50 / 172
第二章 ― 争奪戦 ―
第47話 問題
しおりを挟む
魔人よりも差し迫った問題? 来て早々、こいつは何を言ってるんだ?
俺はラジオの音を切る。
「問題って何だよ、あんたもオルガみたいに俺の生活指導でもするのか?」
「二週間後に何があるか知ってる?」
「初心者保護が受けられなくなるっていう話か?」
「違うわ。その様子だと知らないようね。なら、今から私についてきなさい」
相変わらずきつい目で朝倉が言うもんだから怒られているように感じるが、そういう人相なだけだよな?
「ついていくってどこへ?」
「外よ」
「んないきなり、服も外出許可も――」
朝倉から、服が投げ渡される。
畳まれた白いTシャツ、紺色のジャージ……。
「これ、俺のじゃないか!」
「あなたの部屋から持ってきたわ」
「勝手に人様の部屋に入るなよ!」
「それと外出許可は既に主治医からもらってるから」
あ! こいつオルガと同じ人の話を聞かないタイプだ!
こういう性格のやつは自分が思った通りに事が進まないと気が済まないんだよな。まぁ、暇だし、ベッドの上も飽きたし、ここは大人しく従っとくか。
「はぁ……わかったよ。着替えるから、外で待っててくれ」
朝倉が病室を出た後、俺は病衣から着替え、靴も室内用から元々履いていた靴に履き替える。つま先に力を込めると、水が滲み出る感触が足の指に伝わってきた。雪山を歩いたときに染み込んだ水分が、まだ靴の中に残っているようだ。
……若干湿ってるな。あー足臭くなりそ。
「ほら、来たぞ」
扉の前で待っていた朝倉に、来てやったぞ感溢れる態度を見せつける。
「行きましょうか」
「あ、ちょっと待ってくれ。行く前にマリンに一言言ってから――」
「ダメよ」
朝倉にピシャリと言われ、ムッとする。
「何でだよ」
「彼女に伝えるのは、まずあなたが確かめてからよ」
「わけわかんねぇよ。もったいぶってないで説明してくれよ」
「言うより、目で見た方が早いわ」
朝倉は先に、病院の出入り口へ向かって行く。
朝倉の態度が気に入らない俺は、このまま無視しようかと考えた。
が、“問題”の正体がわからないままではモヤモヤを抱え込んでしまうと思い、朝倉の指示にしぶしぶ従うことにした。
……にしても、何か引っかかるな。
朝倉という女には違和感を感じる。
何かが俺たちと違うような……。
朝倉の背中をジッと探るように見ながら病院の外に出ると、朝倉は言う。
「ここから一番近いのは、北にある会場ね。2時間ぐらい歩くわ」
「うへー、マジかよ。『回復魔法』の疲れがまだ残っているんだが……」
そんなことは知ったこっちゃないと言わんばかりに、朝倉は歩き出す。
はいはい。わかりましたよ。歩けばいいんでしょ、歩けば。
しばらくの間、大通りを歩く。いつものことながら、すごい人だかりだ。人が歩く度に砂煙が巻き上がるせいで、たまに目に砂が入る。公共事業に文句が出るのも当たり前だなと納得せざるを得ないな、これは。毎度こうだと、主な大通りくらいはさっさとアスファルトで固めて欲しいと思ってしまう。この世界にアスファルトがあるかは知らないが。
「へぇ……この坊やが、そうなのか」
「――ッ!」
男の声に、俺はハッとなって振り返る。
しかし、それらしい男の姿を見つけることはできなかった。
今のは誰かの話し声がたまたま聞こえただけか?
それにしてはハッキリと聞こえたが…………っと、気にしてたら朝倉を見失っちまう。
2時間歩いたということか。
朝倉が、東京ドームより一回り小さいくらいの建物の前に止まる。
「で、でけー」
この建物なら知っている。
オルガの宿からも、見えていた建物だ。
あのときは、遠近感覚がよくわからなかったが、間近で見ると圧倒されるくらいに大きい。
「あら、もしかしてショウマ君?」
ん? この聞き覚えのある声は……。
声がした方に顔を向けると、想像した通り、そこにはレイヤがいた。
俺はラジオの音を切る。
「問題って何だよ、あんたもオルガみたいに俺の生活指導でもするのか?」
「二週間後に何があるか知ってる?」
「初心者保護が受けられなくなるっていう話か?」
「違うわ。その様子だと知らないようね。なら、今から私についてきなさい」
相変わらずきつい目で朝倉が言うもんだから怒られているように感じるが、そういう人相なだけだよな?
