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第二章 ― 争奪戦 ―
第32話 焼肉屋
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で、ここは焼き肉屋。
俺とジェニーは皿に並べられた肉を次々に熱せられた網の上に置いていく。網の下では魔法によって点けられた火がメラメラと燃えていた。
「ここの店はすごいんだよー。肉の焼き加減によって火の強さが自動で変わるんだー」
相変わらずの口調でジェニーが言う。
「それって全体的に? それとも置かれてる肉ごとに?」
「肉ごと」
「そいつはすごいな」
この辺は前の世界の技術上回ってるな。魔法チートすげー。
「そろそろこれは焼けたかな。ほい、マリン」
肉の表裏の焼き具合を確認した後、その肉をマリンの皿の上に置く。
「ありがとうございます!」
「にしても、これ何の肉なんだ? 牛肉と変わらん味だけど、牛ってこの世界にいないよな?」
「んー、いないけど、ソレッポイのならいたってことだね。ぶっちゃけこの世界ってほとんど前の世界と変わらないんだよねー。私としてはもっと新鮮な感覚を味わいたかったよ」
「ふーん」
肉をじゅうじゅうと焼きながら、俺はジェニーとは逆のことを思っていた――前の世界と大した違いがなくて良かったということ。
例えば、言葉。
ウォールガイヤには元の世界からいろんな国の転生者がやってくるそうだが、母国語の違いによる意思疎通問題は起きていない。
というのも、言葉が話したそばから自動翻訳されていくからだ。台詞と口の動きがマッチしていないことから、本人は確かに自分の国の言葉を話しているはずなのだが、聞こえてくる音は聞き手の国の言葉になる摩訶不思議。
けど、これのおかげで言語を覚えずに済んでいる。英語が苦手だった俺にとっては万々歳だ。
あと、食文化にも差がないことも嬉しい。
今まさに食している肉もそうだが、慣れ親しんだ食事をいつでも味わうことができるのは安心感がある。こっちにきてまだホームシックになっていないのは、この食事によるところが大きい気がする。
「お、こっちも焼けたな。メシュ食べ――」
考えている間に肉が焼け、それをメシュに渡そうとしたところ。
「ぶふっ!」
俺は吹き出した。
「キサマァ! 先のことでまだ笑っているのか!」
「わりぃ! でも……くくくっ!」
話は焼き肉屋に入って間もないときに遡る。
俺がジェニーにこれまでの苦労を話していると、ジェニーが俺とマリンが初めて出会ったときのことを聞いてきた。
自分がキョドっていたことだけは言わぬようにして話したところ、ジェニーは。
「ご主人様かー。んまぁ、マリンちゃんが言うならわかるわー。私もマリンちゃんになら言われたい」
と、言ったから、俺はそっちの出会いがどうだったのか聞いた。
「私とメシュくんの出会いはねー。私が目を覚ましたら、『大丈夫かい、俺様の姫君』ってキメ顔で言ってきたって感じかなー」
不覚にも、メシュの決め台詞にツボってしまった。
「俺様の言う事のどこがおかしい!」
話は現在に戻り、メシュが顔をアップにして怒鳴る。
「台詞自体はおかしくないんだけど、それをお前が言ってるのを想像すると――くははっ!」
「メシュくんはね、ヘタレ成分があるからそういう台詞似合わないんだと思うよー」
「ジェニーまで! ……うぅ」
「ほら、そういうとこ」
ジェニーが楽しそうにメシュの頬をツンツンする。
「あ、私は――」
マリンが言いかけたところで、メシュがそれを制する。
「お前は何も言うなあ! お前の言葉は追い討ちにしかならーん!」
「そんなぁ……」
そんなこんなで、一通り肉を食べ終わり膨れた腹を休めていると、ジェニーが尋ねてきた。
「パッと思ったんだけどー、渡辺くんはどうして死んだの?」
「ん……ん?!」
自分の耳を疑った。
「今なんて?」
「どーして死んだのって」
「……どーしてって……」
普通、直球で人の死因なんて聞くかなぁ。
ジェニーらしいっちゃらしいけど。
「大して面白くもないぞ。コンビニからの帰り道にトラックに轢かれたんだ。ったく運転してたヤツはどこ見てたんだか」
半分愚痴っぽくなった。
「へー、私と同じじゃん」
「え、ジェニーも?」
「うん、私もトラックに撥ねられちった。すごい偶然だねー」
「偶然だねーって、殺されたようなもんなのに、ずいぶんと軽いノリで言うのな」
「殺された、ね。うんうん、そうとも言う。でも、過ぎたことはどうにもできないし、深く考える意味もないからねー」
「……ジェニーは前向きなんだな」
「まーね」
……俺には真似できない考え方だな。
ウォールガイヤに来たばかりの頃ほどではないが、俺はまだ前の世界を恋しく思っている。
……母さん。俺がいなくなって泣いたりしてないかな……。
チッ! 俺がトラックにぶつかるなんてヘマをしなけりゃ!
あのトラックさえなければ……ここに来てから同じことを何度思っただろう。
そして、それと共に思い浮かぶことがもう一つある。
あのトラック……いきなり現れなかったか?
