俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第52話 坦々麺

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 朝倉はパートナーに対して“気持ち悪い”という感情しか抱かないと言っていた。だから、アイツはパートナーと行動を共にせず、いつも一人でいるんだろう。
 俺には理解できない気持ちだ。
 だって、そのパートナーが何か悪いことしたっていうのか? 少なくともマリンは何も悪いことなんてしちゃいない……ひょっとして、マリンとメシュとかと違って朝倉のパートナーは嫌なヤツなのか? それなら朝倉の意見もわからなくはないが――

 「わーたーなーべーくーん」
 「うぉっ!」

 突如ジェニーの顔がドアップで現れたもんだから、驚いて思考が停止する。

 「な、何だよ。いきなり」

 「えー、さっきからどこへ食べに行こうかって話し合ってるところじゃないかーい」

 「あ、ああ、そうだったな、わりぃボーっとしてて」

 しまったな。
 どうも昨日からずっと朝倉の言葉やアリーナの件が、頭の中を堂々巡りしていて落ち着かない。
 このままじゃ、せっかく食事に誘ってくれたジェニーやメシュ、楽しみにしていたマリンに申し訳ないな。

 「ボーッとして、じゃないわぁ! さっさと店を選べ! 貴様、この俺様を餓死させるつもりか!」

 仁王立ちでメシュが怒鳴る。
 うん。コイツには申し訳ないとは思わないな。

 「わかったわかった。ちゃんと話し聞くよ。それで、全く店決めてないのか?」

 「んにゃ、いくつか候補は決めてる。ハンバーガー専門店、坦々麺が美味しいラーメン屋、味噌カツが食べられる店、手頃な価格で食べられる寿司屋」

 「……濃いのばっかだな」

 「いやー、病院の食事は味が薄いって聞いたから、濃い味が恋しくなってると思ったんだー」

 確かに病院の料理は若干味付けが薄かったが、別に恋しくなっていない。
 俺としては、この世界に来てからまだ食べたことのない寿司を食べたいと思ったから、寿司屋がいいんじゃないかと言おうとした。

 「あ、あの……」

 俺が口を開ける前に、マリンがすっと手を上げた。

 「坦々麺食べたいです」

 「え、坦々麺? マリンて坦々麺好きなの?」

 「はい、私、辛いものが好きで」

 へぇー、そうだったのか。
 マリンについて、また新しく知れたことに小さな喜びを感じる。

 「んじゃ、ラーメン屋行くか」

 「ほいほいー」

 ジェニーの気の抜ける賛同の返事を皮切りに、俺たちは昼飯を食いに目的の店へと向かい始めた。


 歩いている内、俺とジェニーが二列に並んで先頭を歩き、その後ろをマリンとメシュがついてくるような形になった。後ろの二人は自然と会話をし始める。

 メシュとマリンって実は仲良いよな。
 そんな二人を横目で見ていると、マリンに対して腹立たしさが湧いてくる。
 ……あれ……もしかして俺……嫉妬してる?

 初めての感覚に戸惑った。
 嫉妬という言葉自体は昔から知っていたが、まさか自分がそれになるなんて……実際、味わってみると辛いもんがあるな…………ってダメだダメだ。
 今はそんなことよりも、アリーナのことだ。
 初心者サポートの時期が終わるまで、あと二週間もない。つまり、早ければ二週間後にはアリーナで戦うことになる可能性があるってことだ。急いで勝つための作戦を考えなきゃいけない。

 「難しい顔してどーかした?」

 隣にいたジェニーから声がかけられる。

 そうだ、考えてみればジェニーはもう初心者サポートが終わる頃だ。役に立たない俺のサポーターと違って、ジェニーのサポーターはちゃんと伝えるべきことは伝えてるらしいし、アリーナのことを知っているはず。

 「なぁジェニー。アリーナって知ってるか?」

 「知ってるー。自分、4日後に試合が決まってるんだよねー」

 4日後?! もうすぐじゃないか! それにもし負けてしまえば、ジェニーはメシュを失っちまう。

 「……そのことメシュには言ったのか?」

 「言ったよ。『俺様のために勝って来い』って言われた」

 「案外平気そうだな」と言いかけたところで、俺は自分がバカだと思った。
 メシュは普段偉そうにしているから忘れがちになるが、結構デリケートな性格だ。多分、メシュは内心、実際に戦うジェニー以上に怖がっているんだろうな。


 「……何でアリーナなんてものがあるんだろうな」

 俺は言葉に出さずにはいられなかった。
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