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第二章 ― 争奪戦 ―
第47話 問題
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魔人よりも差し迫った問題? 来て早々、こいつは何を言ってるんだ?
俺はラジオの音を切る。
「問題って何だよ、あんたもオルガみたいに俺の生活指導でもするのか?」
「二週間後に何があるか知ってる?」
「初心者保護が受けられなくなるっていう話か?」
「違うわ。その様子だと知らないようね。なら、今から私についてきなさい」
相変わらずきつい目で朝倉が言うもんだから怒られているように感じるが、そういう人相なだけだよな?
「ついていくってどこへ?」
「外よ」
「んないきなり、服も外出許可も――」
朝倉から、服が投げ渡される。
畳まれた白いTシャツ、紺色のジャージ……。
「これ、俺のじゃないか!」
「あなたの部屋から持ってきたわ」
「勝手に人様の部屋に入るなよ!」
「それと外出許可は既に主治医からもらってるから」
あ! こいつオルガと同じ人の話を聞かないタイプだ!
こういう性格のやつは自分が思った通りに事が進まないと気が済まないんだよな。まぁ、暇だし、ベッドの上も飽きたし、ここは大人しく従っとくか。
「はぁ……わかったよ。着替えるから、外で待っててくれ」
朝倉が病室を出た後、俺は病衣から着替え、靴も室内用から元々履いていた靴に履き替える。つま先に力を込めると、水が滲み出る感触が足の指に伝わってきた。雪山を歩いたときに染み込んだ水分が、まだ靴の中に残っているようだ。
……若干湿ってるな。あー足臭くなりそ。
「ほら、来たぞ」
扉の前で待っていた朝倉に、来てやったぞ感溢れる態度を見せつける。
「行きましょうか」
「あ、ちょっと待ってくれ。行く前にマリンに一言言ってから――」
「ダメよ」
朝倉にピシャリと言われ、ムッとする。
「何でだよ」
「彼女に伝えるのは、まずあなたが確かめてからよ」
「わけわかんねぇよ。もったいぶってないで説明してくれよ」
「言うより、目で見た方が早いわ」
朝倉は先に、病院の出入り口へ向かって行く。
朝倉の態度が気に入らない俺は、このまま無視しようかと考えた。
が、“問題”の正体がわからないままではモヤモヤを抱え込んでしまうと思い、朝倉の指示にしぶしぶ従うことにした。
……にしても、何か引っかかるな。
朝倉という女には違和感を感じる。
何かが俺たちと違うような……。
朝倉の背中をジッと探るように見ながら病院の外に出ると、朝倉は言う。
「ここから一番近いのは、北にある会場ね。2時間ぐらい歩くわ」
「うへー、マジかよ。『回復魔法』の疲れがまだ残っているんだが……」
そんなことは知ったこっちゃないと言わんばかりに、朝倉は歩き出す。
はいはい。わかりましたよ。歩けばいいんでしょ、歩けば。
しばらくの間、大通りを歩く。いつものことながら、すごい人だかりだ。人が歩く度に砂煙が巻き上がるせいで、たまに目に砂が入る。公共事業に文句が出るのも当たり前だなと納得せざるを得ないな、これは。毎度こうだと、主な大通りくらいはさっさとアスファルトで固めて欲しいと思ってしまう。この世界にアスファルトがあるかは知らないが。
「へぇ……この坊やが、そうなのか」
「――ッ!」
男の声に、俺はハッとなって振り返る。
しかし、それらしい男の姿を見つけることはできなかった。
今のは誰かの話し声がたまたま聞こえただけか?
それにしてはハッキリと聞こえたが…………っと、気にしてたら朝倉を見失っちまう。
2時間歩いたということか。
朝倉が、東京ドームより一回り小さいくらいの建物の前に止まる。
「で、でけー」
この建物なら知っている。
オルガの宿からも、見えていた建物だ。
あのときは、遠近感覚がよくわからなかったが、間近で見ると圧倒されるくらいに大きい。
「あら、もしかしてショウマ君?」
ん? この聞き覚えのある声は……。
声がした方に顔を向けると、想像した通り、そこにはレイヤがいた。
俺はラジオの音を切る。
「問題って何だよ、あんたもオルガみたいに俺の生活指導でもするのか?」
「二週間後に何があるか知ってる?」
「初心者保護が受けられなくなるっていう話か?」
「違うわ。その様子だと知らないようね。なら、今から私についてきなさい」
相変わらずきつい目で朝倉が言うもんだから怒られているように感じるが、そういう人相なだけだよな?
