俺のチートって何?

臙脂色

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第三章   ― 筆頭勇者と無法者 ―

第78話 新たなるステージ

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 とある場所での罪が不協和音を奏でる。

 「……zzz……zzz……ムニャムニャ……スローライフばんざいぃ……zzz……」


 *


 「さっ、こんなもんでどお?」

 「おー、結構いい感じ。ありがとな、ミカ」

 あれから数日が経った今日。自宅で、俺はミカに髪を切ってもらった。
 長いこと髪を切ってこなかったミカが、空白ブランクを埋めるために俺の髪を切らせてほしいとお願いしてきたのだ。俺としてもこっちの世界に来てから散髪してなかったから是非にと頼み、今に至る。

 「うー、ホントはドライヤーがあればブローもできるんだけど……ドライヤーがあれば……ね……ドライヤー……」

 ハサミや櫛をマリンが作ってくれた革のケースにしまいながら、何度もドライヤーという単語を挟んでは俺の方をチラチラと見てくる。

 「……買わないぞ」

 「ケーチッ」

 「あのなぁ、アリーナをやり過ごすためにも、今は金を貯めなきゃいけないってわかってるだろ?」

 「わかってるけどさー。ショウマはアイツに勝てるほどの強さがあるんだから、そうそう負けることないっしょ?」

 あー……そういえばミカには俺の能力のことちゃんと話してなかったな。
 俺のチートって結局、不明のままなんだよな。この前、中央区に行ったときに見つけたチート能力辞典にも、それっぽいものなかったし。
 匠の試合ではたまたま発動してくれたみたいだが、今度も都合よくチート能力が機能してくれるとは限らない。戦いはできるだけ避けないと。


 カタンッと玄関の方から音が鳴った。どうやらポストに郵便が届いたらしい。

 家を出て錆びついたポストに投函された物を取り出して見ると、そこには一通の封筒。
 封を切って中身を確認すると手紙が入っていた。

 どれどれ、内容は……!

 「なになにー? 何が書いてあったのー?」

 横から覗いてきたミカは、大して時間を置くことなく苦笑いを浮かべた。

 「……ショウマ、これは……」

 わかってる。言いたいことは。
 けどこれがもし本当だったとしたら、またとないチャンスだ!


 *


 「で、わざわざ俺にその紙を見せに来たと」

 オルガが、俺から先程の手紙を受け取りながら言った。

 「いいから読んでくれよ。あんたから見てどうか聴きたい」

 「ふむ……クエストか……どれ内容は……バミューダ港までの護衛だと? 難易度Bランク相当のクエストが何故ナベウマに」

 「細かいことはいいんだよ! もっと先!」

 「先……!」

 オルガの眉間にシワが寄る。

 「――報酬100万G……だと……? 馬鹿な、明らかに相場の額じゃないぞ」

 「や、やっぱ詐欺なのか?」

 クソ! これがマジ話だったら一気に金の問題が解決したのに!

 「……引っかかるな」

 「ああ、そうだな。こんなわかりやすい詐欺に引っかかって――」

 「そうではなくて、詐欺だとしたら何故金を全く持ってないナベウマに送ったのか違和感があると言ってるんだ。長屋に住んでる人間から金を盗ろうとしたって、盗れる金額など、たかが知れているだろうに」

 「……言われてみれば確かにそうだな」

 「とはいえ明後日の朝九時頃に、アリオス林道か……急な上に打ち合わせもなし。オマケに人通りの少ない林道が集合場所とは、怪しさ満点だな」

 「はぁ……じゃあ、やっぱり詐欺なのか」

 少し期待していただけに、俺は肩を落とす。

 「結論を出すには早い。逆にここまであからさまだと、本当の可能性もある。実際、お前さんはアリーナ戦でちょいと有名になったから、富豪が目をつけて依頼を出したって線もあり得る」

 「うーん、なら一応行くだけ行ってみるかなぁ」


 *


 というわけで、二日後。俺たちは指定された待ち合わせ場所である林道へとやってきた。道幅は馬車が二台並んでギリギリ通れるぐらいだろうか。道の両脇には背の高い木が密に並んで生えており、鬱蒼うっそうとしている。
 マリンとミカに加えてオルガも同行している。もしも相手が詐欺師だった場合、オルガが取り押さえて連行する手筈になっている。
 それはいい。

 「何でジェニーたちもいるんだよ」

 「んー、ミカちゃんがバミューダに行けるかもしれないってー、誘ってきたから」

 ミカのやつ、ジェニーと仲良いよなあ。

 「来るのは構わないけどさ、そっちはアリーナ大丈夫なのかよ。もう二回目が始まる頃だろ?」

 「そういえば言ってなかったけど、私たちは辞退料払ってアリーナはなしになったんだー」

 「な! いつの間に?! てか、そんな金どこから?!」

 「んとー、南区へ小旅行行ってすぐかなー。メシュの『閃光フラッシュ』のチート能力を見込んで洞窟調査に一緒についてきてほしいってクエストがきて、それで結構稼いだんだー」

 「なあぁ! ズルいぞジェニー!」

 「んなこと言われてもねー」

 その後、メシュが洞窟調査での自分の活躍を偉そうに語っている間に、それらしきものを発見する。馬車だ。
 雨風を凌ぐための白い布が上から被せられており、ユニコーンっぽい馬が二頭繋げられている。
 だが、肝心の人の姿が見えない。


 「うーん? 馬車があるなら近くに人もいるはずだよな。林の中で用でも足してるのか?」

 人の影がないか、薄暗い木々の間を覗き込もうとした。
 そのときだった。

 「ヤバーイ!」

 一体何がヤバイのか。と、ジェニーの方を向いた瞬間、俺はジェニーに体当たりをかまされ押し倒された。

 「ちょっ! 何す――」

 文句を言おうとしたがやめた。
 俺がさっきまで立っていた場所に、上空から人が降りてきて五本の指を地面に突き立てていたからだ。

 な、何だコイツは?!
 そいつは指を引き抜くと、ゆらりと立ち上がって俺の方に顔を向ける。灰色のローブを着ている。顔はフードを深く被っているせいでハッキリと見えない。


 「あーあ、かわされちまったか。ま、しゃーねーか『直感インチュイション』持ちがいるなんて知らなかったし」

 ん?! 今のは灰色のヤツから発せられた声じゃない! もう一人?!

 声がした方を見やると、灰色のヤツと同様に、フードで顔を隠し、黒いローブを羽織っている人物が林の中から歩いて出てきていた。
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