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第二章 ― 争奪戦 ―
第49話 国のルール
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「人間同士の戦いだって?」
朝倉の発言に方眉を上げる。
どういうことだ。
敵はモンスターと魔人じゃないのか?
何だって人間と人間が戦わなくちゃいけない?
『今回で四回目の試合となりますレイヴン。表情は非常に落ち着いています。これは自信の表れということでしょうか、ニモさん』
『ええ、だと思いますよ。対戦相手である村崎さんは、今回が初試合となりますからね。負けることはまずないと思っているのでしょう』
俺が疑問に思っている間にも、アナウンスは続いていく。
その途中、カーンッとゴングらしき金属音が会場全体に鳴り響いた。
まるでボクシングの試合のようなノリの進行だ。
『さぁ始まりました試合、最初に飛び出したのはレイヴンだー!』
黒いピチピチ服の男が、パーカーの男に向かって走り出す。
一方、パーカーの男はどうしたらいいのかわからないのか、オロオロしている。
「こ、こっちにくるなー!」
パーカーの男は情けない声をあげて、両手を前に突き出した。
それと同時に、ピチピチ男の前に炎が壁となって現れる。
突っ込めば間違いなく命に関わる火力だが、ピチピチ男はこれを簡単に避けてしまう。
「うわああぁ!」
尚もパーカー男は炎を辺りに作り出すが、ピチピチ服には当たらない。
『あーっと、村崎、これはヤケクソかー?!』
パーカー男のあの怯えた表情からして、ヤケクソだろうな。
そして、その表情から察するに、これは映画の撮影でも演劇でもない、本当に必死な思いで戦っているんだ。
すげー、炎出しちゃってるよ! 着てる服はアレだが、ホントにRPGみてーだ! と、何もなければ浮かれているところだが……。
「朝倉――」
「あなたが言いたいことは想像がつく。どうして人間同士で争っているのか、でしょう?」
朝倉のわかっていましたよ的な態度にイラッとしつつも、俺は頷く。
「これはね、国が定めたルールよ。16歳以上のパートナーおよびパーティメンバーを連れている者は一ヶ月に一度、アリーナに参加しなくてはならない。また、パートナーとパーティメンバーを連れていない16歳以上の主人も三ヶ月以内にメンバーを準備して参加しなければならない。ルールを破れば監獄行き」
「……は? それってつまり、この王国に住んでいる16歳以上の人たちは全員、このアリーナとかいうのに関わってるのか?」
「戦いを好まない一般人はサレンダー料を払ってアリーナを辞退しているわ。15万ゴールドはかかるから、お金のないあなたには選べない選択肢だけれど」
俺には選べない……そうだ。 これは他人事じゃない。
あまりにも現実感がなくて思いつかなかったが、この国に住んでいる以上、これは俺にも関わることなんだ。
一ヶ月ごとに、この試合に出なければならない決まり……朝倉が言っていた初心者サポートの後の問題ってそういうことかよ……。
『レイヴン、尚も攻撃せず回避に徹しています! ニモさん、これはどういうことなんでしょうか?』
『見ていればわかりますよ。多分そろそろ――』
『あーっと! どうしたことか村崎ー! 炎を繰り出すことを止めてしまったー! ニモさん!』
『魔力切れですねー。初心者魔法チート使いが陥りやすいパターンです。レイヴンはこれを狙っていたんですね』
実況が耳に入ってくるが、俺の目は下を向いており、試合風景は見ていなかった。
もはや、今行われている試合のことなんて、どうでも良くなっていた。
「ショウマ君。葉子ちゃんが話してくれたことに加えてね、もう一つ大事なことがあるの」
隣からレイヤの呼びかけが聞こえ、そっちに顔を向ける。
そこには、辛そうな表情があった。
……このレイヤの顔、前にも見たことある。
あれは……そう、この国に初めて来た後に、レイヤが別れ際に見せたのと同じ……。
『ショウマ君……マリンちゃんのこと、短い間でも大切にしてあげてね』
あのときのレイヤの言葉が頭の中で蘇る。
「……アリーナで試合に負けた人は、自分のパートナーを勝った人に引き渡さなくちゃいけないの……」
朝倉の発言に方眉を上げる。
どういうことだ。
敵はモンスターと魔人じゃないのか?