「ついていくってどこへ?」
「外よ」
「んないきなり、服も外出許可も――」
朝倉から、服が投げ渡される。
畳まれた白いTシャツ、紺色のジャージ……。
「これ、俺のじゃないか!」
「あなたの部屋から持ってきたわ」
「勝手に人様の部屋に入るなよ!」
「それと外出許可は既に主治医からもらってるから」
あ! こいつオルガと同じ人の話を聞かないタイプだ!
こういう性格のやつは自分が思った通りに事が進まないと気が済まないんだよな。まぁ、暇だし、ベッドの上も飽きたし、ここは大人しく従っとくか。
「はぁ……わかったよ。着替えるから、外で待っててくれ」
朝倉が病室を出た後、俺は病衣から着替え、靴も室内用から元々履いていた靴に履き替える。つま先に力を込めると、水が滲み出る感触が足の指に伝わってきた。雪山を歩いたときに染み込んだ水分が、まだ靴の中に残っているようだ。
……若干湿ってるな。あー足臭くなりそ。
「ほら、来たぞ」
扉の前で待っていた朝倉に、来てやったぞ感溢れる態度を見せつける。
「行きましょうか」
「あ、ちょっと待ってくれ。行く前にマリンに一言言ってから――」
「ダメよ」
朝倉にピシャリと言われ、ムッとする。
「何でだよ」
「彼女に伝えるのは、まずあなたが確かめてからよ」
「わけわかんねぇよ。もったいぶってないで説明してくれよ」
「言うより、目で見た方が早いわ」
朝倉は先に、病院の出入り口へ向かって行く。
朝倉の態度が気に入らない俺は、このまま無視しようかと考えた。
が、“問題”の正体がわからないままではモヤモヤを抱え込んでしまうと思い、朝倉の指示にしぶしぶ従うことにした。
……にしても、何か引っかかるな。
朝倉という女には違和感を感じる。
何かが俺たちと違うような……。
朝倉の背中をジッと探るように見ながら病院の外に出ると、朝倉は言う。
「ここから一番近いのは、北にある会場ね。2時間ぐらい歩くわ」
「うへー、マジかよ。『回復魔法』の疲れがまだ残っているんだが……」
そんなことは知ったこっちゃないと言わんばかりに、朝倉は歩き出す。
はいはい。わかりましたよ。歩けばいいんでしょ、歩けば。
しばらくの間、大通りを歩く。いつものことながら、すごい人だかりだ。人が歩く度に砂煙が巻き上がるせいで、たまに目に砂が入る。公共事業に文句が出るのも当たり前だなと納得せざるを得ないな、これは。毎度こうだと、主な大通りくらいはさっさとアスファルトで固めて欲しいと思ってしまう。この世界にアスファルトがあるかは知らないが。
「へぇ……この坊やが、そうなのか」
「――ッ!」
男の声に、俺はハッとなって振り返る。
しかし、それらしい男の姿を見つけることはできなかった。
今のは誰かの話し声がたまたま聞こえただけか?
それにしてはハッキリと聞こえたが…………っと、気にしてたら朝倉を見失っちまう。
2時間歩いたということか。
朝倉が、東京ドームより一回り小さいくらいの建物の前に止まる。
「で、でけー」
この建物なら知っている。
オルガの宿からも、見えていた建物だ。
あのときは、遠近感覚がよくわからなかったが、間近で見ると圧倒されるくらいに大きい。
「あら、もしかしてショウマ君?」
ん? この聞き覚えのある声は……。
声がした方に顔を向けると、想像した通り、そこにはレイヤがいた。
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