俺のチートって何?

臙脂色

文字の大きさ
上 下
47 / 172
第二章   ― 争奪戦 ―

第44話 朝倉 葉子

しおりを挟む
 「それじゃ、私はクエストに戻らせてもらうから」

 マリンがいる安心感に浸っている最中、病室の扉の方から知らない女性の声が聞こえてきた。
 マリンに向けていた視線を、声がした方へ向けると、黒髪のショートヘアで茶色のローブを羽織った女性が、両腕を組んで立っていた。
 顔立ちからして歳は30代ぐらいか、釣り目の三白眼で気が強そうな印象だ。

 「ああ、クエスト中に呼び出してすまなかったな」

 「いいのよ。仕事より人命を優先するのは当然でしょう」

 オルガの謝罪に、女性は淡白に答える。

 「えと……誰?」

 「朝倉 葉子あさくら ようこ。あなたと同じ、オルガの世話になっている日本人でルーキーの転生者よ」

 俺の当然の質問に、朝倉は同じ様に淡白に答えた。

 こういう喋り方をするヤツはちょっと苦手だ。それにオルガからは碌に世話を受けた覚えはない。

 「クラコは三週間ほど前にウォールガイヤにやってきた転生者だ。野外調査でほとんど俺の宿にいることはないが、一応お前とは同居人だ」

 朝倉の台詞に、オルガが付け足した。

 って、この人にまで妙なニックネーム付けてるのかい!


 「そうだったのか。てっきり俺とマリン以外客はいないとのかと」

 「クラコにはちゃんと礼を言っておけよ。クラコのチート能力『クレヤボヤンス』がなけりゃ、お前は見つけられなかったんだ」

 「『クレヤボヤンス』?」

 「『千里眼』って言えばわかるか?」

 ああ、となって俺は頷いた。
 朝倉の能力は遠く離れた場所を見ることができるのか。

 「ありがとな、朝倉。あんたがいなかったら俺、マリンを助けることができなかったよ」

 「…………どういたしまして」

 朝倉がマリンの方を一瞥した。

 ん? 今の間は何だ?


 「今度こそ行くわね」

 朝倉が病室の扉を開けて出て行った。
 リーも後に続いていなくなる。


 「ナベウマ、聞きたいことがあるんだが」

 タイミングを見計らっていたかのように、オルガが切り出した。

 「何?」

 「お前さん、ひょっとしてチート能力がわかったのか?」

 「そのことか。多分、俺の能力は怪力だ。3mはある熊をアッパーで空中へぶっ飛ばしたんだ。すげぇだろ。まぁそのせいで右手ダメにしちまったんだけどさ」

 オルガが目を皿のようにする。

 おー、オルガがここまで表情を変えるとは。
 ひょっとしてすごい能力なのか?

 「熊っていうのは、アイヴィール草が咲いていた場所から近いところにいた熊か?」

 「近いどころか、草を採取したそばから出てきたよ。それがどうかしたのか?」

 「……どうも、あり得ないことが連続しているな」

 「何で難しい顔してるんだ? 単純に、俺が怪力の能力で熊やらオオカミを倒したって話だろ」

 オルガが首を横に振る。

 「まず第一に、お前さんの能力は『怪力アサルトパワー』じゃない。意識を失っている間『解析アナライズ』の能力を持った病院の受付に見てもらったが、お前のステータスはLv4における一般的なものだった」

 「それが何で『怪力』じゃないってことになるんだよ」

 「『怪力の能力をもつやつっていうのは、決まって攻撃力と防御力のステータスが高いからだ」

 俺の能力が『怪力』なら、それに合わせて攻撃と防御の値が増えてなきゃおかしいってことか。

 「それに『怪力』持ちは自分の力の反動で傷ついたりはしない」

 オルガが、俺の負傷した右腕を見やる。


 「おかしいことはそれだけじゃない。お前さんはどうして生きてるんだ?」

 「ど、どうしてって、その死んでなきゃいけないみたいな言い方なんだよ」

 「普通は死ぬからだ。Lv4に対してLv50以上あるはずのブリザードグリズリーを倒せるはずがない。どれほど優れたチート能力があったとしても、これだけのレベル差は覆せない。加えて、まともな防寒着もなしに、ー50℃の世界を行き来などまずできない。なのに、帰ってきた。凍傷によって体の部位を腐らせることもなく。なぁナベウマ、お前さんのチート能力は一体何なんだ?」

 オルガは顎に人差し指と親指を当てて、ジッと俺を見る。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...