103 / 172
第三章 ― 筆頭勇者と無法者 ―
第100話 クロノスへの祈り
しおりを挟む
ディックと思われる影が、ライフルでジェヌインたちを圧倒する様子を、渡辺は砂浜から眺めて呆然としていた。
「あ、アイツってメイン武器ライフルだったのかよ」
「そうでーす! 草薙家が刀であるように、アイゼンバーグ家は銃の技術を子へと受け継がせていますからねー!」
「使う武器が決まっていれば、自ずと必要になるチート能力も決まってくる。だから、それぞれの勇者の家は使う武器の種類を一つに絞って効率良くしてるのさ」
アイリスとエマの説明を聞き、渡辺は納得する。
なるほど、それでディックはライフルに適したチート能力を持ってるってワケか。
「皆さん、私語はそこまでに。客人です」
ビーチの入り口を見張っていた知世が、埠頭から砂浜までやってきた例の老人を含むジェヌインのメンバーたちを見やる。
人数は8、その中でも一番の実力の持ち主があの老人だ。
知世はそれを砂浜での走り方だけで看破した。
その注目の老人が知世の前までやって来て言う。
「おや、アナタは知世さんですか? ディックさんと仲がいいとは聞き及んでいましたが、私情に付き合うほどでしたとは」
「私にとっても、セラフィーネさんは良き友でしたので。むしろ私の方からディック殿にお願いしたのですよ」
「やはり、彼女を取り返すのが一番の目的ですか」
セラフィーネ。
聞いたとことない人名に、渡辺とオルガは蚊帳の外状態となり、ただ会話に耳を傾けた。
「おい、アンタ。セラフィーネに何かしてないだろうな」
エマが鋭い目つきで、老人を刺すように睨む。
「傷は付けていませんよ。ただ、7、8歳は若くなりましたかね」
「――やっぱり! 『クロノスへの祈り』を使わせやがったな!」
「それはそうでしょう。そのチート能力が目的で彼女を攫ったのですから。それにいいじゃないですか。若くなれるなんて私からしたら羨ましいくらいですよ」
「能力の代償は若返りだけじゃない! 逆に老化する場合もある! 完全にランダムなんだ! いくつ歳が増えるのか減るのかもわからない! 歳が増え過ぎれば寿命を迎えちまうし、逆に減り過ぎれば受精卵の状態まで戻って死ぬんだ!」
「ええ、わかっていますよ。時間を操るという神にも等しい行いが、どんなリスクを伴うのか」
「お前! わかってて――」
知世がエマの前に腕を出して、制する。
「相手の調子に乗せられてはいけませんよ。エマ殿」
……落ち着いている。いや、落ち着き過ぎている。
知世から見て、老人が動揺していないのが異様だった。予期しないディックの乱入。自分たちのボスが狙撃され、こうして仲間にも合流された。普通なら冷や汗をかいてもいい場面のはずなのだ。実際、老人以外は狼狽しているのが誰の目から見てもわかるものだった。
……千頭は撃たれました。あまりにもあっさりと。10年以上も騎士たちが追い続けてきたのが嘘のように…………嘘だった?……ディック殿、もしかすると、してやられたのは私達の方かもしれませんよ!
*
「それじゃ、今からオメーをお縄に頂戴してやる。縛り方は亀甲縛りがいいか? ん?」
横向きに倒れ、金髪の髪で顔が覆われている千頭をディックは嘲笑する。
「まぁどんな縛り方にせよ、うっ血するぐれーきつくしてやる。んでもって盗んだもん全部返してもらうぜ。ったくバミューダ名物の船まで奪いやがって」
ディックは『道具収納』の魔法石を黒いコートの中から取り出し、突起部分――ピンを引き抜いた。
ディックの横に紫色の穴が現れる。ディックから見て穴の中には捕縛用の縄が、透明な床の上に置かれているようにあり、それを手に取ろうとディックは手を伸ばした。
「若さかな、詰めが甘いよ」
気絶していると思っていた千頭から声が聞こえ、ディックは戦慄する。
「――ッ!!」
慌てて千頭の方を向いたときには、既に千頭は仰向けの状態で銃口をディックの顔面に向けていた。
雷管を叩き爆発を起こす撃鉄。
その爆発で発射された弾丸が、ライフリングにより回転しながら、ディックの眉間に向かって真っ直ぐ飛んでいく。
普通なら、どう足掻いても避けられない状況だったが、ディックは『加速』の能力をフルに発揮して上体を反らすことで、間一髪、銀髪の前髪が少々切断される程度で済んだ。
あっぶねぇ! いくら俺でもこの距離でモロにくらってたら死んで――!
