62 / 172
第二章 ― 争奪戦 ―
第59話 店内騒動
しおりを挟む
茶色の革ジャン、髪型は黒のオールバック。顎をだらしなく上げている姿は、ヤンキーの様だった。4人掛けのテーブルに座っており、他にも三人の女性が座っている。
「あんた可愛いなぁ。俺の“ハーレム”に入らないか?」
「おい! テメェ、マリンに何の用だよ!」
男は、俺を見下すような視線を向けやがる。何なんだこの偉そうな野郎は!
「あーあー、可哀想に、こんなガキがご主人様じゃあ女の悦びも知らねぇだろ。俺なら一晩中可愛がってやれるぜぇ? うん?」
芝居かかった口調とともに、マリンの手首を掴んでいた手を、マリンの肘の方へと滑らせる。
マリンがビクッと身を竦ませた。その瞬間、俺の怒りのボルテージが一気に上がる。
「手を放しやがれ!」
俺は椅子を倒す勢いで立ち上がると、一直線に男へ向って走り出した。
「うるせーな」
男の空いている方の手が動いたかと思えば、コップが顔面に向かって飛んできた。
「チッ!」
寸でのところで上体を捻ってそれをかわす。
「ああん? 今のに反応できるのか。少しは喧嘩できますってか?」
男がマリンから手を放し、席を立って俺と向き合う形をとる。
大丈夫だ。いける。ちゃんと相手の動きが見えてる。教わった守りをしっかりと意識していれば、こんなチンピラすぐに黙らせられる!
今一度、オルガが言っていたことを思い出す。
『いいかナベウマ、戦うときは敵を見ようとするのではなく、敵を視界全体で捕えるように意識しろ。目は見るものではなく、動いたものに反応するセンサーだと思え』
「観の目強く、見の目弱く」
その言葉を呟きながら、男の目の前まで距離を詰めた。
そして、俺の目は捕らえる。
男の左腕が動いた。
右からの攻撃! これを受け流して懐に入る!
そう思って自らの手を前に出した途端、
「渡辺くん!」
背中にジェニーがのしかかってきたせいで、俺は男の眼前でうつ伏せに倒れ込んでしまった。
良いところで何だよっ、と文句を言いたくなった。が、直ちに理解することになる。俺は助けられたのだと。
倒れ込む俺の頭上で、男の左ストレートが空を切る。
直後、店の中とは思えない激しい突風が吹き荒れた。
店の窓がガタガタと揺れ、近くのテーブルの上に置いてあったコップが落ちて割れた。
――な、何だ今のは?! 風魔法か?! いや違う、魔法を使ってるような感じはなかった!
「オイオイオイ、なーに邪魔してくれちゃってんの。店の外までホームランしてやろうと思ったのにさぁ」
ホームラン……まさか、コイツのチート能力、『怪力』か!
ジェニーのおかげで助かった。もし受けに回っていたらまた病院の世話になるところだ。
「ああ? お前よぉ、自分が助かったと勘違いしてねぇか?」
男の右足の踵が浮き上がる――ヤバイ! 蹴られる!
ジェニーと俺は急いで立ち上がろうとするが、駄目だ間に合わない!
「ホオォムラアアン!」
ギュッと目を瞑った。
強烈なキックを胸に浴びせられ、サッカーボールの如く俺の体はぶっ飛ばされる……と思ったのだが、いつまで経ってもそうはならなかった。
恐る恐る目を開けてみる。
すると、俺の目の前には茶色の鞘があった。
鞘が、俺たちを守るように男の蹴りを受け止めていた。
一体誰がと、鞘が伸びてきている方に顔を向けると、そこには花模様で華やかに彩られたピンクの和服を着た女の子が、しれっとした顔で立っていた。
黒髪のシニヨンに和服の色と同じ花飾りが付けられ、まさに“和”を体現したかのような見た目だ。
「このアマァ、俺の蹴りを止めるたー。ナニモンだ?」
男の蹴りの軸足となっている左足を中心に、タイルの床にヒビが広がる。
これだけのキックを繰り出せる男も相当だが、それを涼しい顔で止めてる女の子もやべぇ。
「おやめさない。これ以上狼藉を働くというのでしたら、お二方ともアルカトラズ送りにさせてもらいますよ」
凛とした声で彼女は言った。
……え、お二方ともって、もしかして俺も含まれてる?
