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第三章 ― 筆頭勇者と無法者 ―
第97話 Lv151 千頭 vs Lv151オルガ
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な! どうなってやがる! 急に辺り一面紫色になって――っうわ!
謎の空間に迷い込んでしまったと思っていたら、どこかに背中から落ちる。
やわらか! 地面の上じゃない?!
『拘束魔法』によって首が動かしにくいため、目だけを動かして状況を探った。
かなり狭い空間……四方に窓……ドゥルルルと異世界に似つかわしくない自動車のエンジンみたいな音が聞こえて……って、車の中じゃねぇか!
俺は自動車の左後部座席に座っていた。
さっきまで旅館にいたはずなのに。 ん、待てよ、車のすぐ近くに旅館があるぞ。
てっきり、めちゃくちゃ遠くに移動させられたかと思ったがそうじゃないのか。
車がグラッと揺れた。いつの間にか、運転席に千頭の姿があった。
コイツの能力はもしかして『瞬間移動』?
「さて、ドライブといこうか」
エンジン回転数が上がる音とともに、千頭が左手でシフトレバーを動かしギアを変速させると、車が一気に加速して発進した。
「うわっ!」
普段の日常生活では、まず味わわないであろう急加速に驚きの声が漏れる。
その後もぐんぐんスピードを上げていくため、夜道を照らす街灯が矢のよう流れていく。
おいおい、どこまで速度を上げるつもりだ?!
「ま、街中で!」
チッ! 『拘束魔法』のせいで舌が上手く動かねえ!
「街中でこの、スピード、正気、かよ!」
「ハハハ、この状況で他人の心配かい? 安心するといい、この辺りは皆眠っている」
「へ?」
「僕の組織には『催眠魔法』の能力持ちが何人かいてね。ここら一帯で、ジェヌイン以外に起きているのは君と小樽さんの二人だけなのさ」
催眠……さっき助けを呼んでも意味が無いって言っていたのはこれか!
「警戒心の強い小樽さんには、あらかじめ備えられていた『魔法反射』の魔法石で防がれたようでね。腐っても僕と同じで警察官だっただけはある」
オルガが警察官?! 初耳だぞ!
「おや、その顔は知らなかったようだね。当然か、あの人は他人と関わるのを恐れているからね。伴侶を殺され息子を殺され、そして異世界に転生してからも多くの関係を失ってきたことが原因で」
ッ! 奥さんと子供を殺されただと?! ……前に自殺の話を聞いて、オルガも碌な人生じゃなかったんだろうとは思っていたが……。
「ぅぉぉ!!!」
車の後ろからオルガの声がかすかに聞こえてくる。
「だからこそ、驚いているんだ僕は。小樽さんが海や祭りで君たちと楽しそうに過ごしていたのが。今こうして、君を救わんと全力で駆けているのが」
「ナベウマアァ!!!」
オルガ!
さっきよりも声が近いぞ! 近くまで来てるのか?! 振り向いて状況を確認したいが、体を動かせねぇ!
「速いね」
千頭がチラリとバックミラーを一瞥して呟いた。
「知っているかい? 前の世界における人間の走る速度の最高記録は時速45kmだ。で、今この車は時速100kmで走行している」
話しながら、千頭がドアのスイッチを押して、運転席側のパワーウィンドウを下げる。それにより風が窓から入り込み、千頭の金髪がなびく。
「全く馬鹿馬鹿しくて不快な気分にさせられるよ。チート能力だの、レベルだの、ステータスだの、そんな得体の知れない数値だけで、人間の弛まぬ努力を軽々に凌駕してくるんだからね」
これまで悠然と話していた千頭の声色に嫌の色が浮き出でていた。
「だから、僕は」
千頭の右手には、いつの間にか先程の拳銃が握られている。その右手でハンドルを支えつつ、左手をシフトレバーに添える。
ちょっと待て、こいつ何をする気だ?!
