた。

 「よし。騎士団が体勢を立て直す前にさっさと進むぞ」

 ボロボロになった『防御支援ディフェンス サポート』に、改めて魔法石でルーズルーの魔法をかけ直した渡辺が進撃を開始しようとする。
 だが、それを待て待て、とディックが制してきたので、少しムッとした表情で振り返った。

 「何だよ。『回復魔法リカバリー マジック』もしたし、準備は十分だろ」

 「十分じゃねーよ。ほれ」

 ディックが『道具収納』から竹皮に包まれたオニギリと胃袋で作った革袋の水筒を取り出し、それらを渡辺に手渡した。

 「もう4時間近く戦い漬けだ。慣れてないお前はそろそろ限界だったろ?」

 「おいおい、悠長に飯なんか――」

 「食ってる場合だ。いいか渡辺、戦いの先輩として教えといてやる。人間いざって時に腹空かしてたら思考も動きも鈍るんだよ。だから食えるときに食うんだ。騎士団の守りを突破できたっていっても、この先まだまだ戦いは続くんだからな」

 「…………」

 「お前のやりたいこと貫きたいってなら、まずは自分の身体ぐらいベストな状態にしとけ」

 「……ありがとな、少し頭が冷えた」

 確かに街に侵入できたとはいえ、まだ戦いが終わったわけじゃない。
 この先何が起きるかわからない。
 食ってる時間分マリンたちを待たせてしまうが、無理をしてそれ以上に待たせてしまったら本末転倒だ。

 そう考えた渡辺は、ディックからの補給を素直に受け取って、握り飯にかぶりついたのだった。
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