俺とジェニーは皿に並べられた肉を次々に熱せられた網の上に置いていく。網の下では魔法によって点けられた火がメラメラと燃えていた。
「ここの店はすごいんだよー。肉の焼き加減によって火の強さが自動で変わるんだー」
相変わらずの口調でジェニーが言う。
「それって全体的に? それとも置かれてる肉ごとに?」
「肉ごと」
「そいつはすごいな」
この辺は前の世界の技術上回ってるな。魔法チートすげー。
「そろそろこれは焼けたかな。ほい、マリン」
肉の表裏の焼き具合を確認した後、その肉をマリンの皿の上に置く。
「ありがとうございます!」
「にしても、これ何の肉なんだ? 牛肉と変わらん味だけど、牛ってこの世界にいないよな?」
「んー、いないけど、ソレッポイのならいたってことだね。ぶっちゃけこの世界ってほとんど前の世界と変わらないんだよねー。私としてはもっと新鮮な感覚を味わいたかったよ」
「ふーん」
肉をじゅうじゅうと焼きながら、俺はジェニーとは逆のことを思っていた――前の世界と大した違いがなくて良かったということ。
例えば、言葉。
ウォールガイヤには元の世界からいろんな国の転生者がやってくるそうだが、母国語の違いによる意思疎通問題は起きていない。
というのも、言葉が話したそばから自動翻訳されていくからだ。台詞と口の動きがマッチしていないことから、本人は確かに自分の国の言葉を話しているはずなのだが、聞こえてくる音は聞き手の国の言葉になる摩訶不思議。
けど、これのおかげで言語を覚えずに済んでいる。英語が苦手だった俺にとっては万々歳だ。
あと、食文化にも差がないことも嬉しい。
今まさに食している肉もそうだが、慣れ親しんだ食事をいつでも味わうことができるのは安心感がある。こっちにきてまだホームシックになっていないのは、この食事によるところが大きい気がする。
「お、こっちも焼けたな。メシュ食べ――」
考えている間に肉が焼け、それをメシュに渡そうとしたところ。
「ぶふっ!」
俺は吹き出した。
「キサマァ! 先のことでまだ笑っているのか!」
「わりぃ! でも……くくくっ!」
話は焼き肉屋に入って間もないときに遡る。
俺がジェニーにこれまでの苦労を話していると、ジェニーが俺とマリンが初めて出会ったときのことを聞いてきた。
自分がキョドっていたことだけは言わぬようにして話したところ、ジェニーは。
「ご主人様かー。んまぁ、マリンちゃんが言うならわかるわー。私もマリンちゃんになら言われたい」
と、言ったから、俺はそっちの出会いがどうだったのか聞いた。
「私とメシュくんの出会いはねー。私が目を覚ましたら、『大丈夫かい、俺様の姫君』ってキメ顔で言ってきたって感じかなー」
不覚にも、メシュの決め台詞にツボってしまった。
「俺様の言う事のどこがおかしい!」
話は現在に戻り、メシュが顔をアップにして怒鳴る。
「台詞自体はおかしくないんだけど、それをお前が言ってるのを想像すると――くははっ!」
「メシュくんはね、ヘタレ成分があるからそういう台詞似合わないんだと思うよー」
「ジェニーまで! ……うぅ」
「ほら、そういうとこ」
ジェニーが楽しそうにメシュの頬をツンツンする。
「あ、私は――」
マリンが言いかけたところで、メシュがそれを制する。
「お前は何も言うなあ! お前の言葉は追い討ちにしかならーん!」
「そんなぁ……」
そんなこんなで、一通り肉を食べ終わり膨れた腹を休めていると、ジェニーが尋ねてきた。
「パッと思ったんだけどー、渡辺くんはどうして死んだの?」
「ん……ん?!」
自分の耳を疑った。
「今なんて?」
「どーして死んだのって」
「……どーしてって……」
普通、直球で人の死因なんて聞くかなぁ。
ジェニーらしいっちゃらしいけど。
「大して面白くもないぞ。コンビニからの帰り道にトラックに轢かれたんだ。ったく運転してたヤツはどこ見てたんだか」
半分愚痴っぽくなった。
「へー、私と同じじゃん」
「え、ジェニーも?」
「うん、私もトラックに撥ねられちった。すごい偶然だねー」
「偶然だねーって、殺されたようなもんなのに、ずいぶんと軽いノリで言うのな」
「殺された、ね。うんうん、そうとも言う。でも、過ぎたことはどうにもできないし、深く考える意味もないからねー」
「……ジェニーは前向きなんだな」
「まーね」
……俺には真似できない考え方だな。
ウォールガイヤに来たばかりの頃ほどではないが、俺はまだ前の世界を恋しく思っている。
……母さん。俺がいなくなって泣いたりしてないかな……。
チッ! 俺がトラックにぶつかるなんてヘマをしなけりゃ!
あのトラックさえなければ……ここに来てから同じことを何度思っただろう。
そして、それと共に思い浮かぶことがもう一つある。
あのトラック……いきなり現れなかったか?
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