安堵も束の間。右膝裏に金槌で殴られたかのような衝撃が加えられ、ディックは背中から倒れる。
は? 弾丸?! まだスナイパーがいやがったのか?!
上体を起こした千頭が、仰向けに倒れているディックに銃を連射する。
「くっ!」
ディックは何とか地面を転がってこれを避け、そのまま勢いにのって立ち上がった。
うっ!
そのとき、ディックは右膝の異常に気づいた。
尋常ではない痛み。今ので靭帯をやられたらしく、膝がわらって上手く力が入らない。
「ほー、まだ立っていられるとはね。僕たちの世界だったら間違いなく足が千切れ飛ぶほどの威力だったんだけれど」
千頭に一言言い返してやりたかったディックだが、痛みで思考がまとまらない。
それだけではない。さらに予想しなかった事実にディックは戸惑った。
――なっ! 額に傷がねぇ!
被弾したはずの千頭の額には、攻撃を受けた痕が一切無かったのだ。
「驚いたかい? 今夜君が現れるだろうことはわかっていた。そう仕向けたからね。あとは、いつ狙撃されるかだけど、君は相手が勝利を確信して油断しているときに狙い撃つ傾向があるよね。それさえわかっていれば、あとは簡単だ。来ると思ったときに、こうすればいい」
千頭が自らの額の前に、野球ボールほどの大きさの紫色の穴を創り出す。
……そういうことかよ。
ディックはそこまで言われて、これまで調査で得てきたジェヌインの情報は、自分を誘い出すために千頭がわざとばらまいたものであることを理解した。故に、自分への対策が万全であることは想像に難くなかった。
「ディック君。僕はね、君の執念に感服してるんだ。正直なところ、君は本当に厄介だったよ。君のせいで作戦を実行に移せないことが何度もあったからね。だからこそ、今ここで殺させてもらうよ」
千頭が再び発砲する。
「くっ!」
ディックが『位置交換』を使おうとしたが、それを予測していた千頭は発砲と同時に魔法石で『魔法反射』を展開し、ディックのチートを無効化する。
「しまっ――ウグッ!」
弾丸に腹の表面を抉られる。
続けてもう一発、千頭から弾丸が発射された。
痛む腹部を手で抑えながらディックは『動体視力』で銃弾の軌道を読み、上半身を傾けてこれをかわすも、直後に脇腹をペンチで捻じ切られるような痛みが襲う。
「つぅっ!」
脇腹から潰れた弾頭が落ち、金属音を奏でる。
やっぱり撃ってきてやがる! けど、どこからだ?! さっきから『鷹の目』と『透視』でそれらしい場所は探っているが人影なんてどこにもねぇ!
「どうやら大分足にきているみたいだね」
言いながら千頭は撃つ。
ディックはまた同様の動きでかわすも、やはり別方向から飛んできた銃弾を今度は肩に受けた。
ディックはすぐに銃弾が飛んできた方角を見やるが、誰もいない。
いない……やっぱ誰もいやがらねぇ! あの憎たらしい野郎以外、俺を狙えるヤツは……!
ディックはハッとした。
……まさか……千頭の仕業? あり得ねぇ。アイツの能力は『道具収納』だ。飛び道具の軌道を自在に曲げられる『必中』の能力みたいなものじゃ……待てよ……ある。確かに理論上はできる! けど、本当にんなことが可能なのか?
「君も渡辺君と同じで結構顔に出るタイプだよね。似た者同士だ」
千頭から次の弾丸が発射された。
来た! とにかく、この一発で確かめるっきゃねぇ!
ディックはこれも上体を傾けて避けたが、今回はそれだけに終わらず、自分の脇を過ぎ去っていく弾丸を目で追った。
それにより、ディックは攻撃の正体を掴むこととなった。
おいおい、マジかよ!