「異世界が嫌いなんだ」
千頭がシフトレバーを一段階下げると同時に、エンジンがブオンッと派手な音を吹き上げ、それに呼応するように車が時速100kmからさらに加速する。
それから今度は5秒も経たない内に、千頭がブレーキペダルを強く踏み込みながらハンドルを思い切り右に回した。
急な減速に、否応無しに俺の体は前に投げ出され、助手席に頭からぶつかってしまう。
それだけでは終わらない。
千頭がサイドブレーキを引き上げた直後、キュルルという高音が後輪から発せられ、車が右へ旋回しつつ道路を滑った。
そのため、俺の体が今度は遠心力によって後ろへ引っ張られ、後部座席へ強制着席させられる。
わけのわからない状態に、俺は驚くばかりだったが、本当に驚いたのはここからだった。
千頭が運転席の窓から、拳銃を握る右手を外へと伸ばした。
最初はその行為の意味を理解できなかったが、車が右へ回転していくのに合わせて、その銃口の先が通ってきた後ろの道へ向いていくのを見てわかった。
車体が90°まで回転したとき、千頭の視線と拳銃がオルガを捉えた。
「オルガァ!!!」
その瞬間、発砲音が鳴り、オルガの体がビクッと跳ね上がった。
車が尚も右回転して悲鳴のような音をあげる中、続けて千頭はトリガーを引く。
二、三、四発と撃つ度に、オルガの体が震え、五発目でついにオルガは転んでしまった。しかし、オルガは前転をすることで、出来るだけスピードを落とさずに起き上がり、また走り始めた。
「しぶとい」
千頭が呆れ気味に言う頃には、車体は180°向きがひっくり返っていた。左手でサイドブレーキを下ろしシフトレバーをリバースに入れると、車がバック走行を開始する。こちらも滑りながら移動していたので、大して減速はしていない。
オルガと向き合う形となった千頭は、再度オルガへ拳銃を向けたが、オルガが急に横へ走り出したため、千頭は撃つ機会を失った。
そこはちょうど交差点で、オルガは坂を上ってその通りから姿を消した。
「ほー、上から攻めるつもりですか」
千頭が左上方向を見上げたので、俺もそちらに顔を向けた。
するとそこには、民家の屋根を飛び移っていくオルガがいた。
忍者かよ!
「これはやられましたね。角度的にフロントガラスを撃ち抜かないと攻撃できない位置にいる。愛車を傷つけたくない僕には有効な一手だ」
バック走行のためか、スピードを今以上に上げられない車は、少しずつオルガに距離を詰められていく。
「ナベウマ! 今行く!」
そして、車と平行に並んだところで、オルガがこっちに向かって飛んだ。
「仕方がない。あまり手札を使いたくないが」
千頭が再び窓の外に右手を出す。
さっきと違い、手に拳銃は無く、代わりに手鏡が握られており、その鏡が街灯の光をキラキラと反射した。
一直線に車に向かって落ちていたオルガが、突如、真横へふっ飛んだ。
次にターンッという音が耳に入ったときには、オルガは『鋼の肉体』の破片を撒き散らして、道端に体を二回ほどバウンドさせていた。
バウンドを終えた後、オルガは倒れたまま動かなくなった。
「オルガ……オルガ!! おい!!」
俺は必死に叫ぶが、オルガは全く反応しない。
「魔法で強化された対物ライフルの一撃は流石に応えたようですね」
「テメェ! 今すぐ車止めろ! この人殺し野郎!」
「ハハハ、まぁ落ち着きなよ。小樽さんはまだ生きてるさ」
「何でそんなことがわかるんだよ!」
「仲間が『解析』でチェックしたところ、まだステータスが表示されている。ステータスが見えるということは生きているってことさ。もっとも、それもいつまで続くかわからないけど」
仲間? 『精神感応』でやり取りでもしてるのか?!
「くっ! よくも平気な顔で言えるな!」
「おっと、こう見えても結構心を痛めてるんだよ。小樽さんは僕の憧れだったからねぇ。僕としても、あの人が僕の邪魔をしないなら何もする気はないんだ」
しゃべりながら、千頭は車体の向きを変えてバック走から通常の走行に切り替えた。
クソッ! オルガ死ぬんじゃねぇぞ! 俺に構わず逃げてくれ!
「さて、もうすぐ目的の場所だ」
目的の場所? ここに何があるっていうんだ?
