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第三章 ― 筆頭勇者と無法者 ―
第69話 ミカ
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レイヤの協力もあり、冷蔵庫、衣装棚、調理道具、寝具などなど、必要最低限の家具家電をその日の内に揃えることができた。
日用品も合わせると結構な出費になったが、アリーナで手に入った賞金10万Gのおかげで貯金には全く手をつけずに済んだ。むしろ、キノコバイトの分を入れると金は増えている。
ところで、ウォールガイヤには銀行は無い。
昔はあったらしいが、何度か預かった金を返すことができなくなる事態が発生し、信用を得られなくなったそうだ。だから、1000円札、5000円札みたいな紙幣は無くて金ピカに光る硬貨のみだし、有り金全部を自己管理しなくちゃいけない。あと、俺にはあまり実感の湧かない話だが、金のやり取りも直接行わなければならいないので、前の世界でクレジットカードを多用していた人からすると、かなり面倒なんだと。
有り金全てを管理とか、どこに保管しておくんだってことになるが、専用の金庫が初心者サポートを終えた際にもらえる。両手で抱えられる程度の大きさの長方体の箱で、外側一面に粒状の黒くくすんだ魔法石がビッシリひっついている。魔法石は魔力が吹き込まれていない状態ではこのように黒く、密度の高い魔力に反応してそれを中へ取り込む特性がある。金庫に魔法石が取り付けられているのはセキュリティの一環であり、魔力を吸う特性を利用して外部からの魔法チートを無効化、金庫の中にある硬貨を盗み出すことを防いでいるとのこと。
ただし金に余裕がある人は、魔法石が付いていないタイプの金庫を用いる。それには『道具収納』というチート能力が込められた魔法石を使うらしいのだが詳しくは知らない。
「ちゃんと冷えてますね」
そろそろ晩飯時という時間に、マリンが取り付けたばかりの冷蔵庫のドアを開けて、片手で中の温度を確認している。
ちなみに冷蔵庫は、前の世界と同様コンセントに挿して使う。その電力はどこからきているのかというと、魔法チートだ。『雷魔法』を使える人間が発電所で電力を供給している。その仕事内容はブラックだと囁かれている。
「よしよし、問題はなさそうだな。二人とも、今日はお疲れさん」
4人が囲える程度の大きさの丸机の前で俺は両足を投げ出し、壁を背もたれ代わりにする。やっぱり部屋狭いな。
オルガの宿ではマリンが毎朝スタンドミラーで身だしなみを整えていたから、鏡も欲しいんだけどこれ以上物を置くにはスペースが厳しい。鏡を壁に掛けようにも引っ掛けられる金具のようなものはないし、長屋の大家からは壁に穴を開けないように釘を刺されている。
グゥー。
腹の虫が鳴り、マリンが口元に手を当ててクスッと笑う。
全くこの腹は少しは我慢できんのかね。
「もういい時間ですもんね。あ、そういえば食材買うの忘れてましたね」
「あー、今から買いに行って作ってたら遅くなるし、今夜は弁当にしよう」
「はい! 私! 行ってきます!」
机の前で座っていたミカが、勢いよく立ち上がって右手で敬礼のポーズをとる。何故敬礼。
それにしても、改めて見ても目のやり場に困る格好だ。ヘソ出しの白いTシャツに、ベージュのホットパンツと布面積が少な過ぎる。多分前のパートナーの趣味なんだろうが、ウォールガイヤも10月を迎えて気温が下がりつつあるし、暖かい格好をさせてやりたい。
「待てよミカ。三人で一緒に――」
「お気遣い無く! 一人で大丈夫なので! ご主人様はゆっくり家で寛いでくだしぃっ! かんだ! くださいませーーー!」
「お、おい、ミカ」
俺の財布から、いくらかゴールドを持ち出すと家をバタバタと騒々しく飛び出していった。
うーん……最初会ったときから薄々思ってはいたが、俺ってミカから避けられてるのか?
