俺のチートって何?

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第四章   ― 革命 ―

第124話 即席コンビ vs Lv424 エメラダ 後編

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 エメラダは1000mの高さから落ちつつも、冷静にミニガンの銃口で渡辺の背中を突き自分の真上に飛ばした後、改めて銃口を渡辺へ向けた。

 「卓越した身体能力を発揮できるようだが、魔法については、からきしだろう? お前に空中を移動する手段はあるか?」

 それこそが、エメラダの狙いだった。
 ディックならば『風魔法』などを使って空中を移動できるが、渡辺にはそれがない。空において、渡辺は重力に従って落ちるしかないのだ。

 「まずい!」

 エメラダの意図を理解したディックは『位置交換スワップ ポジション』で自分と渡辺の位置を交換しようとするが、ディックの魔力が何かに弾かれ、能力は不発に終わる。
 『魔法反射マジック リフレクション』だ。
 エメラダが渡辺を球状の『魔法反射』で囲んでいたのだ。

 ディックがしてやられている間に、エメラダの持つミニガンの6つの銃身が回転し、火を吹いた。
 無数の銃弾が渡辺を容赦なく襲う。

 「ぐあああ!!!」

 「あんなのを受け続けてたら『防御支援』の効果が切れちまう!」

 渡辺の元々の防御力で、ミニガンの連射を受ければミンチ肉に早変わりしてしまう。そうなる前に助け出さねばと、ディックは『瞬間移動テレポート』で可能な限り渡辺の近くまで移動した。

 「やはりそっちへ行くか……」

 エメラダは口から煙草を吐き捨てると、空中戦に参加してきたディックをもう片方のミニガンで歓迎した。

 「当たるかよ!」

 『風魔法ウィンド マジック』で自身の体を横に飛ばし、銃撃を回避する。このとき、ディックの体は『魔法反射』の内側へと入る。
 エメラダが移動先を読んで偏差射撃を行うが、裏目に出る。
 何故ならディックは『氷魔法アイス マジック』で目の前に氷の壁を生成し、その壁に両足を付けて急停止したからだ。
 ディックは続けて、壁の端から渡辺まで伸びる氷の道を作るとその道を逆さまに駆ける。

 「悪くない動きだ。だがな、ディック。私はそんな姿を見たくはなかったぞ」

 「クッ!」

 一度は避けた銃撃が、すぐにディックに追いつてきた。弾丸の嵐はまるで鉄砲水のようにディックを押し流していく。

 「カハッ! 渡辺!」

 その流れに対して、ディックは必死に藻掻くが、無駄な抵抗だった。

 そうして、ディックが何もできないままでいる内に、ついに渡辺の太腿や腕に穴が空いた。『防御支援ディフェンス サポート』の効果が無くなり始めたのだ。

 「ワタナベえぇ!!」

 「おっと」

 ディックの絶叫に合わせて、エメラダが二人から銃の照準を逸らした。
 それにより、渡辺とディックは銃弾の押し流す力から解放され、真っ逆さまに地上へ落下していく。
 そのまま地面に激突しそうになるが、まだ動く力が残っていたディックが『風魔法』で自分と渡辺の落下速度を落とさせて、安全に不時着させた。


 エメラダが途中で攻撃を止めたのは、あくまでエメラダの目的は渡辺たちを生かして捕えることだからである。
 低レベルでありながら高レベルと互角にまで渡り合えるチート能力を持つ渡辺と、多彩な能力を持っているディックは王国からしてみれば貴重な資源。反逆者だからといってみすみす殺してしまうわけにはいかないのだ。

 決してエメラダが二人を見逃そうと思って攻撃を中断したわけではない。まだ二人が抵抗できるとわかれば、厭わず引き金を引いてくるだろう。

 ディックにはそれがわかっていたので、直ちに行動を起こした。
 体をフラつかせながらも、ディックは倒れている渡辺の元へと駆け寄り『回復魔法リカバリー マジック』の魔法石を使った。
 青い光が渡辺の全身を包み、穿たれた穴を塞いでいく。しかし、完全ではない。

