俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第66話 俺の名前は渡辺 勝麻、18歳 どこにでもいる普通の高校生ってやつだ

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 ……あれ、ここって……

 俺は見覚えのある教室にいた。
 高校……違う、中学だ。
 均等に並んでいる椅子と机、黒板の横に置かれた木造の収納棚、教室の前後の壁に取り付けられたボードに貼られている紙の位置や印刷されている内容全てが、中学の頃の記憶と合致する。
 その教室内で、窓側の後ろ――あの頃の自分の席に俺は腰を掛けていた。

 『ねぇ、この前の事件、起こしたのってあの子じゃない?』

 「――ッ!」

 誰かいるのか!
 教室を見回すが、誰もいない。

 『転校してきたタイミングがバッチリだもんねー』
 『おい、お前話しかけに行けよ』
 『やだよ、お前が行けよ』

 声だけが聞こえてくる。
 それなのに、まるで耳元で直接言われているかのような感覚。
 しかも、その内容は俺にとって耐え難いものだった。

 やめろ……何も知らないくせに……俺はただ……やるべきことをやっただけだ!

 『渡辺。父親がいなくて苦労してるのはわかるがな』

 耳を塞いでるのになんで!

 『お前、!』

 黙れよ!



 「ハッ!」

 目を見開くと、俺は知っている天井の下で寝ていた。つい二週間前にも世話になった布団とベッド。病院だ。
 ……夢か、最悪な目覚めだな。
 えっと、匠と戦って……それでどうなったんだっけ……。

 「おかげで大事にならずに済んだ。どうもな、レイヤ」

 オルガ! 病室の外からドアを挟んで、オルガの声が聞こえる。
 それにレイヤ。そう、レイヤだ。あのとき、レイヤが後ろから俺を殴って、それで気を失ったんだ。

 「彼を止めるときね、一瞬目が見えたの。最後に会ったときのりょうくんにソックリだった」

 レイヤの声も扉の向こうから聞こえてくる。その声にはレイヤらしいハキハキとした明るさはなく、暗い。
 亮? 誰のことだ?

 「ねぇ、オルガ。彼のこと……ううん、なんでもない……」

 それから少し間をおいて、

 「努力はしよう」

 オルガは言った。


 その後、扉が開きオルガが入ってくる。どうやら二人の会話は終わったようだ。

 「起きていたか」

 「試合どうなった?」

 俺は回復魔法をかけられたことによるダルさを感じつつも、上体を起こす。

 「匠の降参でお前さんの勝ちだ。だが、もしあのまま匠を攻撃していたら、反則負けになっていたぞ。レイヤに感謝するんだな」

 「そっか……俺はマリンを守ることができたんだな。イタタッ」

 気が抜けたせいか、骨折した箇所が主張を始める。

 「約束を破ったな。たまたま能力が発動して勝ったからいいもの。下手すれば死んでいた」

 「悪かったよ。でも、粘らなきゃマリンはアイツのパートナーにさせられてたんだ。やるしかなかったんだよ」

 「やるしかないか。マリンの命を救おうと山へ向かったあの夜から思っていた。自分が正しい思った行いを成そうとする姿勢は称賛に値する。だがな、ナベウマのは行き過ぎだ。目的のために自分の体が傷つくを何とも思っていない」

 「それの何がいけないんだ。自分の譲れないものを守って何が悪い」

 「周りが心配する」

 「……似合わないこと言うなよ」

 「俺のことはそれでもいい。だが、マリンはどうなる。修行を始めてから毎日毎日生傷が絶えず、終いには二回目の入院沙汰。彼女が何も思わないと思ってるのか?」

 「……二週間ずっと修行の傷はクエスト中に負ったで納得してくれてたんだ。そこまで心配してる様子もなかったし、今回だってモンスターに襲われたとでも言えば、わかってくれるさ」

 「本気でそう思っているのなら、お前さんはマリンのことを表面上でしか見れていない」

 「――なっ。俺がマリンをわかってないっていうのかよ」

 オルガは返事をしなかった。
 俺に背を向け、部屋を出て行こうと扉を開ける。

 「やはり、来ていたか」

 廊下の外を見てオルガが言った。
 オルガを横切って部屋に入ってきたのは、

 「マリン!」

 オルガはマリンが部屋に入るのを見送った後、廊下に出て行った。

 物憂げな表情で、俺の両腕に巻かれた包帯に視線を送るマリン。
 まずい、言い訳まだちゃんと考えてないのに。

 「あー、ハハハ。やっちまったよ、凶暴なモンスターに出くわしちまって、あちこち――」

 「嘘ですよね」

 心臓が、喉から飛び出そうになった。

 「ショウマ様は顔に出やすいですから、クエストに行っていないこともわかってましたし、アリーナで私のために戦わなきゃいけないことも、店長に何度も尋ねて教えてもらいました。それでも黙っていたのは、ショウマ様がそれを望んでいたからです」

 え……マリンはずっと知っていたのか。知ってて、でも俺が話したくないならって、気遣ってくれてたっていうのか。
 ……まさか、試合中に聞こえたマリンの声も、気のせいじゃなくて……。

 「もしかして、俺の試合見てた?」

 「怖かったです……すごく怖かった……ショウマ様が血を吐いて、腕が酷いことになって、気が変になりそうでした……」

 マリンが両肩を震わせ、とても辛そうな表情で俺を見る。

 「……ショウマ様は、私に自分のこと話そうとしてくれませんよね……」

 マリンの頬を、涙が伝う。

 「……そんなに……私って……頼りに……なりませんか? 相談しようって……思っては……もらえないんですか?」

 ポタポタと雫が落ちていく。
 泣かせてしまった。マリンを。好きになった女の子を。
 胸が締め付けられるように痛い。でも、きっとマリンは俺以上に痛がっている。

 このときになって、痛感する。ジェニーとメシュの言っていたことが、身に沁みる。
 何が一番イイだ。浅はか過ぎるだろ。
 不安にさせないため、心配させないため。
 全部俺のエゴでしかなかった。マリンがどう思うか、本当の意味で考えてなんかいなかった。

 ……マリンは、パートナーだ。
 この先、この異世界で寿命を迎えるまで、俺は彼女と生涯をともに過ごすかもしれない。

 「マリン、少し話が長くなるけどいいか?」

 マリンは静かに頷いてくれた。

 「そんなことない、俺はマリンを信頼している」そんな上辺だけの台詞を言っても、きっとその場凌ぎで終わるだろう。それじゃ、ダメなんだ。俺はちゃんとマリンに”自分”を伝えるべきなんだ。
 嫌われるかもしれない。
 それでも、話さなければ、俺とマリンの関係はこのままだ。

 だから、俺の全てを話す。
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