ディックは見た。自分の横を通り過ぎた弾丸が紫の穴の中にしまわれるのを。そして、さらにそのすぐ横で別の紫の穴が開いて、中から速度を維持したまま銃弾が取り出されるのを。
取り出され向かってきた弾丸をディックは手で弾いた。
千頭なんてヤツだ。『道具収納』を攻撃として利用するという発想だけでも驚きだが。
『道具収納』は出す時と入れるときで魔力の扱いが逆に変わる、それを高速で行うってことは左と右を同時に見るようなもんだ。それだけでも異常だってのに。弾丸を出す向きまで正確に調整してやがるなんてよぉ。認めるのは悔しいが、世界で『道具収納』を一番使いこなしている人間は、間違いなくコイツだぜ。
「ほー、たった三発で見破ったのは君が初めてだよ。筆頭勇者の称号は伊達じゃないね」
「何余裕ぶってやがる。タネが割れたんだ。もうオメーの攻撃は俺には通用しない。あとはレベル268がレベル151をボコるだけのワンサイドゲームだ」
「ふぅー、こんなことで講釈はしたくないんだけれど、ディック君、人は何故、食物連鎖の頂点に君臨できたかわかるかい? それは、ココが良かったからさ」
千頭がトントンと指先で自分の頭の横をつついた。
すると、埠頭全体が振動を始めた。
「……やろう、まだなんかありやがるのか」
一部の埠頭の地面が横にスライドするように動いた。それは『地魔法』によるものだった。しかも一箇所だけではない、いくつかの箇所が同様に動いた。
「はっ、地面の中に『魔法反射』を展開して『透視』を防止してたってわけか」
ディックは千頭の準備の良さに、もはや驚きを通り越して呆れていた。
スライドして開かれた地面の中から、ぞろぞろと多くの男女たちが出てくる。その数、優に100を超える。彼らは全員ジェヌインの構成員であり、ディックの敵である。
彼らが千頭を中心に置くようにして配置につく。
その中心で千頭は声高らかに言った。
「さて! 騎士共もマヌケじゃあない! おそらく、包囲されるまで、残り10分もないだろう! それまでに筆頭勇者様を排除しようじゃないか! 僕らの悲願のために!」
殺気の籠った視線がディックに集中する。
「……へっ」
これほどの人数を前にしているのにもかかわらず、ディックは口角を上げて笑った。
「数でゴリ押すのが賢さだって? なーるほど、数を武器にするのも間違いじゃねーだろーさ。けど、根本から間違えてることが一つあるぜ千頭」
「ほー、言ってご覧よ」
「俺にケンカを売ったことだ」
埠頭での、正真正銘最後の戦いが幕を開ける。
「あ、アイツってメイン武器ライフルだったのかよ」
「そうでーす! 草薙家が刀であるように、アイゼンバーグ家は銃の技術を子へと受け継がせていますからねー!」
「使う武器が決まっていれば、自ずと必要になるチート能力も決まってくる。だから、それぞれの勇者の家は使う武器の種類を一つに絞って効率良くしてるのさ」
アイリスとエマの説明を聞き、渡辺は納得する。
なるほど、それでディックはライフルに適したチート能力を持ってるってワケか。
「皆さん、私語はそこまでに。客人です」
ビーチの入り口を見張っていた知世が、埠頭から砂浜までやってきた例の老人を含むジェヌインのメンバーたちを見やる。
人数は8、その中でも一番の実力の持ち主があの老人だ。
知世はそれを砂浜での走り方だけで看破した。
その注目の老人が知世の前までやって来て言う。
「おや、アナタは知世さんですか? ディックさんと仲がいいとは聞き及んでいましたが、私情に付き合うほどでしたとは」
「私にとっても、セラフィーネさんは良き友でしたので。むしろ私の方からディック殿にお願いしたのですよ」
「やはり、彼女を取り返すのが一番の目的ですか」
セラフィーネ。
聞いたとことない人名に、渡辺とオルガは蚊帳の外状態となり、ただ会話に耳を傾けた。
「おい、アンタ。セラフィーネに何かしてないだろうな」
エマが鋭い目つきで、老人を刺すように睨む。
「傷は付けていませんよ。ただ、7、8歳は若くなりましたかね」
「――やっぱり! 『クロノスへの祈り』を使わせやがったな!」
「それはそうでしょう。そのチート能力が目的で彼女を攫ったのですから。それにいいじゃないですか。若くなれるなんて私からしたら羨ましいくらいですよ」
「能力の代償は若返りだけじゃない! 逆に老化する場合もある! 完全にランダムなんだ! いくつ歳が増えるのか減るのかもわからない! 歳が増え過ぎれば寿命を迎えちまうし、逆に減り過ぎれば受精卵の状態まで戻って死ぬんだ!」
「ええ、わかっていますよ。時間を操るという神にも等しい行いが、どんなリスクを伴うのか」
「お前! わかってて――」
知世がエマの前に腕を出して、制する。
「相手の調子に乗せられてはいけませんよ。エマ殿」
……落ち着いている。いや、落ち着き過ぎている。
知世から見て、老人が動揺していないのが異様だった。予期しないディックの乱入。自分たちのボスが狙撃され、こうして仲間にも合流された。普通なら冷や汗をかいてもいい場面のはずなのだ。実際、老人以外は狼狽しているのが誰の目から見てもわかるものだった。
……千頭は撃たれました。あまりにもあっさりと。10年以上も騎士たちが追い続けてきたのが嘘のように…………嘘だった?……ディック殿、もしかすると、してやられたのは私達の方かもしれませんよ!