 「クソッ。『回復魔法』の魔法石が足りねぇ!」

 「う……うぅ……ディッ……ク、テメェ……」

 弾頭によって捩じ切られた筋肉の痛みを我慢しつつ、渡辺は恨めしそうにディックの名を呼ぶ。

 「怒んなよ! 俺だってこんなことになると知ってりゃもっと魔法石を――」

 「そうじゃ……ねぇ!」

 キッと渡辺がディックを睨む。

 「な、何だよ! 急に睨むんじゃねぇ!」

 「お前……やる気あんのか? 本気で……戦おうとしてるのか?」

 「はあ? 馬鹿言うな! どうして俺が手を抜かなきゃならねーんだ! 俺は本気で国を変えようと――」

 「俺の知ってるディックは……他人に……縋る真似はしねえ……ビビったりしねえ」

 「俺がビビってるだって?!」

 カチンときたディックが渡辺に食ってかかろうとしたときだった。
 エメラダが『瞬間移動』で渡辺のそばに現れ、ディックを蹴った。

 「かはっ!」

 エメラダは不服そうな目でディックを一瞥した後、動けない渡辺にミニガン突きつけて再び消えた。

 「しまった! また同じやり口か!」

 ディックが顔を上げると、遥か上空に二人がいた。渡辺の体がエメラダより上に投げ出される。先程と同じ流れだ。

 「渡辺がやられちまえば勝てる見込みは無くなる! アイツを守ら……!!」

 そこまで口にして、ディックははたと気づく。
 渡辺の言っていた言葉を理解したのだ。

 ……そうか……俺はビビっていたのか……親に……自分で勝てる自身が無いからって、渡辺を当てにして……なんてみっともねぇ……。

 ガンッ!っと、ディックが自分の額を自分の拳で殴り、根性を叩き入れた。

 「親には勝てない……俺はいつまで誰かが作った常識を言い訳にしてるつもりだ……それじゃあ、王国に従順だった頃と何も変わらねーだろ! 自分の親にも反抗できないヤツが、革命なんて起こせるわけがねぇ!! 目ぇ覚めたぜ!!」

 ディックがエメラダの背後に『瞬間移動』する。

 「サポートなんて柄じゃねぇ! 俺は俺で好き勝手やらせてもらう!」

 「そうか、頑張るといい」

 「ウッ!」

 エメラダがくるりと体を一回転させ、片方のミニガンでディックを思い切り殴り飛ばした。
 ディックは反撃もできないまま収容施設の前に落ちる。

 「自分のプライドを取り戻したことに関しては良かったと言ってやるが、それは結局普段のお前に戻ったというだけのこと。状況は何も変わらん」

 ミニガンの銃口が、空中を舞う渡辺に向けられる。

 「この男の両足を潰して終わりだ」

 エメラダが引き金を引いた。

 カチ


 「……ん?」

 ……カチ……カチ……

 エメラダが何度も引き金を引く。
 しかし、弾は出ない。それどころか、銃身が回転を始めない。

 「一体どうしたと……ッ!!」

 ミニガンの内部を『透視エックス レイ』で確認したエメラダは目を疑った。

 「何だこの弾は……私はこんなものを装填した覚えはないぞ」

 ミニガンには6つの銃身があるが同時に発射されたりはせずに、常に一箇所のポイントから発射されている。その一箇所にミニガンの口径よりも小さい弾丸が紛れて、弾詰まりを引き起こしていたのだ。

 もしや、とエメラダはもう片方のミニガンを見やる。そちらも同様の事態になっていた。

 「……そうか、ディックめ、私に殴りかかると見せかけてミニガンの中に弾丸を生成したのか!」

 エメラダが体の向きを変えて、ディックを視界に捕える。
 不敵な笑みを浮かべて、ディックが狙撃銃をエメラダに向けていた。

 「くっ、一度地上に降りて弾詰まりを解除しなくては。……む……無い。ベルトにあるはずの『瞬間移動』の魔法石が無い! ハッ!」

 エメラダは気がつく。
 ディックの空いている手の中には、3つ分の魔法石が握られていた。

 「……私に悟られずに弾を詰まらせるだけでなく、『瞬間移動』の魔法石まで奪っていたとはな……フフ……クククッ」

 エメラダにとって『瞬間移動』は空中での唯一の移動手段だった。それを失くしたエメラダはそのまま落ちていくしかなく、次のディックの攻撃を避けることもできない。

 なのに、エメラダは笑っていた。

 懐から煙草を一本取り出すと、それをディックへ向ける。

 ディックから、発砲音と同時に炎属性が付与されて赤熱化した弾丸が飛び出した。
 その一発は、エメラダから差し出された煙草の先端を掠めて火を点けた後、エメラダに着弾した。
 一発だけではない。連続でいくつもの弾が、エメラダに傷を刻んでいく。
 それでもエメラダは笑み崩さなかった。愉しんでいた。
 撃たれた反動により落下速度が落ちたことで、後ろから強大な殺気を放つ渡辺が間近に迫っているのもわかっていた。
 だが、エメラダはニヤリと口角を上げて煙草を咥える。

