俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第143話 Lv 123 レイヤ vs Lv 36 渡辺 勝麻

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 ――戦況報告――。
 革命軍        4,783人 →        4,212人
 王国軍    117,357人 →    111,890人

 革命軍本隊、北の平原東側で王国軍歩兵隊と交戦開始。

 ディック、戦車7両を破壊、戦象4頭を行動不能もしくは討伐。退魔の六騎士の内、蛇腹剣使いシュイナム、バードライダーである風凛かりんの二人と交戦開始。

 渡辺、戦車1両を破壊、戦象1頭を行動不能にしてもう1頭に深刻なダメージを与える。歩兵隊も100人近くを再起不能に。


 *


 渡辺がレイヤと対峙する少し前。

 「ナベウマ?!」

 オルガはフィラディルフィア北門前の盛り上がる様子を遠目で確認し、渡辺が敵陣中央に現れたことを察した。
 革命軍側にディック以外で何万という騎士を相手取れるのは、他に渡辺しかあり得ないからだ。

 オルガが戦争に参加した理由は渡辺をそばで守るためだった。だから、『瞬間移動テレポート』の魔法石で渡辺のもとへ移動しようとするのだが、

 「待てよ、オルガ」

 呼び止める者がいた。
 それはオルガにとって、聞き覚えのある声だった。

 「ッ! フランツか!」

 黒い西洋甲冑を装備した男が、ヘルムを外しながら遠くから歩いてくる。
 ヘルムが外され、彫りの深い顔とブラシのように逆立つ金髪が顕になる。
 覚えているだろうか。このフランツと呼ばれる男は、かつて渡辺が初めてアリーナで闘った際に使用した『炎魔法ファイア マジック』の魔法石を調達してくれた人物だ。

 「いやはや、見事な半殺し具合だな。誰も死んじゃいないし、後遺症も残らないよう攻撃を当てる箇所も考えている。流石はオルガだ」

 フランツは哀愁漂う笑みを浮かべながら、オルガの背後で倒れている者たちに視線を送る。

 「……お前さんは後方支援のはず、何故前線にいる」

 「かつて最前線で魔人ガイゼルクエイスと戦い、死にかけてまで国を守った英雄が、今度は国を襲っている。飛び出すには十分過ぎる理由だと思うが?」

 突然、地を蹴ってオルガへと殴りかかった。
 オルガは突き出された拳を片手で受け止める。

 「教えてくれオルガ。これがお前の望んでいることなのか? お前はずっと今の為政者に不満があったって言うのか?」

 そう語るフランツの表情は先程までとは打って変わって真剣そのものだ。

 「いいや不満などない。カトレアは最善を尽くしているだけだ。アリーナも『階層跳躍レベルジャンプ』の者たちに対する扱いも、魔人の強さを考えれば仕方の無いことだ」

 「なら何でお前はそこにいる!」

 「大切なモノを守るためだ!」

 今度はオルガが鋼鉄の拳で殴りかかり、フランツはそれを受け止める。
 互いが互いに拳を突き出し、受け止めたことにより、オルガとフランツは両手を組み合う格好となる。

 「革命の成否はどうでもいい! 俺はただ、あの子を、繋がりたちを守りたいだけだ!」

 "あの子"という単語から、フランツはそれが誰かを察して、つい鼻で笑ってしまう。

 「やっぱりあの坊主と何かあったんじゃないか。その少年を守るためにお前は戦うのか? 俺たち戦友と!」

 「ああ! 闘うともさ! お前さんらと闘い、ナベウマを守り! そして、お前さんらも守ってみせる!」

 フランツの額に、オルガの頭突きが入った。
 岩石の直撃で脳を揺らされたフランツは堪らず地面に倒れた。

 「お前さんたちを誰かに殺させたりしない。だから、ここで大人しく寝ていてくれ」

 「……ホン……トに……度し難いほど真面目な男……だ……」

 意識が朦朧とする中、オルガの意図を理解したフランツは言う。

 「だったら……上司に言い訳……できるよう……もう一曲子守唄を……頼む」

 「ああ」

 フランツへ一撃を加えた。
 その一撃は、優しくて温かいものだった。


 *


 話は現在に戻る。

 渡辺の前に現れたレイヤ。
 彼女はトレードマークである黄色い鎧を身に纏い、片方の手には剣が握られていた。
 レイヤは騎士団の人間。王国の味方だ。
 である以上、この事態は必然。
 それがわかっていた渡辺は、ある程度覚悟していたため、驚きは少しだけだった。
 しかし、対照的に渡辺が革命軍の仲間となり、しかも万を超える騎士を一人で相手取っているとは夢にも思わなかったレイヤは酷く動揺していた。

 「……どうしてショウマ君が……こんなことを?」

 レイヤは目を白黒させていた。
 そんなレイヤに、渡辺は軽蔑の眼差しを送る。

 「はぁあ? どうしてだと? テメェがわからないわけないだろうが。ミカとマリンが連れられていくのを傍観していたテメェが!」

 怒りで眉間を歪ませる。
 その鋭い眼光は、容赦無くレイヤに一人の人物を連想させる。

 「テメェの方こそ何で涼しい顔して王国についていられる?! マリンやミカと親しくしていた癖に!」

 「仕方が無いのよ! それがこの国のルールなんだから!」

 「そうかよ! なら、アンタにとっちゃ二人の人生なんざ、ルール以下だったってことだ!」

 「違う!」
 「違わない! だったら今ここで王国に反逆してみせろ!」

 「……それは……」

 レイヤはばつが悪そうに視線を落とす。
 彼女は渡辺とは違い、王国で産まれ王国で育ってきた人間だ。
 故に、彼女の価値観の基準は王国にある。
 彼女にはどうしても王国が悪いとは思えなかった。

