俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第59話 店内騒動

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 茶色の革ジャン、髪型は黒のオールバック。顎をだらしなく上げている姿は、ヤンキーの様だった。4人掛けのテーブルに座っており、他にも三人の女性が座っている。

 「あんた可愛いなぁ。俺の“ハーレム”に入らないか?」

 「おい! テメェ、マリンに何の用だよ!」

 男は、俺を見下すような視線を向けやがる。何なんだこの偉そうな野郎は!

 「あーあー、可哀想に、こんなガキがご主人様じゃあ女の悦びも知らねぇだろ。俺なら一晩中可愛がってやれるぜぇ? うん?」

 芝居かかった口調とともに、マリンの手首を掴んでいた手を、マリンの肘の方へと滑らせる。
マリンがビクッと身を竦ませた。その瞬間、俺の怒りのボルテージが一気に上がる。

 「手を放しやがれ!」

 俺は椅子を倒す勢いで立ち上がると、一直線に男へ向って走り出した。

 「うるせーな」

 男の空いている方の手が動いたかと思えば、コップが顔面に向かって飛んできた。

 「チッ!」

 寸でのところで上体を捻ってそれをかわす。

 「ああん? 今のに反応できるのか。少しは喧嘩できますってか?」

 男がマリンから手を放し、席を立って俺と向き合う形をとる。

 大丈夫だ。いける。ちゃんと相手の動きが見えてる。教わったをしっかりと意識していれば、こんなチンピラすぐに黙らせられる!
今一度、オルガが言っていたことを思い出す。


 『いいかナベウマ、戦うときは敵を見ようとするのではなく、敵を視界全体で捕えるように意識しろ。目は見るものではなく、動いたものに反応するセンサーだと思え』


 「観の目強く、見の目弱く」

 その言葉を呟きながら、男の目の前まで距離を詰めた。
そして、俺の目は捕らえる。
男の左腕が動いた。

 右からの攻撃! これを受け流して懐に入る!
そう思って自らの手を前に出した途端、

 「渡辺くん!」

 背中にジェニーがのしかかってきたせいで、俺は男の眼前でうつ伏せに倒れ込んでしまった。

 良いところで何だよっ、と文句を言いたくなった。が、直ちに理解することになる。俺は助けられたのだと。

  倒れ込む俺の頭上で、男の左ストレートが空を切る。
直後、店の中とは思えない激しい突風が吹き荒れた。
店の窓がガタガタと揺れ、近くのテーブルの上に置いてあったコップが落ちて割れた。

 ――な、何だ今のは?! 風魔法か?! いや違う、魔法を使ってるような感じはなかった!

 「オイオイオイ、なーに邪魔してくれちゃってんの。店の外までホームランしてやろうと思ったのにさぁ」

 ホームラン……まさか、コイツのチート能力、『怪力アサルトパワー』か!

 ジェニーのおかげで助かった。もし受けに回っていたらまた病院の世話になるところだ。

 「ああ? お前よぉ、自分が助かったと勘違いしてねぇか?」

 男の右足の踵が浮き上がる――ヤバイ! 蹴られる!
ジェニーと俺は急いで立ち上がろうとするが、駄目だ間に合わない!

 「ホオォムラアアン!」

 ギュッと目を瞑った。
強烈なキックを胸に浴びせられ、サッカーボールの如く俺の体はぶっ飛ばされる……と思ったのだが、いつまで経ってもそうはならなかった。
恐る恐る目を開けてみる。
すると、俺の目の前には茶色の鞘があった。
鞘が、俺たちを守るように男の蹴りを受け止めていた。

 一体誰がと、鞘が伸びてきている方に顔を向けると、そこには花模様で華やかに彩られたピンクの和服を着た女の子が、しれっとした顔で立っていた。
黒髪のシニヨンに和服の色と同じ花飾りが付けられ、まさに“和”を体現したかのような見た目だ。


 「このアマァ、俺の蹴りを止めるたー。ナニモンだ?」

 男の蹴りの軸足となっている左足を中心に、タイルの床にヒビが広がる。
これだけのキックを繰り出せる男も相当だが、それを涼しい顔で止めてる女の子もやべぇ。

 「おやめさない。これ以上狼藉を働くというのでしたら、お二方ともアルカトラズ送りにさせてもらいますよ」

 凛とした声で彼女は言った。
……え、お二方ともって、もしかして俺も含まれてる?
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