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第二章 ― 争奪戦 ―
第53話 この世界の倫理観
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「アリーナで戦わせてパートナーの奪い合いをさせるのは、国の戦力を上げるためらしいよ」
「え?」
まさか答えが返ってくるとは思わず、上ずった声をあげてしまった。
ちょっと待ってくれ、理由があるっていうのか? 国の戦力を上げるため? 意味がわからないぞ。
「パートナーの奪い合いが、どうして戦力の向上に繋がるんだ?」
「それにはねー、二つあるんだよ。一つはパートナーを奪われまいと主人が強くなろうと努力すること。これは渡辺君も実感してるんじゃないかな」
……確かに納得だ。事実俺はマリンを守る力が欲しいと考えてるし、そのためにいろいろと思考を巡らせている。
「もう一つは?」
「チート能力の選別だね。より強いチート能力を次世代に受け継がせていくための」
「うん? チート能力を受け継がせる? どういうことだ?」
「ありゃー、オルガって人はそんな基本的なことも教えてないのかー……」
そう言うとジェニーは、額に指先を当てて考え込むようなポーズをとった。
オルガ、マジで勘弁してくれ。
「えーっとね、例えば転生者である男女二人がいるとするよ。男女はそれぞれチート能力を一つずつもってる。で、この二人が結ばれてめでたく子どもを産むと、その子どもは両親のチート能力を授かるんだ」
「両親のチート能力を授かる……それってチート能力が二つになるってことか?」
「そゆことー」
なんてこった、一つでもすげぇと思ってたチート能力を複数?
言われてみれば、王国に入るための入国審査のときに、レイヤと一緒にいた男は『回復魔法』『拘束魔法』『|解析』と三種類の能力を使っていた。
三種類ってことは、少なくともその男の片親はチート能力を二つ以上もっているってことか。
ここまで言われれば、チートの能力の選別の意味も察しがついてくる。
「つまり、アリーナで勝ったヤツは負けたヤツよりも強いチート能力をもっているってことになって、ソイツに子どもを産ませた方が、将来的に戦いで役に立つヤツが増えるって腹づもりかよ」
ジェニーがウンウンと頷く。
「けど、それって破綻してないか。勝ったヤツ、主人側だって絶対そういうことするとは限らないだろ。それに、パートナーが素直に……その……身体を許すとも思えないし」
「絶対ではないけど、子ども作ると結構な額の手当てが毎月もらえるそうだから、それ狙いで作っちゃおうって人は多いし、パートナーは主人の言うことに絶対服従だから、主人さえその気になれば、あんなことやこんなこともできちゃうよ」
「ッ?! 勝った方は主人の権利すらも得られるのか?!」
「渡辺君、声のボリューム」
ジェニーが声の音量を落としてと、手を上下させるのを見てしまったと思う。
いっけね。驚き過ぎてつい力が入っちまった。
マリンとメシュが何事かとこちらを見ている。
「あ、あー、これから食いに行く坦々麺ってそんなに辛いのかー」
笑って誤魔化す。
まずい。アリーナのことマリンに知られちゃいけないのに。
「全く、騒がしい男だ」
メシュの反応からして、内容は聞こえてはいなかったか。
俺は声量に注意しつつ、ジェニーとの会話を続ける。
「もしかして、元の主人の命令には従ってくれなくなるのか?」
「絶対服従ではなくなっちゃうねー」
パートナーに対する命令権って、そんな簡単にホイホイ他人に移したりできるものなのか? それもチート能力の一つ?
「一体誰がパートナーとの関係を操作してるんだよ」
「それは私にもわからないなー。でも、ずっと昔からそういうものらしいよ。パートナーが勝った方のいいなりになるのは」
「ずっと昔から?」
「うん、100年以上前から続いていることなんだって聞いたよ」
100年以上昔から……。
俺は不意に朝倉の言っていたことを思い出す。
『ここは異世界よ。あなたが元いた世界とは違う。環境も違えば辿ってきた歴史も異なる。歴史が異なれば文化も異なる。文化が異なれば倫理観も価値観も異なる』
一体どんな環境で、どんな歴史を辿れば、こんな人の気持ちを無視した文化が許すことのできる倫理観が生まれるっていうんだ……。
イライラする。間違ってる。普通じゃない。怒りの感情がふつふつ湧き上がってくる。勝手に与えられたチート能力で、勝手に使える能力か試されて、挙句使えないと判断されたらパートナーを失う。
こんな文化潰してやりたいと思った。けど、俺にはその方法が思いつかなくて、何もできない自分が腹立たしくなる。
同時に、違和感もあった。
何かが、自分が想像していたこととズレているような。
100年前からパートナーのやり取り……パートナーは転生者と一緒になって現れる……あ!
