俺のチートって何?

臙脂色

文字の大きさ
上 下
52 / 172
第二章   ― 争奪戦 ―

第49話 国のルール

しおりを挟む
 「人間同士の戦いだって?」

 朝倉の発言に方眉を上げる。

 どういうことだ。
 敵はモンスターと魔人じゃないのか?
 何だって人間と人間が戦わなくちゃいけない?


 『今回で四回目の試合となりますレイヴン。表情は非常に落ち着いています。これは自信の表れということでしょうか、ニモさん』

 『ええ、だと思いますよ。対戦相手である村崎さんは、今回が初試合となりますからね。負けることはまずないと思っているのでしょう』

 俺が疑問に思っている間にも、アナウンスは続いていく。
 その途中、カーンッとゴングらしき金属音が会場全体に鳴り響いた。
 まるでボクシングの試合のようなノリの進行だ。

 『さぁ始まりました試合、最初に飛び出したのはレイヴンだー!』

 黒いピチピチ服の男が、パーカーの男に向かって走り出す。
 一方、パーカーの男はどうしたらいいのかわからないのか、オロオロしている。

 「こ、こっちにくるなー!」

 パーカーの男は情けない声をあげて、両手を前に突き出した。
 それと同時に、ピチピチ男の前に炎が壁となって現れる。
 突っ込めば間違いなく命に関わる火力だが、ピチピチ男はこれを簡単に避けてしまう。

 「うわああぁ!」

 尚もパーカー男は炎を辺りに作り出すが、ピチピチ服には当たらない。

 『あーっと、村崎、これはヤケクソかー?!』

 パーカー男のあの怯えた表情からして、ヤケクソだろうな。
 そして、その表情から察するに、これは映画の撮影でも演劇でもない、本当に必死な思いで戦っているんだ。
 すげー、炎出しちゃってるよ! 着てる服はアレだが、ホントにRPGみてーだ! と、何もなければ浮かれているところだが……。

 「朝倉――」

 「あなたが言いたいことは想像がつく。どうして人間同士で争っているのか、でしょう?」

 朝倉のわかっていましたよ的な態度にイラッとしつつも、俺は頷く。

 「これはね、国が定めたルールよ。16歳以上のパートナーおよびパーティメンバーを連れている者は一ヶ月に一度、アリーナに参加しなくてはならない。また、パートナーとパーティメンバーを連れていない16歳以上の主人も三ヶ月以内にメンバーを準備して参加しなければならない。ルールを破れば監獄行き」

 「……は? それってつまり、この王国に住んでいる16歳以上の人たちは全員、このアリーナとかいうのに関わってるのか?」

 「戦いを好まない一般人はサレンダー料を払ってアリーナを辞退しているわ。15万ゴールドはかかるから、お金のないあなたには選べない選択肢だけれど」

 俺には選べない……そうだ。 これは他人事じゃない。
 あまりにも現実感がなくて思いつかなかったが、この国に住んでいる以上、これは俺にも関わることなんだ。
 一ヶ月ごとに、この試合に出なければならない決まり……朝倉が言っていた初心者サポートの後の問題ってそういうことかよ……。


 『レイヴン、尚も攻撃せず回避に徹しています! ニモさん、これはどういうことなんでしょうか?』

 『見ていればわかりますよ。多分そろそろ――』

 『あーっと! どうしたことか村崎ー! 炎を繰り出すことを止めてしまったー! ニモさん!』

 『魔力切れですねー。初心者魔法チート使いが陥りやすいパターンです。レイヴンはこれを狙っていたんですね』


 実況が耳に入ってくるが、俺の目は下を向いており、試合風景は見ていなかった。
 もはや、今行われている試合のことなんて、どうでも良くなっていた。

 「ショウマ君。葉子ちゃんが話してくれたことに加えてね、もう一つ大事なことがあるの」

 隣からレイヤの呼びかけが聞こえ、そっちに顔を向ける。
 そこには、辛そうな表情があった。

 ……このレイヤの顔、前にも見たことある。
 あれは……そう、この国に初めて来た後に、レイヤが別れ際に見せたのと同じ……。


 『ショウマ君……マリンちゃんのこと、短い間でも大切にしてあげてね』

 あのときのレイヤの言葉が頭の中で蘇る。


 「……アリーナで試合に負けた人は、自分のパートナーを勝った人に引き渡さなくちゃいけないの……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...