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終焉の原初 中編
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艦長の落ち着きは、覚悟によるものだ。
「全軍に通達。これより我が軍は、最後の戦闘に入る。だがその前に一つ言っておきたいことがある。我々は全滅するだろう」
艦長からの敗北宣言だった。普通ならありえない発言であるが、口を挟む者は誰もいなかった。
「それでも、戦ってほしい。我々の死は決して無意味ではない。我々が戦うことで、民間人が死を覚悟する時間ができる、妻に夫に子どもに愛を語る時間ができる。だからどうか、戦って死んでくれ」
言い終わると、艦長は身振りでローラに通信回線を切るように促した。
ローラは通信を切る。
「ああ言ったが、逃げたい者は逃げてくれていい。責めたりはしない」
「……大丈夫っすよ。こうなったときの心の準備はできてます。みんなもそうだろ?」
ヴィルツの問いに、泣いているオペレーターを除く全員が頷く。
「ヴィルツ。伴侶はいいのか?」
「妻には散々話してあります。互いに腹括ってますよ」
ブリッジ内で会話が進む中、終焉がついに動き出し、宇宙空間を歩くのと同じ速度で進み始めた。
「敵、動きあり! 前進を始めました!」
「どこへ向かっている?」
「軌道予測……後方! 移民船団です!」
「逃がすつもりはないということか。 後方に無人戦闘機を配置! ローラ、光線艦に射撃命令を通達!」
ヴォイジャー後方部のハッチが開き、中から500を超える大量の無人戦闘機が宇宙へ飛び出す。
戦闘機の構造はシンプルなもので推進力を得るための機構にレーザー砲が取り付けられただけのものとなっており、大きさは人より二回り大きい程度だ。
「各レーザー砲、エネルギー充填完了。発射します!」
ヴォイジャーと光線艦のレーザー砲から、光が放たれる。光の帯はそのままいけば、間違いなく終焉に直撃する軌道を描いていた。
だが、終焉は急加速し、これを避けた。
「全弾、回避されました!」
「敵、マッハ1、マッハ2、どんどん速度を上げていきます!」
尚もレーザーが打ち続けられるが、終焉はその光の帯の間を縫うようにすり抜けていく。
艦長は、生身であるはずの敵がどこからあれほどの推進力を得ているのか疑問に思ったが、考えている時間はない。
「艦砲射撃止め! 無人機で迎撃! 空いた後方には有人機の部隊を全て投入!」
無人機もまた音速を超える速度で動き、終焉を取り囲む。
無人機は人が搭乗してないが故に、加速によってかかる負担を無視した変則的な動きが可能である。
普通の人間がこの動きについていこうとすれば、血が脳に届かなくなり失神してしまう――はずなのだが、終焉は無人機以上の速さで、かつ動きに緩急をつけていた。もはや人の目で捉えることは不可能な領域だった。
何をしたのか、あっという間に全ての無人機が粉々に破壊され、痕には煙、塵、火花のみが散っていた。
「……これが、星団連邦を全滅させ、600億の人間を殺戮した悪魔の力か……」
誰にも聞こえない声音で艦長が言う。
終焉がヴォイジャーの横を通り過ぎようとしたところで、終焉の片方の手のひらが黄色く輝き始める。その光は手のひらの上で収束し、一個の球体となる。球体はみるみる内に大きくなり、直径100mほどのサイズとなる。
「な、何なんだこの熱量は! 核融合並みのエネルギーだぞ!」
男のオペレーターが叫んだ直後、球体を中心に光の弾丸が360度に散りばめられた。弾の数はちょうど戦艦の数だけあり、一隻あたりに一発が次々直撃していく。
「シールド展開!」
ヴォイジャーの左舷側に半透明な壁が現れ、光の弾丸を防いだ。
「なんつー破壊力だ! レーザーじゃなくてビームか!」
ヴィルツが驚く。
唯一自分の攻撃を防いだヴォイジャーに興味を示したのか、終焉がヴォイジャーを見やる。
そこへ、航行不能寸前の一隻の光線艦が特攻とばかりに体当たりを仕掛けるが、終焉はこれを避けるどころか、逆に突っ込んだ。
「死にやがれええぇ!」
その光線艦のメイン操縦士の雄叫びが、通信機越しに聞こえた。
終焉と光線艦が接触すると思われた次の瞬間。
終焉が光線艦を蹴り飛ばした。
「全長4kmの戦艦を――」
「蹴った?」
ヴォイジャーのオペレーターたちは開いた口が塞がらなかった。
蹴り飛ばされた光線艦は為す術なく、真横に飛んでいき別の光線艦と激突した。
改めて、終焉はヴォイジャーの方を見据えると、一直線に向かい始める。
それを見て、艦長は再びシールドを展開するように命令を下す。
終焉はシールドを確認すると、片方の手で握り拳を作り、シールドに殴りかかった。
バリィッという電気が迸る音と共に終焉はシールドを突き抜け、そのままヴォイジャーの外壁を叩き壊して艦内へと突入した。
「300メガトン級の威力にも耐えられるシールドがあっさり……ハ……ハハハ……」
ムラカミがうなだれる。
完全に戦意を喪失していた。
「第二居住区から第三区画までの隔壁を全て下ろせ! 白兵戦準備!」
「本艦に敵侵入! 艦内のクルーは白兵戦に備えてください! 繰り返します――」
