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第四章 ― 革命 ―
第108話 …………………………ね
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アルーラ城の地下には数多の牢獄がある。個室から総室サイズまで大きさは様々だが、鉄格子と石壁から成る直方体の空間という部分についてはどの牢屋も共通している。他にも共通しているのは、水洗トイレと鳥の羽や獣の毛が敷き詰められた寝具があるくらいか。
そんなアルーラ城の牢屋の中に罪人はいない。罪人はすべてアルカトラズへ送られるからだ。ならば誰が入れられているのか。
3種類いる。
1つは『禁じられたチート能力』を持つ者。
能力の効果が強力過ぎるが故に、自身の肉体に害を及し味方も巻き込んしまう力は、王国に危険視され子どもにその能力を与えることを禁じた。禁じられたチート能力者は子供を作ってはならないのだ。
しかし、何事にも例外はある。
『禁じられたチート能力』は強力なだけあり、魔人に対しても十分な効果を発揮する。それをみすみす手放したくなかった王国は、能力者に一人だけ子供を作ることを認めた。王国が騎士団の中から選んだ一人の異性とまぐわい、能力を存続させるのである。
ちなみに、用意する異性だが、戦闘系の能力を有していない者に限定される。何故なら、もし産まれた子供が強い能力を持って、その子供が王国に反逆した場合、鎮圧により多大な犠牲を払う必要が出てくるからである。
以上の経緯を得て、アルーラ城の地下深く、幾重にも『魔法反射』が四方に貼られた牢屋の中に、禁じられたチート能力者たちが数人収容されている。
牢屋で産まれ、物心がつく前に危険な能力を持つ片親は処分され、番にされた親の顔も知らず、ただ牢屋という世界で王国にとって都合のいい知識だけ学ばされて一生を過ごす。能力の保存。それが彼らに与えられた人生の意味なのだ。
酷い話だが、当の本人達は自分が不幸な立場にあることもわかっていない。王国という育ての親の言葉を疑わず信じているのである。
本当の幸福を知らない分『階層跳躍』の能力を与えられてやってきた転生者よりもマシなのかもしれない。
『階層跳躍』はあらゆる経験を脳内または体内に効率良く吸収する能力で、レベルとステータスが上昇しやすい、あるだけで得をする能力なのだ。そのため、カトレア女王は戦力向上のために可能な限り『階層跳躍』の能力者を増やす計画を立てた。
その内容が『階層跳躍』の能力者に子供を作らせるというものである。
実質、性奴隷だ。
アルーラ城の地下のある一室では、毎日昼も夜も女性と男性の苦渋に満ちた声がこだましていた。それも一人や二人ではない。
その部屋では男と女の営みが延々と行われ、それにより溢れる吐息や滲み出た汗が水蒸気となって湿度を高めている。女や男の体液がそこら中に撒き散らされ、鼻につく臭いが立ち込めている。
『階層跳躍』の女は全裸の状態で、天井から吊るされた鎖に両手首を拘束され、また男は台の上に仰向けで無様な姿を晒して両手両足を固定されている。手当てが欲しい者、騎士団の仕事の一つとしてこなしている者、性欲を満たしたい者、様々な目的を持った人間が彼らの尊厳を蹂躙していた。
「…………うぅ」
その部屋から離れた場所にある牢屋の隅で、高校の制服姿の市川 結が欲望により発せられた声や臭いに身を竦ませ膝を抱える。部屋は離れているが、扉から漏れてくるのだ。
彼女は渡辺 勝麻と同じ高校に通うクラスメイトだったのだが、13日前に地球でトラックに轢かれて故人となった後、神に転生させられ異世界へ送られた。異世界にやってきて3日目に能力が『階層跳躍』だとわかり、騎士たちにここへ連れてこられてしまったのだ。
「渡辺君……どこにいるの?……私、渡部君がいないと――!」
慕う男の笑顔を思い出して、何とか正気を保とうとしているところに、鉄格子に鎧がぶつかる音が響いた。
市川が肩を飛び跳ねさせる。
「へへへ…………」
まただ……またあの男の人が私を見てる!
