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第2章 やっぱり俺の仲間が優秀なんですけど…
25話 雑魚キャラの英雄
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「聞こえませんでしたか?もう一度問います。貴方は誰ですか?」
「ふ、フーマです。」
彼女の質問に答えずにいたら視線をより険しくしてもう一度訪ねて来たため俺は慌てて答えた。
「よろしい。ではフーマ、貴方はお姉様とどういった関係ですか?」
「あの、お姉様って誰ですか?」
「察しが悪い。お姉様はスカーレット帝国初代皇帝、ローズ・スカーレット陛下です。勿論ご存知ですよね?」
「ああ。なるほど。」
どうやらこの目の前で座る偉そうな人はローズの妹のフレンダさんらしい。
どおりでローズによく似てるわけだ。
一部似なかったところもあるようだが。
「殺しますよ。」
俺がフレンダさんの胸部を見て可哀そうな目を向けると槍を俺の足の間に差してニッコリと笑った。
やば、貧乳は禁句か。
覚えておこう。
「別に私は貧乳ではありません。清楚で慎ましいだけです。気を付けなさい、人間。」
「ごめんなさい。」
俺はフレンダさんの背後から飛んでくる無数の紅い槍を避けながら彼女に誤った。
紅い槍は数こそ多いもののそこまで速くはないので、見てからでも十分に避けられる。
まぁ、本気で当てる気はないのだろう。
そんな事を考えていたら紅い槍の雨が止んだので、俺は大人しくフレンダさんの前に正座をして彼女の方を見上げた。
あ、パンツ見えた。
「死にますか?」
「すみません。もうしません。」
「はぁ、そんなことよりも私の質問に答えなさい。貴方はお姉様とどういった関係ですか?」
「ローズは俺の保護者兼師匠兼旅の仲間です。」
「今一容量を得ません。貴方がお姉様と出会ったところから説明しなさい。」
「はぁ、分かりました。」
俺は面倒に感じながらも魔の樹海でローズを拾って仲間になってソレイドに来て悪魔の叡智を知ってアセイダルと戦ってたら気を失ったと説明した。
フレンダさんは終始無言で目を瞑って俺の話を聞いていた。
「とまぁ、こんな感じです。」
「それでは貴方がお姉様の魂を揺らがせている存在ではないのですね。」
「魂を揺らがす?なんですかそれ?」
「貴方は私が結界魔法で自分自身を封じていることは知っていますね?」
「そりゃまぁ、さっきも言った通りローズから聞いたので。」
俺の目の前にいるフレンダさんはローズが謀叛を起こされて城から逃げる時に、自分の身を封印してローズを逃がしたと以前聞いた。
さっきからずっと疑問に思っていたけれど、そんなフレンダさんがなんで俺の精神世界っぽい所にいるんだ?
ローズの話だと仮死状態なんじゃなかったのか?
「よろしい。ではそこから説明しましょう。ここは精神世界といっては少々語弊がありますが、貴方の世界で間違いありません。私は自身の魂を結界の中からここへと割り込ませてこうして貴方に干渉しています。」
「難しいことはよくわかんないんですけど、何しに来たんですか?」
「私は結界の中の時間の流れる速度をある程度自由に変えられるのですが、それで100年分ほど仮死状態の肉体の中で修業をし、他人の魂に直接アクセスする方法を見つけました。」
「へぇ、それは凄いですね。よくわかんですけど超やばいですね。」
「黙って話を聞きなさい。」
「ごめんなさい。」
俺はフレンダさんに睨まれながら槍を眉間に向けられたので、居住まいを正して真面目に話を聞くことにした。
「本来はお姉様の魂に連絡を取る予定で習得した技能なのですが、記憶しているお姉様の魔力から魂を探してみたところお姉様の他に微弱ながらもお姉様の魔力を有している存在を見つけたました。そこで私はお姉様に仇なす存在がお姉様の魔力をその体内に取り込んでいるならば、その下郎を魂ごと殺しつくしてやろうと思い私と波長のよく似たお姉様の僅かな魔力を媒介にあなたの精神世界にこうして足を運んだのです。」
「でも、俺の中にローズの魔力があるのって多分俺の魔法の修行の時にローズが流し込んだのが残ってただけで、俺はローズと敵対してる訳じゃないですよ?」
「ええ。どうやらそのようです。貴方を殺す理由がなくなってしまいとても残念です。」
「そうですか。俺は死なずに済んで助かりましたけどね。」
「いえ、貴方はこのままでは間違いなく死にます。」
「はい?」
フレンダさんは事も無さげにさらっとそう言った。
え?俺このままだと死ぬの?