*
「それじゃ、今からオメーをお縄に頂戴してやる。縛り方は亀甲縛りがいいか? ん?」
横向きに倒れ、金髪の髪で顔が覆われている千頭をディックは嘲笑する。
「まぁどんな縛り方にせよ、うっ血するぐれーきつくしてやる。んでもって盗んだもん全部返してもらうぜ。ったくバミューダ名物の船まで奪いやがって」
ディックは『道具収納』の魔法石を黒いコートの中から取り出し、突起部分――ピンを引き抜いた。
ディックの横に紫色の穴が現れる。ディックから見て穴の中には捕縛用の縄が、透明な床の上に置かれているようにあり、それを手に取ろうとディックは手を伸ばした。
「若さかな、詰めが甘いよ」
気絶していると思っていた千頭から声が聞こえ、ディックは戦慄する。
「――ッ!!」
慌てて千頭の方を向いたときには、既に千頭は仰向けの状態で銃口をディックの顔面に向けていた。
雷管を叩き爆発を起こす撃鉄。
その爆発で発射された弾丸が、ライフリングにより回転しながら、ディックの眉間に向かって真っ直ぐ飛んでいく。
普通なら、どう足掻いても避けられない状況だったが、ディックは『加速』の能力をフルに発揮して上体を反らすことで、間一髪、銀髪の前髪が少々切断される程度で済んだ。
あっぶねぇ! いくら俺でもこの距離でモロにくらってたら死んで――!
安堵も束の間。右膝裏に金槌で殴られたかのような衝撃が加えられ、ディックは背中から倒れる。
は? 弾丸?! まだスナイパーがいやがったのか?!
上体を起こした千頭が、仰向けに倒れているディックに銃を連射する。
「くっ!」
ディックは何とか地面を転がってこれを避け、そのまま勢いにのって立ち上がった。
うっ!
そのとき、ディックは右膝の異常に気づいた。
尋常ではない痛み。今ので靭帯をやられたらしく、膝がわらって上手く力が入らない。
「ほー、まだ立っていられるとはね。僕たちの世界だったら間違いなく足が千切れ飛ぶほどの威力だったんだけれど」
千頭に一言言い返してやりたかったディックだが、痛みで思考がまとまらない。
それだけではない。さらに予想しなかった事実にディックは戸惑った。
――なっ! 額に傷がねぇ!
被弾したはずの千頭の額には、攻撃を受けた痕が一切無かったのだ。
「驚いたかい? 今夜君が現れるだろうことはわかっていた。そう仕向けたからね。あとは、いつ狙撃されるかだけど、君は相手が勝利を確信して油断しているときに狙い撃つ傾向があるよね。それさえわかっていれば、あとは簡単だ。来ると思ったときに、こうすればいい」
千頭が自らの額の前に、野球ボールほどの大きさの紫色の穴を創り出す。
……そういうことかよ。
ディックはそこまで言われて、これまで調査で得てきたジェヌインの情報は、自分を誘い出すために千頭がわざとばらまいたものであることを理解した。故に、自分への対策が万全であることは想像に難くなかった。
「ディック君。僕はね、君の執念に感服してるんだ。正直なところ、君は本当に厄介だったよ。君のせいで作戦を実行に移せないことが何度もあったからね。だからこそ、今ここで殺させてもらうよ」
千頭が再び発砲する。
「くっ!」
ディックが『位置交換』を使おうとしたが、それを予測していた千頭は発砲と同時に魔法石で『魔法反射』を展開し、ディックのチートを無効化する。
「しまっ――ウグッ!」
弾丸に腹の表面を抉られる。
続けてもう一発、千頭から弾丸が発射された。
痛む腹部を手で抑えながらディックは『動体視力』で銃弾の軌道を読み、上半身を傾けてこれをかわすも、直後に脇腹をペンチで捻じ切られるような痛みが襲う。
「つぅっ!」
脇腹から潰れた弾頭が落ち、金属音を奏でる。
やっぱり撃ってきてやがる! けど、どこからだ?! さっきから『鷹の目』と『透視』でそれらしい場所は探っているが人影なんてどこにもねぇ!