せせら笑いだけで、鉄格子越しに誰がいるのかわかった市川は、その男と顔を合わせないように下を向き、さらに縮こまった。
市川はこの男のことを、ここへ来た初日から知っている。
おそらく忘れることはない。鎧の上からでもわかるほど肥えた腹に脂ぎった顔をしている男の、市川に会って最初に言い放った言葉が、
「――ねぇ、君って、処女?」
であったことを。
「まーたそいつか? このロリコン野郎」
そばにいた別の男がゲラゲラと笑う。
「違うわい。コイツは弄るとブルブル震え出すのが面白いから楽しんでるだけさね」
「ふーん。あ、そーだ。最初の一回目は連れ立ってきたデューイとかいうガキとヤらせるのはどうだ。まだ精通もしてなさそうなガキ相手にこの女がどう反応するのか見物だぞ」
「たわけ。『階層跳躍』同士でヤらせても意味ないだろ。ワシがコイツの最初の男になってやるのよ。王国への申請も既にそれで通っているわ」
「え」
信じられない話に、市川はつい顔を上げてしまい、おぞましいものを目に入れてしまった。
男がジュルリと舌なめずりしながら、鎧の上から股間を擦っていたのだ。
「あ――」
……渡辺君……私、怖いよ……。
この男に犯される。
そんな最悪のイメージを浮かべた市川は、ショックで気を失ってしまった。
「ウヒ……ウッヒッヒッヒ! やっぱりな、面白いわ、このチンチクリン。本番じゃ一体何回失神するのか楽しみだわい。どれ、今の調子でいくと3,4日後あたりか。それまで、しこたま注げるように玉に溜めておくとしよう。ウヒヒ!」
欲にまみれた男の気味の悪い笑い声が響くのと同じ頃、アルーラ城の地下でも浅い場所に位置する牢屋では、一人の女性が闘っていた。
その牢屋には、主人と死別したパートナー、あるいは主人が罪人となり引き離されてしまったパートナーたちが一時的に入れられており、彼らはそこで、パートナーを持たない主人に身柄を売り渡されるのを待っている。端的に言って、人身売買が行われているのである。
「うっ……」
今その商品の中の一つが、必死に抗っていた。
透き通るような青い髪は砂に塗れ、白かった肌も赤く滲んでいる。
「……ったく、しつこい女だねぇ!」
女騎士がため息を漏らして、商品を見下す。
「……お願い……です……どうか、ショウマ様に会わせてください」
商品は――マリンは華奢な体に力を入れて立ち上がると、淡青色の瞳を女騎士に真っ直ぐ向ける。
「最後、とても酷い怪我をしていたんです……無事かどうか……せめて一目だけでも――!」
女騎士が篭手を装着している手でマリンの頬を叩いた。それも金属に覆われている手の甲側で。
「同じ事を何度言えば気が済む? お前らに頼みごとをする権利なんてないんだよ!」
マリンは打たれた頬を押さえる。
ジリジリと痛い。
それでも、マリンは口を閉ざそうとしなかった。
「おね――あぐっ!」
いい加減耐えかねた女騎士がマリンの腹部に膝蹴りを入れた。溜まらず、マリンは腹を押さえて蹲る。
痛々しい光景に、周りで見ていたパートナーたちも思わず目を背けた。
「これでわかっただろ! 次に何か口にしてみな! そのときは、その舌を切り落としてやる!」
「ゲホゲホッ……」
マリンは咳き込みながらも、女騎士を見上げた。
「ッ! ざけんな!」
女騎士は激昂し、マリンの脇腹を蹴った。
マリンの目は懲りていなかった。だから、マリンが言葉を発するよりも早く暴力で封じ込めたのだ。
「ちょっとちょっと、舌を切り落とすなんて物騒な台詞が聞こえてきたんで来て見れば、か弱い女性に何をやってるんですか?」
そこへ男の騎士がやってきた。
「一応売り物なんだから、傷を付けられたら困ります」
「ふんっ、その程度の傷『回復魔法』の魔法石を使えばすぐに消える」
「そりゃあそうですがね。魔法石だってタダじゃないんですから、ほどほどにしてくださいよ」
「こいつは自分の立場が全然わかっちゃいないんだよ。この一週間、主人に会わせろ会わせろの一点張りさ」
「なるほど、そういうことでしたか。確かに、それは売りに出す際に困りますね。わかりました。ここからは私が相手しましょう」
男の騎士が、装備していた鎧を脱いでいく。
「ああん? どーすんのさ?」
「女のあなたがやるよりは効果的なことを」
