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第二章 ― 争奪戦 ―
第50話 降参
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『決まったー! レイヴンの雷魔法が村崎に直撃ー!』
「……え?」
レイヤの言葉が理解できず、間の抜けた声が口から漏れる。
今なんて言った?
パートナーを相手に渡す?
つまり……えーっと……それは、俺がアリーナで負けたら、マリンを対戦相手に連れて行かれるって……ことなのか?
いやいや、まさかそんな、聞き間違いだよな?
「レイヤ、今の説明の確認なんだが、アリーナで俺が負けたら、マリンは勝った相手に取られるってことなのか?……ってそんなわけないよな! 聞き間違いだよな!」
冗談っぽく笑ってみせるが、レイヤの表情は変わらない。
聞き間違いなんかではなかったということだ。
「……何だよそりゃ……マリン本人の意思はどうなんだよ!」
「残念だけど、パートナーの意思は関係ないんだ……それが王国の決定なの」
「本人の意思が関係ないだって?! この国ちょっと頭がおかしいんじゃないか?! パートナーは一人の人間なんだぞ! それを渡すだの渡さないだの道具みたいな扱いして!」
そこまで言った途端、朝倉が俺の肩を掴んで強引に自分の方へ振り向かせてきた。
「何しやがる!」
「あなたはまだ、ここがどこだかわかっていないようね」
朝倉が刺すような目つきで俺を見てくる。
「どこって……アリーナだろ」
「ここは“異世界”よ。あなたが元いた世界とは違う。環境も違えば辿ってきた歴史も異なる。歴史が異なれば文化も異なる。文化が異なれば倫理観も価値観も異なる。私達の尺度で測れないことだってあるのよ」
「だから受け入れろと? ふざけんな!」
俺の肩を掴んでいた朝倉の手を振り払い、今度は俺が朝倉を鋭い眼差しで睨む。
「そういうあんたは全く疑問に思わないっていうのかよ! 俺と同じ初心者転生者ならあんたにだってパートナーが……」
俺は気がつく。
朝倉に対して抱いていた違和感の正体。こいつ、パートナーを連れ歩いていない。
『村崎! 動けなーい! 先程の雷が余程効いたのか、うずくまったままだー!』
「……ふー」
朝倉は呆れたのか、深く息を吐く。
「逆に聞かせてもらうけど、何故そこまであの娘を守ろうとするのかしら」
「マリンは俺のパートナーだ。パートナーを守るのは当然の勤めだろ」
「そう。私はてっきり性欲の捌け口として都合が良いからと思っていたわ」
「んだとてめぇ!」
朝倉の胸倉を掴む。
今のはムカついたぞ!
言って良い事と悪い事があるってわかんねぇのか、このババァは!
レイヤが慌てて俺と朝倉の間に割って入ろうとするが、それを朝倉が手で止めた。
「例えば、ここが元の世界の日本だったとしましょう。街中で知らない異性がいきなり声をかけてきて、自分をご主人様などと呼んで慕ってくる。一般的な感性の持ち主であれば係わり合いになろうなんて思わない。下心でもなければね」
「……それで……俺がマリンを守ろうとするのが意味不明だっていうわけかよ」
「えぇ、理解できない。理由もなく媚びてくるパートナーという存在は、私にとって“気持ち悪さ”しかないもの」
……ああ……こういうこと抜かす大人に見覚えがある…………自分が気に入らないからと、関わり合いたくないからと、課せられた責任から逃れようとする大人の姿だ。
胸糞わりぃ。
俺は朝倉から手を離す。
「あんた、パートナーのことよく見てねぇだろ。少なくとも、マリンは悪いことができるような女じゃねぇよ」
「ショウマ君!」
これ以上、朝倉の顔を見たくなかった俺は、レイヤの呼び止めも無視してアリーナの会場から去ることにした。
『あーっとサレンダーだー! 村崎、降参です! この瞬間、レイヴンの勝利が決まりましたー!』
「……え?」
レイヤの言葉が理解できず、間の抜けた声が口から漏れる。
今なんて言った?
パートナーを相手に渡す?
つまり……えーっと……それは、俺がアリーナで負けたら、マリンを対戦相手に連れて行かれるって……ことなのか?
いやいや、まさかそんな、聞き間違いだよな?
「レイヤ、今の説明の確認なんだが、アリーナで俺が負けたら、マリンは勝った相手に取られるってことなのか?……ってそんなわけないよな! 聞き間違いだよな!」
冗談っぽく笑ってみせるが、レイヤの表情は変わらない。
聞き間違いなんかではなかったということだ。
「……何だよそりゃ……マリン本人の意思はどうなんだよ!」
「残念だけど、パートナーの意思は関係ないんだ……それが王国の決定なの」
「本人の意思が関係ないだって?! この国ちょっと頭がおかしいんじゃないか?! パートナーは一人の人間なんだぞ! それを渡すだの渡さないだの道具みたいな扱いして!」
そこまで言った途端、朝倉が俺の肩を掴んで強引に自分の方へ振り向かせてきた。
「何しやがる!」
「あなたはまだ、ここがどこだかわかっていないようね」
朝倉が刺すような目つきで俺を見てくる。
「どこって……アリーナだろ」
「ここは“異世界”よ。あなたが元いた世界とは違う。環境も違えば辿ってきた歴史も異なる。歴史が異なれば文化も異なる。文化が異なれば倫理観も価値観も異なる。私達の尺度で測れないことだってあるのよ」
「だから受け入れろと? ふざけんな!」
俺の肩を掴んでいた朝倉の手を振り払い、今度は俺が朝倉を鋭い眼差しで睨む。
「そういうあんたは全く疑問に思わないっていうのかよ! 俺と同じ初心者転生者ならあんたにだってパートナーが……」
俺は気がつく。
朝倉に対して抱いていた違和感の正体。こいつ、パートナーを連れ歩いていない。
『村崎! 動けなーい! 先程の雷が余程効いたのか、うずくまったままだー!』
「……ふー」
朝倉は呆れたのか、深く息を吐く。
「逆に聞かせてもらうけど、何故そこまであの娘を守ろうとするのかしら」
「マリンは俺のパートナーだ。パートナーを守るのは当然の勤めだろ」
「そう。私はてっきり性欲の捌け口として都合が良いからと思っていたわ」
「んだとてめぇ!」
朝倉の胸倉を掴む。
今のはムカついたぞ!
言って良い事と悪い事があるってわかんねぇのか、このババァは!
レイヤが慌てて俺と朝倉の間に割って入ろうとするが、それを朝倉が手で止めた。
「例えば、ここが元の世界の日本だったとしましょう。街中で知らない異性がいきなり声をかけてきて、自分をご主人様などと呼んで慕ってくる。一般的な感性の持ち主であれば係わり合いになろうなんて思わない。下心でもなければね」
「……それで……俺がマリンを守ろうとするのが意味不明だっていうわけかよ」
「えぇ、理解できない。理由もなく媚びてくるパートナーという存在は、私にとって“気持ち悪さ”しかないもの」
……ああ……こういうこと抜かす大人に見覚えがある…………自分が気に入らないからと、関わり合いたくないからと、課せられた責任から逃れようとする大人の姿だ。
胸糞わりぃ。
俺は朝倉から手を離す。
「あんた、パートナーのことよく見てねぇだろ。少なくとも、マリンは悪いことができるような女じゃねぇよ」
「ショウマ君!」
これ以上、朝倉の顔を見たくなかった俺は、レイヤの呼び止めも無視してアリーナの会場から去ることにした。
『あーっとサレンダーだー! 村崎、降参です! この瞬間、レイヴンの勝利が決まりましたー!』
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