俺のチートって何?

臙脂色

文字の大きさ
上 下
59 / 172
第二章   ― 争奪戦 ―

第56話 エプロン

しおりを挟む
 修行初日は、正拳突きの正しいフォームを覚えるのと、巻き藁を突くだけで終わった。
 俺の両手の人差し指と中指の付け根は、すっかり皮がめくれて出血もしていた。どうやら正拳突きを正しく繰り出すと、一番負荷がかかるのがこの部位らしかった。アルコール消毒をし、ガーゼを当て、痛み止めに薬草を頬張った今、手の痛みは落ち着いているものの時々ズキッとする。

 日が落ちる寸前で森を出たくらいだったから、王国に戻る頃には夜になっていた。
 マリンはもう仕事から帰ってるだろうな。

 修行のことはマリンに伝えてない。言えばマリンのことだ、心配させちまう。だから俺は、数日の間オルガの調査クエストに付き合うのだと嘘をついたのだった。


 「ただいま」

 「おかえりなさい。ショウマ様」

 宿に着くと、台所の方から、エプロン姿のマリンが笑顔で出迎えてくれた。
 って、何でマリンがエプロンを? もしかして――。

 「晩飯用意してくれたのか?」

 「はい。今日はお仕事で疲れて帰ってくると思ったので、用意しました」

 その話を聞いて嗅覚が鋭敏になったのか、台所から漂ってくる香ばしい匂いを感じ取る。
 おお、美味そうな匂い、などと思っていると、腹が食を求めて鳴り出した。その音に、マリンはクスッと笑い、オルガはフッと鼻で笑う。
 ……どうして俺っていつも格好がつかないんだろうな……。

 
 俺とオルガは手洗いを済ませ、ローテーブルの手前に敷かれた座布団に腰を下ろした。
 そのローテーブルの上にマリンが食事を盛り付けて運んでくる。献立は野菜炒めと白米のようだ。

 「その手、怪我したんですか?」

 俺が箸を持つと、マリンが手のガーゼに気づき質問してくる。
 やっぱ突っ込まれるよな。けど問題ない、どうやって誤魔化すかは考えてある。

 「今日向かった調査先がさ、すごい茂っててさ、枝で引っ掛けちゃったんだよ」

 「痛みとかは、大丈夫なんですか?」

 「大丈夫だって、少し引っかいただけだから。ホラッ」

 俺は手に持っていた箸先を開いたり閉じたりして見せ、ニッと笑ってみせる。
 このとき、指の付け根がズキズキとしていたが、それを表情に出さないよう努めた。

 「大丈夫ならいいですけど……」

 完全には納得していない様子だったが、それ以上聞かれることはなかった。


 マリン作の野菜炒めを口の中へと運ぶ。
 んー美味い!
 ギャルゲーとかじゃ、こういう場面って実は女の子が料理下手で飯マズだったりするが、マリンには当てはまらなかったようだな。良かった良かった。

 「美味しいですか?」

 マリンが両手の指先を合わせながら聞いてくる。

 「ああ、美味いよ! オルガの料理なんかよりもずっと――下手な店よりもイケるくらいだ!」

 それを聞いて満足そうに微笑むマリンとは対照的に、オルガは少しムッとした表情になったのを俺は見逃さない。
 だって前にオルガが作ってくれた野菜炒めはベチャベチャしてたし、味も濃過ぎるんだから仕方ない。

 「これから晩飯はマリンにお願いしよう!」

 「……初心者サポートで食事を作り続けてきた身としては少しばかり悔しいが、この味では認めざるを得ないな」

 「だろ!」

 珍しくオルガと意見が一致したせいか、ちょっとテンションが上がってしまう。

 「マリン、これから二週間近くは今日みたいな日が続くが、その間夕食の用意を頼めるか?」

 「お任せください!」

 めでたく? マリンは晩飯当番となった。


 晩飯を食べ終わると、マリンは身を清めに銭湯へ出かけて行った。普段であれば、俺も向かうところなのだが、やることがあった。
 筋トレである。
 今日から毎日筋トレを行うようにオルガに指示されたんだ。これも修行らしい。レベルやらステータスがある世界で筋トレなんて意味あるのかと疑問に思ったが、聞いてみたところ意味は大有りなんだそうだ。
 努力した分だけステータスに反映されるらしい。ステータスを上げる方法は何もレベルだけじゃないってことだ。

 「えぇっと、腹筋、背筋100回に、腕立て100回、スクワット200回を3セットだっけか」

 特にスクワットは念入りにって話だったな。足腰の強さは武術において大切だとか。
 にしても、なんつー数だ。マリンが帰ってくるまでに終わらせられるのか? しかも、オルガ曰く『初日だから緩めにしといてやる』だそうだが、これで緩いのかよ……次の日はどうなるんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...