俺のチートって何?

臙脂色

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第一章   ― ワールドガイダンス ―

第17話 命令

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 言われたとおり2回繰り返すと、モンスターは動かなくなった。

 「お疲れ様です。付いた血はこれで拭いてください。あ、その短剣は差し上げますね」

 生を自らの手で奪った余韻に浸っているところに、男が湿った紙を手渡してきた。
 鼻腔にツンとした刺激を感じる。
 この臭い覚えがある……アルコールか。何だかな。せっかくファンタジー気分が上がってたところなのに、色々と冷や水ぶっかけられた気分だ。

 「では、マリンさんもお願いします」
 
 「は、はい……」

 オルガの腕から降ろされたマリンは、戸惑いながらも男から短剣を受け取る。
 その手は震えていた。

 そーだよな。そーいう話しだったよな。でも――。

 「こんなこと女の子にやらせるなよ。マリンの代わりに俺がやる」

 「お気持ちはお察ししますが、これは代人を立てられるような事柄ではありません」

 何だよ、それ。

 「マリンが心配ならこう命令するんだ。『何も考えずに目の前のモンスターを殺せ』ってな」

 オルガのやついちいち癇に障ることを言いやがる。確かにその命令を伝えれば、マリンは言われたとおりのことをしてくれるのだろう。
 けど、あれ、嫌いだ。
 マリン自身が望んでいないことを、俺が無理やりやらせているようなあの感じ。好きじゃない。

 いっそ入国することを諦めるか?
 そうすれば、妙なことに付き合う必要も無くなる。
 外で自給自足で暮らし――。

 俺はイノシシとの戦闘を思い出す。
 外にあんなものがウヨウヨいるんだとしたら、多分現実的じゃないんだろうな……でも。

 でも、でもという言葉が何度も頭の中を巡る。

 「大丈夫ですよ。ご主人様」

 マリンの声によって、堂々巡りする思考から解放される。
 マリンの顔を見ると、俺を安心させるような優しい笑顔で俺を見ていた。こんなときでもなければ、胸をときめかせていたであろう。

 「私、頑張りますから。私のことで悩まないでください」

 彼女はモンスターの方へ歩き出した。
 その足の進みは俺よりも早く、滑らかだった。俺よりも強かだった。

 何か、何かできないか。
 彼女のために。

 そう思ったのと同時に、俺の口は開いていた。

 「マリン! 命令だ!」

 マリンがきょとんとした顔で、こちらを振り返る。 

 「心を強く持てよ!」

 「……はい!」

 彼女の表情に勇気が宿ったような気がした。

 ……マリンってどんなヤツなんだろう。
 このときになって、初めてマリンのことをちゃんと知りたいと思った。
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