 「親が子を超える……なるほど、子育てというのも存外悪くないな」

 「俺が暴れてるついでに!! お前も暴れていけ!! ワタナベエエェ!!!」

 能力全開のパワーに落下速度も加えた渡辺の渾身の右ストレートが炸裂し、雷の如き速さでエメラダは居住区へと叩きつけられた。
 エメラダの体は複数の民家に突っ込み、見えなくなる。

 それから間もなく、渡辺も地上へと落ちてくるが、ディックが作り出した風でふわりと受け止められた。

 「礼は言わねぇからな」

 「わかってるって。俺がやりたくて勝手にやったことさ」

 冷たく言う渡辺に、ディックは微笑みを返す。

 「油断するんじゃねーぞ渡辺。アイツはこの程度じゃくたばらねー。ほら、『防御支援』の追加だ」

 ディックは渡辺のそばに寄ると魔法石のピンを引き抜き、渡辺に魔法をかけた。渡辺の全身の細胞の一つ一つが再び魔力の鎧を纏う。

 「すまねーが、魔法石はそれで打ち切りだ。それを理解した上で立ち回れよ」

 とは言ったものの、ディックは一人で戦うつもりでいた。最早渡辺は戦える状態ではなかったからだ。
 『防御支援』が無い状態で能力100パーセントの力でパンチを繰り出したために右腕はおしゃかになった上、銃撃を浴びたことで腕やら足やら腹部やらが抉られておりアチコチから血が流れ出ていた。

 「ぐ……ふ……」

 渡辺が苦悶の表情でひん曲がった右腕を左手で抑える。額からは汗が大量に滲み出ていた。
 そんな渡辺を見てディックは改めて思う。

 いくらアドレナリンが出ていたとしても、普通は立ってられる身体じゃない……前に、知世がコイツのことを"末恐ろしい"と評価していたが、なるほど、その意味がよくわかったぜ。
 コイツの意思はまるで鋼だ。
 いくら叩いても折れる気がしねぇ。

 ……意思といえば……渡辺との共闘は何だか妙な感じだ。アイツが次にやろうとしていることが何故だかわかっちまう。
 そんでもって多分、向こうも俺の考えを見通してやがる。アイツの方も俺がやりたい動きに合わせていたからな。
 …………渡辺のチート能力は単純に身体能力の大幅な強化だけじゃない気がする……何かもっと大きな……チート能力という枠には当てはまらない、全く別の何かのような……。


 「うわああぁ!!」「だ、駄目だ! 抑えきれない!」「逃げるな! 逃げた奴も反逆者と見なすぞ!」「こんなときにエメラダは何してやがんだ!」

 収容施設から騒々しい声たちが聞こえてきた。どうやら、地下牢から多くの騎士たちが逃げ出してきたようだ。
 地下は既に脱獄した囚人で溢れかえっており、アルカトラズ全体が反逆者らに制圧されるのも時間の問題だった。

 「おーい、ディックー!」

 騎士と囚人が戦っている間をすり抜けて、エマとアイリスが駆けてきた。

 「よう、そっちは順調みてぇだな」

 「まぁね。四代目女王が強いのなんの。一人でほとんど無双してたわ」

 「だろうな。女王には『読心』と『絶対服従』があるからな」

 「そっちは……順調ってわけじゃないね」

 エマが、ディックと渡辺の傷の具合から判断する。

 「ワタナベさん酷い怪我デース!」

 「ああ、そういうことだからアイリス、俺と渡辺に回復を頼む」

 「ハイハーイ! 先にワタナベさんからデースよ!」

 アイリスが、渡辺の体に両手を添えて『回復魔法』を発動する。

 「私は? 回復しなくていいの?」

 「エマはアルーラ城と仕事場にいる俺のパートナーたちをここへ連れてきてくれ。俺が国を裏切ったって情報が城に伝われば何されるかわからねえからな。ミカも忘れるなよ」

 「ああ、わかったよ」

 「あと、ルーズルーも連れてきてくれ」

 「え? ルーズルーって、あのジメジメ女を? 何でまた……」

 「渡辺の能力を全開で使えるようにするためさ。あの引きこもり野郎の『防御支援』があれば、渡辺は俺に匹敵する戦力になるからな」

 「えぇ……」

 先程までの渡辺の戦いぶりを見ていなかったエマには渡辺が戦力になるなんて話は信じられなかった。
 それでも主人の命令には従うのがパートナーの役目なので、言われた通りにエマは行動を開始することにした。