「あんた可愛いなぁ。俺の“ハーレム”に入らないか?」
「おい! テメェ、マリンに何の用だよ!」
男は、俺を見下すような視線を向けやがる。何なんだこの偉そうな野郎は!
「あーあー、可哀想に、こんなガキがご主人様じゃあ女の悦びも知らねぇだろ。俺なら一晩中可愛がってやれるぜぇ? うん?」
芝居かかった口調とともに、マリンの手首を掴んでいた手を、マリンの肘の方へと滑らせる。
マリンがビクッと身を竦ませた。その瞬間、俺の怒りのボルテージが一気に上がる。
「手を放しやがれ!」
俺は椅子を倒す勢いで立ち上がると、一直線に男へ向って走り出した。
「うるせーな」
男の空いている方の手が動いたかと思えば、コップが顔面に向かって飛んできた。
「チッ!」
寸でのところで上体を捻ってそれをかわす。
「ああん? 今のに反応できるのか。少しは喧嘩できますってか?」
男がマリンから手を放し、席を立って俺と向き合う形をとる。
大丈夫だ。いける。ちゃんと相手の動きが見えてる。教わった守りをしっかりと意識していれば、こんなチンピラすぐに黙らせられる!
今一度、オルガが言っていたことを思い出す。
『いいかナベウマ、戦うときは敵を見ようとするのではなく、敵を視界全体で捕えるように意識しろ。目は見るものではなく、動いたものに反応するセンサーだと思え』
「観の目強く、見の目弱く」
その言葉を呟きながら、男の目の前まで距離を詰めた。
そして、俺の目は捕らえる。
男の左腕が動いた。
右からの攻撃! これを受け流して懐に入る!
そう思って自らの手を前に出した途端、
「渡辺くん!」
背中にジェニーがのしかかってきたせいで、俺は男の眼前でうつ伏せに倒れ込んでしまった。
良いところで何だよっ、と文句を言いたくなった。が、直ちに理解することになる。俺は助けられたのだと。
倒れ込む俺の頭上で、男の左ストレートが空を切る。
直後、店の中とは思えない激しい突風が吹き荒れた。
店の窓がガタガタと揺れ、近くのテーブルの上に置いてあったコップが落ちて割れた。
――な、何だ今のは?! 風魔法か?! いや違う、魔法を使ってるような感じはなかった!
「オイオイオイ、なーに邪魔してくれちゃってんの。店の外までホームランしてやろうと思ったのにさぁ」
ホームラン……まさか、コイツのチート能力、『怪力』か!
ジェニーのおかげで助かった。もし受けに回っていたらまた病院の世話になるところだ。
「ああ? お前よぉ、自分が助かったと勘違いしてねぇか?」
男の右足の踵が浮き上がる――ヤバイ! 蹴られる!
ジェニーと俺は急いで立ち上がろうとするが、駄目だ間に合わない!
「ホオォムラアアン!」
ギュッと目を瞑った。
強烈なキックを胸に浴びせられ、サッカーボールの如く俺の体はぶっ飛ばされる……と思ったのだが、いつまで経ってもそうはならなかった。
恐る恐る目を開けてみる。
すると、俺の目の前には茶色の鞘があった。
鞘が、俺たちを守るように男の蹴りを受け止めていた。
一体誰がと、鞘が伸びてきている方に顔を向けると、そこには花模様で華やかに彩られたピンクの和服を着た女の子が、しれっとした顔で立っていた。
黒髪のシニヨンに和服の色と同じ花飾りが付けられ、まさに“和”を体現したかのような見た目だ。
「このアマァ、俺の蹴りを止めるたー。ナニモンだ?」
男の蹴りの軸足となっている左足を中心に、タイルの床にヒビが広がる。
これだけのキックを繰り出せる男も相当だが、それを涼しい顔で止めてる女の子もやべぇ。
「おやめさない。これ以上狼藉を働くというのでしたら、お二方ともアルカトラズ送りにさせてもらいますよ」
凛とした声で彼女は言った。
……え、お二方ともって、もしかして俺も含まれてる?
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる