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第三章 ― 筆頭勇者と無法者 ―
第82話 正真正銘の、本物の、純粋な
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エマは顔を緑のローブで覆い隠している。
さっきは生意気な女だと思ったが、その心中はお察しする。
勇者二人の自己紹介も頭からフッ飛ぶ出来事の後も、自己紹介していく流れは続いた。
俺、マリン、ミカ、ジェニー、メシュの順番で各自名前はもちろん。年齢だったりチート能力だったり、得意なこと好きなことなんかの話もあがったんだが、その中で初めて知る内容があった。
ジェニーのチート能力だ。
「へー、『直感』かー。それが私の能力なんだねー。うんうん」
何がうんうんなのか。相変わらずぼへーっとした表情でいるジェニー。
自分のチート能力がようやくわかったんだから、もっと顔に出して欲しいところだ。
「それで、その『直感』っていうのはどんな能力なんだ?」
俺はディックに問いかける。
「わざわざ聞かなくても名前からわかるだろ」
「いや、わかんないから聞いてるんだよ」
「やれやれ、ワタナベは想像力が足りないな」
やっぱコイツ嫌い。
「『直感』は、自分のまわりで起こる悪い事態を直前で予測できる能力です。先程の戦闘において、ジェニー殿は知世の不意打ちに反応していましたし、エマとアイリスが『瞬間移動』で現れることにも気づいておりました。他にも心当たりのある場面があるのでは?」
知世は好きだな。懇切丁寧に説明してくれる。
それはそれとして、言われてみればそういう場面はあった。
「俺が匠に店で襲われたときだな。ジェニーが俺に飛び掛ってなきゃどうなっていたやら。あのときはホント助かったぞ」
「いやー、照れる」
と言っているが表情はいつものジェニーだ。
「『直感』は練磨を重ねれば未来予知ともいえる代物になります。興味があるのでしたら、この度の旅中に知世が手ほどきしますよ」
「ほんとー? せっかくなら教えてほしいなー」
「わかりました。その内機会があると思いますから、そのときにお伝えします」
いいなぁジェニー。これでチート能力わかってないの俺だけになっちゃったな。ハァ……一体いつになったらわかるんだろ。
「残るはアンタだな。オルガさんよ」
ディックがニヤリと口角を上げて言う。この顔、何か企んでる?
「俺は初心者サポートを――」
「あーあーあ、自己紹介はいいや。俺たち全員アンタのことは知ってる。25年前の魔人戦争でフィラディルフィア西区に侵入してきた数多くの魔人どもを撃退した英雄の一人。騎士団に属してる人間で知らないヤツはいない」
な! 顔が広いとは思っていたけど、そんなに有名人だったのかよ!
「ルーノール・カスケードが指揮するパーティーで"魔人ガイゼルクエイス"と戦い、ルーノール以外に唯一パーティー内で生き残った男」
ルーノールって人類守護神と言われてるやつだよな。オルガと顔見知りだったのか? それに魔人と戦ったって? そんな話オルガから一度も聞いてないぞ。
「……魔人を撃退した、か……フッ」
何を思ってか、オルガは鼻で笑った後、言葉を続ける。
「それだけ知っていながら、俺から何を聞きたいんだ?」
「千頭 亮。さっきアンタが恋人の名を呼ぶみてぇに叫んでたヤツに関してだ」
オルガとディックの視線が交差する。その間には張り詰めた糸があった。
まず千頭って誰なんだよ、と思った俺はそれを訊ねようとしたが、二人は妙に聞きにくい雰囲気を漂わせていたもんだから、ミカに小声で聴いてみた。
「……なぁ、千頭って誰だ?」
ミカはお手上げのポーズをして、首を左右に振った。ミカも知らないらしい。
「千頭はジェヌインのリーダーでーす」
前の席にいたアイリスが俺の方へ上体を前のめりにして教えてくれた。
「ジェヌインって?」
「ジェヌインは500から1000人を超える人員で構成されていると言われている組織でーす。金品を盗み、人も攫う憎っくき悪党どもで、居場所や生活が困難になった転生者たちが寄り集まってできたと考えられてまーす」
「んでもって、ジェヌインのボスである千頭 亮もまた転生者ってわけだ」
アイリスの発言にディックが付け足す。
「そして、千頭の初心者サポートを担当したのはアンタっつー話だよな、オルガ。あの野郎に関して知ってることがあんなら教えてくれよ。今どこで何をしてるのかとかよ」
「……聞きたいのは俺の方だ。俺にはアイツが見えない……犯罪など犯すような人間ではなかったはずなのだがな」
「ほぉ、その口ぶりだと仲は良かったみてぇだな。けどよ、千頭が転生してから街にいた期間はたったの三ヶ月だ。そんな短い間に人の本性が見えるかよ」
「亮のことはそれより以前から知っていたさ」
「……何?」
初心者サポートをする前から知っている? それって、つまり――。
「亮のことは死ぬ前から――転生する前から知っている」
やっぱり。
考えてみれば、異世界ウォールガイヤには地球上の人間が次々にやってきているんだ。その中に以前から関係のある人間がいたっておかしくはない。
「当時のアイツを知っているからこそ尚更わからない。何故、14年前、俺たちの前から姿を消したのか……何故、盗賊の真似事を始めたのか……」
オルガの口調には若干熱がこもっていた。