「ついていくってどこへ?」
「外よ」
「んないきなり、服も外出許可も――」
朝倉から、服が投げ渡される。
畳まれた白いTシャツ、紺色のジャージ……。
「これ、俺のじゃないか!」
「あなたの部屋から持ってきたわ」
「勝手に人様の部屋に入るなよ!」
「それと外出許可は既に主治医からもらってるから」
あ! こいつオルガと同じ人の話を聞かないタイプだ!
こういう性格のやつは自分が思った通りに事が進まないと気が済まないんだよな。まぁ、暇だし、ベッドの上も飽きたし、ここは大人しく従っとくか。
「はぁ……わかったよ。着替えるから、外で待っててくれ」
朝倉が病室を出た後、俺は病衣から着替え、靴も室内用から元々履いていた靴に履き替える。つま先に力を込めると、水が滲み出る感触が足の指に伝わってきた。雪山を歩いたときに染み込んだ水分が、まだ靴の中に残っているようだ。
……若干湿ってるな。あー足臭くなりそ。
「ほら、来たぞ」
扉の前で待っていた朝倉に、来てやったぞ感溢れる態度を見せつける。
「行きましょうか」
「あ、ちょっと待ってくれ。行く前にマリンに一言言ってから――」
「ダメよ」
朝倉にピシャリと言われ、ムッとする。
「何でだよ」
「彼女に伝えるのは、まずあなたが確かめてからよ」
「わけわかんねぇよ。もったいぶってないで説明してくれよ」
「言うより、目で見た方が早いわ」
朝倉は先に、病院の出入り口へ向かって行く。
朝倉の態度が気に入らない俺は、このまま無視しようかと考えた。
が、“問題”の正体がわからないままではモヤモヤを抱え込んでしまうと思い、朝倉の指示にしぶしぶ従うことにした。
……にしても、何か引っかかるな。
朝倉という女には違和感を感じる。
何かが俺たちと違うような……。
朝倉の背中をジッと探るように見ながら病院の外に出ると、朝倉は言う。
「ここから一番近いのは、北にある会場ね。2時間ぐらい歩くわ」
「うへー、マジかよ。『回復魔法』の疲れがまだ残っているんだが……」
そんなことは知ったこっちゃないと言わんばかりに、朝倉は歩き出す。
はいはい。わかりましたよ。歩けばいいんでしょ、歩けば。
しばらくの間、大通りを歩く。いつものことながら、すごい人だかりだ。人が歩く度に砂煙が巻き上がるせいで、たまに目に砂が入る。公共事業に文句が出るのも当たり前だなと納得せざるを得ないな、これは。毎度こうだと、主な大通りくらいはさっさとアスファルトで固めて欲しいと思ってしまう。この世界にアスファルトがあるかは知らないが。
「へぇ……この坊やが、そうなのか」
「――ッ!」
男の声に、俺はハッとなって振り返る。
しかし、それらしい男の姿を見つけることはできなかった。
今のは誰かの話し声がたまたま聞こえただけか?
それにしてはハッキリと聞こえたが…………っと、気にしてたら朝倉を見失っちまう。
2時間歩いたということか。
朝倉が、東京ドームより一回り小さいくらいの建物の前に止まる。
「で、でけー」
この建物なら知っている。
オルガの宿からも、見えていた建物だ。
あのときは、遠近感覚がよくわからなかったが、間近で見ると圧倒されるくらいに大きい。
「あら、もしかしてショウマ君?」
ん? この聞き覚えのある声は……。
声がした方に顔を向けると、想像した通り、そこにはレイヤがいた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手
Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。
俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。
そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。
理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。
※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。
カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる