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第1話 今彼か元彼か

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2003年 3月 亜希は、腎内科医 久保田徹士29歳と恋仲にあった。今の病院に勤め出して早3年。以前の病院を合わせると 7年になる。 すでに27歳… おつぼね状態だ。
今の病院は、忙しくも暇でもなく平凡な毎日だ。がらんとしたナースステーションに1人 亜希は机に向かっていた。山の上にあるこの病院は、看護婦の数も少ないが その人数でもまかなえる程の仕事量だ。
「 おはよ~。ぼくの患者のカルテ・・・」
「 はい。これで全部です。」亜希と久保田だ。
「ありがっとーーう。 相変わらず仕事早いね~。」
「これでも 3年目ですから!!」亜希は黙々と仕事をこなす。
「君はいつもcoolだね。」2人の仲は決して 周りには知られてはならない仲なのだ。 付き合い始めて1年になるが
友人関係を入れると 約2年半になる。亜希も 付き合いだしたものの結婚を意識するわけもなく、 医師との結婚はありえないとさえ思っている。過去の恋愛がトラウマになっているのだ。久保田も できれば逆玉を狙っている。 今は亜希との関係を続けつつ、いろんな女性と遊びたいと思っている。
でも ここ最近実家に帰れば お見合いだの、合コンだのと両親が けしかけてくるのだ。 そのせいか、真剣に結婚を考えるのも良い機会か… などと考えはじめていた。
勿論 久保田との関係も いつかはやめようとは思っていたが
毎日仕事に追われ、づるづると続けてしまっていた。
「 今日 早く終わる?」
「 いいけど… 何時?」
「終わったら 電話するよ。」 久保田は ハラハラドキドキ
しながら周りを気にしている。 こんな姿をみてしまうと亜希は 少しがっかりする。 誰もナースステーションにはいないのに 声をひそめて話す久保田を 小さい男だと思ってしまう瞬間だ。仕事が終わり、帰る途中に 携帯がなった。
「 亜希? 終わったからいつもの所でいい?」
「 話したい事があるんだけど、手料理でいいかな。」
「うん いいよ。 じゃあ待ってる。 」
久保田の部屋に 沢山の手料理を持っていき たわいもない話をしていた。人間の心はなんて単純なのだろう。
たわいもない話をしているうちに、主旨がどうでもいいことに思えてくる。 そんなことを思いつつ ボーッとしていた。
「 あれ? 何か話したかったんじゃないの?」
「 あ、そうそう。 腎内科医の先生が赴任してくるらしいよ。たすかるな~ 1人増えて。元々はウロ(泌尿器科)だったらしいけど。」
「 へぇ~。私と一緒ね⋯。まぁ ウロといっても沢山いるからね。こんな田舎にくる先生でしょ~ 」
亜希は、どんなジジイが来るのかと思っていたのだ。
「 まぁ 意外と知ってる先生だったりしてね⋯。」
「 あ~ 歓迎会の幹事たのむよ~。」
「 え~。幹事って!? 」
そんな会話をしながら 時間が過ぎていた。
亜希は何にも言えずに終わり 自己嫌悪に陥った。
次の日 ナースステーションでは、赴任してくる腎内科医の話で持ち切りだ。 女の職場というのは怖いものだ。 ウワサ話は早い。 カッコイイだの 背が高いだの 独身だのと、いろいろ飛び交って仕事どころではないようだ。病棟の平均年齢は24.6歳!! 若い子が多いだけに医師狙いは多いのだ。
「 先輩~、名前は林先生ですって。」「そう⋯。」
といった後、亜希は少し考えた。 「 はやし⋯。」
まさか⋯ と亜希は思ったが、「 そういえば先輩って大和市立病院にいましたよね? もしかして、林先生のこと知ってます?? 」 後輩の武内はノリノリだ。
「 もしかすると 知ってるかも… 」
林… 林成彦だ。 亜希はボーッとした。
「 大丈夫ですか!! 先輩。」
その後の 亜希といったら、仕事も全然手につかず ボーっとするありさま。
「 鈴木さん、鈴木さん、」 久保田が呼んでも うわの空。
「 あ… すみません。」「 めずらしいね⋯ ボーっとするなんて。」亜希は今でも 林の思い出を引きずっている。 林と亜希は 以前 恋仲だったのだ。 お互いに嫌いで別れてないので引きずってしまうのもむりはない。 現に今は 嫌だったことも美化されて 付き合えばすぐに壊れてしまう思い出に 時々苦しめられていたのだ。

「 先輩~ 私、絶対に 林先生をGETしてみせますからね~。」後輩の武内の意気込みはすごいものだ。
林に 今の自分の状態が 知られたらと思うと、きっと小馬鹿にされるだろう。 学習能力がないと いわれるに違いない。
亜希はいてもたってもいられなかった。

「 亜希 やっぱり知ってたんだ~ 。 なら幹事でOKだな!」
「 でも… あまり仲良くもなかったし、違う人にして~。」
「 何言ってるんだよ。 たのむぞ!! 」
そういって プツンと電話を切った。
久保田は 2人の関係を知らないだけにとても陽気だ。
亜希の心は 騒いでいた。 ドキドキしていた。
そんな心には 久保田は気づくはずもなく、時間だけが過ぎていった。

2週間後

「 今日ですよ~ 先輩。なんかドキドキしちゃう。」武内が
横で話をしていたが、 亜希には よく聞こえていなかった。
「 来ましたよ~。 すごいカッコイイかも。」 黄色い声がきこえ やっと亜希は 林が来たことを知る。
「 はじめまして  林 成彦 といいます。 よろしくお願いします。」ナースステーションに来た林は、とても男らしくみえた。亜希は 分からないように少し横を向き 下を向いていた。
「 では、 鈴木さん ごあいさつして。」
亜希はドキッとした。 「 鈴木といいます。よろしくお願いします。」亜希は下を向いてらボソボソと言った。 まともに林の顔は みられなかったが、林は ハッとした。
「 鈴木さん、顔がよく見えないのですが…。」林が言った。
亜希は 少し顔を上げて会釈した。もうこれ以上何を言わないでくれ~ と願う亜希だったが 林は亜希に近ずいて行った。
「 君がここにいるなんて びっくりしたよ。 これからもよろしく。」林は満面の笑みだ。 その姿を見て、周りの同僚にはすごい顔をされ つつかれ 散々であった。
「 亜希~  どうして知ってるのよ~。 ずるい~。」の嵐だ。
その弁明を なぜか武内がしている。
「 だから 昔の同僚ですから ご心配なく!!」 武内の弁明に 皆 胸をなでおろした。
仕事が終わり 外に出ると 林が待っていた。
「 どこかで 話がしたいな。」 相変わらずマイペースである。亜希は周りを気にしてハラハラしていた。
「 先生  10分後に○○というお店でいいですか。」
「 わかった。」
そして 2人は 再開した。 たわいもない話をしたが 昔に戻ったような気がした。 何でも素直に 正直に話ができて、とても楽しかった。
「 私も ちょっと前に 先生のことを聞いて おどろいてしまって…  先生と私のことは誰も知りません。」先生のファンが多くて風当たりが強いんです。 だから あまり親しくは… 。」
「 迷惑?」
「 迷惑というか⋯ 私の立場が つらくなるので~。」
「 そっか。 オレもまだまだ 捨てたもんじゃないな。」
「 じゃあ こんな風には 会ってもらえるのか?」
亜希を困らせるのが 得意な林である。
「 たまになら…。」
この時間  久保田のことは忘れていた。林と どうこうなろうとは考えていなかったが、 久保田とは早く別れなければと思うのであった。
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