千頭 亮……一体どんなヤツなんだろう。犯罪者と関わり合いになりたくはないが、オルガがここまで気にかける存在だ。気になる。
さっきは生意気な女だと思ったが、その心中はお察しする。
勇者二人の自己紹介も頭からフッ飛ぶ出来事の後も、自己紹介していく流れは続いた。
俺、マリン、ミカ、ジェニー、メシュの順番で各自名前はもちろん。年齢だったりチート能力だったり、得意なこと好きなことなんかの話もあがったんだが、その中で初めて知る内容があった。
ジェニーのチート能力だ。
「へー、『直感』かー。それが私の能力なんだねー。うんうん」
何がうんうんなのか。相変わらずぼへーっとした表情でいるジェニー。
自分のチート能力がようやくわかったんだから、もっと顔に出して欲しいところだ。
「それで、その『直感』っていうのはどんな能力なんだ?」
俺はディックに問いかける。
「わざわざ聞かなくても名前からわかるだろ」
「いや、わかんないから聞いてるんだよ」
「やれやれ、ワタナベは想像力が足りないな」
やっぱコイツ嫌い。
「『直感』は、自分のまわりで起こる悪い事態を直前で予測できる能力です。先程の戦闘において、ジェニー殿は知世の不意打ちに反応していましたし、エマとアイリスが『瞬間移動』で現れることにも気づいておりました。他にも心当たりのある場面があるのでは?」
知世は好きだな。懇切丁寧に説明してくれる。
それはそれとして、言われてみればそういう場面はあった。
「俺が匠に店で襲われたときだな。ジェニーが俺に飛び掛ってなきゃどうなっていたやら。あのときはホント助かったぞ」
「いやー、照れる」
と言っているが表情はいつものジェニーだ。
「『直感』は練磨を重ねれば未来予知ともいえる代物になります。興味があるのでしたら、この度の旅中に知世が手ほどきしますよ」
「ほんとー? せっかくなら教えてほしいなー」
「わかりました。その内機会があると思いますから、そのときにお伝えします」
いいなぁジェニー。これでチート能力わかってないの俺だけになっちゃったな。ハァ……一体いつになったらわかるんだろ。
「残るはアンタだな。オルガさんよ」
ディックがニヤリと口角を上げて言う。この顔、何か企んでる?
「俺は初心者サポートを――」
「あーあーあ、自己紹介はいいや。俺たち全員アンタのことは知ってる。25年前の魔人戦争でフィラディルフィア西区に侵入してきた数多くの魔人どもを撃退した英雄の一人。騎士団に属してる人間で知らないヤツはいない」
な! 顔が広いとは思っていたけど、そんなに有名人だったのかよ!
「ルーノール・カスケードが指揮するパーティーで"魔人ガイゼルクエイス"と戦い、ルーノール以外に唯一パーティー内で生き残った男」
ルーノールって人類守護神と言われてるやつだよな。オルガと顔見知りだったのか? それに魔人と戦ったって? そんな話オルガから一度も聞いてないぞ。
「……魔人を撃退した、か……フッ」
何を思ってか、オルガは鼻で笑った後、言葉を続ける。
「それだけ知っていながら、俺から何を聞きたいんだ?」
「千頭 亮。さっきアンタが恋人の名を呼ぶみてぇに叫んでたヤツに関してだ」
オルガとディックの視線が交差する。その間には張り詰めた糸があった。
まず千頭って誰なんだよ、と思った俺はそれを訊ねようとしたが、二人は妙に聞きにくい雰囲気を漂わせていたもんだから、ミカに小声で聴いてみた。
「……なぁ、千頭って誰だ?」
ミカはお手上げのポーズをして、首を左右に振った。ミカも知らないらしい。
「千頭はジェヌインのリーダーでーす」
前の席にいたアイリスが俺の方へ上体を前のめりにして教えてくれた。
「ジェヌインって?」
「ジェヌインは500から1000人を超える人員で構成されていると言われている組織でーす。金品を盗み、人も攫う憎っくき悪党どもで、居場所や生活が困難になった転生者たちが寄り集まってできたと考えられてまーす」
「んでもって、ジェヌインのボスである千頭 亮もまた転生者ってわけだ」
アイリスの発言にディックが付け足す。
「そして、千頭の初心者サポートを担当したのはアンタっつー話だよな、オルガ。あの野郎に関して知ってることがあんなら教えてくれよ。今どこで何をしてるのかとかよ」
「……聞きたいのは俺の方だ。俺にはアイツが見えない……犯罪など犯すような人間ではなかったはずなのだがな」
「ほぉ、その口ぶりだと仲は良かったみてぇだな。けどよ、千頭が転生してから街にいた期間はたったの三ヶ月だ。そんな短い間に人の本性が見えるかよ」
「亮のことはそれより以前から知っていたさ」
「……何?」
初心者サポートをする前から知っている? それって、つまり――。
「亮のことは死ぬ前から――転生する前から知っている」
やっぱり。
考えてみれば、異世界ウォールガイヤには地球上の人間が次々にやってきているんだ。その中に以前から関係のある人間がいたっておかしくはない。
「当時のアイツを知っているからこそ尚更わからない。何故、14年前、俺たちの前から姿を消したのか……何故、盗賊の真似事を始めたのか……」
オルガの口調には若干熱がこもっていた。
千頭 亮……一体どんなヤツなんだろう。犯罪者と関わり合いになりたくはないが、オルガがここまで気にかける存在だ。気になる。
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