俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第40話 vs Lv56 ブリザードグリズリー

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 熊はこちらの出方を伺っているのか、俺をジーッと見ながら、歩いては止まりを繰り返して寄ってきている。

 「ここまできて……悪い冗談よしてくれよ」

 熊が襲ってくるキッカケとならぬよう、消え入りそうな声で呟いた。
 とにかく逃げなければと、後ずさる。
 俺の覚えに間違いがなければ、熊に出会ったときにやってはいけないことが、背中を向けて走ることだ。それをやってしまうと熊が走り出してしまう。
 教えに従い、熊の方に顔を向けたまま後ろに下がるが、熊も同じペースでついてくるため距離が取れない。

 「ッ! あぶね!」

 後方を確認すると、切り立った崖になっていて、もう少しで落ちるところだった。
 崖は高く岩場も凍っていることから降りるのは無理と判断し、俺は後ろに移動することは諦め、横方向へと動き出す。その動きを真似るように熊も動く。
 これで確定した。熊は俺を狙っている。

 しかも悪いことに崖の構造上、真横というよりも斜め前に進むしかない状況だ。動きの軌道を予測するに、このままいけば熊モンスターとの接触は避けられない。

 熊との距離が20mほどしかなくなった頃。息を呑み、意を決した。
 駆けるしかない。

 「うおおああ!」

 俺は熊から視線を外して、森に向かって全力疾走した。速く、もっと速く、と懸命に足を動かすが、進まない。足先の感覚を失っていることからバランスが上手く保てないのと、足全体が雪に深く入り込むせいで、スピードが全くのらないのだ。
 それとは対照的に、後方から明らかに歩の進みが速い足音が迫ってくる。
 う、嘘だろ! 本当に走ってきやがった! マジに食われるっていうのか?!
 俺が踏み込んだときの足音と、熊の足音の大きさが等しくなったとき、背中に焼かれるような痛みがはしった。

 「ああぁ!」

 堪らず、俺は雪の上を転がり、うつ伏せになる。
 すぐに顔を起こすと、3mの巨体が追い討ちを仕掛けようとしていた。

 これが、モンスター! 本当にバケモノじゃないか!

 立ち上がろうと四つん這いの姿勢なった直後、熊の前足が体の真下に入ってきて、それが力強く振り上げられた。
 バッサリと腹部が裂かれ、鮮血が散る。

 あ……終わった。

 そう思ったとき、体から力が抜け仰向けに倒れる。


 死ぬのか俺。
 前の世界でも、今の世界でも何も残さずに死ぬのか。
 マリンも……たった一人の女の子も救えずに……。

 虚ろな瞳に、熊が上から俺の顔を見下ろしている姿が映った。

 ……ここまでか……。


   ショウマ様


 マリンの笑顔を思い出す。初めて会ったあの日の黄昏時の。
 どうしてだろう。
 短い。ほんの二週間、一緒にいただけなのに。
 必死になって。命駆けて。
 こんなにも彼女のことを考えてしまうのは。知りたいと思ってしまうのは。


 熊が完全なるトドメを刺そうと、口の中の牙を見せつけて首に向かってくる。


 ――ああ……そうか……俺は……彼女のことが好きになったのか。
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