なんで?
「先ほど貴方が自分でアセイダルという名の悪魔にやられたと言ったではないですか。やはり人間は愚昧なようですね。」
「自分ではよくわかんないんですけど、致命傷なんですか?」
「外の事は分からないので傷については何も言えませんが、貴方の魂はこのままだと崩れます。」
「その、どうにかなりません?」
「貴方が私の命令に従うのなら私がここに残って貴方の肉体が修復するまで魂を支えてあげなくもありません。」
「え?助かるんですか?」
どんな要求をされるかは分からないが死ぬよりはいいだろう。
舞やローズにまだ謝れていないし、心残りも多分にある。
こんなところではまだ死ねない。
「ただし条件があります。今すぐに外の世界に戻ってお姉様の敵を打ち滅ぼしなさい。お姉様の魂の揺らぎが先程から大きくなっています。このままではお姉様の身に万が一があるやもしれません。」
「敵って多分アセイダルですよね?俺が行った所で勝てる相手じゃありませんよ?」
「おかしなことを言う人間ですね。何故貴方はまだ生きているのに戦わないのですか?」
「それは、戦っても勝てないからです。俺は舞やローズを巻き込んでまで負けた最悪な敗北者です。そんな雑魚に何をしろっていうんですか?」
「面倒ですね。私は別に貴方の為にここにいるのではありません。無理やりにでも貴方を覚醒させますからさっさとお姉様の力になりに行きなさい。その為の力がないというのなら今から貴方のギフトの花弁を強引に引きはがします。」
フレンダさんはそう言うと椅子から立ち上がり俺の腕を掴んで無理矢理立たせ、俺の首筋に噛みついた。
「ぐ、がぁぁぁ!!!」
彼女に噛まれたところから魔力に似た何かが流れこみ、俺の中心にある何かを思い切り刺激する。
俺はその耐えがたいほどの激痛に身をよじり彼女をつき飛ばそうとするが、彼女は俺の肩を強くつかんだまま一向に離れようとしない。
一体何時間その激痛に悶えていたのかわからなくなってきた頃、彼女が俺の首筋から突き立てていた歯を抜き俺を解放した。
フレンダさんはそのまま倒れ込んだ俺を受け止め、俺を紅い椅子に座らせてひじ掛けに両手をつき俺の顔を覗き込みながら口を開く。
「いいですか、戦において重要なのはその力や経験などではなく戦う意思です。まがりなりにも男なら誰かを守るためでもただの意地でもなんでもいいから、死ぬまで剣をふりなさい。貴方は私のお姉様が認めた人間なのでしょう?私のお姉様の信頼を受けておきながら、そんな腑抜けた顔しているなど万死に値します。御託を並べて蹲ってないで、さっさと起き上がって悪魔ごとき瞬殺して来いこのクソ野郎が!!」
「どうぅわああぁぁぁ!!」
「ふ、風舞くん!?」
俺がフレンダさんの恫喝への驚きのあまり体を起こすとそこはダンジョンの外の広場だった。
いきなり起き上がった俺を見て舞とボタンさんが驚いた顔をしている。
「舞!?怪我は大丈夫なのか!?腹に空いた傷は痛くないか?」
「ふ、風舞くん!!?わ、私は大丈夫よ。だから私のお腹をまさぐるのは止めてちょうだい。その、こそばゆいわ。」
舞は顔を赤らめながらそう言った。
よかった。舞はしっかりと生きていてくれた。
俺のせいで命を落としていなくて本当に良かった。
「ふ、風舞くん?その、沢山の人が見ているし、離して欲しいわ。その、こういう事はお家に帰ってからにしましょう。ね?」
「ごめん。俺のせいで舞に酷い怪我を負わせた。足手まといにならないって誓ったのに、俺はまた舞に助けられてしまった。俺は救いようのない雑魚キャラだ。本当に、本当にごめん。」
「風舞くん!!いくら風舞くんでもそんなことを言うなら許さないわよ!」
舞が抱きしめていた俺の肩を掴んで引きはがしてから怒った顔をして言葉を発した。
「舞?」
「私が怪我をして倒れたのは風舞くんのせいじゃないわ!ただ私が弱かった。それだけの事よ!」
「でも、俺があんな作戦を立てなければこうはならなかった。」
「言ったでしょう。私はあの場でなんの策も思いつかなかったし、あのままでは全滅していたわ。私がこうして生きているのは風舞くんのおかげなのよ!!」
「舞は俺を買い被りすぎだ。俺がもう少し強ければあの時のアセイダルの攻撃を避けられたし、俺がもう少し賢ければ被害を出さずに何とかできた。俺は舞やローズよりももの凄く弱っちいモブキャラなんだよ。」
「そんな事ないわ!高校1年生のあの冬の日に私を励まして救ってくれた時から風舞くんは私の英雄なのよ!!そんな英雄と一緒に戦う事ができて私がどんなに嬉しいか風舞くんには判る!?確かに今は私の方がステータスやスキルが上かもしれないけれど、私の大好きな風舞くんがチートキャラじゃないなんて事あり得ないわ!!だから、お願いよ。もう、自分の事をそんなに卑下しないでよ。あの時みたいに私を助けてよ…」
舞はそういうと俺の胸元に顔を押し付けて泣き始めた。
俺は何をしているのだろうか。
どうして俺は好きな女の子にこんな悲しそうな顔をさせているのだろうか。
何が俺には力がないだ。
何が俺は賢くないだ。
そんなの関係ないだろ!
好きな女の子がこうして俺を信じて涙まで流してくれているのだ。
男なら見栄でも意地でもなんでもいいから死ぬ気でその信頼に応えてみせろよ!
好きな女のために血反吐を吐きながら死ぬまで戦えよ!
「ごめん舞。」
「謝らないでちょうだい。そんな風舞くんなんか嫌いよ。」
「ごめん。でも、俺には舞の願いに応えられるだけのものなんて何にもないけど、もうちょっと頑張ってみるよ。せっかく舞が俺をまだ信じていてくれるんだし、ここで立たなきゃ男として生まれてきた意味がないだろ?けどさ、やっぱり弱っちい俺一人じゃアセイダルと戦ってるローズを助けに行けないから手伝ってくんない?」
俺が笑いながらそう言うと舞が目を真っ赤にしながら顔を上げて頷いた。
「うん。手伝う。むしろ私を置いて行ったらゆるさないわ。風舞くんが悪魔の叡智に攫われて血まみれで帰って来た時に私はもう風舞くんを一人でなんか戦わせないって誓ったのよ。今度こそ風舞くんを守り通してみせるから、私も連れていってちょうだい。」
「やっぱり舞は俺なんかよりもよっぽど勇者だな。これじゃあどっちが救われるお姫様かわかんねぇよ。…でも、俺と戦ってくれてありがとう。それと、これからも迷惑をかけるだろうがよろしく頼む。」
「ふふんっ!!私は勇者なんだから風舞くんのかける迷惑なんて大したことないわ!むしろここで大事な男の子を支えないなんて土御門舞の女としての矜持に反するわ!私が風舞くんを助けるから風舞くんはその倍私を助けてちょうだい!これからもずっと一緒なんだから、死ぬまで一生私を救い続けなさい!!」
「一生か、舞は相変わらず無茶な事を言うな。けど、倍なんてけち臭い事言わないで100倍助けてやるよ!!」
「ふふっ。期待してるわ!!」
舞はそういって満面の笑みでニッコリと笑った。
弱いままでもただ死ぬ気で戦い続けよう。
俺を信じてくれる舞の為に勇者でも英雄でも何でも演じ通してやろう。
俺がそう心に誓ったその時、俺達の横に立って黙って成り行きを見守っていたボタンさんが少し気まずそうにしながら話しかけてきた。
「あの、フーマはん?盛り上がってるところ悪いんやけど、そろそろ治療したいから魔力の循環速度を下げてくれへん?その、今のフーマはんは何で生きているのかわからないくらい重症なんやけど。」
「あ、そうだった。」
「ちょ、ちょっとフーマくん!?」
ボタンさんに怪我の事を指摘された俺は全身の傷の事を思い出して、あまりの痛みにその場に倒れ伏した。
まってろよローズ。
俺が何としても助けに行くからな。
まぁ、俺が生きていたらの話だけど。
そうして俺の視界はまた暗転した。
「ふ、フーマです。」
彼女の質問に答えずにいたら視線をより険しくしてもう一度訪ねて来たため俺は慌てて答えた。
「よろしい。ではフーマ、貴方はお姉様とどういった関係ですか?」
