俺のチートって何?

臙脂色

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第三章   ― 筆頭勇者と無法者 ―

第86話 模擬演習

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 おお、またアナウンス。まさか異世界で聞ける日がくるとは思わなかったなあ。

 「新型兵器の模擬演習か?」

 アナウンスが終わるとディックが口を開けた。

 「ええ、そうらしいわん。ディックちゃん興味あるの? って聞くまでもなかったわね。それなら私のクエストの前に演習場に寄ってく? 今から向かえば間に合うわよ」

 「ああ、行こうぜ。どんなもんが作られたかこの目で見ておきてぇ。いずれ肩並べて戦う戦友になるかもしれねぇからな」

 「なら、行きましょうか」


 「はかせー」

 ドロップスカイの外で別れた男が、戻ってきた。

 「グッドタイミングー! それじゃ、そこのやる気の無さそうな顔したレディとゴツイ男と可愛い金髪ちゃん、彼からゲストカードをもらって首から下げといてね。でないと怪しい人物認定されて身柄を拘束されちゃうからー」


 こうして、その場から南へ10km離れた地下演習場へと向かう流れとなった。
 初めは10kmも歩かなきゃならないのかと焦ったが、実際は、壁の中に横に移動するエレベーターみたいなものがあり、それに乗っていけば15分もあれば着くらしかった。
 ……なんていうか、世界観をぶっ壊してくる施設だなドロップスカイっつーのは。
 俺はファンタジー世界にいたはずなのに、いつの間にか未来都市に迷い込んだ気分だ。

 エレベーターの内部は片側が窓になっていて、さっきまで俺たちがいた通路の様子が確認できるようになっていた。
 その窓からずっと同じ白色――景色が続くのを見ていて思う。

 「この通路広いけど意味あんの? 人も物も全然ないけど」

 「今は大型の資材を搬入するときに都合が良いってぐらいねぇ。だ・け・ど、ここはドロップスカイ。いずれ来る魔人との戦いにおいて、ここは前線基地となるわ。その時がくれば、ここは兵士や兵器でいっぱいになるでしょうね」

 「ふーん」

 ポーンッ。

 <第11ブロックです>

 「着いたわね。ここでエレベーターを乗り換えるわよ」


 オカマは乗ってきたエレベーターの隣にある別のエレベーターへと俺たちを案内してエレベーター内の壁に触れた。再びあのホログラムの電卓みたいなのが現れて、オカマがそこに表情されているボタンを押すと、エレベーターは今度は横ではなく下に向かって動き始めた。

 本当に規模のでかい施設だ。
 俺たちを乗せた四角い箱はどんどん下がっていく。地下一階なんてもんじゃない。一体どこまで降りるんだ?

 しばらくして、エレベーター内に光が差した。もとよりエレベーターの天井には白く光る照明が取り付けられていたが、さらに明るい光が外から入ってきたのだ。
 どうやらエレベーターの一面がガラス張りになっているようで、そこから広大な景色を一望できた。

 って、地下に広大な景色?

 自分の目を疑い何度も瞬きするが、間違いなくその空間は存在していた。
 これまでと同様に白一色の空間なのだが、メッチャクチャ広い。その広さが、これまで通ってきた部屋や通路とは一線を画す設備であることを主張している。

 「す、すげぇ広さだ」

 「ふふふ、驚いたかしら。ここの演習場はドロップスカイの中でも一番大きくて、高さは500mで面積は100ヘクタールはあるわ」

 「……えーと、ヘクタールって――」

 「1ヘクタールは縦横100m ✕ 100mだ。それが100倍ということは、縦横の長さが1kmはあるということだな」

 困ったときのオルガ解説。
 だんだんと反応が早くなってる気がする。

 「1km……どおりででかいわけだ」


 「はえー、これが自分の部屋だったら好きなだけ物が置けるねー」

 「いやいや、ジェニー。こんだけの広さに物を置いたら、どこに何を置いたかわからなくなっちまうよ」

 「俺はそれよりトイレが遠いのが気になっちまうな」

 ジェニーと俺の会話にディックもノってきた?!
 意外とノリがいいんだな、コイツ。


 ポーンッ。

 <地下演習場、中央制御室です>

 エレベーターのドアがスライドして開く。すると、そこにはエレベーターにあったものよりも遥かに大きな窓が――演習場全体を見渡せるくらいの窓があった。その窓の前で十数人の人間が立体映像を使って作業をしていた。立体映像にはこれまで見てきたものと違い画像みたいなものが表示されている。
 

 「コンパイル問題なし」
 「信号波形も想定していた通りの動きを見せています」
 「最終チェック完了」


 「おお、ビージェー博士も来てくれましたか」

 多くの人間が立体映像の前でせかせかと両手を働かせている中、一人の白衣を着た男が声をかけてきた。

 「ええ。ディックちゃんが見たいっていうから」

 「おお、筆頭勇者様が、これは格好悪いところは見せられませんな。おや、後ろに居られる方は、知世様でいらっしゃいますか?」

 「はい。知世でございます」

 知世がおじぎする。

 「いやはや、四大勇者の子息と息女に御高覧いただけるとは私も鼻が高い」

 <開始時刻となりましたので、ただいまより演習場にモンスターを解放します>

 え、モンスター?
 俺はでかい窓から演習場を見下ろす。

 特に何も変わりは無いが――!