何だって人間と人間が戦わなくちゃいけない?
『今回で四回目の試合となりますレイヴン。表情は非常に落ち着いています。これは自信の表れということでしょうか、ニモさん』
『ええ、だと思いますよ。対戦相手である村崎さんは、今回が初試合となりますからね。負けることはまずないと思っているのでしょう』
俺が疑問に思っている間にも、アナウンスは続いていく。
その途中、カーンッとゴングらしき金属音が会場全体に鳴り響いた。
まるでボクシングの試合のようなノリの進行だ。
『さぁ始まりました試合、最初に飛び出したのはレイヴンだー!』
黒いピチピチ服の男が、パーカーの男に向かって走り出す。
一方、パーカーの男はどうしたらいいのかわからないのか、オロオロしている。
「こ、こっちにくるなー!」
パーカーの男は情けない声をあげて、両手を前に突き出した。
それと同時に、ピチピチ男の前に炎が壁となって現れる。
突っ込めば間違いなく命に関わる火力だが、ピチピチ男はこれを簡単に避けてしまう。
「うわああぁ!」
尚もパーカー男は炎を辺りに作り出すが、ピチピチ服には当たらない。
『あーっと、村崎、これはヤケクソかー?!』
パーカー男のあの怯えた表情からして、ヤケクソだろうな。
そして、その表情から察するに、これは映画の撮影でも演劇でもない、本当に必死な思いで戦っているんだ。
すげー、炎出しちゃってるよ! 着てる服はアレだが、ホントにRPGみてーだ! と、何もなければ浮かれているところだが……。
「朝倉――」
「あなたが言いたいことは想像がつく。どうして人間同士で争っているのか、でしょう?」
朝倉のわかっていましたよ的な態度にイラッとしつつも、俺は頷く。
「これはね、国が定めたルールよ。16歳以上のパートナーおよびパーティメンバーを連れている者は一ヶ月に一度、アリーナに参加しなくてはならない。また、パートナーとパーティメンバーを連れていない16歳以上の主人も三ヶ月以内にメンバーを準備して参加しなければならない。ルールを破れば監獄行き」
「……は? それってつまり、この王国に住んでいる16歳以上の人たちは全員、このアリーナとかいうのに関わってるのか?」
「戦いを好まない一般人はサレンダー料を払ってアリーナを辞退しているわ。15万ゴールドはかかるから、お金のないあなたには選べない選択肢だけれど」
俺には選べない……そうだ。 これは他人事じゃない。
あまりにも現実感がなくて思いつかなかったが、この国に住んでいる以上、これは俺にも関わることなんだ。
一ヶ月ごとに、この試合に出なければならない決まり……朝倉が言っていた初心者サポートの後の問題ってそういうことかよ……。
『レイヴン、尚も攻撃せず回避に徹しています! ニモさん、これはどういうことなんでしょうか?』
『見ていればわかりますよ。多分そろそろ――』
『あーっと! どうしたことか村崎ー! 炎を繰り出すことを止めてしまったー! ニモさん!』
『魔力切れですねー。初心者魔法チート使いが陥りやすいパターンです。レイヴンはこれを狙っていたんですね』
実況が耳に入ってくるが、俺の目は下を向いており、試合風景は見ていなかった。
もはや、今行われている試合のことなんて、どうでも良くなっていた。
「ショウマ君。葉子ちゃんが話してくれたことに加えてね、もう一つ大事なことがあるの」
隣からレイヤの呼びかけが聞こえ、そっちに顔を向ける。
そこには、辛そうな表情があった。
……このレイヤの顔、前にも見たことある。
あれは……そう、この国に初めて来た後に、レイヤが別れ際に見せたのと同じ……。
『ショウマ君……マリンちゃんのこと、短い間でも大切にしてあげてね』
あのときのレイヤの言葉が頭の中で蘇る。
「……アリーナで試合に負けた人は、自分のパートナーを勝った人に引き渡さなくちゃいけないの……」
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