俺のチートって何?

臙脂色

文字の大きさ
上 下
49 / 172
第二章   ― 争奪戦 ―

第46話 ドロップスカイ

しおりを挟む
 翌日。
 俺はまだ病院にいた。
 左肘、背、腹、その他諸々の外傷と右手の骨折はほぼ完治したが、『回復魔法』による疲労から、もう一日安静にしているようにとのことだ。
 ゴロゴロして過ごすのは望むところだが、慣れない環境のせいか病院にいると妙に落ち着かない。
 できれば、オルガの宿に戻ってそこでのんびりしたかった。

 「……暇だ」

 おまけに、病室には暇を潰せるものもない。
 午前中の間は、オルガにジェニーとメシュが見舞いに来てくれたおかげで退屈凌ぎができたのだが、昼過ぎには帰ってしまった。
 マリンが精密検査を受けている最中なこともあり本当に暇だった。
 寝ることトイレ以外に、俺ができることは、ラジオのつまみをグルグル回すことだけだった。

 『ザザザザづいてのお便りはーお茶の間プリンさんからでザザザザザバミューダ港近くの入り江ね、ウワーってでっかい魚の影がねザザザザありがた迷惑なことに洋楽もほんザザザザ』

 FMと表記されているつまみを回す度、いろんな局に繋がるが、興味を惹く内容がない。


 『ザザザテルさん、昨日西区で起きた騒動知ってます?』

 西区? 俺が住んでる東区から反対側の街か?

 つまみを回していた手が止まり、テンポの良い二人の男の会話に集中する。

 『の件ですよね?』

 『はい』

 『その話なら耳に入ってますよ』

 『あれ、どちら側に非があると思いました?』

 『あれはねー、建設中止派が悪いですよ。確かにね、スカイドロップ建設に国家予算の4割も使っているのは問題ですよ、文句を言いたくなるのはわかります。けどね、それだけ恐ろしいってことなんですよ、魔人は。消費税増税やインフラ整備で騒ぐ余裕なんてないんです』

 魔人……魔人って確か、この世界に来た最初の日にオルガが言っていたやつか。

 『それにね、よりにもよって西区で防衛政策を批判するなんて、空気読めてないなんてものじゃないです。魔人たちとの戦争から25年経って、恐怖心が薄れたり、当時のことを知らない若者が増えましたが……このラジオ聞いている皆さんも今から言うことよーく聞いてくださいね。西区っていうのは25年前の魔人戦争で一番被害を受けた街なんですよ。現在でも傷跡が街の中に残ってるくらいです。コルさん、西区の端にあるって場所、何があるか知ってます?』

 『はい、わかりますよ縦に50mくらい伸びてる細長い岩が何本もそびえ立っている場所ですね』

 『最近、西区以外に住んでいる方々が、あれを自然の産物だと思っているらしいんですが、間違いです』

 『え、違うんですか?』

 『あれは、魔人が造り出した岩なんですよ』


 「魔人の話は確かに大事ね」

 ラジオから以外の声が、扉の方から聞こえた。
 この印象に残る淡白な話し方は――やはり、朝倉か。

 「でも、あなたには魔人よりも差し迫った問題があるわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...