 「うわぁ!」

 な、何だ! 窓の前を緑色の大怪鳥が通り過ぎていったぞ!
 俺はモンスターの正体を確認するべく、窓に両手をベッタリつけてソイツを目で追った。

 「あれは……ワイバーン!」

 それも1匹や2匹じゃない! 10匹ぐらい手前の辺りで飛んでるぞ!

 「おいおい、よく捕まえてきたな。最低でもこいつらはレベル500程度はあるだろ」

 「流石はディック様、よくご存知でいらっしゃる。勇者を10人以上雇って捕まえてきてもらったのですよ」

 「そんな強ぇヤツを模擬戦相手にして大丈夫なのかよ。次のゴミの日に出されるんじゃないか?」

 「ええ、問題はありませんよ。何せこの兵器が想定している敵は“魔人エーアーン”なのです。この程度のモンスターに遅れを取るようならば、私自らがスクラップ工場行きにしていますよ」


 <続いて自律型自動無人飛行戦闘兵器AUW-0187を投入します>

 そのアナウンスが発せられたのと同時に、演習場の最奥の壁が下へスライドしていった。そして、中から大量の黒い物体が湧き出した。

 「く、黒い点がいっぱい出てきた!」

 謎の飛行物体たちは花火のように散開し、一直線に手前にいるワイバーンたちへ向かい始めた。
 速い。
 ワイバーンとの距離がみるみる縮まっていく。

 「ショウマ様! よく見てください、あれは点じゃないですよ!」

 1000m離れた距離にあったときはよくわからかったが、こちらに近づいてきて飛行物体の詳細な姿が見えてきた。
 確かに、点ではなかった。全体の形は黒い三脚といったところだろうか。三つの脚が一本の黒い棒に付いている。

 その三脚みたいな飛行機械がワイバーンとの間の距離を100mまで詰めたあたりで、棒の先から一筋の光が放たれた。
 ピュンッ。と窓の向こう側から軽い音が聞こえた後、ワイバーンの鳴き声があがった。機械から放たれた光が、ワイバーンの翼に小さな穴を空けていた。

 それを皮切りに、後からやってきた機械たちも次々に光の線を撃ち出し、ワイバーンたちを蹂躙していく。

 「あの攻撃って、まさかレーザーってやつか?」

 「そうよん、よく知ってるじゃないボウヤ。レーザーの速度は光と同じ。見てから避けることはまず不可能な優れものの兵器よ」

 「す、すげぇ」

 ワイバーンたちはあっという間に黒い嵐に飲み込まれ、その嵐の中心で光の雨を浴びせられる。

 「おわっ!」

 雨の一部がこっちにも飛んできて俺はビビるものの、レーザーは窓に当たる直前で弾かれるようにして消えた。
 それを見ていた白衣の男が言う。

 「演習場の壁には防御能力で有名な勇者の魔法がかけられているので、ご心配ならず」

 SF要素が展開されている中に、ファンタジーの要素もぶっ込んでくるとか、もうわけわからん。

 「防御能力で有名……ああ、あの引き篭もりのアイツか」

 一人で勝手に納得するディック。

 その横で知世は唸っていた。

 「すごいですね。これだけの弾幕が展開されながら、同士討ちが一度も起きていません」

 「そこに気づかれるとは、流石は知世様です。AUWのポイントは常に互いの位置情報を交換し合っている部分にあります。同士討ちが無くなるのはもちろん、弾幕の密度を正確に高めることができ、相手に逃げる隙間を与えないのです」

 「けど、やっぱりレーザーの出力は、ドロップスカイに備え付けられたレーザー砲より劣るみたいね」

 オカマが会話に混ざる。

 「これ以上出力を上げようとすると、機動力が下がってしまいますからな。現状維持のままとなると、ワイヤレス充電の送電量を八局が増やしてくれなければ不可能でしょうな」

 「そうなるわよね。けれど、八局も規格以上のものは造れないでしょうねえ」

 「所詮、私たちは仕様書に設計図、ツールを渡されただけですからな」
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