「あーそういう……っておいおい、孕んだらどうすんだよ。上から怒られるだろ」
「そこまでは致しませんよ」
まだ脇腹を押さえて咳き込んでいるマリンへ近づくと、男はマリンを仰向けにして馬乗りになった。
「えっ」
突然のことに目を見開くマリン。
男はマリンの両手を頭の上に置き片手で拘束すると、もう片方の手で襟ぐりから衣服を破いた。
「おや、思った以上に大きいですね。これは楽しめそうだ」
下着に包まれたマリンの乳房を見て、男は嫌らしい笑みを浮かべた。
「い、イヤッ!」
マリンは抵抗しようとするが、現役の騎士の力にモンスターと戦ったこともない女の力が敵うわけもなかった。
「ククク、せいぜい抵抗しなさい。その方が嬲り甲斐があるというもの」
男は懐から短剣を取り出し、その切っ先で下着を切り裂いた。
瞬間。
マリンの全身を氷のように冷たい悪寒が支配した。
「あ……あ……」
マリンは渡辺と過ごしていたときには、一度もしたことがない表情を浮かべる。
まるで、この世のモノとは思えないような存在を目の当たりにしたかのように、目は一点だけを捉え、唇は震えていた。
「あ……ヤ……線……線が……」
「あ? 線? 何言ってんだこの女」
「さぁ、何でしょう?」
マリン自身わけがわからなかった。とにかく全身が警告音を発して身の毛がよだち、心臓は鼓動を早める。
無尽蔵に湧き出る恐怖に飲み込まれてしまう。
「ヤアアアアアアアァアアァァアァア!!!!!」
その恐怖に耐えかねてマリンは絶叫する。
「ハハハ! 何であれ、効果覿面のようだ! ほら、続けますよ!」
……ヤダ……コワイ……ツライ…………。
……ショウマ様……たす…………けて…………。
救いを求める心の嘆き。
それは、監獄山アルカトラズの地下に投獄され、7日間意識不明のままだった渡辺勝麻に届き、目覚めさせた。
届いた叫びや自らの状況に対して、顔に困惑の色を浮かべていたのも束の間、ゆっくりと眉間にしわが寄っていき、歯もむき出しになっていく。
そして、渡辺は仰向けのまま片手を天井に向けて伸ばす。
怒りが湧き上がる。
それも、かつて、自分を下等な存在と嘲笑っていた悪魔共に、鉄槌を下したあの時以上に。
絶対的な殺意が湧き上がる。
その殺意に導かれ、渡辺は王国という新たな悪魔に向けて、あの時よりも、重く、深く、心の中で唱える。
………………………………… 死 ね
伸ばしていた手を拳に変えた。
そんなアルーラ城の牢屋の中に罪人はいない。罪人はすべてアルカトラズへ送られるからだ。ならば誰が入れられているのか。
3種類いる。
1つは『禁じられたチート能力』を持つ者。
能力の効果が強力過ぎるが故に、自身の肉体に害を及し味方も巻き込んしまう力は、王国に危険視され子どもにその能力を与えることを禁じた。禁じられたチート能力者は子供を作ってはならないのだ。
しかし、何事にも例外はある。
『禁じられたチート能力』は強力なだけあり、魔人に対しても十分な効果を発揮する。それをみすみす手放したくなかった王国は、能力者に一人だけ子供を作ることを認めた。王国が騎士団の中から選んだ一人の異性とまぐわい、能力を存続させるのである。
ちなみに、用意する異性だが、戦闘系の能力を有していない者に限定される。何故なら、もし産まれた子供が強い能力を持って、その子供が王国に反逆した場合、鎮圧により多大な犠牲を払う必要が出てくるからである。
以上の経緯を得て、アルーラ城の地下深く、幾重にも『魔法反射』が四方に貼られた牢屋の中に、禁じられたチート能力者たちが数人収容されている。
牢屋で産まれ、物心がつく前に危険な能力を持つ片親は処分され、番にされた親の顔も知らず、ただ牢屋という世界で王国にとって都合のいい知識だけ学ばされて一生を過ごす。能力の保存。それが彼らに与えられた人生の意味なのだ。
酷い話だが、当の本人達は自分が不幸な立場にあることもわかっていない。王国という育ての親の言葉を疑わず信じているのである。
本当の幸福を知らない分『階層跳躍』の能力を与えられてやってきた転生者よりもマシなのかもしれない。
『階層跳躍』はあらゆる経験を脳内または体内に効率良く吸収する能力で、レベルとステータスが上昇しやすい、あるだけで得をする能力なのだ。そのため、カトレア女王は戦力向上のために可能な限り『階層跳躍』の能力者を増やす計画を立てた。
