俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第60話 匠 & 知世

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 っていうかアルカトラズって……前にリーがそんなような単語を口にしていたような。話の流れからして刑務所かなんかなのか?

 男と女の子の視線が交わる。
 男は明らかに攻撃的な目を向けていたが、女の子の方はただ重く静かだった。
 何を考えているのかわからない……そうだ、彼女には隙がない。男がどう攻めようとも反撃できる、そんなイメージが脳内で浮かんでくる。

 「和服に刀を扱う女……なーるほど、オメーの――草薙くさなぎの娘か。こいつぁは怒らせない方が良さそうだ」

 男が鞘から足を離す。それに応じるように、女の子も鞘を引っ込めた。
 四大勇者? クサナギ?
 セリフ内容の理解が追いつかない内に、クサナギの娘と呼ばれた女の子が口を開ける。

 「相手主人のお連れを手に入れたいというのであれば、店の中ではなくアリーナで戦って手に入れることです」

 「俺をビギナー扱いしてんじゃねぇよ、それぐれぇわかってらぁ。つーわけだからよガキ、身分証明書見せろ」

 「はあ? 何でだよ?」

 「決まってんだろ。名前も住所もわからなきゃアリーナ申請できねぇじゃねぇか」

 アリーナ申請だって? アリーナは対戦相手を指名することもできるのか? 冗談じゃない。こんなヤツにもしマリンを奪われたりしてみろ。さっきの発言と行動から考えて、この男はマリンを自分の欲求を満たすためだけの道具として扱うに違いない。

 俺は反抗的な目つきを男に向けて言ってやる。

 「戦ってやる義理はない」

 男が呆れたように肩を竦める横で、和服の女の子が口を開ける。

 「16以上かつ、お連れがいる方からアリーナの挑戦を受けた場合、別の方から申請を受けてないのであれば、その方の申請を拒否することは罪にあたります」

 「断ったら金でも取られるのかよ?」

 「はい、約20万Gの罰金です。支払えない場合は、アルカトラズへと護送されます」

 20万G。辞退するのと同じ額が請求されるのか。

 チッ! 何だよそれ!
 つくづく、この社会は転生したばかりの人間に優しくねえ! 後出しジャンケンみたいに、どんどんローカルルール持ち出しやがって!
 よくドラマとかである、気づいたら不利な契約にサインしてたとか。そんな感覚の連続だ。

 「ほらよ、満足か」

 男の顔を睨みながら、懐から取り出した身分証明書を突きつける。

 「ふーん、渡辺 勝麻、18歳ね。ホントにガキじゃねぇか。逆にレアものだぜこいつぁ。ま、俺も名前だけ教えといてやるかねぇ。俺はたくみ。よろしく、なんて気はねぇが、これから自分を負かす相手の名前ぐれぇ知っておきてぇだろ」

 匠と名乗った男はドヤ顔で俺を見下した後、テーブルの前に座っていた他の3人の女の子に声をかける。

 「オメーら、アリーナ行くぞ」

 男はそう言うと、店の出口へと歩き出した。俺との試合を取り付けるための手続きをしてくるってことか。
 同い年ぐらいの女の子二人と俺より年上っぽい女が椅子から立ち上がり、店を後にする男についていく。女の子たちの表情は諦めに満ちていた。この先のことに微塵も期待していないかのように。途中、男が自分のそばまで寄ってきた女の子の背に手を回したかと思うと、その子のお尻を揉みしだいた。それにより、女の子が体を震わせる。
 あの野郎、公衆の面前で平然と……あれもこの世界じゃ当たり前の風景だっていうのか。
 その疑問を肯定するかのように、隣で彼の不純な行為を目の当たりしていた和服少女の横顔は平静そのものだった。


 「マリン、平気か?」

 「私のことよりショウマ様とジェニーさんのことが心配です。どこも怪我していませんか」

 「俺は大丈夫だ」
 「私も何ともないよー」

 とりあえず、ジェニーに礼を言っておかないとな。

 「ジェニー、助けてくれてありがとな」

 「ふふー、助かってよかったねー」

 あんなことがあっても、ジェニーの脱力感は平常運転だった。肝が据わってるよ、ホント。

 この子にも言わなきゃな。
 ジェニーを危ない目に合わせるとは何事かー、的なことを一喝しているメシュのことは置いといて、俺は少女の方に顔を向けて言う。

 「君もありがとな」

 「……餡蜜」

 彼女は俺の方を一切見ずに言った…………って、え、あんみつ? あんみつって餡蜜?
 少女の謎の言動に、目をパチクリとさせる俺。

 「「知世ちせ様! お怪我はございませぬか!」」

 店の端で成り行きを見守っていた和服を着た男二人が声をハモらせながら、少女へ駆け寄ってきた。
 コイツらこの子のパートナーか?

 「……餡蜜、食べられませんでした」

 「ああ、知世様! 御労しゅう御座います!」

 片方の男が胸が締め付けられているかのような声をあげる。

 そういえばこの店、デザートに白玉餡蜜があったよな。
 俺は後ろを振り返る。
 匠とかいう野郎が座っていたテーブルから斜めの位置にあるテーブルの上を見やると、透明な容器が横たわっており、その口から白玉やらクリームやら小豆やらが無残にもぶちまけられていた。
 あー……、野郎の拳圧で容器が倒れちゃったのか。

 再び視線を知世と呼ばれた和服少女に戻す。
 俺が直接手を下したわけじゃないけど、巻き添えにした自覚はあるからな……。

 「せっかくのデザート台無しにしてごめんな。代わりに俺がもう一つ頼むよ」

 「――ななっ!」

 知世は、さっきまでの隙の無い目が嘘だったかのように、目を皿にして俺のことを見た。
 すごい食いつきだな、余程餡蜜が好きなんだな。

 「はっ、うっ、しかし……」

 両目を瞑って片方の腕を反対の手で掴み始めたぞ。すごく葛藤してる様子だ。

 「母様には他所様からお恵みを頂戴してはならぬと申し付けられてる故、接受するわけには参りません。お気持ちだけ頂きます。さらば!」

 目を固く閉じたまま、こちらの返答を待たずに店を飛び出して行ってしまった。彼女の名前を叫びながら、パートナーらしき男たちも出て行く。
 知世か……堅い子かと思ったけど、ユーモアがあったな。
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