「あの、お姉様って誰ですか?」
「察しが悪い。お姉様はスカーレット帝国初代皇帝、ローズ・スカーレット陛下です。勿論ご存知ですよね?」
「ああ。なるほど。」
どうやらこの目の前で座る偉そうな人はローズの妹のフレンダさんらしい。
どおりでローズによく似てるわけだ。
一部似なかったところもあるようだが。
「殺しますよ。」
俺がフレンダさんの胸部を見て可哀そうな目を向けると槍を俺の足の間に差してニッコリと笑った。
やば、貧乳は禁句か。
覚えておこう。
「別に私は貧乳ではありません。清楚で慎ましいだけです。気を付けなさい、人間。」
「ごめんなさい。」
俺はフレンダさんの背後から飛んでくる無数の紅い槍を避けながら彼女に誤った。
紅い槍は数こそ多いもののそこまで速くはないので、見てからでも十分に避けられる。
まぁ、本気で当てる気はないのだろう。
そんな事を考えていたら紅い槍の雨が止んだので、俺は大人しくフレンダさんの前に正座をして彼女の方を見上げた。
あ、パンツ見えた。
「死にますか?」
「すみません。もうしません。」
「はぁ、そんなことよりも私の質問に答えなさい。貴方はお姉様とどういった関係ですか?」
「ローズは俺の保護者兼師匠兼旅の仲間です。」
「今一容量を得ません。貴方がお姉様と出会ったところから説明しなさい。」
「はぁ、分かりました。」
俺は面倒に感じながらも魔の樹海でローズを拾って仲間になってソレイドに来て悪魔の叡智を知ってアセイダルと戦ってたら気を失ったと説明した。
フレンダさんは終始無言で目を瞑って俺の話を聞いていた。
「とまぁ、こんな感じです。」
「それでは貴方がお姉様の魂を揺らがせている存在ではないのですね。」
「魂を揺らがす?なんですかそれ?」
「貴方は私が結界魔法で自分自身を封じていることは知っていますね?」
「そりゃまぁ、さっきも言った通りローズから聞いたので。」
俺の目の前にいるフレンダさんはローズが謀叛を起こされて城から逃げる時に、自分の身を封印してローズを逃がしたと以前聞いた。
さっきからずっと疑問に思っていたけれど、そんなフレンダさんがなんで俺の精神世界っぽい所にいるんだ?
ローズの話だと仮死状態なんじゃなかったのか?
「よろしい。ではそこから説明しましょう。ここは精神世界といっては少々語弊がありますが、貴方の世界で間違いありません。私は自身の魂を結界の中からここへと割り込ませてこうして貴方に干渉しています。」
「難しいことはよくわかんないんですけど、何しに来たんですか?」
「私は結界の中の時間の流れる速度をある程度自由に変えられるのですが、それで100年分ほど仮死状態の肉体の中で修業をし、他人の魂に直接アクセスする方法を見つけました。」
「へぇ、それは凄いですね。よくわかんですけど超やばいですね。」
「黙って話を聞きなさい。」
「ごめんなさい。」
俺はフレンダさんに睨まれながら槍を眉間に向けられたので、居住まいを正して真面目に話を聞くことにした。
「本来はお姉様の魂に連絡を取る予定で習得した技能なのですが、記憶しているお姉様の魔力から魂を探してみたところお姉様の他に微弱ながらもお姉様の魔力を有している存在を見つけたました。そこで私はお姉様に仇なす存在がお姉様の魔力をその体内に取り込んでいるならば、その下郎を魂ごと殺しつくしてやろうと思い私と波長のよく似たお姉様の僅かな魔力を媒介にあなたの精神世界にこうして足を運んだのです。」
「でも、俺の中にローズの魔力があるのって多分俺の魔法の修行の時にローズが流し込んだのが残ってただけで、俺はローズと敵対してる訳じゃないですよ?」
「ええ。どうやらそのようです。貴方を殺す理由がなくなってしまいとても残念です。」
「そうですか。俺は死なずに済んで助かりましたけどね。」
「いえ、貴方はこのままでは間違いなく死にます。」
「はい?」
フレンダさんは事も無さげにさらっとそう言った。
え?俺このままだと死ぬの?