 「わかったよ、それじゃあ私は……!」

 エマが遠くにいる人物を見て絶句した。
 渡辺とディックもエマの視線を追い、その人物に視線を移す。
 エメラダだ。
 居住区に落とされたエメラダが、居住区と収容施設を隔てている壁の上に立っていた。着ているコートはボロボロで額からは血も流していたが、まだまだ余力が残っている様子だ。

 「やっぱりな。あの程度で倒れるはずがない」

 「おい、手に何か持ってるぞ」

 渡辺の言うとおり、エメラダの手にはミニガンとは別の銃火器が両手に握られていた。

 「あれは……グレネードランチャー!」

 シュポンッ
 見た目に反して間の抜けた発射音が鳴り、擲弾が発射される。
 擲弾はディックたちがいる場所とは全く違う方向へ飛んでいき、爆発した。
 そこはちょうど街を吹雪から守っている巨大な壁だった。

 「な、何だ? 手元が狂ったのか?」

 そう思うディックだったが、その後も壁の特定の位置に何発も擲弾を撃ち込んでいく。
 すると、街を覆っていた半透明の黄色い壁――『物理反射バリア』と『魔法反射』が揺らぎ始めた。

 「まさかアイツ、魔法陣を狙って撃ってやがるのか?!」

 魔法陣とは10年以上前にドロップスカイで発見された技術で、高い魔力を持つ者の血で描かれた特定の模様を意味する。
 描かれた模様によって魔法の効果をより拡大したり持続時間を長くしたりできることが知られており、過去に千頭たちジェヌインを捕えようとバミューダを丸々包み込んだ『魔法反射』も魔法陣によって範囲を広げたものである。

 「アンタの母親は一体何を考えてるのさ。壁を壊したら余計に脱走者が増えちまうだろうに」

 エマは首を傾げる。

 「今に始まったことじゃないが、俺にはあの女の考えはわからねーよ。……けど」

 アルカトラズを包んでいた『物理魔法』と『魔法反射』が完全に消える。

 「これはこれでチャンスだぜ! 行けエマ!」

 「はいよ!」

 エマが『瞬間移動』でアルーラ城へと飛んでいった。

 「よし、これでパートナーの方は一安心だな。朗報だぜ、渡辺。もうすぐミカがこっちに来るぞ……と……」

 渡辺がまじまじとエメラダを見ていた。

 「おい、どうした?」

 「……アイツ……今……『精神感応テレパシー』の魔法石を手元で砕いたぞ」

 「……何?」

 「ひょっとしてフィラディルフィアに応援を呼んだじゃないのか?」

 「なーるほど、援軍を呼ぶために壁を……けどな、これだけの事態だ。沈静化するには一個旅団あたりの数で部隊編成する必要がある。向こうもすぐには来れないはずだ。その間にエメラダだけでも――」

 「ディーック!!」

 突然、アイリスが大声を上げた。

 「今度は何だよ!」

 「こっちに人が『瞬間移動』してきマース!」

 「なっ! 騎士団の連中がもうここへやって来るっていうのかよ! 準備良すぎやしないか?!」

 「それが向かってくるのはたったの3人デース!」

 「――3人?! どういうことだ。エメラダはたった3人だけを呼んだっていうのか?! 俺の母親はアホになったのか?! いくらなんでも3人だけでこの戦況をひっくり返せるわけが……待てよ……3人……だと?」

 3という数字にディックは思い当たる節があった。
 四大勇者の一人であるエメラダが呼ぶ3人。

 「……マジかよ」

 ディックが呟いた。
 次の瞬間、エメラダを十二時の方向として、三時の方向に弓矢を担いだ小麦肌の女が。九時の方向にモノクルをかけた初老の男が。六時の方向に刀を腰に差した和服の女が。ディックたちを囲むようにしてその場に現れた。

 「……やべーなこりゃあ……国を守護せし4人の英傑が揃い踏みだぜ……」

 「……強いのか?」

 渡辺が問う。

 「強いなんてもんじゃない。ルーノールがいないって条件付きでありゃ、こいつら4人だけでフィラディルフィア王国を陥落させられるレベルだ」
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