車が交差点で曲がり、坂を下って海へ向かって行く。
そして、それが目に映る。
アトランタ号。
この世界の始まりに近づいていた。
謎の空間に迷い込んでしまったと思っていたら、どこかに背中から落ちる。
やわらか! 地面の上じゃない?!
『拘束魔法』によって首が動かしにくいため、目だけを動かして状況を探った。
かなり狭い空間……四方に窓……ドゥルルルと異世界に似つかわしくない自動車のエンジンみたいな音が聞こえて……って、車の中じゃねぇか!
俺は自動車の左後部座席に座っていた。
さっきまで旅館にいたはずなのに。 ん、待てよ、車のすぐ近くに旅館があるぞ。
てっきり、めちゃくちゃ遠くに移動させられたかと思ったがそうじゃないのか。
車がグラッと揺れた。いつの間にか、運転席に千頭の姿があった。
コイツの能力はもしかして『瞬間移動』?
「さて、ドライブといこうか」
エンジン回転数が上がる音とともに、千頭が左手でシフトレバーを動かしギアを変速させると、車が一気に加速して発進した。
「うわっ!」
普段の日常生活では、まず味わわないであろう急加速に驚きの声が漏れる。
その後もぐんぐんスピードを上げていくため、夜道を照らす街灯が矢のよう流れていく。
おいおい、どこまで速度を上げるつもりだ?!
「ま、街中で!」
チッ! 『拘束魔法』のせいで舌が上手く動かねえ!
「街中でこの、スピード、正気、かよ!」
「ハハハ、この状況で他人の心配かい? 安心するといい、この辺りは皆眠っている」
「へ?」
「僕の組織には『催眠魔法』の能力持ちが何人かいてね。ここら一帯で、ジェヌイン以外に起きているのは君と小樽さんの二人だけなのさ」
催眠……さっき助けを呼んでも意味が無いって言っていたのはこれか!
「警戒心の強い小樽さんには、あらかじめ備えられていた『魔法反射』の魔法石で防がれたようでね。腐っても僕と同じで警察官だっただけはある」
オルガが警察官?! 初耳だぞ!
「おや、その顔は知らなかったようだね。当然か、あの人は他人と関わるのを恐れているからね。伴侶を殺され息子を殺され、そして異世界に転生してからも多くの関係を失ってきたことが原因で」
ッ! 奥さんと子供を殺されただと?! ……前に自殺の話を聞いて、オルガも碌な人生じゃなかったんだろうとは思っていたが……。
「ぅぉぉ!!!」
車の後ろからオルガの声がかすかに聞こえてくる。
「だからこそ、驚いているんだ僕は。小樽さんが海や祭りで君たちと楽しそうに過ごしていたのが。今こうして、君を救わんと全力で駆けているのが」
「ナベウマアァ!!!」
オルガ!
さっきよりも声が近いぞ! 近くまで来てるのか?! 振り向いて状況を確認したいが、体を動かせねぇ!
「速いね」
千頭がチラリとバックミラーを一瞥して呟いた。
「知っているかい? 前の世界における人間の走る速度の最高記録は時速45kmだ。で、今この車は時速100kmで走行している」
話しながら、千頭がドアのスイッチを押して、運転席側のパワーウィンドウを下げる。それにより風が窓から入り込み、千頭の金髪がなびく。
「全く馬鹿馬鹿しくて不快な気分にさせられるよ。チート能力だの、レベルだの、ステータスだの、そんな得体の知れない数値だけで、人間の弛まぬ努力を軽々に凌駕してくるんだからね」
これまで悠然と話していた千頭の声色に嫌の色が浮き出でていた。
「だから、僕は」
千頭の右手には、いつの間にか先程の拳銃が握られている。その右手でハンドルを支えつつ、左手をシフトレバーに添える。
ちょっと待て、こいつ何をする気だ?!
