俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第106話 …………

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 遥か彼方の次元での罪は思う。


 あー、ヤレヤレ。

 呆れ過ぎて疲れてしまいました。無能はどこまでいっても無能ということでしょうか。
 何故、皆私の言葉が聞けないのか。私が正しいのは明白だというのに。

 誰も彼も、本当に憐れでならない。

 世界を救うために、少しでも声が届くようにしなくては。

 ―――――


 渡辺 勝麻が監獄へと移送された頃。

 バミューダから南へ五百キロ以上離れた海原の底深くで、長髪の男がだるそうに目を開けた。

 男は岩を削って作られた椅子に腰掛けており、物憂げな表情で上を見上げる。
 真っ暗だ。
 海という分厚い天井が、日の光を完全に遮っている。なのに、ここが完全に闇に覆われないのは、体を発光させている魚たちのおかげである。
 魚たちが男の周りを蝶のように軽快に泳ぎ回る。魚たちは男に懐いている様子だ。

 男はその気持ちに応えるかのように、魚たちにそっと手を伸ばし胴部分を軽く撫でる。

 「お目覚めですか、アクアリット様」

 女性の声――女性の発した音波が、アクアリットと呼ばれた男の脳内で反響した。
 男が前に視線を送ると、女が立っていた。

 「ああ」

 アクアリット。彼こそ、第二次魔人戦争でバミューダの半分を海に沈めた張本人。すべての魔人を統べる者である。

 アクアリットも彼に語りかけた女も、一見人間と同じ姿をしているように見えるが、上半身の脇腹や両腕の外側を覆う鱗と、腕や耳に生えた魚のヒレに似たような構造が人間とは違う存在であることを主張している。

 「……お前が最後に話しかけてからどれだけ経った?」

 低く沈んだ音波が海中に拡散される。

 「2年です。ずっと眠っているようでした」

 女は無表情に答えた。

 「魔人は眠らない」

 「はい、存じております。ただ、目を閉じて座ったままでいたのが、そのように目に映りました」

 「そうか」

 アクアリットの表情は変わらない。だるそうなまま。諦観に満ちた表情。

 「魔人たちはどうしている?」

 「昔と何ら変わりはありません」

 「そうか。ならばヴィルトゥーチェも同じか」

 「はい。アクアリット様の命令を無視して、度々人間の生活圏に足を運んでいます。2ヶ月ほど前も人間界にある首都近辺を散歩なさっていたらしく、彼女の部下たちも困り果てていました」

 「そうか」

 「よろしいのですか?」

 「何がだ?」

 「命令に従わなかったことを、お咎めにならないのですか?」

 「大事になっているわけでもないのだろう? それに、咎めて変わるものであるなら咎めている。だが、アレは変わらない。アレはとしてこの世に生を享けた。好きにさせておけばいい」

 アクアリットは肘掛けに置いていた片方の腕で頬杖をつく。

 「……遅かれ早かれ、俺たちは滅びる定め。なればこそ、多少の勝手には目を瞑ってやる」

 「アクアリット様がそう仰るのであれば、それに従うまででございます」

 そう言って、頭を下げる女をアクアリットは見向きもしなかった。
 アクアリットの紫の瞳は、ここではないどこか――決して手が届くことはない遠くの世界を捉えていた。
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