俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第63話 vs Lv71 匠 前編

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 廊下から外に出ると、空から降り注ぐ日の光の眩しさに俺は目を細める。その目で彼方此方を見渡す。
 改めて見ても広い戦場だ。俺の高校のグラウンドよりもずっとでかい。
 戦場を囲む高い壁の上に設置された観客席にいる人の数も半端じゃない。
 チッ、あの観客たちは何が面白くて騒いでやがんだか。悪趣味にもほどがある。

 「頑張れよー新人!」
 「無理しないで早めにリタイアしちまえよー!」
 「たくみー! 手加減しなさいよぉ!」

 観客席の老若男女たちが好き勝手言うが、そのどれもが俺にとって不愉快だった。誰も俺が勝利すると思ってない。誰もが匠の方が勝つと思っている。

 『渡辺 勝麻選手のステータスはレベル13 攻撃力16 防御力14 魔力0 器用さ8 速さ9。これに対し、匠選手のステータスはレベル71 攻撃力104 防御力104 魔力0 器用さ23 速さ63。と、圧倒的な差です! これは勝麻選手かなり厳しいと言わざるを得ないですねぇニモさん』

 『そうですね。しかも『怪力アサルトパワー』は弱点らしい部分がなく安定した戦い方ができるので、余計に渡辺選手が勝利するのは困難と言えます』

 『あー辛い! 渡辺選手辛いです! しかし、これに勝てれば、一躍時の人になれる! どうか諦めないでくれ! 渡辺 勝麻!』

 実況も諦めムードと。

 言われなくても、諦めるつもりはない。時の人とかに興味はないが、まぁ奇跡の逆転劇かましてビックリさせてやるよ。
 俺は100m以上は離れた先にいる匠を見据え、前へ進む。
 この前会ったときと同じ、長袖の革ジャンを着ているな。良かった、少しはやりやすいかな。


 戦場の中央へと俺と匠は歩き続け、互いの距離が10mになった辺りで足を止めた。

 「あーあー、やる気満々な面構えしちゃってよぉ。お前さあ、ドMなの? 痛めつけられるの大好きなの?」

 「ほざいてろ」

 相変わらず人をなめた態度に、俺は眉間にシワを寄せて睨む。

 「おー怖い怖い」


 カーンッ!

 『試合開始だああ! 初めに攻めるのはああ――』

 匠が両膝を曲げて腰を落とした。
 
 来る!

 匠が動き出したのを見てすぐさま右へ飛んだ瞬間、左耳でボッと音が鳴る。
 は、はええぇ! 全く見えなかった! オルガから『怪力』の脚力による瞬間的な移動スピードに注意することを教えられてなきゃ、今のでやられていた!

 『やはり匠選手だあぁ!』

 早く顔を左に向けろ! 次の攻撃に備えろ!
 横へ飛んだ足が地面に突くと、俺は全力で体を左へ向けた。
 匠は一気に間合いを詰めた勢いで派手に砂煙を舞い上げ、前傾姿勢になっていた。
 その体勢を起こしながら、右の拳を下から抉りこむように放ってくる。
 ――ッ!
 上体を反らして、その一撃をかわす。
 ボッという風の音が再び耳に入り、前髪がなびく。

 体勢を立て直した匠は、右、左、右、左、右、右と次々にパンチを打ち込んでくる。
 それを下に左右に体をふって、避ける。
 連続の突き。一発一発がこいつにとっては全力じゃない。それでも。風を吹かせるほどの威力。当たれば致命的だ。

 次の瞬間、匠が大きく屈んだ。
 ――何だ、下、足払いか!
 匠が自身の体を片足と片手で支えながらもう片方の足で俺の足を蹴ろうとしてくるのを、後ろへ飛んで避ける。
 危な! “観の目”で視野を広げてなきゃくらってた!

 「ガキィ、やるじゃねぇか。ちょこまかと。逃げ回るのがうめぇうめぇ。ひょっとしてオメェのチート能力『逃げる』なんじゃねぇか。ヘッヘッヘ」

 挑発のつもりか? そんな手にのるかよ。
 こちとら、やるかやられるかの一発勝負に賭けてるんだ。冷静に、チャンスを待つ!

 匠が大きくジャンプした。高さ5mにまで達する人間離れしたジャンプだ。
 右腕を後ろへ耳元まで引いて俺へ突っ込んでくる。これ以上ないってくらいわかりやすいテレフォンパンチ。これまでの攻撃群の中で一番簡単に回避できる。
 後ろへ五、六歩下がった頃になって、匠の攻撃が俺が立っていた地点にようやく届き、匠の右腕が地面を砕いて肘近くまで埋まった。
 ――これは、匠はすぐには動き出せない、チャンスか?!
 俺は右のポケットに手を入れようとしたが、その手を途中で止めた。
 待てよ。今の攻撃は流石にあからさますぎる。他に狙いが――。

 「ならよ、こんなのはどうだああぁ?!」

 
 匠が砕いた地面のヒビが広がった直後、地面が爆発したかのように弾け、石の散弾が真横に飛んで俺へ迫る。
 なっ! 腕を強引に持ち上げて地面の一部を飛ばしてきやがるとか! 無茶苦茶だろ!
 顔面に向かってくるバスケットボール大の石。横に移動して避けたいが、左右にもバスケットボール前後の大きさの石があり、扇状に飛来するそれらが俺に横に避けるスペースを与えてくれない! 前からくるやつを屈んでかわす以外に無い!
 くっ!
 両膝から力を抜き、姿勢を低くして何とかその大きな石をやり過ごす。

 けどそれで終わりじゃない。石つぶてがまだ飛んでくる。
 迫り来る弾への対処を続けようと前に意識を向けたときだった。
 石が乱舞する先で、匠が一番初めに突っ込んできたときと同様に膝を曲げた。
 ――しまった!
 そこでやっと匠の狙いを理解する。
 石の散弾は、俺の身動きを封じるための布石でしかない!
 横には逃げられないと判断して、その場に止まった時点で、俺は次の攻撃を避けられない!

 匠の足が地面から離れる。
 くらえば確実に終わる。マリンが奪われる。ダメだ。そんなのダメだ。

 俺の体が何を血迷ったのか、前へ駆け出そうとする。
 その行動に俺の考えは介在していない。
 脊髄反射だった。
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