「異世界が嫌いなんだ」
千頭がシフトレバーを一段階下げると同時に、エンジンがブオンッと派手な音を吹き上げ、それに呼応するように車が時速100kmからさらに加速する。
それから今度は5秒も経たない内に、千頭がブレーキペダルを強く踏み込みながらハンドルを思い切り右に回した。
急な減速に、否応無しに俺の体は前に投げ出され、助手席に頭からぶつかってしまう。
それだけでは終わらない。
千頭がサイドブレーキを引き上げた直後、キュルルという高音が後輪から発せられ、車が右へ旋回しつつ道路を滑った。
そのため、俺の体が今度は遠心力によって後ろへ引っ張られ、後部座席へ強制着席させられる。
わけのわからない状態に、俺は驚くばかりだったが、本当に驚いたのはここからだった。
千頭が運転席の窓から、拳銃を握る右手を外へと伸ばした。
最初はその行為の意味を理解できなかったが、車が右へ回転していくのに合わせて、その銃口の先が通ってきた後ろの道へ向いていくのを見てわかった。
車体が90°まで回転したとき、千頭の視線と拳銃がオルガを捉えた。
「オルガァ!!!」
その瞬間、発砲音が鳴り、オルガの体がビクッと跳ね上がった。
車が尚も右回転して悲鳴のような音をあげる中、続けて千頭はトリガーを引く。
二、三、四発と撃つ度に、オルガの体が震え、五発目でついにオルガは転んでしまった。しかし、オルガは前転をすることで、出来るだけスピードを落とさずに起き上がり、また走り始めた。
「しぶとい」
千頭が呆れ気味に言う頃には、車体は180°向きがひっくり返っていた。左手でサイドブレーキを下ろしシフトレバーをリバースに入れると、車がバック走行を開始する。こちらも滑りながら移動していたので、大して減速はしていない。
オルガと向き合う形となった千頭は、再度オルガへ拳銃を向けたが、オルガが急に横へ走り出したため、千頭は撃つ機会を失った。
そこはちょうど交差点で、オルガは坂を上ってその通りから姿を消した。
「ほー、上から攻めるつもりですか」
千頭が左上方向を見上げたので、俺もそちらに顔を向けた。
するとそこには、民家の屋根を飛び移っていくオルガがいた。
忍者かよ!
「これはやられましたね。角度的にフロントガラスを撃ち抜かないと攻撃できない位置にいる。愛車を傷つけたくない僕には有効な一手だ」
バック走行のためか、スピードを今以上に上げられない車は、少しずつオルガに距離を詰められていく。
「ナベウマ! 今行く!」
そして、車と平行に並んだところで、オルガがこっちに向かって飛んだ。
「仕方がない。あまり手札を使いたくないが」
千頭が再び窓の外に右手を出す。
さっきと違い、手に拳銃は無く、代わりに手鏡が握られており、その鏡が街灯の光をキラキラと反射した。
一直線に車に向かって落ちていたオルガが、突如、真横へふっ飛んだ。
次にターンッという音が耳に入ったときには、オルガは『鋼の肉体』の破片を撒き散らして、道端に体を二回ほどバウンドさせていた。
バウンドを終えた後、オルガは倒れたまま動かなくなった。
「オルガ……オルガ!! おい!!」
俺は必死に叫ぶが、オルガは全く反応しない。
「魔法で強化された対物ライフルの一撃は流石に応えたようですね」
「テメェ! 今すぐ車止めろ! この人殺し野郎!」
「ハハハ、まぁ落ち着きなよ。小樽さんはまだ生きてるさ」
「何でそんなことがわかるんだよ!」
「仲間が『解析』でチェックしたところ、まだステータスが表示されている。ステータスが見えるということは生きているってことさ。もっとも、それもいつまで続くかわからないけど」
仲間? 『精神感応』でやり取りでもしてるのか?!
「くっ! よくも平気な顔で言えるな!」
「おっと、こう見えても結構心を痛めてるんだよ。小樽さんは僕の憧れだったからねぇ。僕としても、あの人が僕の邪魔をしないなら何もする気はないんだ」
しゃべりながら、千頭は車体の向きを変えてバック走から通常の走行に切り替えた。
クソッ! オルガ死ぬんじゃねぇぞ! 俺に構わず逃げてくれ!
「さて、もうすぐ目的の場所だ」
目的の場所? ここに何があるっていうんだ?
車が交差点で曲がり、坂を下って海へ向かって行く。
そして、それが目に映る。
アトランタ号。
この世界の始まりに近づいていた。
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