その内容が『階層跳躍』の能力者に子供を作らせるというものである。
実質、性奴隷だ。
アルーラ城の地下のある一室では、毎日昼も夜も女性と男性の苦渋に満ちた声がこだましていた。それも一人や二人ではない。
その部屋では男と女の営みが延々と行われ、それにより溢れる吐息や滲み出た汗が水蒸気となって湿度を高めている。女や男の体液がそこら中に撒き散らされ、鼻につく臭いが立ち込めている。
『階層跳躍』の女は全裸の状態で、天井から吊るされた鎖に両手首を拘束され、また男は台の上に仰向けで無様な姿を晒して両手両足を固定されている。手当てが欲しい者、騎士団の仕事の一つとしてこなしている者、性欲を満たしたい者、様々な目的を持った人間が彼らの尊厳を蹂躙していた。
「…………うぅ」
その部屋から離れた場所にある牢屋の隅で、高校の制服姿の市川 結が欲望により発せられた声や臭いに身を竦ませ膝を抱える。部屋は離れているが、扉から漏れてくるのだ。
彼女は渡辺 勝麻と同じ高校に通うクラスメイトだったのだが、13日前に地球でトラックに轢かれて故人となった後、神に転生させられ異世界へ送られた。異世界にやってきて3日目に能力が『階層跳躍』だとわかり、騎士たちにここへ連れてこられてしまったのだ。
「渡辺君……どこにいるの?……私、渡部君がいないと――!」
慕う男の笑顔を思い出して、何とか正気を保とうとしているところに、鉄格子に鎧がぶつかる音が響いた。
市川が肩を飛び跳ねさせる。
「へへへ…………」
まただ……またあの男の人が私を見てる!
せせら笑いだけで、鉄格子越しに誰がいるのかわかった市川は、その男と顔を合わせないように下を向き、さらに縮こまった。
市川はこの男のことを、ここへ来た初日から知っている。
おそらく忘れることはない。鎧の上からでもわかるほど肥えた腹に脂ぎった顔をしている男の、市川に会って最初に言い放った言葉が、
「――ねぇ、君って、処女?」
であったことを。
「まーたそいつか? このロリコン野郎」
そばにいた別の男がゲラゲラと笑う。
「違うわい。コイツは弄るとブルブル震え出すのが面白いから楽しんでるだけさね」
「ふーん。あ、そーだ。最初の一回目は連れ立ってきたデューイとかいうガキとヤらせるのはどうだ。まだ精通もしてなさそうなガキ相手にこの女がどう反応するのか見物だぞ」
「たわけ。『階層跳躍』同士でヤらせても意味ないだろ。ワシがコイツの最初の男になってやるのよ。王国への申請も既にそれで通っているわ」
「え」
信じられない話に、市川はつい顔を上げてしまい、おぞましいものを目に入れてしまった。
男がジュルリと舌なめずりしながら、鎧の上から股間を擦っていたのだ。
「あ――」
……渡辺君……私、怖いよ……。
この男に犯される。
そんな最悪のイメージを浮かべた市川は、ショックで気を失ってしまった。
「ウヒ……ウッヒッヒッヒ! やっぱりな、面白いわ、このチンチクリン。本番じゃ一体何回失神するのか楽しみだわい。どれ、今の調子でいくと3,4日後あたりか。それまで、しこたま注げるように玉に溜めておくとしよう。ウヒヒ!」
欲にまみれた男の気味の悪い笑い声が響くのと同じ頃、アルーラ城の地下でも浅い場所に位置する牢屋では、一人の女性が闘っていた。
その牢屋には、主人と死別したパートナー、あるいは主人が罪人となり引き離されてしまったパートナーたちが一時的に入れられており、彼らはそこで、パートナーを持たない主人に身柄を売り渡されるのを待っている。端的に言って、人身売買が行われているのである。
「うっ……」
今その商品の中の一つが、必死に抗っていた。
透き通るような青い髪は砂に塗れ、白かった肌も赤く滲んでいる。
「……ったく、しつこい女だねぇ!」
女騎士がため息を漏らして、商品を見下す。
「……お願い……です……どうか、ショウマ様に会わせてください」
商品は――マリンは華奢な体に力を入れて立ち上がると、淡青色の瞳を女騎士に真っ直ぐ向ける。
「最後、とても酷い怪我をしていたんです……無事かどうか……せめて一目だけでも――!」
