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第一章 ― ワールドガイダンス ―
第2話 神
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「うーん……」
酷い夢をみた。でも、夢の内容はよく覚えていない。まるで朝のまどろみに包まれているような感覚の中、目蓋を開けた。
「お、目を覚ましたようじゃのぉ! 災難な目にあったのぉ。どうじゃ? まだ体は痛むか? って死んでるから痛いもクソもないんじゃがね。クカカカ」
目と鼻の先に、ニヤニヤしているジジイの顔があった……って――。
「どうわあぁ!」
ジジイが俺のファーストキッスを奪いそうなくらい顔を近づけていたもんだから、慌てて両手をバタバタさせて後ろへ下がり、何を企んでいるのかわからん危険な面構えのジジイから離れた。
「神に向かって何じゃその態度は、罰当たりなやつじゃのう」
「か、神? あんたが?」
俺はまだ夢から覚めていないんだろうか。
ジジイの周囲を良く見ると、白い空間が広がっていた。俺とジジイ以外は何もない。
「お前さんは不幸なことにトラックに撥ねられて死んでしまった。そして、今は魂だけがそこにある」
「死ん……あぁ!」
そこまで言われて、俺は自分の身に起きたことを、自分がどんな最期を迎えたのか思い出した。
腕や脚があらぬ方向に曲がり、服は血で濡れていた。グロテスクで現実離れした記憶内容に、恐ろしさがこみ上げて吐きそうな気分になる。
魂だけだってなのに、感覚はあるのかよクソ。
「パンパカパーン!」
「は?」
いきなりジジイが、どこから出したのかクラッカーを破裂させた。人が死んだっていうのに喧嘩売ってんのかこいつは。
「ラッキーなことに君は異世界への移住資格を得たのだ! そこで第二の人生を送るといいぞ!」
「ふ、ふざけるな! 家族にも友達にも別れの挨拶なしに逝っちまったんだ! 異世界なんてどうでもいい! 俺を元の世界に蘇らせてくれ!」
「……それはできん」
緊張感の無かったジジイの顔が、険しくなった。
雰囲気の急激な変化に面食らう。
「お前はもう死んだのだ。死んだ者は生き返らないのが世の理。諦めろ」
……心底後悔した。
俺があのとき母さんの言うことを聞いていたら。くだらないことで現実逃避して家を抜けさなければ。死なずに――いろんなもを一気に失くさず済んだかもしれないのに。
ちょっとした判断、ちょっとした運の悪さがたまたま重なって、これまでの人生とこれからの未来が一瞬にして消えたかと思うと、悔しさのあまり涙が溢れそうになってくる。
「泣くな、少年。お前の事故は確かに不幸だった。だからこそ、次の人生では今の肉体と記憶を引き継いだまま、転生させてやろう」
俺は返事をしなかった。
もうどうにでもなれ。
そう思っていた。
白い空間が、まるで凸レンズと凹レンズを交互に覗いているかのように歪み始めた。
感覚でわかった。
これからジジイの言う異世界とやらに飛ばされるんだと。
「あ、そうそう。言い忘れていたがチート能力も与えておくからの。上手く扱ってくれ」
酷い夢をみた。でも、夢の内容はよく覚えていない。まるで朝のまどろみに包まれているような感覚の中、目蓋を開けた。
「お、目を覚ましたようじゃのぉ! 災難な目にあったのぉ。どうじゃ? まだ体は痛むか? って死んでるから痛いもクソもないんじゃがね。クカカカ」
目と鼻の先に、ニヤニヤしているジジイの顔があった……って――。
「どうわあぁ!」
ジジイが俺のファーストキッスを奪いそうなくらい顔を近づけていたもんだから、慌てて両手をバタバタさせて後ろへ下がり、何を企んでいるのかわからん危険な面構えのジジイから離れた。
「神に向かって何じゃその態度は、罰当たりなやつじゃのう」
「か、神? あんたが?」
俺はまだ夢から覚めていないんだろうか。
ジジイの周囲を良く見ると、白い空間が広がっていた。俺とジジイ以外は何もない。
「お前さんは不幸なことにトラックに撥ねられて死んでしまった。そして、今は魂だけがそこにある」
「死ん……あぁ!」
そこまで言われて、俺は自分の身に起きたことを、自分がどんな最期を迎えたのか思い出した。
腕や脚があらぬ方向に曲がり、服は血で濡れていた。グロテスクで現実離れした記憶内容に、恐ろしさがこみ上げて吐きそうな気分になる。
魂だけだってなのに、感覚はあるのかよクソ。
「パンパカパーン!」
「は?」
いきなりジジイが、どこから出したのかクラッカーを破裂させた。人が死んだっていうのに喧嘩売ってんのかこいつは。
「ラッキーなことに君は異世界への移住資格を得たのだ! そこで第二の人生を送るといいぞ!」
「ふ、ふざけるな! 家族にも友達にも別れの挨拶なしに逝っちまったんだ! 異世界なんてどうでもいい! 俺を元の世界に蘇らせてくれ!」
「……それはできん」
緊張感の無かったジジイの顔が、険しくなった。
雰囲気の急激な変化に面食らう。
「お前はもう死んだのだ。死んだ者は生き返らないのが世の理。諦めろ」
……心底後悔した。
俺があのとき母さんの言うことを聞いていたら。くだらないことで現実逃避して家を抜けさなければ。死なずに――いろんなもを一気に失くさず済んだかもしれないのに。
ちょっとした判断、ちょっとした運の悪さがたまたま重なって、これまでの人生とこれからの未来が一瞬にして消えたかと思うと、悔しさのあまり涙が溢れそうになってくる。
「泣くな、少年。お前の事故は確かに不幸だった。だからこそ、次の人生では今の肉体と記憶を引き継いだまま、転生させてやろう」
俺は返事をしなかった。
もうどうにでもなれ。
そう思っていた。
白い空間が、まるで凸レンズと凹レンズを交互に覗いているかのように歪み始めた。
感覚でわかった。
これからジジイの言う異世界とやらに飛ばされるんだと。
「あ、そうそう。言い忘れていたがチート能力も与えておくからの。上手く扱ってくれ」
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