アナウンスが流れる中、ヴィルツが席を立ち上がる。
「全軍に通達。これより我が軍は、最後の戦闘に入る。だがその前に一つ言っておきたいことがある。我々は全滅するだろう」
艦長からの敗北宣言だった。普通ならありえない発言であるが、口を挟む者は誰もいなかった。
「それでも、戦ってほしい。我々の死は決して無意味ではない。我々が戦うことで、民間人が死を覚悟する時間ができる、妻に夫に子どもに愛を語る時間ができる。だからどうか、戦って死んでくれ」
言い終わると、艦長は身振りでローラに通信回線を切るように促した。
ローラは通信を切る。
「ああ言ったが、逃げたい者は逃げてくれていい。責めたりはしない」
「……大丈夫っすよ。こうなったときの心の準備はできてます。みんなもそうだろ?」
ヴィルツの問いに、泣いているオペレーターを除く全員が頷く。
「ヴィルツ。伴侶はいいのか?」
「妻には散々話してあります。互いに腹括ってますよ」
ブリッジ内で会話が進む中、終焉がついに動き出し、宇宙空間を歩くのと同じ速度で進み始めた。
「敵、動きあり! 前進を始めました!」
「どこへ向かっている?」
「軌道予測……後方! 移民船団です!」
「逃がすつもりはないということか。 後方に無人戦闘機を配置! ローラ、光線艦に射撃命令を通達!」
ヴォイジャー後方部のハッチが開き、中から500を超える大量の無人戦闘機が宇宙へ飛び出す。
戦闘機の構造はシンプルなもので推進力を得るための機構にレーザー砲が取り付けられただけのものとなっており、大きさは人より二回り大きい程度だ。
「各レーザー砲、エネルギー充填完了。発射します!」
ヴォイジャーと光線艦のレーザー砲から、光が放たれる。光の帯はそのままいけば、間違いなく終焉に直撃する軌道を描いていた。
だが、終焉は急加速し、これを避けた。
「全弾、回避されました!」
「敵、マッハ1、マッハ2、どんどん速度を上げていきます!」
尚もレーザーが打ち続けられるが、終焉はその光の帯の間を縫うようにすり抜けていく。
艦長は、生身であるはずの敵がどこからあれほどの推進力を得ているのか疑問に思ったが、考えている時間はない。
「艦砲射撃止め! 無人機で迎撃! 空いた後方には有人機の部隊を全て投入!」
無人機もまた音速を超える速度で動き、終焉を取り囲む。
無人機は人が搭乗してないが故に、加速によってかかる負担を無視した変則的な動きが可能である。
普通の人間がこの動きについていこうとすれば、血が脳に届かなくなり失神してしまう――はずなのだが、終焉は無人機以上の速さで、かつ動きに緩急をつけていた。もはや人の目で捉えることは不可能な領域だった。
何をしたのか、あっという間に全ての無人機が粉々に破壊され、痕には煙、塵、火花のみが散っていた。
「……これが、星団連邦を全滅させ、600億の人間を殺戮した悪魔の力か……」
誰にも聞こえない声音で艦長が言う。
終焉がヴォイジャーの横を通り過ぎようとしたところで、終焉の片方の手のひらが黄色く輝き始める。その光は手のひらの上で収束し、一個の球体となる。球体はみるみる内に大きくなり、直径100mほどのサイズとなる。
「な、何なんだこの熱量は! 核融合並みのエネルギーだぞ!」
男のオペレーターが叫んだ直後、球体を中心に光の弾丸が360度に散りばめられた。弾の数はちょうど戦艦の数だけあり、一隻あたりに一発が次々直撃していく。
「シールド展開!」
ヴォイジャーの左舷側に半透明な壁が現れ、光の弾丸を防いだ。
「なんつー破壊力だ! レーザーじゃなくてビームか!」
ヴィルツが驚く。
唯一自分の攻撃を防いだヴォイジャーに興味を示したのか、終焉がヴォイジャーを見やる。
そこへ、航行不能寸前の一隻の光線艦が特攻とばかりに体当たりを仕掛けるが、終焉はこれを避けるどころか、逆に突っ込んだ。
「死にやがれええぇ!」
その光線艦のメイン操縦士の雄叫びが、通信機越しに聞こえた。
終焉と光線艦が接触すると思われた次の瞬間。
終焉が光線艦を蹴り飛ばした。
「全長4kmの戦艦を――」
「蹴った?」
ヴォイジャーのオペレーターたちは開いた口が塞がらなかった。
蹴り飛ばされた光線艦は為す術なく、真横に飛んでいき別の光線艦と激突した。
改めて、終焉はヴォイジャーの方を見据えると、一直線に向かい始める。
それを見て、艦長は再びシールドを展開するように命令を下す。
終焉はシールドを確認すると、片方の手で握り拳を作り、シールドに殴りかかった。
バリィッという電気が迸る音と共に終焉はシールドを突き抜け、そのままヴォイジャーの外壁を叩き壊して艦内へと突入した。
「300メガトン級の威力にも耐えられるシールドがあっさり……ハ……ハハハ……」
ムラカミがうなだれる。
完全に戦意を喪失していた。
「第二居住区から第三区画までの隔壁を全て下ろせ! 白兵戦準備!」
「本艦に敵侵入! 艦内のクルーは白兵戦に備えてください! 繰り返します――」
アナウンスが流れる中、ヴィルツが席を立ち上がる。
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