女騎士が篭手を装着している手でマリンの頬を叩いた。それも金属に覆われている手の甲側で。
「同じ事を何度言えば気が済む? お前らに頼みごとをする権利なんてないんだよ!」
マリンは打たれた頬を押さえる。
ジリジリと痛い。
それでも、マリンは口を閉ざそうとしなかった。
「おね――あぐっ!」
いい加減耐えかねた女騎士がマリンの腹部に膝蹴りを入れた。溜まらず、マリンは腹を押さえて蹲る。
痛々しい光景に、周りで見ていたパートナーたちも思わず目を背けた。
「これでわかっただろ! 次に何か口にしてみな! そのときは、その舌を切り落としてやる!」
「ゲホゲホッ……」
マリンは咳き込みながらも、女騎士を見上げた。
「ッ! ざけんな!」
女騎士は激昂し、マリンの脇腹を蹴った。
マリンの目は懲りていなかった。だから、マリンが言葉を発するよりも早く暴力で封じ込めたのだ。
「ちょっとちょっと、舌を切り落とすなんて物騒な台詞が聞こえてきたんで来て見れば、か弱い女性に何をやってるんですか?」
そこへ男の騎士がやってきた。
「一応売り物なんだから、傷を付けられたら困ります」
「ふんっ、その程度の傷『回復魔法』の魔法石を使えばすぐに消える」
「そりゃあそうですがね。魔法石だってタダじゃないんですから、ほどほどにしてくださいよ」
「こいつは自分の立場が全然わかっちゃいないんだよ。この一週間、主人に会わせろ会わせろの一点張りさ」
「なるほど、そういうことでしたか。確かに、それは売りに出す際に困りますね。わかりました。ここからは私が相手しましょう」
男の騎士が、装備していた鎧を脱いでいく。
「ああん? どーすんのさ?」
「女のあなたがやるよりは効果的なことを」
「あーそういう……っておいおい、孕んだらどうすんだよ。上から怒られるだろ」
「そこまでは致しませんよ」
まだ脇腹を押さえて咳き込んでいるマリンへ近づくと、男はマリンを仰向けにして馬乗りになった。
「えっ」
突然のことに目を見開くマリン。
男はマリンの両手を頭の上に置き片手で拘束すると、もう片方の手で襟ぐりから衣服を破いた。
「おや、思った以上に大きいですね。これは楽しめそうだ」
下着に包まれたマリンの乳房を見て、男は嫌らしい笑みを浮かべた。
「い、イヤッ!」
マリンは抵抗しようとするが、現役の騎士の力にモンスターと戦ったこともない女の力が敵うわけもなかった。
「ククク、せいぜい抵抗しなさい。その方が嬲り甲斐があるというもの」
男は懐から短剣を取り出し、その切っ先で下着を切り裂いた。
瞬間。
マリンの全身を氷のように冷たい悪寒が支配した。
「あ……あ……」
マリンは渡辺と過ごしていたときには、一度もしたことがない表情を浮かべる。
まるで、この世のモノとは思えないような存在を目の当たりにしたかのように、目は一点だけを捉え、唇は震えていた。
「あ……ヤ……線……線が……」
「あ? 線? 何言ってんだこの女」
「さぁ、何でしょう?」
マリン自身わけがわからなかった。とにかく全身が警告音を発して身の毛がよだち、心臓は鼓動を早める。
無尽蔵に湧き出る恐怖に飲み込まれてしまう。
「ヤアアアアアアアァアアァァアァア!!!!!」
その恐怖に耐えかねてマリンは絶叫する。
「ハハハ! 何であれ、効果覿面のようだ! ほら、続けますよ!」
……ヤダ……コワイ……ツライ…………。
……ショウマ様……たす…………けて…………。
救いを求める心の嘆き。
それは、監獄山アルカトラズの地下に投獄され、7日間意識不明のままだった渡辺勝麻に届き、目覚めさせた。
届いた叫びや自らの状況に対して、顔に困惑の色を浮かべていたのも束の間、ゆっくりと眉間にしわが寄っていき、歯もむき出しになっていく。
そして、渡辺は仰向けのまま片手を天井に向けて伸ばす。
怒りが湧き上がる。
それも、かつて、自分を下等な存在と嘲笑っていた悪魔共に、鉄槌を下したあの時以上に。
絶対的な殺意が湧き上がる。
その殺意に導かれ、渡辺は王国という新たな悪魔に向けて、あの時よりも、重く、深く、心の中で唱える。
………………………………… 死 ね
伸ばしていた手を拳に変えた。
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