なんで?
「先ほど貴方が自分でアセイダルという名の悪魔にやられたと言ったではないですか。やはり人間は愚昧なようですね。」
「自分ではよくわかんないんですけど、致命傷なんですか?」
「外の事は分からないので傷については何も言えませんが、貴方の魂はこのままだと崩れます。」
「その、どうにかなりません?」
「貴方が私の命令に従うのなら私がここに残って貴方の肉体が修復するまで魂を支えてあげなくもありません。」
「え?助かるんですか?」
どんな要求をされるかは分からないが死ぬよりはいいだろう。
舞やローズにまだ謝れていないし、心残りも多分にある。
こんなところではまだ死ねない。
「ただし条件があります。今すぐに外の世界に戻ってお姉様の敵を打ち滅ぼしなさい。お姉様の魂の揺らぎが先程から大きくなっています。このままではお姉様の身に万が一があるやもしれません。」
「敵って多分アセイダルですよね?俺が行った所で勝てる相手じゃありませんよ?」
「おかしなことを言う人間ですね。何故貴方はまだ生きているのに戦わないのですか?」
「それは、戦っても勝てないからです。俺は舞やローズを巻き込んでまで負けた最悪な敗北者です。そんな雑魚に何をしろっていうんですか?」
「面倒ですね。私は別に貴方の為にここにいるのではありません。無理やりにでも貴方を覚醒させますからさっさとお姉様の力になりに行きなさい。その為の力がないというのなら今から貴方のギフトの花弁を強引に引きはがします。」
フレンダさんはそう言うと椅子から立ち上がり俺の腕を掴んで無理矢理立たせ、俺の首筋に噛みついた。
「ぐ、がぁぁぁ!!!」
彼女に噛まれたところから魔力に似た何かが流れこみ、俺の中心にある何かを思い切り刺激する。
俺はその耐えがたいほどの激痛に身をよじり彼女をつき飛ばそうとするが、彼女は俺の肩を強くつかんだまま一向に離れようとしない。
一体何時間その激痛に悶えていたのかわからなくなってきた頃、彼女が俺の首筋から突き立てていた歯を抜き俺を解放した。
フレンダさんはそのまま倒れ込んだ俺を受け止め、俺を紅い椅子に座らせてひじ掛けに両手をつき俺の顔を覗き込みながら口を開く。
「いいですか、戦において重要なのはその力や経験などではなく戦う意思です。まがりなりにも男なら誰かを守るためでもただの意地でもなんでもいいから、死ぬまで剣をふりなさい。貴方は私のお姉様が認めた人間なのでしょう?私のお姉様の信頼を受けておきながら、そんな腑抜けた顔しているなど万死に値します。御託を並べて蹲ってないで、さっさと起き上がって悪魔ごとき瞬殺して来いこのクソ野郎が!!」
「どうぅわああぁぁぁ!!」
「ふ、風舞くん!?」
俺がフレンダさんの恫喝への驚きのあまり体を起こすとそこはダンジョンの外の広場だった。
いきなり起き上がった俺を見て舞とボタンさんが驚いた顔をしている。
「舞!?怪我は大丈夫なのか!?腹に空いた傷は痛くないか?」
「ふ、風舞くん!!?わ、私は大丈夫よ。だから私のお腹をまさぐるのは止めてちょうだい。その、こそばゆいわ。」
舞は顔を赤らめながらそう言った。
よかった。舞はしっかりと生きていてくれた。
俺のせいで命を落としていなくて本当に良かった。
「ふ、風舞くん?その、沢山の人が見ているし、離して欲しいわ。その、こういう事はお家に帰ってからにしましょう。ね?」
「ごめん。俺のせいで舞に酷い怪我を負わせた。足手まといにならないって誓ったのに、俺はまた舞に助けられてしまった。俺は救いようのない雑魚キャラだ。本当に、本当にごめん。」
「風舞くん!!いくら風舞くんでもそんなことを言うなら許さないわよ!」
舞が抱きしめていた俺の肩を掴んで引きはがしてから怒った顔をして言葉を発した。
「舞?」
「私が怪我をして倒れたのは風舞くんのせいじゃないわ!ただ私が弱かった。それだけの事よ!」
「でも、俺があんな作戦を立てなければこうはならなかった。」
