俺のチートって何?

臙脂色

文字の大きさ
上 下
85 / 172
第三章   ― 筆頭勇者と無法者 ―

第82話 正真正銘の、本物の、純粋な

しおりを挟む
 エマは顔を緑のローブで覆い隠している。
 さっきは生意気な女だと思ったが、その心中はお察しする。

 勇者二人の自己紹介も頭からフッ飛ぶ出来事の後も、自己紹介していく流れは続いた。
 俺、マリン、ミカ、ジェニー、メシュの順番で各自名前はもちろん。年齢だったりチート能力だったり、得意なこと好きなことなんかの話もあがったんだが、その中で初めて知る内容があった。
 ジェニーのチート能力だ。

 「へー、『直感インチュイション』かー。それが私の能力なんだねー。うんうん」

 何がうんうんなのか。相変わらずぼへーっとした表情でいるジェニー。
 自分のチート能力がようやくわかったんだから、もっと顔に出して欲しいところだ。

 「それで、その『直感インチュイション』っていうのはどんな能力なんだ?」

 俺はディックに問いかける。

 「わざわざ聞かなくても名前からわかるだろ」

 「いや、わかんないから聞いてるんだよ」

 「やれやれ、ワタナベは想像力が足りないな」

 やっぱコイツ嫌い。

 「『直感インチュイション』は、自分のまわりで起こる悪い事態を直前で予測できる能力です。先程の戦闘において、ジェニー殿は知世の不意打ちに反応していましたし、エマとアイリスが『瞬間移動テレポート』で現れることにも気づいておりました。他にも心当たりのある場面があるのでは?」

 知世は好きだな。懇切丁寧に説明してくれる。
 それはそれとして、言われてみればそういう場面はあった。

 「俺が匠に店で襲われたときだな。ジェニーが俺に飛び掛ってなきゃどうなっていたやら。あのときはホント助かったぞ」

 「いやー、照れる」

 と言っているが表情はいつものジェニーだ。

 「『直感インチュイション』は練磨を重ねれば未来予知ともいえる代物になります。興味があるのでしたら、この度の旅中に知世が手ほどきしますよ」

 「ほんとー? せっかくなら教えてほしいなー」

 「わかりました。その内機会があると思いますから、そのときにお伝えします」

 いいなぁジェニー。これでチート能力わかってないの俺だけになっちゃったな。ハァ……一体いつになったらわかるんだろ。


 「残るはアンタだな。オルガさんよ」

 ディックがニヤリと口角を上げて言う。この顔、何か企んでる?

 「俺は初心者サポートを――」

 「あーあーあ、自己紹介はいいや。俺たち全員アンタのことは知ってる。25年前の魔人戦争でフィラディルフィア西区に侵入してきた数多くの魔人どもを撃退した英雄の一人。騎士団に属してる人間で知らないヤツはいない」

 な! 顔が広いとは思っていたけど、そんなに有名人だったのかよ!

 「ルーノール・カスケードが指揮するパーティーで"魔人ガイゼルクエイス"と戦い、ルーノール以外に唯一パーティー内で生き残った男」

 ルーノールって人類守護神と言われてるやつだよな。オルガと顔見知りだったのか? それに魔人と戦ったって? そんな話オルガから一度も聞いてないぞ。

 「……魔人を撃退した、か……フッ」

 何を思ってか、オルガは鼻で笑った後、言葉を続ける。

 「それだけ知っていながら、俺から何を聞きたいんだ?」

 「千頭 亮ちかみ りょう。さっきアンタが恋人の名を呼ぶみてぇに叫んでたヤツに関してだ」

 オルガとディックの視線が交差する。その間には張り詰めた糸があった。

 まず千頭って誰なんだよ、と思った俺はそれを訊ねようとしたが、二人は妙に聞きにくい雰囲気を漂わせていたもんだから、ミカに小声で聴いてみた。

 「……なぁ、千頭って誰だ?」

 ミカはお手上げのポーズをして、首を左右に振った。ミカも知らないらしい。

 「千頭はジェヌインのリーダーでーす」

 前の席にいたアイリスが俺の方へ上体を前のめりにして教えてくれた。

 「ジェヌインって?」

 「ジェヌインは500から1000人を超える人員で構成されていると言われている組織でーす。金品を盗み、人も攫う憎っくき悪党どもで、居場所や生活が困難になった転生者たちが寄り集まってできたと考えられてまーす」

 「んでもって、ジェヌインのボスである千頭 亮もまた転生者ってわけだ」

 アイリスの発言にディックが付け足す。

 「そして、千頭の初心者サポートを担当したのはアンタっつー話だよな、オルガ。あの野郎に関して知ってることがあんなら教えてくれよ。今どこで何をしてるのかとかよ」

 「……聞きたいのは俺の方だ。俺にはアイツが見えない……犯罪など犯すような人間ではなかったはずなのだがな」

 「ほぉ、その口ぶりだと仲は良かったみてぇだな。けどよ、千頭が転生してから街にいた期間はたったの三ヶ月だ。そんな短い間に人の本性が見えるかよ」

 「亮のことはそれより以前から知っていたさ」

 「……何?」

 初心者サポートをする前から知っている? それって、つまり――。

 「亮のことは死ぬ前から――転生する前から知っている」

 やっぱり。
 考えてみれば、異世界ウォールガイヤには地球上の人間が次々にやってきているんだ。その中に以前から関係のある人間がいたっておかしくはない。

 「当時のアイツを知っているからこそ尚更わからない。何故、14年前、俺たちの前から姿を消したのか……何故、盗賊の真似事を始めたのか……」

 オルガの口調には若干熱がこもっていた。

 千頭 亮……一体どんなヤツなんだろう。犯罪者と関わり合いになりたくはないが、オルガがここまで気にかける存在だ。気になる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...