「え?」
まさか答えが返ってくるとは思わず、上ずった声をあげてしまった。
ちょっと待ってくれ、理由があるっていうのか? 国の戦力を上げるため? 意味がわからないぞ。
「パートナーの奪い合いが、どうして戦力の向上に繋がるんだ?」
「それにはねー、二つあるんだよ。一つはパートナーを奪われまいと主人が強くなろうと努力すること。これは渡辺君も実感してるんじゃないかな」
……確かに納得だ。事実俺はマリンを守る力が欲しいと考えてるし、そのためにいろいろと思考を巡らせている。
「もう一つは?」
「チート能力の選別だね。より強いチート能力を次世代に受け継がせていくための」
「うん? チート能力を受け継がせる? どういうことだ?」
「ありゃー、オルガって人はそんな基本的なことも教えてないのかー……」
そう言うとジェニーは、額に指先を当てて考え込むようなポーズをとった。
オルガ、マジで勘弁してくれ。
「えーっとね、例えば転生者である男女二人がいるとするよ。男女はそれぞれチート能力を一つずつもってる。で、この二人が結ばれてめでたく子どもを産むと、その子どもは両親のチート能力を授かるんだ」
「両親のチート能力を授かる……それってチート能力が二つになるってことか?」
「そゆことー」
なんてこった、一つでもすげぇと思ってたチート能力を複数?
言われてみれば、王国に入るための入国審査のときに、レイヤと一緒にいた男は『回復魔法』『拘束魔法』『|解析』と三種類の能力を使っていた。
三種類ってことは、少なくともその男の片親はチート能力を二つ以上もっているってことか。
ここまで言われれば、チートの能力の選別の意味も察しがついてくる。
「つまり、アリーナで勝ったヤツは負けたヤツよりも強いチート能力をもっているってことになって、ソイツに子どもを産ませた方が、将来的に戦いで役に立つヤツが増えるって腹づもりかよ」
ジェニーがウンウンと頷く。
「けど、それって破綻してないか。勝ったヤツ、主人側だって絶対そういうことするとは限らないだろ。それに、パートナーが素直に……その……身体を許すとも思えないし」
「絶対ではないけど、子ども作ると結構な額の手当てが毎月もらえるそうだから、それ狙いで作っちゃおうって人は多いし、パートナーは主人の言うことに絶対服従だから、主人さえその気になれば、あんなことやこんなこともできちゃうよ」
「ッ?! 勝った方は主人の権利すらも得られるのか?!」
「渡辺君、声のボリューム」
ジェニーが声の音量を落としてと、手を上下させるのを見てしまったと思う。
いっけね。驚き過ぎてつい力が入っちまった。
マリンとメシュが何事かとこちらを見ている。
「あ、あー、これから食いに行く坦々麺ってそんなに辛いのかー」
笑って誤魔化す。
まずい。アリーナのことマリンに知られちゃいけないのに。
「全く、騒がしい男だ」
メシュの反応からして、内容は聞こえてはいなかったか。
俺は声量に注意しつつ、ジェニーとの会話を続ける。
「もしかして、元の主人の命令には従ってくれなくなるのか?」
「絶対服従ではなくなっちゃうねー」
パートナーに対する命令権って、そんな簡単にホイホイ他人に移したりできるものなのか? それもチート能力の一つ?
「一体誰がパートナーとの関係を操作してるんだよ」
「それは私にもわからないなー。でも、ずっと昔からそういうものらしいよ。パートナーが勝った方のいいなりになるのは」
「ずっと昔から?」
「うん、100年以上前から続いていることなんだって聞いたよ」
100年以上昔から……。
俺は不意に朝倉の言っていたことを思い出す。
『ここは異世界よ。あなたが元いた世界とは違う。環境も違えば辿ってきた歴史も異なる。歴史が異なれば文化も異なる。文化が異なれば倫理観も価値観も異なる』
一体どんな環境で、どんな歴史を辿れば、こんな人の気持ちを無視した文化が許すことのできる倫理観が生まれるっていうんだ……。
イライラする。間違ってる。普通じゃない。怒りの感情がふつふつ湧き上がってくる。勝手に与えられたチート能力で、勝手に使える能力か試されて、挙句使えないと判断されたらパートナーを失う。
こんな文化潰してやりたいと思った。けど、俺にはその方法が思いつかなくて、何もできない自分が腹立たしくなる。
同時に、違和感もあった。
何かが、自分が想像していたこととズレているような。
100年前からパートナーのやり取り……パートナーは転生者と一緒になって現れる……あ!
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