俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第36話 リー

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 それから、薬草師とやらが来るまで、また待つことになった。
 待つ。
 待ってるだけ。
 俺にできることは何も無い。


 チラリと手元の袋を見る。

 「……帰ったら、俺の財布作るって張り切ってたのにな……」

 ……気負っても結果が変わるわけじゃない。少し気分を落ち着かせるか。

 俺はふらりと院内を適当に歩き出した。窓の外はすっかり暗くなっており、廊下にはほとんど人がいない。
 呆然と院内の内装を見渡していると、給湯室から話し声が聞こえてきたので、聞き耳を立てる。


 「絶対おかしいよな。あんなのカビじゃないって」
 「だよなぁ。自然界にあれだけの早さで増えるカビがあったら、一帯がカビだらけになってるよな。あれはモンスターの類だよ、うん」

 ……もしかして、俺が思っている以上にマリンは危険な状態なんじゃ……。
 マリンの死のイメージが頭を過ぎる。

 いやいや!
 俺はそのイメージを振り払うかのように、頭をブンブン振った。

 考え過ぎだ! チートも魔法もある世界だぞ! 何とかなるに決まってる!


 「あんたが渡辺はん?」

 背後から自分の名を呼ぶ声が聞こえ、後ろを振り返った。
 が、誰もいない。

 「どこ見とんねん。こっちやこっち」

 下から声が聞こえたので、顔を下に向けた。
 するとそこには、丸眼鏡をかけた女の子がいた。長い茶髪が後ろで三つ編みにまとめられている。

 「どうやら間違いないようやな。私が薬草師のリーいうもんや。マリンはんの容体はカルテと『精神映像ビジョン』でみせてもろーたけど、ケッタイなことになっとるなー」

 「もしかして、あんたが薬草師? どうみても小学生のせた――」
 「あかん」

 リーと名乗った少女?は俺に向けてビシッと人差し指を立てる。

 「背のことは禁句や。散々言われてウチもツッコミ飽きとるからな」
 「は、はあ」

 このリーって女、口の動きと言葉が一致してないな。日本人じゃないのか。

 「それよりマリンはんや。立ち話は疲れるから、ウチの部屋にきーや」

 言われるがまま、リーについていき、院内のとある部屋へと案内された。そこへ入ったときに、一番に思い浮かんだ単語は、物置だった。機材とか椅子とかが部屋に大量に詰め込まれてるが、リーはこんなところで作業してるのか?

 「ゴチャゴチャしててすまんなぁ。今の時代、薬草師なんてもうお払い箱やから、まともに病院に来てなかったんよ」

 ははぁ、部屋の主が不在だから物置代わりにされてたってわけか。
 
 「コーヒー入れよか?」
 「いや、それより早くマリンが助かるのか教えてくれ」
 「はいよ」


 リーが机に置いてあった分厚いファイルを手に取ると、素早く特定のページを開いた。

 「実はマリンはんのようなケースは、3、4年に一人のペースで報告されてんねん」

 おいおい、そんなことはどうでもいいんだよ。

 「肺胞に菌糸を張り巡らせて凄まじい早さで増殖するカビのような存在」

 …………。

 「けどな、おかしいんや。こないな強力なカビがあったらこれまで見逃すことなんてあらへん、しかもや、報告によればこのカビは一度患者から採取されて、火で燃やしたりしてみたらしいんやけど――」

 何で話を遠回しにする。

 「リー。俺は、マリンが助かるかどうか、聞いてるんだ。カビのことなんて、聞いてない」

 低い声で俺は言う。

 「……ほな、言わせてもらうわ。マリンはんはこのままだと明日の昼前には亡くなる」

 視界がグワンと歪み、目眩が襲った。


 「……ただ、助ける方法がないとちゃう」

 俺は俯きかけた顔を上げた。

 「助ける方法はある。けど、その方法は実行できへん」

 「……は? 何だよそれ」

 上げて落とす発言に苛立った。

 「アイヴィール草。この世界で最も効果がある薬草の名や。どんな傷も病原菌も代謝異常も治すとされる、まさに魔法のアイテムや、おそらくこれならカビも始末できるはずやけど、これを入手するのは簡単じゃないんや」
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