俺のチートって何?

臙脂色

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第二章   ― 争奪戦 ―

第34話 咳き

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 あの後、結局幼女は見つからなかった。
きっと一人で帰ったのだろう。


 次の日、俺はバイトに行かなかった。だって今日は土曜日だぞ? 土曜、日曜日は休み。もはや国民に与えられた義務だよ、うん。

 というわけで、朝から昼までダラダラとオルガの民宿で過ごしていた。どう過ごしていたかというと、マリンとオセロをやっていた。このオセロセットは店で購入したものではなく、オルガ家にあったものだ。

 「たはーっ! また負けた! マリン強すぎだろ!」

 俺はマリンに10連敗していた。

 「たまたまですよ、たまたま」

 嬉しそうに言うマリン。

 「ここまで負かされたらたまたまじゃないっしょ。何かコツがあるなら教えてくれ!」

 「うーんと、これまでの試合の様子を見ていると、ショウマ様は序盤から多くの石を取ろうとしていませんか?」

 「してる」

 「それは良くない手だと思いますよ。自分の打てる場所も少なくなって最悪パスすることにもなってしまいます。ですから、多くの石を取りに行くのは中央が埋まってきからの方がいいかなって思います」

 「なるほど」

 オセロって意外と奥が深いんだな。にしても――。

 「マリンって小さい頃にオセロやってたのか?」

 「いえ、今日が初めてですよ」

 「初めてでこの強さかー。あ、わかったマリンのチート能力は『オセロが上手い』だ!」

 「え、えぇ。それは……」
 「嬉しくない?」
 「はい……別の能力がいいです」
 「ははは!」


 その後も、オセロで何度か対戦したが、マリンに勝つことはできなかった。

 「あの……ショウマ様、コホッ」

 咳き混じりに、マリンが俺を呼ぶ。

 「ん? ああ、もうこんな時間か。んじゃ、出かけますか」

 部屋の壁に掛けられた時計の針は午後1時をさしていた。
今日は、マリンが小物作りをするために必要な裁縫道具を買いに出かける予定があったのだ。


 「これとかどう?」

 「んーもっと可愛らしいのがいいです」

 手芸専門の店にやってきた俺は、片っ端から選んでいく。
俺から見たらソーイングセットなんて全部同じにしか見えなかったから、さっさと適当なものを選んで家でゴロゴロしたかった。

 「あの、ちゃんと考えて選んでくれてますか? コホッコホッ!」

 「え、選んでるよ、もちろん。…………今日、咳きが多いけど、風邪引いた?」
 「わかりません――コホッ!」

 こっぱずかしいけど、心配だから確認しておくか。
俺の手を、マリンの額に当ててみる。

 「……少し熱っぽいか? マリン、買い物が済んだら医者に診てもらいに行こう」

 「はい、わかりました」


 マリンは咳き込み続けつつも、望みの道具と素材を見つけ買い物を済ませた。
オルガにオススメの診療所はどこか聞くのと、買った物を置いていくために、俺たちは一度民宿へと戻ることにした。

 その帰路の途中だった。

 「……ゲホッ! うぅぇ! ゴホゴホッ!」

 「マリン?!」

 突然、マリンが胸を両手で押さえて、地面に両膝をついた。

 「大丈夫か?!」
 「は……か……ゲホォ! く、る……い……」

 うずくまるマリンの背中をさするが、治まる気配は無い。
マリンのただならぬ様子から家に帰ってる時間はないと判断し、道行く人に、近くに病院がないかを尋ねる。

 「そこのあんた! 病院がどこにあるかわかるか?!」
 「あ、ああ! わかるぞ、ついてきな!」

 「マリン、立って歩けるか?」
 「……は……」

 「しゃべらなくていいから、首を縦か横に振って教えてくれ」

 マリンは頷く。

 「よし、肩貸すから腕持ち上げるぞ。途中止まりたくなったら手を振って知らせてくれ」
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