 異なる世界で生まれ育ってきた互いの価値観。
 レイヤはどうしようもなく、改めて異世界の壁を感じていた。

 「レイヤさん!」
 「ババァ!」

 レイヤの横に二人の男が駆けつけてきた。
 コウクと清十郎。レイヤのパートナーたちだ。
 短髪黒髪で眼鏡をかけた長身の男。コウクは中国甲冑である明光鎧めいこうがいで全身を包み、手には縦の長さが1mを超える長方形の盾が握られていた。
 茶髪の天然パーマな少年である清十郎は、軽装で鎖鎌を持っている。

 「レイヤさん、怪我はありませんか?!」

 コウクがレイヤの顔色を伺う。

 「……ええ、大丈夫よ」

 沈んでいた視線を再び前に向けて、渡辺を見る。

 ……結局、転生者とはわかり合えないのかしらね……。
 レイヤの中に1つの結論が導き出された。

 「ごめんなさい、ショウマ君。私には国を守る義務がある。大切な家族もここにいる。だから、アナタを倒す」

 「ふー……」

 深い溜息を吐いた後、渡辺は首を左右に傾けてゴキゴキと骨を鳴らす。

 「『私はアナタの味方ですよ』って空気出しておきながら最後には裏切る。まさに、だな」

 レイヤが剣を捨てた。
 代わりに『道具収納アイテムボックス』で、メリケンサックを取り出して指に嵌める。

 「助走をつけるわ。二人ともお願い!」

 「任せてください!」
 「やってやんぜ!」

 レイヤが渡辺から離れ出したのと同時に、コウクと清十郎が渡辺へ駆け出した。

 清十郎が鎖鎌の分銅を遠心力で飛ばし、渡辺の左腕に鎖を巻きつける。
 次いで、コウクが筒状の『物理反射バリア』で渡辺の右腕全体を囲むと、それを窄めた。
 空中に縫い付けられているかの如く固定された『物理反射』と、鎖鎌の鎖により上半身の身動きを封じられた渡辺の背後へレイヤが時速300kmの速度で迫る。

 「こんなんで止まるかよ」

 清十郎の引っ張る力も、コウクが展開した『物理反射』も無いもののように、渡辺は後ろを振り返る。

 「おわっ!」
 「そ、そんな!」

 清十郎は逆に引っ張られて体勢を崩し、コウクは自らの『物理反射』が容易く破られたことに驚く。

 「なんて力なの……でも、もうやるしかないわ!」

 既に渡辺までの距離は10mを切っており、時速300kmをこのタイミングで軌道修正するのは不可能だった。

 レイヤの能力の1つ『万有重力ユニバーサル グラビテーション』は、指定した物体の重さを自在に変えることができ、その物体の体積が小さければ小さいほど、変えられる重量の幅は広がる。
 先程、武器を剣からメリケンサックに切り替えたのは、メリケンサックの方が体積が小さいため、より大きく重量を変えられるからだ。

 レイヤが拳を突き出す。
 それに応えるように、渡辺も正拳突きを繰り出す。

 レイヤは自らの拳が渡辺の拳にぶつかる直前で、メリケンサックの重量を限界まで上げた。

 重量400トン。

 ジャンボジェット機の最大重量よりも重い拳が、新幹線並みの速度で炸裂した。

 次の瞬間、渡辺の足元の地面が砕け、後方に凄まじい衝撃波が迸り近くにいた何人かの騎士が吹き飛ぶ。
 しかし、渡辺は吹き飛ばずに踏み留まっていた。

 「これを止める?! 攻撃力300相当の威力よ?!」

 止めるどころか、本来であれば渡辺の突きは、レイヤの突きを弾いているはずだった。
 だが、ある邪魔によりそうはならなかった。

 渡辺が自らの突き出した腕を見やると、腕にピンクの糸のようなものが無数に絡み付いていた。

 「ッ! 糸?!」

 直後、その糸に腕を引っ張られ、渡辺はレイヤから遠く離れた戦場に叩きつけられる。
 渡辺が急いで身を起こすと、少し間合いを開けた先に女がいた。

 「ウフフフッ、ちょっとアナタ調子に乗り過ぎではないかしら? このワタクシより目立つなんて許しませんわよ」

 黒い光沢を放つボンデージ衣装を着ており、ヒップやらバストやら白い肌が目のやり場に困るぐらい露出している。
 そして、その女の髪はロングの姫カットでピンク色をしていた。

 今しがた渡辺を投げ飛ばした攻撃の正体は、髪の毛だったのだ。


 「ガウアアアアアアアアァァァッッッ!!!!!」

 そこへ全く別方向から鬼気迫る叫びが聞こえ、渡辺は咄嗟にそちらへ拳を放った。

 
 ゴキンッ



 音と感触が渡辺に伝わり、それは目の前で斃れた。

 それはこの戦場のどこにでもいる西洋甲冑の鎧を身に付けた騎士だった。
 騎士は完全に首の向きが180℃に曲がっており、明確な死を告げていた。

 眼前に転がるハッキリとした死が、渡辺の時を止める。
 
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