俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第131話 状況確認

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 収容所の騎士たち、および四大勇者との激戦から一夜が明けた。
 騎士たちは囚人たちが入っていた牢獄に投獄し、四大勇者らもルーズルーが作り出した強力な『物理反射バリア』『魔法反射マジック リフレクション』付きの檻の中に閉じ込めて身柄を拘束したのだった。


 アルカトラズ周辺は常に雲に覆われているため日は差し込まず、代わりに雲から拡散される灰色の光が徐々にその明度を上げていた。

 収容所の前には臨時に大型テントが設置され、その中では多くの者たちが眠らずに木製の大きなテーブルを挟んで話し合いを行っていた。

 「それで、フィオレンツァ女王、カトレアには通牒つうちょうを送ったので?」

 「はい、門の前で警備している騎士に渡すよう、少し前に使いを出しました」

 フィオレンツァと千頭が、木製の椅子に腰掛けて会話していた。
 二人とも温かいブラックコーヒー入りのマグカップを手に持ち、度々口に運んでいる。

 「わざわざ通牒なんて送っちまって……」

 テントの隅で腕組みして立っているディックがぼやいた。その両サイドにはセラフィーネやエマ、アイリスもいる。

 「カトレアが大人しくあんたに王位を返上すると思うか? ただの宣戦布告でしかない。こっちの行動を明かさずにとっとと不意打ちで武力行使にでりゃいいのによ」

 「ディックさん。私たちの目的はカトレアを斃すことではありませんよ。あくまで王位を譲っていただくようにお願いするだけです」

 「譲るわけがないから言ってるんだがな」

 「はははっ」

 千頭が笑い出した。

 「何がおかしい!」

 言うが早いか、ディックが千頭に殴りかかりそうなるのを、セラフィーネが片腕にギュっとしがみついて抑える。

 「いや、筆頭勇者様っていうのは、力を振るうことしか考えてないなーと思ってね。そういうことしか教えられていないのかな?」

 「カトレアが王位を返上するわけねーだろ! 自分がいなくなれば人類が死に絶えると思っているヤツだ! 玉座から引きずり降ろすには力で捻じ伏せるしかねーんだよ!」

 「やれやれ、本当に殴る相手しか視えてないね君は。カトレアが王位を譲るだの譲らないだの、大事なのはそこじゃない」

 「……どういう意味だ?」

 「いいかい? 仮に不意打ちで中央区まで乗り込んだとしよう。周りはどうなると思う?」

 そこまで言われてディックは、千頭の言おうとしていることを理解する。

 「……国民が戦いに巻き込まれる」

 「その通り。罪の無い国民を傷つけるわけにはいかない。だから、こちらがいつ攻め込むつもりなのか伝えて、カトレアに国民を避難させてもらうのさ。もっとも、どうしたって巻き込まれる人は出てくるだろうけどね」


 「お話中のところ失礼します」

 テントの出入り口から、西洋甲冑を装備した女性がせかせかと入ってくる。

 「アルカトラズの住民から、昨日の騒ぎは何だったのか、壊れた家を弁償しろ、など批難が殺到しております。今現在、千頭様の部下たちが対応しておられますが、いつ暴力沙汰になってもおかしくはない程度に何人かは過熱していました」

 「わかりました。引き続き、町の様子を監視してください」

 フィオレンツァに言われて、女は返事をして頭を下げるとテントから退出した。
 それから間もなく、千頭が口を開く。

 「……とまぁ、いくら元女王がバックにいるとはいえ、多くの民からすれば僕らは平穏を脅かす悪でしかない。その上、ルール無用で国民を巻き込んでしまえば、テロリストと同じ。例えそれで革命が成功したところで、フィオレンツァ女王を支持する者はいなくなってしまう。だからこそ、人々が納得する段取りをしっかり踏んでいく必要があるんだ」

 「ふんっ、臣民へのウケが悪いのはそれだけじゃねーだろ。犯罪集団と手を組んでますとかな」

 「ああ、僕らジェヌインのことは内密にお願いするよ。君の言う通り印象が悪いからね」

 「さてどうかな。誰かにうっかり口を滑らせちまうかも」

 「つっかかるねー。まだ僕たちのことを根に持っているのかい? セラフィーネちゃんだって返したじゃないか」

 ギロリと、ディックが一際鋭い眼光で千頭を睨む。

 「返しただと? セラフィーネの身体にこんだけ負担かけさせといて、いけしゃあしゃあとよくもそんなセリフが言えたな!」

 「ディック様!」

 またディックが飛びかかりそうになるのを、セラフィーネが小さな身体でディックにしがみついて抑える。

 「クソッ! だいたいだな! 何で女王様はジェヌインと手を組んでるんだよ! 一体いつからだ!」

 その問いに、フィオレンツァがコーヒーを一口飲んでから答える。

 「交流は1年以上前からになります」

 「なっ!」

 その答えはつまり、ディックがバミューダで戦っていた時点で既に女王の仲間だったことを意味していた。

 「カトレアの元まで辿り着くには、私が抱えている戦力だけではとても足りない。それでジェヌインとコンタクトを取ったのです」

 「ってことは、フィオレンツァ! アンタは千頭の犯罪行為を黙認してたのかよ!」

 「ディック君、あまり女王様を責めないでくれ。そういう条件を出したのは僕たちなんだ。協力する代わりに、こちらへは一切の口出しをしない。そして、革命が成功して女王に返り咲いた暁には騎士団はジェヌインに手出しできないようにするというね」

 その話を聞いたディックは、フィオレンツァに軽蔑の眼差しを向けた。

 「見損なったぜ元女王。正直、もうアンタの味方をしたくねぇ」

 「カトレア側に付くのですか?」

 「思考が読めるんだろ。いちいち聞くなよ。味方はしたくねー。が、カトレアのやり方よりかはマシだ。だから今だけはアンタの側で戦ってやる。けど、革命が成功して終わった後は勝手にやらせてもらうぜ」

 「はい、わかりました」

 こんなときでも、フィオレンツァはほんわかとした笑顔をする。
 それが鼻につき、ディックは舌打ちした。


 「気に入らないな」

 そこへ、全く別の方向から声があがった。
 オルガだ。

 「おや、小樽さんまで女王様の考えに納得がいかないのですか?」

 「違う。俺が納得いかないのはお前さんだ、亮」

 「ほー? 一体何が気に食わないので?」

 「お前さんはこの世界での自由行動を得るために、フィオレンツァに協力したと言ったな?」

 「ええ、それが何か?」

 「本当にそれだけか? そんなことのためだけに、王国と戦争するリスクを負うのか?」

 「それだけの価値があると判断したまでですよ。邪魔が無ければ、ゆっくり僕らの故郷である地球に帰るための方法が調査できるんですから」

 「…………そうか」

 短い時間、オルガは千頭の目をジッと見た後、そう言った。
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