俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第39話 星のささやき

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 どれだけの時間が経っただろう。
 いつ間にか森を抜け、広大な雪原を直進している。

 もう日が昇ってしまうのではないかと、焦燥感にかられたが、それも少し前までのこと、今の気分は“眠い”だった。
 一刻を争う事態のはずなのに、何故か眠い。眠気をなくそうと、どれだけ頭を振ってみても体を動かしても目蓋は重いまま。
 雪山で遭難したとき「寝るんじゃない」っていうお決まりの文句があるけど、こういうことかと納得する。

 身体の身震いが止まらない。両手を脇に挟み、顎をジャージの襟の中にしまいこんでも、とても耐えられそうな寒さではない。もはや寒さが鋭い刃となっていて痛い。靴の中で氷水に包まれている足の感覚もなくなってきている。

 マジでやばい。
 アイヴィール草を入手する以前に、このまま凍死しかねない。
 嫌だ……また未練を残して死ぬのは。


 「……あ……」

 ボサッ。


 心地いい。

 あまりの寒さに頭がおかしくなってしまったのか。雪の上に横向きに倒れた瞬間、ベッドの上で眠る前のように、思考がまどろむ。


 ……綺麗だな。ダイヤモンドダストってやつか。

 夜を照らす月?の光が空を舞う無数の氷の粒によって乱反射してキラキラ輝いていた。
 こんなときでもなければ、スマホのカメラで動画撮影したいくらい美しい景色だった。

 その景色を彩るかのように、サラサラと、吐く息から音が鳴る。テレビで聞いたことがある。氷点下50度の環境では吐く息さえ氷るそうで、そのときに聞こえる音を“星のささやき”というらしい。

 星のささやきに耳を澄ます。そして、気づく。この場所には音が全くないことに。動物の息遣いもなければ、風もない。

 静かだ。とても。
 世界にこれほど静かな場所があるなんて…………。


 目が閉じられる。

 その直前だった。

 求めていたものが瞳に映った。

 ハッとなって眠りかけた体を起こし、足元がおぼつかないながらも、に近づいた。

 「……あった……あった!」

 ダイヤモンドダストの輝きをバックに、アイヴィール草が雪原に慎ましく咲いていた。

 「白と黒の花、間違いない!」

 というか、この厳しい環境下で咲ける花など他にないだろう。
 普通の花なら氷ってボロボロに崩れてしまうからだ。
 俺は、アイヴィール草の茎と花弁部分を突いて丈夫さを確かめる。

 これならジャージのポケットに入れても問題なさそうだ。
 生えていたアイヴィール草はたった3本だけ、その3本をポケットにしまい込む。

 「あとは帰るだけ……帰るだけだ」


 ……グルルル……。

 戦慄した。

 さっきまでこの空間には俺しかいなかったはず、俺が発する音しかなかったはず、なのにどうして、俺以外の音が聞こえる?

 何かを刺激しないよう、ゆっくりと体を振り返らせると、50mほど離れた先に体長3mはある黒い熊のような生物が4足歩行でこちらに近づいていた。
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