俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第43話 夜明け

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 目が覚めると、俺は知らない窓から、日の光が差し込む知らない部屋で、知らないベッドの上で、知らない布団に包まれていた。


 「…………あれ? ……オオカミは!?」

 ガバッと勢いよく上体を起こした。

 「ジッとしてろナベウマ。回復魔法をかけたとはいえ、重体だった上に丸一日意識が戻らないほど疲弊していたんだ」

 「そうや。また飛び出そうとしたら今度はベッドに縛り付けたるさかい、大人しくしいや」

 ベッドの横には、オルガとリーが椅子に座っていた――いや、リーは座っていなかった。背が低すぎて勘違いしてしまった。

 状況を把握するため、辺りを見回す。
 部屋にはベッド以外に、引き出し棚と、その棚の上にラジオが置いてあるぐらいで、部屋というにはあまりにも簡素だった。

 部屋の内装からしてここは……病院か!

 自分の体をよく見ると、左肘には包帯が巻かれ、右腕は首元から続く三角巾によって固定されている。

 ……そうだ……俺はあの後オオカミに何度も噛み付かれながらずっと走って……走り続けたらオルガが前からやってくるのが見えて…………。
 その先が思い出せない。
 そこで意識を失って、オルガにここまで運ばれたのか?……ッ!

 俺はハッとする。


 「よっしゃ、ウチは先生に渡辺はんが目ぇ覚ましたこと伝えに行きますわ」

 「頼みます」


 「待ってくれ!」

 思わず、ベッドから転がり落ちそうになる勢いで前のめりになる。

 「マリンは! マリンは大丈夫なのか?!」

 丸一日寝ていたということは、とっくにタイムリミットは過ぎている!
 もしアイヴィール草が間に合ってなかったら……。

 俺の焦る気持ちとは裏腹に、リーはニカッと笑って言った。

 「あんさんは大した男や! マリンはんは無事にピンピンしとる!」

 その言葉を聞いて、全身から力が抜けた。


 「医者に経過を診てもろうてるところや。多分、そろそろ戻って来るんとちゃう」

 部屋の扉が開いた。
 自然と、視線が扉の方へと向く。
 そこに、マリンがいた。

 ピンク色の病衣に身を包む彼女に。

 「マリン!」

 と、俺は笑顔で呼びかける。

 「ショウマ様……」

 それに対し、マリンは涙目になっていた。
 マリンも俺と同じ様な笑顔で応えてくれると思っていたから、予想だにしなかった反応に、なんて声をかければいいかわからなくなってしまう。
 マリンは辛そうな面持ちのまま俺の方へ近づいてきたかと思うと、俺の左手に両手を添えた。

 「ごめんなさい……」

 今にも泣き出しそうな声で呟く。

 「何で謝るんだ?」

 謝まる意味がわからず、聞く。

 「私のせいで、ショウマ様、こんなに傷ついて、私……」

 ……マリンってやっぱ、どこか責任感の強いところがあるよな……。

 「マリンのせいなわけあるか。俺がマリンを助けたくて、自分の意思で勝手にやったことだ。マリンが責任を感じる必要はねぇよ」

 俺は、左手でマリンの両手の指先を優しく握った。

 「あう……」

 納得はしていない様子だったが、マリンは頷いてくれた。


 「むしろ、マリンには礼を言いたいくらいだ」

 「え?」

 「いや、何でもない」

 彼女が近くにいる。
 それだけで幸せを感じた。
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