俺は机に頬杖をつき、目を瞑る。
えー? だとしたら何でだ? 俺何か悪いことしたか? 全然心当たりないぞ。
ちゃんと話し合える機会がほしいが、ミカは何かと理由をつけて逃げ出しちゃうからなぁ。こうなったら無理矢理縄で縛って……いやいや、それは余計関係が悪くなりそうだ……何かいい手は――。
目を開けると、机を挟んだ先で正座していたマリンがじとーっとした目で俺を見ていた。
「ま、マリン?」
「また一人で考えて込んでません?」
「うっ」
鋭い。
……そうだな、ちゃんとマリンにも話そう。
俺は自分がミカに嫌われているのではないか、嫌いだったらその理由は何なのか知りたいという旨を話した。
「わかりました。それで難しい顔をなさっていたんですね」
「ああ。俺の何が嫌なのかさえわかれば、それを俺が直すだけなんだけど」
顔とか見た目が受け付けないとか言われたらお手上げだが。
マリンが顎に指先を当てる。何か考えている様子だ。
「……私の見立てでは、ショウマ様のことを嫌っているわけではないと思いますよ」
「え、そうなの?」
「はい。ただ、距離をとっている理由まではわかりません」
「だよねー……」
「あの、私がそれとなく聞いてみましょうか?」
マリンが聞く……確かに。マリンとミカは今のところ仲が良いわけではないが、悪いようにも見えない。マリンになら逃げたりせず話してくれる可能性があるか。
「お願いしていい?」
「はい、任せてください」
マリンがニコッと笑う。
肩に乗っかっていた荷物が軽くなったような気分。
長い間忘れていた感覚だ。
日用品も合わせると結構な出費になったが、アリーナで手に入った賞金10万Gのおかげで貯金には全く手をつけずに済んだ。むしろ、キノコバイトの分を入れると金は増えている。
ところで、ウォールガイヤには銀行は無い。
昔はあったらしいが、何度か預かった金を返すことができなくなる事態が発生し、信用を得られなくなったそうだ。だから、1000円札、5000円札みたいな紙幣は無くて金ピカに光る硬貨のみだし、有り金全部を自己管理しなくちゃいけない。あと、俺にはあまり実感の湧かない話だが、金のやり取りも直接行わなければならいないので、前の世界でクレジットカードを多用していた人からすると、かなり面倒なんだと。
有り金全てを管理とか、どこに保管しておくんだってことになるが、専用の金庫が初心者サポートを終えた際にもらえる。両手で抱えられる程度の大きさの長方体の箱で、外側一面に粒状の黒くくすんだ魔法石がビッシリひっついている。魔法石は魔力が吹き込まれていない状態ではこのように黒く、密度の高い魔力に反応してそれを中へ取り込む特性がある。金庫に魔法石が取り付けられているのはセキュリティの一環であり、魔力を吸う特性を利用して外部からの魔法チートを無効化、金庫の中にある硬貨を盗み出すことを防いでいるとのこと。
ただし金に余裕がある人は、魔法石が付いていないタイプの金庫を用いる。それには『道具収納』というチート能力が込められた魔法石を使うらしいのだが詳しくは知らない。
「ちゃんと冷えてますね」
そろそろ晩飯時という時間に、マリンが取り付けたばかりの冷蔵庫のドアを開けて、片手で中の温度を確認している。
ちなみに冷蔵庫は、前の世界と同様コンセントに挿して使う。その電力はどこからきているのかというと、魔法チートだ。『雷魔法』を使える人間が発電所で電力を供給している。その仕事内容はブラックだと囁かれている。
「よしよし、問題はなさそうだな。二人とも、今日はお疲れさん」
4人が囲える程度の大きさの丸机の前で俺は両足を投げ出し、壁を背もたれ代わりにする。やっぱり部屋狭いな。
オルガの宿ではマリンが毎朝スタンドミラーで身だしなみを整えていたから、鏡も欲しいんだけどこれ以上物を置くにはスペースが厳しい。鏡を壁に掛けようにも引っ掛けられる金具のようなものはないし、長屋の大家からは壁に穴を開けないように釘を刺されている。
グゥー。
腹の虫が鳴り、マリンが口元に手を当ててクスッと笑う。
全くこの腹は少しは我慢できんのかね。
「もういい時間ですもんね。あ、そういえば食材買うの忘れてましたね」
「あー、今から買いに行って作ってたら遅くなるし、今夜は弁当にしよう」
「はい! 私! 行ってきます!」
机の前で座っていたミカが、勢いよく立ち上がって右手で敬礼のポーズをとる。何故敬礼。
それにしても、改めて見ても目のやり場に困る格好だ。ヘソ出しの白いTシャツに、ベージュのホットパンツと布面積が少な過ぎる。多分前のパートナーの趣味なんだろうが、ウォールガイヤも10月を迎えて気温が下がりつつあるし、暖かい格好をさせてやりたい。
「待てよミカ。三人で一緒に――」
「お気遣い無く! 一人で大丈夫なので! ご主人様はゆっくり家で寛いでくだしぃっ! かんだ! くださいませーーー!」
「お、おい、ミカ」
俺の財布から、いくらかゴールドを持ち出すと家をバタバタと騒々しく飛び出していった。
うーん……最初会ったときから薄々思ってはいたが、俺ってミカから避けられてるのか?
俺は机に頬杖をつき、目を瞑る。
えー? だとしたら何でだ? 俺何か悪いことしたか? 全然心当たりないぞ。
ちゃんと話し合える機会がほしいが、ミカは何かと理由をつけて逃げ出しちゃうからなぁ。こうなったら無理矢理縄で縛って……いやいや、それは余計関係が悪くなりそうだ……何かいい手は――。
目を開けると、机を挟んだ先で正座していたマリンがじとーっとした目で俺を見ていた。
「ま、マリン?」
「また一人で考えて込んでません?」
「うっ」
鋭い。
……そうだな、ちゃんとマリンにも話そう。
俺は自分がミカに嫌われているのではないか、嫌いだったらその理由は何なのか知りたいという旨を話した。
「わかりました。それで難しい顔をなさっていたんですね」
「ああ。俺の何が嫌なのかさえわかれば、それを俺が直すだけなんだけど」
顔とか見た目が受け付けないとか言われたらお手上げだが。
マリンが顎に指先を当てる。何か考えている様子だ。
「……私の見立てでは、ショウマ様のことを嫌っているわけではないと思いますよ」
「え、そうなの?」
「はい。ただ、距離をとっている理由まではわかりません」
「だよねー……」
「あの、私がそれとなく聞いてみましょうか?」
マリンが聞く……確かに。マリンとミカは今のところ仲が良いわけではないが、悪いようにも見えない。マリンになら逃げたりせず話してくれる可能性があるか。
「お願いしていい?」
「はい、任せてください」
マリンがニコッと笑う。
肩に乗っかっていた荷物が軽くなったような気分。
長い間忘れていた感覚だ。
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