「どうやら大分足にきているみたいだね」
言いながら千頭は撃つ。
ディックはまた同様の動きでかわすも、やはり別方向から飛んできた銃弾を今度は肩に受けた。
ディックはすぐに銃弾が飛んできた方角を見やるが、誰もいない。
いない……やっぱ誰もいやがらねぇ! あの憎たらしい野郎以外、俺を狙えるヤツは……!
ディックはハッとした。
……まさか……千頭の仕業? あり得ねぇ。アイツの能力は『道具収納』だ。飛び道具の軌道を自在に曲げられる『必中』の能力みたいなものじゃ……待てよ……ある。確かに理論上はできる! けど、本当にんなことが可能なのか?
「君も渡辺君と同じで結構顔に出るタイプだよね。似た者同士だ」
千頭から次の弾丸が発射された。
来た! とにかく、この一発で確かめるっきゃねぇ!
ディックはこれも上体を傾けて避けたが、今回はそれだけに終わらず、自分の脇を過ぎ去っていく弾丸を目で追った。
それにより、ディックは攻撃の正体を掴むこととなった。
おいおい、マジかよ!
ディックは見た。自分の横を通り過ぎた弾丸が紫の穴の中にしまわれるのを。そして、さらにそのすぐ横で別の紫の穴が開いて、中から速度を維持したまま銃弾が取り出されるのを。
取り出され向かってきた弾丸をディックは手で弾いた。
千頭なんてヤツだ。『道具収納』を攻撃として利用するという発想だけでも驚きだが。
『道具収納』は出す時と入れるときで魔力の扱いが逆に変わる、それを高速で行うってことは左と右を同時に見るようなもんだ。それだけでも異常だってのに。弾丸を出す向きまで正確に調整してやがるなんてよぉ。認めるのは悔しいが、世界で『道具収納』を一番使いこなしている人間は、間違いなくコイツだぜ。
「ほー、たった三発で見破ったのは君が初めてだよ。筆頭勇者の称号は伊達じゃないね」
「何余裕ぶってやがる。タネが割れたんだ。もうオメーの攻撃は俺には通用しない。あとはレベル268がレベル151をボコるだけのワンサイドゲームだ」
「ふぅー、こんなことで講釈はしたくないんだけれど、ディック君、人は何故、食物連鎖の頂点に君臨できたかわかるかい? それは、ココが良かったからさ」
千頭がトントンと指先で自分の頭の横をつついた。
すると、埠頭全体が振動を始めた。
「……やろう、まだなんかありやがるのか」
一部の埠頭の地面が横にスライドするように動いた。それは『地魔法』によるものだった。しかも一箇所だけではない、いくつかの箇所が同様に動いた。
「はっ、地面の中に『魔法反射』を展開して『透視』を防止してたってわけか」
ディックは千頭の準備の良さに、もはや驚きを通り越して呆れていた。
スライドして開かれた地面の中から、ぞろぞろと多くの男女たちが出てくる。その数、優に100を超える。彼らは全員ジェヌインの構成員であり、ディックの敵である。
彼らが千頭を中心に置くようにして配置につく。
その中心で千頭は声高らかに言った。
「さて! 騎士共もマヌケじゃあない! おそらく、包囲されるまで、残り10分もないだろう! それまでに筆頭勇者様を排除しようじゃないか! 僕らの悲願のために!」
殺気の籠った視線がディックに集中する。
「……へっ」
これほどの人数を前にしているのにもかかわらず、ディックは口角を上げて笑った。
「数でゴリ押すのが賢さだって? なーるほど、数を武器にするのも間違いじゃねーだろーさ。けど、根本から間違えてることが一つあるぜ千頭」
「ほー、言ってご覧よ」
「俺にケンカを売ったことだ」
埠頭での、正真正銘最後の戦いが幕を開ける。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈


ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
我儘女に転生したよ
B.Branch
ファンタジー
転生したら、貴族の第二夫人で息子ありでした。
性格は我儘で癇癪持ちのヒステリック女。
夫との関係は冷え切り、みんなに敬遠される存在です。
でも、息子は超可愛いです。
魔法も使えるみたいなので、息子と一緒に楽しく暮らします。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる