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第二章 ― 争奪戦 ―
第44話 朝倉 葉子
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「それじゃ、私はクエストに戻らせてもらうから」
マリンがいる安心感に浸っている最中、病室の扉の方から知らない女性の声が聞こえてきた。
マリンに向けていた視線を、声がした方へ向けると、黒髪のショートヘアで茶色のローブを羽織った女性が、両腕を組んで立っていた。
顔立ちからして歳は30代ぐらいか、釣り目の三白眼で気が強そうな印象だ。
「ああ、クエスト中に呼び出してすまなかったな」
「いいのよ。仕事より人命を優先するのは当然でしょう」
オルガの謝罪に、女性は淡白に答える。
「えと……誰?」
「朝倉 葉子。あなたと同じ、オルガの世話になっている日本人でルーキーの転生者よ」
俺の当然の質問に、朝倉は同じ様に淡白に答えた。
こういう喋り方をするヤツはちょっと苦手だ。それにオルガからは碌に世話を受けた覚えはない。
「クラコは三週間ほど前にウォールガイヤにやってきた転生者だ。野外調査でほとんど俺の宿にいることはないが、一応お前とは同居人だ」
朝倉の台詞に、オルガが付け足した。
って、この人にまで妙なニックネーム付けてるのかい!
「そうだったのか。てっきり俺とマリン以外客はいないとのかと」
「クラコにはちゃんと礼を言っておけよ。クラコのチート能力『クレヤボヤンス』がなけりゃ、お前は見つけられなかったんだ」
「『クレヤボヤンス』?」
「『千里眼』って言えばわかるか?」
ああ、となって俺は頷いた。
朝倉の能力は遠く離れた場所を見ることができるのか。
「ありがとな、朝倉。あんたがいなかったら俺、マリンを助けることができなかったよ」
「…………どういたしまして」
朝倉がマリンの方を一瞥した。
ん? 今の間は何だ?
「今度こそ行くわね」
朝倉が病室の扉を開けて出て行った。
リーも後に続いていなくなる。
「ナベウマ、聞きたいことがあるんだが」
タイミングを見計らっていたかのように、オルガが切り出した。
「何?」
「お前さん、ひょっとしてチート能力がわかったのか?」
「そのことか。多分、俺の能力は怪力だ。3mはある熊をアッパーで空中へぶっ飛ばしたんだ。すげぇだろ。まぁそのせいで右手ダメにしちまったんだけどさ」
オルガが目を皿のようにする。
おー、オルガがここまで表情を変えるとは。
ひょっとしてすごい能力なのか?
「熊っていうのは、アイヴィール草が咲いていた場所から近いところにいた熊か?」
「近いどころか、草を採取したそばから出てきたよ。それがどうかしたのか?」
「……どうも、あり得ないことが連続しているな」
「何で難しい顔してるんだ? 単純に、俺が怪力の能力で熊やらオオカミを倒したって話だろ」
オルガが首を横に振る。
「まず第一に、お前さんの能力は『怪力』じゃない。意識を失っている間『解析』の能力を持った病院の受付に見てもらったが、お前のステータスはLv4における一般的なものだった」
「それが何で『怪力』じゃないってことになるんだよ」
「『怪力の能力をもつやつっていうのは、決まって攻撃力と防御力のステータスが高いからだ」
俺の能力が『怪力』なら、それに合わせて攻撃と防御の値が増えてなきゃおかしいってことか。
「それに『怪力』持ちは自分の力の反動で傷ついたりはしない」
オルガが、俺の負傷した右腕を見やる。
「おかしいことはそれだけじゃない。お前さんはどうして生きてるんだ?」
「ど、どうしてって、その死んでなきゃいけないみたいな言い方なんだよ」
「普通は死ぬからだ。Lv4に対してLv50以上あるはずのブリザードグリズリーを倒せるはずがない。どれほど優れたチート能力があったとしても、これだけのレベル差は覆せない。加えて、まともな防寒着もなしに、ー50℃の世界を行き来などまずできない。なのに、帰ってきた。凍傷によって体の部位を腐らせることもなく。なぁナベウマ、お前さんのチート能力は一体何なんだ?」
オルガは顎に人差し指と親指を当てて、ジッと俺を見る。
マリンがいる安心感に浸っている最中、病室の扉の方から知らない女性の声が聞こえてきた。
マリンに向けていた視線を、声がした方へ向けると、黒髪のショートヘアで茶色のローブを羽織った女性が、両腕を組んで立っていた。
顔立ちからして歳は30代ぐらいか、釣り目の三白眼で気が強そうな印象だ。
「ああ、クエスト中に呼び出してすまなかったな」
「いいのよ。仕事より人命を優先するのは当然でしょう」
オルガの謝罪に、女性は淡白に答える。
「えと……誰?」
「朝倉 葉子。あなたと同じ、オルガの世話になっている日本人でルーキーの転生者よ」
俺の当然の質問に、朝倉は同じ様に淡白に答えた。
こういう喋り方をするヤツはちょっと苦手だ。それにオルガからは碌に世話を受けた覚えはない。
「クラコは三週間ほど前にウォールガイヤにやってきた転生者だ。野外調査でほとんど俺の宿にいることはないが、一応お前とは同居人だ」
朝倉の台詞に、オルガが付け足した。
って、この人にまで妙なニックネーム付けてるのかい!
「そうだったのか。てっきり俺とマリン以外客はいないとのかと」
「クラコにはちゃんと礼を言っておけよ。クラコのチート能力『クレヤボヤンス』がなけりゃ、お前は見つけられなかったんだ」
「『クレヤボヤンス』?」
「『千里眼』って言えばわかるか?」
ああ、となって俺は頷いた。
朝倉の能力は遠く離れた場所を見ることができるのか。
「ありがとな、朝倉。あんたがいなかったら俺、マリンを助けることができなかったよ」
「…………どういたしまして」
朝倉がマリンの方を一瞥した。
ん? 今の間は何だ?
「今度こそ行くわね」
朝倉が病室の扉を開けて出て行った。
リーも後に続いていなくなる。
「ナベウマ、聞きたいことがあるんだが」
タイミングを見計らっていたかのように、オルガが切り出した。
「何?」
「お前さん、ひょっとしてチート能力がわかったのか?」
「そのことか。多分、俺の能力は怪力だ。3mはある熊をアッパーで空中へぶっ飛ばしたんだ。すげぇだろ。まぁそのせいで右手ダメにしちまったんだけどさ」
オルガが目を皿のようにする。
おー、オルガがここまで表情を変えるとは。
ひょっとしてすごい能力なのか?
「熊っていうのは、アイヴィール草が咲いていた場所から近いところにいた熊か?」
「近いどころか、草を採取したそばから出てきたよ。それがどうかしたのか?」
「……どうも、あり得ないことが連続しているな」
「何で難しい顔してるんだ? 単純に、俺が怪力の能力で熊やらオオカミを倒したって話だろ」
オルガが首を横に振る。
「まず第一に、お前さんの能力は『怪力』じゃない。意識を失っている間『解析』の能力を持った病院の受付に見てもらったが、お前のステータスはLv4における一般的なものだった」
「それが何で『怪力』じゃないってことになるんだよ」
「『怪力の能力をもつやつっていうのは、決まって攻撃力と防御力のステータスが高いからだ」
俺の能力が『怪力』なら、それに合わせて攻撃と防御の値が増えてなきゃおかしいってことか。
「それに『怪力』持ちは自分の力の反動で傷ついたりはしない」
オルガが、俺の負傷した右腕を見やる。
「おかしいことはそれだけじゃない。お前さんはどうして生きてるんだ?」
「ど、どうしてって、その死んでなきゃいけないみたいな言い方なんだよ」
「普通は死ぬからだ。Lv4に対してLv50以上あるはずのブリザードグリズリーを倒せるはずがない。どれほど優れたチート能力があったとしても、これだけのレベル差は覆せない。加えて、まともな防寒着もなしに、ー50℃の世界を行き来などまずできない。なのに、帰ってきた。凍傷によって体の部位を腐らせることもなく。なぁナベウマ、お前さんのチート能力は一体何なんだ?」
オルガは顎に人差し指と親指を当てて、ジッと俺を見る。
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