「言ったでしょう。私はあの場でなんの策も思いつかなかったし、あのままでは全滅していたわ。私がこうして生きているのは風舞くんのおかげなのよ!!」
「舞は俺を買い被りすぎだ。俺がもう少し強ければあの時のアセイダルの攻撃を避けられたし、俺がもう少し賢ければ被害を出さずに何とかできた。俺は舞やローズよりももの凄く弱っちいモブキャラなんだよ。」
「そんな事ないわ!高校1年生のあの冬の日に私を励まして救ってくれた時から風舞くんは私の英雄なのよ!!そんな英雄と一緒に戦う事ができて私がどんなに嬉しいか風舞くんには判る!?確かに今は私の方がステータスやスキルが上かもしれないけれど、私の大好きな風舞くんがチートキャラじゃないなんて事あり得ないわ!!だから、お願いよ。もう、自分の事をそんなに卑下しないでよ。あの時みたいに私を助けてよ…」
舞はそういうと俺の胸元に顔を押し付けて泣き始めた。
俺は何をしているのだろうか。
どうして俺は好きな女の子にこんな悲しそうな顔をさせているのだろうか。
何が俺には力がないだ。
何が俺は賢くないだ。
そんなの関係ないだろ!
好きな女の子がこうして俺を信じて涙まで流してくれているのだ。
男なら見栄でも意地でもなんでもいいから死ぬ気でその信頼に応えてみせろよ!
好きな女のために血反吐を吐きながら死ぬまで戦えよ!
「ごめん舞。」
「謝らないでちょうだい。そんな風舞くんなんか嫌いよ。」
「ごめん。でも、俺には舞の願いに応えられるだけのものなんて何にもないけど、もうちょっと頑張ってみるよ。せっかく舞が俺をまだ信じていてくれるんだし、ここで立たなきゃ男として生まれてきた意味がないだろ?けどさ、やっぱり弱っちい俺一人じゃアセイダルと戦ってるローズを助けに行けないから手伝ってくんない?」
俺が笑いながらそう言うと舞が目を真っ赤にしながら顔を上げて頷いた。
「うん。手伝う。むしろ私を置いて行ったらゆるさないわ。風舞くんが悪魔の叡智に攫われて血まみれで帰って来た時に私はもう風舞くんを一人でなんか戦わせないって誓ったのよ。今度こそ風舞くんを守り通してみせるから、私も連れていってちょうだい。」
「やっぱり舞は俺なんかよりもよっぽど勇者だな。これじゃあどっちが救われるお姫様かわかんねぇよ。…でも、俺と戦ってくれてありがとう。それと、これからも迷惑をかけるだろうがよろしく頼む。」
「ふふんっ!!私は勇者なんだから風舞くんのかける迷惑なんて大したことないわ!むしろここで大事な男の子を支えないなんて土御門舞の女としての矜持に反するわ!私が風舞くんを助けるから風舞くんはその倍私を助けてちょうだい!これからもずっと一緒なんだから、死ぬまで一生私を救い続けなさい!!」
「一生か、舞は相変わらず無茶な事を言うな。けど、倍なんてけち臭い事言わないで100倍助けてやるよ!!」
「ふふっ。期待してるわ!!」
舞はそういって満面の笑みでニッコリと笑った。
弱いままでもただ死ぬ気で戦い続けよう。
俺を信じてくれる舞の為に勇者でも英雄でも何でも演じ通してやろう。
俺がそう心に誓ったその時、俺達の横に立って黙って成り行きを見守っていたボタンさんが少し気まずそうにしながら話しかけてきた。
「あの、フーマはん?盛り上がってるところ悪いんやけど、そろそろ治療したいから魔力の循環速度を下げてくれへん?その、今のフーマはんは何で生きているのかわからないくらい重症なんやけど。」
「あ、そうだった。」
「ちょ、ちょっとフーマくん!?」
ボタンさんに怪我の事を指摘された俺は全身の傷の事を思い出して、あまりの痛みにその場に倒れ伏した。
まってろよローズ。
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完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
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